【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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魔法と魔術と婚約者

35:合同訓練

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 騎士団と魔法師団の合同訓練は
王宮の大きな広場で開催された。

話に聞くと、
年に1回、騎士団と魔法師団の
士気を上げるために
王族の前で開催されるらしい。

ただ大きな広場で
観客が王族だけでは
味気ないと思ったのか、
騎士団と魔法師団の関係者は
見学が可能になっている。

思い切って誰でも見れるように
開放すればいいのに、
と俺は思ったのだが、

そうすると会場の警備や
王族の人たちの警護が
大変になるので無理らしい。

と言うようなことを
俺はヴィンセントに説明を受けつつ、
競技場の周囲を囲む観覧席に座っていた。

俺の隣にはミゲルとヴァルター。
それから何故か兄のレックスに、
父と母もいる。

競技場は前世の野球場のような感じだ。

観覧席は競技場に近い場所は
イスが並んでいるだけのものだったが
少し高い高位貴族のために
用意された場所は、
すべて仕切りで区切られた
プライベートな空間になっている。

まさにVIP対応だ。

俺たちはその区切られた空間にいて
ドアの近くと外には
公爵家の護衛騎士が立っている。

「ではそろそろ俺は行くから」

ヴィンセントが俺の頭を撫でた。

「はい、ヴィー兄様、
応援しています」

「あぁ、見ててくれ」

と笑う顔は、久しぶりに見たから
迫力満点だった。

「「かっこいい」」

とヴァルターと声が重なり、
そのあとに俺の口が
「すき」と零れ落ちる。

相変わらず俺の幼い恋心は駄々洩れだ。

ヴィンセントはそんな俺を笑う。

「では、行って参ります」

その後、すぐにヴィンセントは
父と母に頭を下げた。

「ヴィンセント君、見ているよ」

何故か父の顔が怖い。

「ええ、あなたがどれだけ強くて
私の可愛い子を守れるか
見せてちょうだいね」

母も何故か圧が強い?

なんだ、どうしたんだ。
俺の両親が怖いぞ?

しかも俺の後ろ、
両親の隣に座っていた兄が
ヴィンセントをにらみつける。

「負けたら絶対に許さないからな」

何を?
何を許さないんだ?

というか、合同訓練だろう?

勝ち負けではないと思うのだが。

「イクスの家族は
やっぱり心配性だな」

ヴァルターが呆れたように言うが、
今日はヴィンセントの合同練習だろう?

なんで俺への過保護の話になる?

俺が首を傾げているうちに、
ヴィンセントは「お任せください」
と、俺の両親に頭を下げて出ていく。

すぐに音楽が聞こえて、
合同練習が始まった。

そこで俺は、勝ち負けと
言っていた意味を知る。

騎士団は騎士たちが剣技や
模擬戦を披露し、

魔法師団は魔法を使って
模擬戦だけでなく、
魔法を惜しみなく披露した。

それは水たまりを宙に浮かせたり、
その水たまりの色を変えたり。

何も無いのに、風が吹いたと
思ったら、その風から
鈴の音が聞こえたり。

まるでおとぎ話の中の
魔法を見ているようだった。

「イクス、イクス、あの人」

ミゲルが俺の手を掴んで指さす。

その先には、魔法師団のローブを
着ているのに、剣を持っている人がいた。

あの人がミゲルの好きな人か。

ミゲルより少しくらい茶色の髪をしていて
背は高いと思う。

ヴィンセントより高いかもしれない。

そして持っている剣は細く長い剣だった。

どうするのかと思っていると
その細長い剣が急に燃えた。

魔法だ!

どうするのかと思ったら
その前に、なんと、ヴィンセントが出て来た。

なんでここでヴィンセントが?

俺は目を丸くするが
何故かそこで笛が鳴り、
急に打ち合いが始まる。

だが、ヴィンセントの相手の剣は
炎に包まれているんだぞ?

ちょっとでも触れたら大やけどだ。

焦る俺の前でキン!と剣がぶつかる音がする。

しかも、動きが早い。

気が付くと、たぶんだけれど
ヴィンセントも自分の剣に
魔力を込めているのだろう。

太い剣は炎の剣を受け止めて
弾き返している。

凄い!

誰もが無言で剣の動きを追う。

どちらが勝ってもおかしくはない。

緊迫した時間がどんどん過ぎていく。

俺は心臓がもう持ちそうにない。

ドキドキでバクバクで、倒れそうだ。

ヴィンセントは確かにカッコイイが、
心配しすぎて見ているのが辛い。

と、急にまた笛の音が鳴った。

剣を交えていた二人が
飛び退くように離れて、
王族たちがいるブースに向く。

そしてヴィンセントは騎士らしい礼を。
魔法師の人もゆっくりとお辞儀をする。

瞬間、うわぁああ、と観客席から
大きな声援があがった。

「お、終わった?」

俺が呟くと、
同じ様に放心状態だったミゲルが

「うん。終わったね」と呟く。

「おいおい、二人とも大丈夫か?
あれは演習だぞ?」

と、ヴァルターが呆れたように言うが
演習なもんか。

物凄い気迫と迫力がここまで伝わって来たぞ。

俺の心臓はいまだにバクバクしている。

「じゃあ、帰るとしようか」

俺の心臓がバクバクしているのに
父がのんきに、そんなことを言う。

いやいや、まだ終わってないぞ?

「そうね。
ヴィンセント君も見れたし、
私ももういいわ」

母よ、なんて潔い、と言えばいいのか?

「ねぇ、あなた。
私は久しぶりの王都ですもの。
久しぶりお買い物がしてみたいわ」

ねぇ、いい?
と強請る母は可愛らしい……が。

確かに母は領地にいるので
王都は久しぶりだろう。

でも、それでいいのか?

「レックス。あなたも付き合いなさい」

荷物持ちは必要だもの、と
母が兄に無情に言う。

「え、ですが母上。
まだ合同演習は途中で……」

「まぁ、レックス。
母と一緒にお買い物するのが嫌なの?
そうなのね。
こうやって男の子は成長して
母を見捨てていくのね」

「え? いえ。
母上、そう言う意味ではなくて」

「そう、良かった。
私ね、あなたのお洋服を
きちんと仕立ててあげたいと
思っていたのよ。

あなたにもそろそろ婚約者を
探さなくてはならないでしょう?」

母はにこにこと言う。

なるほど。
日々、婚約の話になると
逃げている兄を捕まえるために
母は今日、王都へ出て来たのか。

兄が咄嗟に俺を見たが
もちろん、俺は静かに首を振る。

申しわけないが、
母を止めれる者はいない。
父ですら無理なのだ。

「イクス、私たちは行くが
ちゃんと護衛達と帰ってくるんだぞ」

父はそう言い、
母をエスコートしてドアへと向かう。

「じゃあね、イクス。
あなたも次の時は私と一緒に
お洋服を選びましょうね」

母はそう言って俺の頭を撫でた。

兄は無言でドナドナされている。

父が部屋を出る前に
ミゲルとヴァルターに帰りは
公爵家の馬車を使う様に言い、
俺を頼むと言ってから出て行った。

「……イクスの母さん、
なんかすごいな」

ヴァルターのつぶやきに、
俺は恥ずかしくなって、
思わず俯いてしまった。




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