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子ども時代を愉しんで
16:10歳の誕生日
しおりを挟む俺の誕生日は、家族だけで祝う……
わけにもかず。
小さなパーティーが行われた。
曲がりなりにも公爵家なので
家同士の付き合いもあるし
こう言ったパーティーは
デビュー前の子ども同士の
交流の場にもなる。
もちろん、招待客は
父が厳選しているだろうから
ここに来る子供たちとは
仲良くなっても大丈夫なはずだ。
まだ貴族社会の勢力図とかは
理解できていないけれど、
さすがにそういった配慮は
されていると思う。
よし。
俺も今日は友達作るぞ!
と朝から俺は意気込んでいた。
兄も学校の友達を
呼んでいるからあとで
紹介してくれると言って
くれているし、今日こそ俺は
人間関係を広げるのだ。
そうやって意気揚々と準備をして
よし、広間に行くぞ!
と思ったら、ヴィンセントがやってきた。
もちろん、招待していたし、
公爵家に来るのはおかしくはない。
だが、おかしい。
俺は今日のために
少し濃い藍色のスーツを着ていた。
が。
よく考えるとこのスーツの色、
ヴィンセントの瞳の色じゃないか?
そしてヴィンセントが着ているスーツは
俺と同じ型をしていて、
俺の瞳と同じ色のハンカチーフが
胸ポケットから顔を出している。
なんだ、これ。
俺とお揃いになってないか?
「お揃いみたいだな」
ってヴィンセントが俺を見て笑う。
なんだ、偶然か。
すごい偶然だな。
「せっかくだから
エスコートさせてくれ」
新入生歓迎会の予行練習だ、と
手を差し出されて俺は迷わず
ヴィンセントの手を取る。
だけど。
だけどさ。
広間に行って、俺は思った。
まず父が挨拶をして
俺も挨拶をした。
でもその俺のそばに
ヴィンセントがずっといるのだ。
なんか、距離感がおかしくないか?
これではヴィンセントが
俺の家族枠になってる気がする。
兄はなんだかヴィンセントの
事が気に入らないらしく、
ちょくちょくにらんでいるし。
なんか変だよな。
とはいえ、
戸惑う俺とは関係なく
パーティーは進んでいく。
さすがに王子様の
カミルとクルトは呼べなかったが
前もってプレゼントは
贈ってもらっていた。
カミルはこれから
学校に入るからと学用品で、
クルトは何故か大きな花束だった。
俺の印象としては
クルトは花より団子のイメージだが
きっと何を贈ればいいか
わからなかったのだろう。
俺はありがたくいただいて、
花束はパーティーをしている
広間に飾らせてもらった。
俺がその話をすると
今度は何故かヴィンセントが
不機嫌な顔をして
俺と手を繋いでくる。
いつもは俺から
ヴィンセントの手を握ってたので
今日は誕生日だからか
不思議なことばかりだ。
それに。
俺は友達を作る気満々なのだが、
誰も俺に話しかけてくれない。
ヴィンセントと兄が
俺の両隣にいるからだろうか。
でも、友達作るのに邪魔だから
どこかに行け、なんて言えないし。
よし、こういう時は
自分から動かないとダメだよな。
「イクス? どこいくの?」
俺が足を一歩踏み出すと
兄が俺に声を掛ける。
「え、えっと」
友だちを作りに行きます、
とは言いづらい。
「ちょっと喉が渇いて…」
「じゃあ僕が取ってきてあげる。
甘いジュースがいいよね?」
「う、うん、ありがとう、兄様」
無理だった……仕方ない。
ジュースを飲んだらリベンジだ。
幸い、兄は俺にジュースを
渡した後、友人たちに呼ばれて
俺のそばを離れた。
よし。
「どうした?」
俺が足を踏み出す前に
今度はヴィンセントに腕を掴まれる。
「えっと、このグラスを……」
ジュースを飲み干したグラスを
俺が見せると、
ヴィンセントは俺の手から
グラスを取り上げて、
そばを通った給仕に
グラスを渡す。
おかしい。
というか、過保護だ。
なんかおかしいと文句を言いたくて
俺はヴィンセントの顔を
見上げるが、ん?と
逆に顔を見下ろされて
俺は思わず視線を逸らす。
なんか、もう……
「カッコイイ、好き」
って何言ってんだ、俺。
しっかりしろよ。
「はは。
イクスも似合ってるぞ」
ちゃんとカッコイイ、と
ヴィンセントは笑って言う。
そうか。
ヴィンセントのスーツが
カッコイイ、って
理解してくれたんだな。
そして俺のスーツもカッコいいと?
まぁ、たしかに
俺の姿もカッコイイ……のか?
美形だとは思う。
10歳にして、幸薄い美人に
見えるぐらいには。
俺の身体は病弱では無いが
運動神経は皆無っぽかった。
そのせいで、屋敷に
引きこもることが多くて、
ヴィンセントと遊ぶときは
外にでかけていたが、
それ以外で外出することは
ほぼほぼなかったらしい。
イクス、よっぽど
ヴィンセントのことが
好きだったんだな。
そういや母は、
俺がハーディマン侯爵家に
宿泊していた時、
ヴィンセントと一緒に
森や川で遊んだ話をしたら
物凄く喜んでたっけ。
貴族の子息なのだから
運動も必要だよな。
学校に行くようになったら
体育の授業……が
あるかどうかはわからんが
運動はするだろうから、
体力作りに励むとしよう。
「イクス、今度、
教会に行くだろう?」
俺が決意を固めていると
ヴィンセントが耳元で
囁くように言う。
甘い声を耳元で
囁くのは止めて欲しい。
顔が熱くなるではないか。
「俺も一緒に行っていいか?」
「え? あ。うん」
この世界には魔法があり、
全ての国民は10歳になったら
教会で魔法の属性を調べることが
義務付けられている。
魔力を持っているのは
貴族のみと言われているが、
平民にも魔力を持った者は
一定数はいるらしいので、
そこで魔力の属席や適性などを
調べるようになっているのだ。
10歳になってから調べるのは
幼い時期だと魔力が定まっておらず
属性なども本来とは違う結果が
でることがあるかららしい。
神殿に行くのは義務だし
ヴィンセントが来ても
もちろん構わない。
構わないのだが、
家族でもないのに何故?
という疑問は残る。
俺の視線に気が付いたのだろう。
ヴィンセントは俺の目を見て
やんわり笑う。
心臓に悪いほどの笑顔で。
「俺はイクスの家族みたいなものだからさ。
心配だからついて行きたいんだ」
その笑顔は、
俺の中に眠っていた初恋を
わしづかみに知るほどの
破壊力があった。
俺は、あ、とか、う、とか
そんな声をなんとか出したけれど。
無性に何故かハズかしくなって、
赤い顔を見られないように
俯くことしかできなかった。
そんな俺たちを
周囲があたたかく見守っていたなんて
もちろん、俺は気づく余裕など
まったくなかった。
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