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魔法と魔術と婚約者
33:恋愛妄想とお誘い
しおりを挟む俺の親しい友人は、
相変わらずヴァルターと
ミゲルだけだ。
第二王子のクルトとは学校では
あまり話さないようにはしている。
それ以外のところで会えば、
幼馴染として仲良くできるとは思うが
俺はまだ社交界にデビューしてないし
用事も無いのに王宮に行くこともない。
そう言った理由から
俺とクルトは、手紙やカードの
やりとりはしているが、
実際に会って、遊んだり
お茶を飲んだりすることはない。
噂ではそろそろ2人の王子たちの
婚約者探しが始まるらしい。
俺には関係ないことだが、
ミゲルがそういった情報を
良く仕入れて教えてくれる。
きっと兄のリカルドから
聞いて来るのだろう。
今は食堂でミゲルと一緒に
ランチを食べているが、
食べ終わるなり、
ミゲルが王子妃候補の話を始めた。
ずっと言いたかったに違いない。
目がキラキラしている。
ミゲルは自分が恋をしていることも
あるからだろうが、
色恋の話が好きみたいだ。
恋に恋する女子高生みたいだと思う。
女子高生と言えば、
この学校にはもちろん、
女子もいるのだが、
中等部に入るとクラスは関係なく
男ばかりになる。
理由は、女子は初等部では
基本のことを男子と一緒に学ぶが、
中等部になると女子は全員、
淑女科という貴族の
女性としてのマナーや
知識を学ぶ科に進級するのだ。
そして校舎もこの場所ではなく
柵で囲われた隣の敷地内の
校舎へと移動する。
まるで隣接した男子校と女子校のようだ。
前世ではこういった場合、
女子高生とどうやって知り合えるかとか
出会いを求めてどう行動するか、
なんて話になるかもしれないが、
この世界は違う。
なにせこの世界は
同性での恋愛も結婚も
何の違和感もなく
当たり前の世界なのだ。
無理に女子生徒と
出会う必要もなく、
身近な相手と恋愛する者も
数多くいる。
ただ貴族の結婚となると
家同士の関係に重きを置かれるので
個人の恋愛感情ではなく
政略的な意味合いが強くなるのが
当たり前だ。
だからこそ、
学生の間だけでも
好きな相手と自由に
過ごしたいと思うのかもしれないが。
ミゲルは目をキラキラさせて
「それでね」と話を続ける。
「この前の王家のお茶会では
エリザベッタ嬢と
ザカリーがクルト殿下を挟んで
両隣で喧嘩したんだ」
それはすごいことになってるな。
エリザベッタ嬢は伯爵家の子女で
ザカリーは騎士伯の息子だ。
二人とも同級生で
初等部の頃、
クラスは違ったけれど
見かけたことはある。
エリザベッタ嬢はどちらかと言えば
派手目な綺麗な顔立ちで、
ザカリーは母親は子爵家、
父親が騎士で武勲を立て、
騎士伯を賜った、というのは
ミゲルからの情報だ。
ザカリーはクルトに
なれなれしくするエリザベッタ嬢を
諫めていたらしいが
ミゲル的に言えば、
それが嫉妬しているようにも見えたらしい。
「あの精悍な顔立ちの
ザカリーがクルト殿下を慕ってたなんて」
いや、慕ってるって
決まったわけじゃないからね?
めちゃくちゃ恋愛妄想してるけど。
「いいなぁ、
僕も好きな人のそばに
いれたらいいのになぁ」
なるほど、そう言うことか。
自分は好きな人と
一緒にいる機会が無いから
羨ましかったのか。
ミゲルは恋の話をするときは
目が輝いてるもんな。
「じゃあさ、
今度、一緒に魔法師団の
見学に行かない?」
「え!?」
「ミゲルの好きな人、
魔法師団にいるんでしょ?」
「え、え、でも、
そんなことしてもいいの?」
ミゲルは嬉しそうな顔をしたが
すぐに戸惑った声を出す。
「うん、あのね。
今度、ヴィー兄様が
騎士団と魔法師団の合同演習に
参加できることになったんだ。
その時は、関係者が招待した
身内だけは見学が許されるから、
僕も見に来ないかって、
ヴィー兄様に誘われてるんだ」
「僕もついて行っていいの?」
ミゲルの瞳がキラキラになる。
「もちろん。
ヴィー兄様は演習に出るから
僕と一緒に居ることはできないし、
友だちを連れてきてもいいよ、って
言ってくれてるんだ」
「行く。
行くたい」
ミゲルの即答に、俺は
「ヴァルターも誘うつもりなんだ」
と言葉を付け足した。
ヴァルターは昼休みでも
自主訓練だと剣を持って
裏庭に出かけている。
騎士団の訓練を見る機会など
あまりないから、
ヴァルターも喜ぶと思うのだ。
俺はそう言ってみたが、
ミゲルは俺の言葉など
聞こえていないかのように
喜んでいる。
まぁ、構わない。
俺も一人で見に行くのは
つまらないと思っていたし。
ヴィンセントの雄姿を見て
喜ぶヴァルターの姿が
目に浮かぶ。
「あ、そうだ。
兄さんがね、古書屋で
イクスが喜びそうな本が
手に入ったって言ってたよ」
昼休みを終わるチャイムが鳴り、
イクスと一緒に食堂の席から
立ち上がった時、
不意にミゲルが言う。
「良かったら、今日の放課後
うちに寄らない?
今回のお礼もしたいし」
お礼なんていらないが、
本には興味がある。
実は、俺はミゲルの兄、
リカルドに、あの古書屋で
古語で書かれた本を見つけたら
手に入れてもらう様にお願いをしていた。
初めて魔術の本を手にしたとき、
あまりにも無茶をしすぎて
父から古本屋に出向くのを
禁止されてしまったのだ。
そのことを知ったミゲルが
リカルドに言って、
俺の興味がありそうな本を
手に入れてくれるようにしてくれた。
リカルドは俺が魔術のことを
調べていることは
気が付いていないと思う。
ただ、古書に興味があると
理解してくれているようで、
古語で書かれた本を見つけると
買って来てくれるようになった。
古語は前世で言うところの
象形文字のようなものと
言えば良いのだろうか。
ただし、前世とは違い
誰もその言葉を解き明かそうと
する者はいないようだ。
研究者もいないし、
わかっているのは、
ただ古い文字だということだけ。
もしかしたら、
国のどこかで個人的に
研究をしている人はいるかもしれないが
国はそういった研究に
支援をすることはないし、
そうなると、個人で出来る研究には
限度がある。
俺は、このチート級の
脳内自動翻訳機があるから
古語であっても読むことができるが
通常の人間であれば、
不可能だと思う。
俺はリカルドには
古語で書かれた文字は
模様として綺麗だし、
古代の絵も面白い、
という理由で集めていると
伝えている。
父にもそう言って、
古書を買うのを許してもらっている。
父は俺が古書屋に
行かないのであれば、
安心だと思っているようだ。
まぁ、俺が何を研究しているかは
言っていないので
バレていないと信じている。
ただ、俺の書き散らしたノートや
手に入れた古書の様子から
俺が古書に並々ならぬ興味を
持っていることは理解していると思う。
念のため、
俺は古書で得た知識は
日本語でノートに書くようにしていた。
誰が読んでもわからないように、
念のための処置だ。
日本語は平仮名とカタカナ、
あと漢字があるので、
どことなく象形文字が混ざったようにも見える。
リタは俺の部屋を掃除したとき、
ノートの文字を見たらしく
「イクス様は古代の文字を
描き写しているのですか?」
と、何のために?
と言いたそうな顔で聞いてきたことがあった。
俺は「古語は綺麗だよね」
と言って誤魔化したが、
リタは首を傾げていた。
まぁ、文字が綺麗って、
なんだよ、って自分でも思う。
でも俺はそうやって
少しづつだが魔術についての
知識を増やしている。
いつか自分で
魔術を組み立てる日が
来ると信じているのだ。
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