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子ども時代を愉しんで

28:魔法と魔術

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 俺が手に入れた古書は、
魔法について書かれていた。

正確に言えば、
魔法と魔術の違いと、
それぞれの仕組みについて
説明している内容だった。

前世の感覚で言うと、
魔法も魔術も似たようなものだと思う。

だが、この世界では
魔法と魔術は違うものだった。

魔法は前世で良く読んでいた
漫画や小説と同じように
科学では証明できないものだ。

この世界の人間は
生まれた時から体内に
魔力を持って生まれる。

その魔力には属性があり、
いわゆる、火、水、風、土、
と言っているやつだ。

魔力の量も、属性も
生まれた時から持っているものだから
それを後天的に変化させることはできない。

魔力量だけは訓練次第で
筋肉を鍛えるように
増やすことができるようだが
それにも限度がある。

そこで生み出された物が魔術だ。

魔術は魔法の属性に関わらず、
魔力を組み合わせ、
一定の法則を作りだし、
魔法と同等以上の効果を生み出すもの。

つまりオリジナル魔法が
魔術と言うことになる。

過去、もっと魔法が
世界に浸透して、もっと強力な
魔力を持った人間が多かった時代、

さらに強い魔法を生み出すために
魔術はどんどん発展していった。

だが、何らかの要因があり、
それが崩壊するときがきたのだろう。

実際、この古い本の
ページの隅には手書きで

『より力を得るためには
争いを起こし、効果や効力を
実証実験しなければならない。
それは正しいことなのか』

と言う文字がつづられていた。

この本を持っていた人の
苦悩が垣間見える。

また魔術を発動させる
魔力の組み合わせだが、
擦り切れた絵を見る限り
どうみても俺が前世で解いていた
パズルゲームが元になっているように思う。

同じ色を3つ合わせて消していたあのパズルだ。

この本を読むと、魔術には
膨大な魔力と、数多くの、
様々な属性の魔力を組み合わせた
【完全なる魔術】がいくつか存在する。

その完全なものから、
パズルゲームでピースを消すように
自分の魔力量や持っている属性を
使って、効果や威力を削ぎ落していく。

そうやって自分が使える魔術を
創り出していくのだ。

何もなかったところから
魔術を生み出すのではなく、
完全体から削っていくという考え方は
今までしたことがなかった。

だが、これならば、
自分の持っている魔力量や
属性に合わせて、
誰もが自分なりの魔術を
生み出すことができる。

そしてまた、
魔術は組み合わせることもできるようだ。

たとえば、テトリスのように。

削って歪になった形のものを
2つ合わせて別の形にする。

これは2属性以上の魔力を
持っていないとできないことだが、
組み合わせによっては
無限に魔術を生み出せる。

おそらくそうやって
長い年月をかけて生み出されたのが
【完全なる魔術】なのだろう。

凄い。
凄い発見だ。

それに。
この本は古くて
文字が消えかかっている個所もあり
全部の文字は読めなかったが、
おそらく、魔法属性は4つどころか
もっとある筈だ。

俺が【樹】という属性を
持っていることは確かだし、
それ以外にも色んな属性が
この本には載っている。

それは【虹】とか
【月】とかあった。

それ以外にも、
本来であれば、魔法の属性は
後天的に得られるものは
何一つない筈だが、
条件が揃えば、
努力して得られる属性もある。

それが【氷】や【炎】だ。

水属性の魔法を強化し、
強化した魔術を掛け合わせると
それが強固な【氷】属性になる。

炎も、火魔法を強化すればいい。

だがこの理論でいけば、
自分の中の魔法の属性が
同じ属性なのに2つあることになる?

これはどう考えるべきなのだろう。

俺は本を読み解くのに夢中になった。

元々、パズルゲームは好きだった。

単純にピースを消すのが気持ち良かったし、
前世の俺はロジック的なことも
好きだったのだ。

そうなると、魔法の謎を
解き明かして魔術を組み立てたい、
と思うのも不思議ではない。

俺は周囲の心配をよそに、
食事も睡眠もとらず、
ひたすら本を読み、
気が付いたことを紙に書いた。

魔法の属性をすべて解明しなければ
【完全なる魔法】は使えない?

いや、違う。

すでに【完全なる魔法】は
本に描かれている。

ただ、それを発動できる人間がいないだけだ。

では、そこから削っていけばいい。

何を?

自分が使えない魔法属性をだ。

だが、使えない魔法属性を
どうやって削る?

いや、発想が逆なのか。

完全体から使える魔法属性を
削っていくことで、
自分が使えない属性の魔法を
魔術として使えるようになる
……とか?

部屋に鍵をかけ、
俺は学校で学んだばかりの
体内にある魔法に集中する。

授業では自身の魔力に
意識を合わせて魔法を発動
できるようにする訓練をしていた。

おかげで俺は、
自分の体内にある魔力を、
そして属性を感じることができる。

【樹】の属性も、把握できた。

それがどんなものかは、
手元にある本に書かれている。

凄い!
凄いぞ!

俺はかつてみたアニメの
悪役のように高笑いしたくなった。

そうして過ごした3日後の朝。

俺は涙ながらに俺を呼ぶ
リタの声と。

それから驚くほど
大きな扉を壊す音で我に返った。

「イクス!」

驚くほど凶悪な顔と声で
部屋に乗り込んできたのは
ヴィンセントだった。

「何をやっている!」

あまりの怒声に、
俺は今まで考えていたことが
あっという間に頭から消えた。

驚きすぎて、思考が止まってしまったのだ。

「食事もしてないと聞いたぞ!」

……俺はものすごく怖くなった。

それから、せっかく良い魔法属性の
組み合わせを考えたのに、
それも消えてしまった。

俺、頑張ってたのに。

「ちょ……、なぜ、泣く!?」

俺の目からわけのわからない
膨大な涙が零れ落ちた。

「う、うぇええーっ」

口から声まで漏れた。

「俺が怒鳴ったからか?
悪かった。
驚かせたか?」

ヴィンセントが俺を抱き込み
あやすように背を撫でるが
俺は首を振るばかりだ。

なんで泣いてるのか、
自分でも良くわからない。

ずっと優しかったヴィンセントに
怒鳴られたのがショックだったのか

ヴィンセントの顔が怖かったのか。

せっかく考え抜いたアイデアが
無散したことが悔しかったのか、
それとも。

……この世界の認識を
変えるほどの大きなことに、

魔法や魔術と言った世の中の認識を
大きく変えるほどの発見を
してしまったことへの恐怖だったのか。

夢中で本を読み解いていた時には
見えなかった現実が、
ヴィンセントの声で
一気に蘇ってきたのだ。

まるで夢から覚めたみたいに。

俺は自分が得た知識の
強大さに、どうしていいかわからず、
ただ、混乱し続けていた。



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