【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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魔法と魔術と婚約者

34:古代魔法と魔術

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 放課後俺は、ミゲルの馬車に
乗せて貰ってクライス家に向かった。

騎士科のヴァルターには
会えなかったので、
公爵家の御者に、ヴァルターへの
手紙を言づける。

内容はもちろん、
騎士団と魔術師団の
合同訓練のお誘いだ。

それからミゲルの家に
寄ってから帰ることを告げ、
迎えに来てもらう様にお願いをする。

ミゲルはクライス家の馬車で
俺を送ると言ってくれたが、
俺は遠慮した。

何故かと言うと、
父が心配するからだ。

母は俺が友達と遊んできたと言えば
「あなたも行動的になったわね」と
嬉しそうな顔をするが
父は別だ。

「公爵家以外の馬車で
何かあったらどうするんだ。

馬車も護衛も、
我がパットレイ公爵家の
ものが一番だからな」

などと言い、
俺が他家の馬車に乗るのを
嫌がるのだ。

きっと俺が
友人の馬車に乗ったら
その場のノリで、
古書屋に行った時みたいに
どこに行くかわからないと
思っているにちがいない。

ちなみに、公爵家の
御者は俺が他家の馬車で
帰宅することが無いように、と
厳命を受けている。

そんなわけで、
御者としても俺を置いて
公爵家に戻るわけにはいかない。

だから俺は申し訳ないが
ヴァルターに手紙を渡してもらったら
そのままクライス家に来るように
御者にはお願いをする。

本を貰うだけだし、
そんなに時間はかからないだろう。

俺たちがクライス家に着くと、
玄関先ですぐに年配の執事から
丁寧に挨拶をされる。

それから応接室に通され、
お茶を出してもらっていると
リカルドがミゲルに呼ばれてやって来た。

俺は立ち上がって挨拶をするが
リカルドは軽く挨拶をする程度で
すかさず俺の前に本を置いた。

これまた分厚い、
百科事典のような本が2冊と
もう1冊は薄くて大きな
絵本のようなものだった。

どれも表紙は色あせてはいるが
色とりどりの絵が描かれていて
古語で本の題名が書かれている。

「凄い!リカルドさん、
ありがとうございます」

俺は思わずリカルドの手を握った。

そのままブンブンと振って
感謝の意を示すと、
リカルドは少しだけ頬を赤くした。

「そんなに喜んでもらえると
まぁ、嬉しい、かな」

「はい!
めちゃくちゃ嬉しいです」

俺がリカルドの手を握ったまま
何度もお礼を言っていると、
ミゲルが俺の肘を引っ張った。

「イクス、
もういいから座ろう?
そんなことして
兄さんが勘違いしても困るし」

勘違い?
何を?

と思ったが、
リカルドはパット俺の手を離して
「そんなことはしない」と強く言う。

俺は何の話か分からなかったが
素直にミゲルの隣に座った。

「イクスは本当に
古書が好きだよね」

「うん。だってさ。
ずーっと昔のものなのに
こんなに綺麗な色が
まだ残っているんだよ?

凄いよね。
それに、この絵も、なんだか惹かれるんだ」

俺が表紙を指でなぞると
ミゲルは「僕にはわからないや」と笑う。

「俺はわかるけどな。
いつかこの古書に書かれている内容が
読み解かれる日がきたら、
古代魔法も、魔術も、
再現できるかもしれない」

リカルドが目を輝かせて言う。

「リカルドさんは古代魔法を
復活させたいんですよね?」

俺が聞くと、リカルドは大きく頷いた。

「古代魔法は、夢物語だと
言っている者もいるけれど、
俺は信じているんだ。

文献だって残っているし。

まぁ、文献と言っても
各土地に残っている
口伝えの伝承だったり、
風習だったり、絵本のような
子供向けの内容のものしかないけどな」

リカルドは肩をすくめた。

「もしさ、古語を読み解くことが
できたら物凄い発見につながるとは思うが
まぁ、現状は難しいよな」

その言葉に俺も頷く。

この世界は、というか、
この国限定かもしれないけれど、
あまり歴史は重要視しないようなのだ。

前世の世界では、古代文明など
過去に繁栄した国や、その言語、
風習や習慣などを研究する者は多くいた。

もちろん、そこから得られる
メリットがあったからだが、
国や大学などの研究機関が
きちんと研究していたのだ。

前世では発掘調査をしたり
見つかった過去のものは
保管するだけでなく、
状態を保つように工夫をしたり
博物館のような場所で展示をして
国民たちの関心を向けるようにもしていた。

だが、ここでは違う。

古語に関しては
読めない文字は意味が無いし、
しょせんは過去の遺物で、
何の役にも立たない物。

無価値なものだと認識されている。

恐らく長い歴史の中で
多くの古書は破棄されてきたのだと思う。

俺が手にすることができている本も
ただ偶然、本に愛着を持つ者がいて
その者たちの手を伝い、
それらが古書屋に流れついたものだろう。

古代魔法もそうだ。

おとぎ話のように語られているが
その理由は誰もそれを
目にしたことも無ければ、
どうやって発動するかもわからない。

つまり空想物語と思われている。

誰も研究などしないし、
過去のことなど研究しても
意味が無いとこの国では考えられている。

でも俺は違うと思うのだ。
過去に何が起こったのかを知ることは大事だ。

いや、今はそういう問題は置いておいてもいい。

問題は、今俺の目の前にある表紙に
書かれている文字だ。

煽り文句のように書かれている文字。

きっと俺以外、
誰も読むことができなくて
模様だと思われている文字には
こう書かれていた。

『あなたもこれで簡単に
自由自在に魔法を使えます。
あなたの属性、変えてみませんか?』

なんだ、これ。

前世の自己啓発系のハウツー本か?

なんで属性が変えられるんだよ。
無理だろ、普通。

いや、それができる方法がある。
……魔術、だ。

もしかして、古代魔法と
魔術は同じものなのか?

ヤバイ!
紙!
紙とペン!

興奮のあまり俺はソファーから
再び立ち上がってしまった。

「イクス?」

「え? あ、ごめんね」

隣から聞こえたミゲルの声に
俺は正気に戻る。

……あぶなかった。
また暴走するところだった。

「そういえば兄さん、
イクスに騎士団と魔法師団の
合同訓練の見学に誘われたのです」

そういやリカルドは
学園を卒業して魔法科の専攻に
進んでいるんだっけ。

「そういや、そんな時期か」

「ヴィー兄様は参加するみたいですが
リカルドさんは参加しないんですか?」

早く帰宅して本を読みたいが
大人な俺は頑張って会話をする。

「誘われたけど、断った。
俺は研究の方が忙しいし。

俺はさ、魔法師団に所属したいわけじゃなくて
魔法学を研究したいだけだから」

「……卒業後、魔法学を
研究できる場所ってあるんですか?」

俺も聞いておきたい。

「そうだな。
卒業しても教師として学校に
残ることができれば、
研究室が与えられるから
授業さえしていれば、まぁ
研究は続けられるだろう。

あとは王宮の魔法研究所だな。

あそこは魔道具や、
魔物、現代魔法を研究する場だ。

だけどイクスが興味を持っている
古代魔法に関しては聞いたことがないな」

それは研究する者が
いないからでは?

と思ったが、
俺は何も言わなかった。

でもそうか。
魔法科を卒業したら
魔法師団に入るのが当たり前だと
思っていたが、それ以外の道もあるようだ。

なんか、将来が明るくなってきたぞ。

俺は数年後の未来を想像して
心を熱くする。

そうして自分の研究室を
夢見ていると、公爵家から
迎えの馬車が来たと連絡が来た。

俺はミゲルとリカルドに
丁寧に礼を言って、
帰路につく。

ちなみに本は重すぎて
一人では持てなかったので
馬車まではミゲルとリカルドに
運んでもらって、
公爵家に着いたら
御者に運んでもらった。

うん、俺、非力だ。
筋トレでもしようかな。



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