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子ども時代を愉しんで

26:クッキー屋

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  俺たちはそれから
お茶会を終了して
すぐに公爵家の馬車に乗った。

行先はクライス家だ。

先に父がクライス家に
早馬を出してくれているけど、
正直、大丈夫だろうかと心配になる。

一応、ミゲルにも一筆書いてもらって
早馬に持たせたから、
無下にはしないと思うのだが。

俺たちがクライス家に着くと、
門の前にはリカルドが
すでに呆れた顔で待機している。

そしてすぐに馬車に乗り込んできた。

「すみません、リカルドさん、
無理を言ってしまって」

挨拶もそこそこに俺が言うと、
リカルドは肩をすくめた。

「可愛い弟と公爵家当主の願いだし
叶えないわけにはいかないからな」

口調は怒ってるような感じだが、
リカルドはパチン、とウインクする。

「でもまぁ、アイツがいない時に
こんなことになって
面白そうだし、俺もちょうど
街に行きたい用事があったんだ」

あいつ、とはヴィンセントのことだろうか。

何が面白いのかわからないが、
街に用事があるのであれば
一緒に言って貰っても大丈夫だろう。

俺はほっとして、
ヴァルターと視線を合わせた。

ヴァルターも少し心配そうな
顔をしていたから、
お互い安心したね、と視線を交わす。

街に着いたら、
馬車を広い場所に停めて
俺たちは公爵家とクライス家の
護衛を連れて、目当ての
クッキー屋に向かった。

その店は新しく開店したばかりと
言うだけあって、新しく、
こじんまりとした可愛い店だった。

近くに行くだけで
甘い美味しそうな匂いがしてくる。

カラン、と扉についた
ベルを鳴らして店に入ると、
所狭しとカゴに入ったクッキーが
棚に並んでいる。

クッキーは割れないように
数枚ごとに袋に入っていて
可愛いリボンが付いていた。

「いらっしゃいませ」

カウンターから女性の声がして
振り返ると、カウンターの
そばには、大きなショーウィンドウがある。

その中にはばら売りのクッキーを
売っているらしく、
クッキーと、味の説明が書いた紙、
それから値段の書いたカードが貼ってある。

凄い。
好きな味を一枚一枚選べるんだ。

「ヴァル、ミゲル、どうしよう。
どれもおいしそう。

全種類食べたいから
一枚づつ買う?

あ、でも、兄様たちの
お土産もいるから、
一枚だけじゃだめだよね」

ヤバイ。
めっちゃ食べたい。
全種類制覇したい。

あ、そういや俺、
お金はいくらぐらい持ってるんだろう。

父が護衛に財布を渡してたけど、
中は見ていないんだよな。

俺は近くにいた護衛騎士に
そっと声を掛ける。

「僕、どれぐらいのお金を
持ってますか?
クッキー、5枚は買えますか?」

俺と兄と父と母とヴィンセント。
少なくとも5枚はいる。

俺がそう聞くと、
護衛騎士は目を丸くして
大丈夫です、と頷いた。

「このお店のものを
全て購入することも可能です」

真面目な顔でそんな冗談を言うものだから
俺は、またまたーと笑おうとした。

が、できなかった。

ヴァルターとミゲル、
リカルドまでもが本気な顔をして
俺と護衛を見たからだ。

「そ、そんな大金、
持ってるわけないよね、
ははは」

俺は乾いた笑いをして、
カウンターの店員を見る。

可愛らしい女の子だった。
いや、俺の方が絶対に年下だろうけど。

俺たちはショーウインドーに
釘付けだったが、リカルドは
一歩下がって俺たちを見ている。

「ミゲルはどうする?」

「僕は、このイチゴのクッキーにします。
前に食べた時、美味しかったので」

そうか。
このイチゴが上手いのか。

「ヴァルは?」

「俺はこれにしようかな。
シナモンのやつ。
甘いだけのやつより、
こう言うのが好きなんだ」

なるほど。
シナモンも捨てがたい。

「よろしければ、
こちらでおススメのセットを
作ることもできますよ」

店員の声に俺は顔を上げた。

「一つの袋に、いろんな味の
クッキーを入れるんです。

食べるまで、
誰がどのクッキーを食べるのかは
わからないので、
沢山買われて、
皆で食べる方たちには好評なんです」

それも面白そうだ。

よく見ると1枚のクッキーは
結構大きそうだし、
兄と半分に割って食べてもいいかもしれない。

「僕、それにします」

俺がそう言うと、護衛騎士が動く。
お金の準備をしてくれるのだろう。

枚数を聞かれて迷ったが、
護衛が大丈夫です、と頷いて
店員とやりとりをしてくれた。

まぁ、5枚ということにはならないだろう、きっと。

それにしても今から食べるのが楽しみだ。

「リカルドさん、
連れてきてくれてありがとうございます」

護衛騎士がやり取りをしている間、
俺はリカルドにお礼を言う。

「いやいや、俺もよりたいとこあったし。
俺はここで別れるが、
馬車はそのまま使っていいよ」

俺は適当に帰るから。と言うが
そう言うわけにはいかないだろう。

無理やり付き合わせて、
現地解散なんてありえない。

「どこに寄るんですか?」

「古書屋だよ。
魔法の本とか、
たまに掘り出し物があるんだ」

え。
行きたい。

「僕も行きます」

「え、いや、それはどうかな」

「ダメですか?」

「ダメというか、
公爵殿にクッキーを買ったら
すぐに帰るように
言われてるんじゃないの?」

そうだけど。
でも、行く。

「行きます」

俺が宣言すると、
クッキーを買ったヴァルターとミゲルが
護衛騎士と共にやってきた。

「どうしたんだ?」

「古書屋に行くんだ。
ヴァルもミゲルも一緒に行こう」

護衛が顔をしかめたが、
行くったら行く。

誰もが嫌そうな顔をしたが
俺は強引に全員を連れて
古書屋へと向かった。



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