25 / 214
子ども時代を愉しんで
25:友達との初外出
しおりを挟む俺は微妙な空気を払拭すべく
別の話題を持ち出した。
「そうだ。
僕ね、この前ヴィー兄様と
貴族街を散策したんだ。
色んな店があって
すっごく楽しかったよ」
俺がお菓子を沢山
買って貰ったんだと言うと
二人はようやく笑顔を見せた。
「そういえば、
貴族街に新しい
クッキー専門のお店が出来たと
兄が言ってました」
ミゲルの言葉に俺は飛びつく。
「クッキーのお店?」
この世界ではお菓子屋はあるが、
専門店というものは珍しい。
それにクッキーやマフィンのような
焼き菓子は、お菓子屋というより
パン屋で売られている。
なのにわざわざ、
クッキーの専門店だなんて
どれほど美味しいのか。
行きたい。
食べたい。
見てみたい。
俺の目が輝いたことに
気が付いたのだろう。
二人は俺を見て
口々に言う。
「興味はあるが、
イクスが行くのは無理だと思うぞ」
「僕もイクスがお店に
行くのは無理だと思います」
「なんで?」
俺が聞くと、
ヴァルターとミゲルは
顔を見合わせる。
「だってさ、なぁ」
「えぇ。お許しがでないかと」
なるほど。
前世の時みたいに、
行きたいと思っても
すぐに行くのは無理ということか。
「わかった。
じゃあ、父様にお願いしてみる。
許可が下りたら、
二人も一緒に行こう!」
俺が二人を誘うと
ヴァルターは「いや、許可は
公爵殿ではなくて……」
とブツブツ言いい、
ミゲルは「公爵様が許可を
出すのであれば良い?」
と小声て呟いている。
そんな時だ。
執事が俺たちの前に
すっと出てきて、
丁寧にお辞儀をした。
「ご歓談中のところ
申し訳ございません。
イクス様、
旦那様がお見えでございます」
え?
父が?
あれだな。
俺がタウンハウスを使って
初めて友だちと遊ぶから
様子を見に来たんだな。
俺の家族は俺に対しては
物凄く過保護だから
ありえない話ではない。
執事の言葉に
ヴァルターとミゲルも
姿勢を伸ばした。
途端、すぐに父が庭に
姿を現した。
「やぁ、いらっしゃい」
にこやかに父は言う。
二人は緊張した様子で
ぎこちなく挨拶をする。
「父様、お仕事は?」
俺のためにサボったのかと
疑ったのだが、父はこの後、
王宮に呼ばれているので
一休みするために
タウンハウスに寄ったのだと言う。
父は王宮で宰相補佐として働いている。
以前は、宰相の地位を
与えられていたらしいのだが、
俺が生まれたころ、
仕事が忙しくて子どもに会えないと
宰相職を辞めようとしたらしい。
陛下がそれを宰相補佐と
言う形でなんとか引き留めた。
つまり、面倒な役職は
他の者にやらすので、
力は貸せ、ということだ。
だが実際は、現宰相というのは
かつての父の部下だったらしく、
実質、今でも宰相は父だと
王宮では言われているらしい。
ヴィンセントからこの話を
聞いたときは、なんというか……。
父が優秀だとか、
辞めるのを惜しまれる人材だとか
そういうことではなくて。
滅茶苦茶、わがまま、と思った。
30歳にもなって、
なにやってんだよ、って。
仕事舐めんな、って思った。
もちろん、それぐらい
家族のことを愛してくれてるのだろうけど。
それは嬉しいが、
やはり仕事はきちんとすべきだ。
なので俺は父が俺のために
仕事をおろそかにするのは
できるだけ阻止しようと心に誓っている。
「父様は、すごい人だから
陛下も頼りにしてるんですね」
そんなわけで、わざと俺が
父を褒めるように言うと、
父は嬉しそうな顔をする。
「そうだな。
イクスの父様は凄いからな」
うん。
鼻高々だな。
その調子で、
しっかり仕事を務めてくれ。
だがせっかく父に会えたのだ。
俺は仕事のヤル気を
ださせるだけではなく
父におねだりすることにした。
「そんな凄い父様に
お願いがあるのです」
俺は上機嫌の父に
すり寄るように言う。
「貴族街に新しいクッキーの
お店ができたらしいのです。
友だちと行ってきてもいいですか?」
「おい、このタイミングで言うか?」
と小さな声が聞こえてきたが、無視だ。
「ちゃんと護衛も付けますし、
クッキー屋さん以外には
立ち寄らずにまっすぐに帰ります」
笑顔だった父は、
少しだけ顔をしかめた。
無理か?
子どもだけではやっぱりダメか?
「きっと、とってもおいしい
クッキーだと思うんです。
父様にも母様にも、
食べさせてあげたい」
両手を組んで拝むように言うと
父の表情が少し緩んだ。
「いや、だがしかし。
ヴィンセント君も今はいないだろう?」
やはりヴィンセントは俺の
護衛兼兄のポジションなんだな。
父よ、ヴィンセントのことを
いいように使ってないか?
「あの、公爵様」
ミゲルが小さく声を挙げた。
「もしよろしければ、
僕の兄を連れて行くのはどうでしょうか。
僕の兄はヴィンセントさんの
先輩になりますし、
魔法の腕前も良い評価を受けて言います」
ミゲルの提案に父はふむ、と
考えるような仕草をする。
「確か、クライス殿のところの
長男は高等部ではSクラスだったな」
え?
そうだったの?
すごいじゃんか。
そうか。
なんで騎士科のヴィンセントと
魔法科のリカルドが先輩後輩の
仲なのかと思っていたけれど。
おなじSクラスだったんだな。
「兄は今日はタウンハウスで
ゆっくりすると言っていましたし、
声を掛ければ一緒に来てくれると思います」
ミゲルの言葉に、父は頷き、
執事に何やら目くばせをする。
「ミゲル、いいの?
リカルドさんの都合も聞かずに
勝手に言って」
俺が思わず小声でミゲルに言うが、
ミゲルは大丈夫、という。
「兄は魔法の研究をするのが好きなんです。
だからテストの日は
誰よりも早く帰宅して
自室にこもってると思います」
いや、それって駄目なんじゃ……?
「Sクラスを目指したのも
授業を受けずに
魔法の研究をする時間が
増えるから、と。
とはいえ、公爵家からの
要請があれば、
受けないわけにはいきませんし、
兄にとっても良い気分転換になります」
それって強制的に
休憩を取らせるってことか?
なんかすごいな、クライス家。
それとも魔法に特化した家系ってのは
こういうもんなのだろうか。
何にせよ、思いがけずに
街に出れることになった。
これは純粋に喜ぶとこだ。
よし。
友だちと初めての街歩きだ!
591
お気に入りに追加
1,147
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中
きよひ
BL
ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。
カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。
家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。
そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。
この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。
※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳)
※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。
※同性婚が認められている世界観です。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる