【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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子ども時代を愉しんで

4:愛憎渦巻くパズルゲーム

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 兄は俺の顔色を窺いつつ、
その時の状況を教えてくれた。

なんでも俺の同級生に
この国の第二王子もいるらしい。

第一王子は兄と同級生で
兄は第一王子の側近になるよう
すでに教育されているらしい。

そして俺は学校に入ると
第二王子の側近に指名されるだろう、
と噂されていたようだ。

それは別に珍しいことではない、
というのも、
王族のそばにいることが
できるのは高位貴族だけ。

公爵家は王族の親戚筋だし、
何もおかしいことはない。

俺は覚えていないのだが
第一王子も第二王子も
俺たち兄弟にとっては
幼い頃から知っている親戚同士で
それなりに仲も良い。

それは当たり前のことだったのだが、
茶会では第二王子が俺とばかり
話をしているので、
嫉妬の嵐だったらしく、
それを不満に思った一人の子が
わざと俺を階段から
突き落としたんだとか。

もちろん、その時
俺のそばには
第二王子も兄もいて、
なんなら第一王子もいて
俺が突き落とされるのを見ていた。

ただ一瞬のことだったので
誰も防げなかったし
助けることができなかった。

俺を突き落とした子どもは
元々、癇癪もちだったようで
王家の護衛達も気にしていたらしい。

だが王家の護衛たちは
王子は守るが、
それ以外の貴族の子息は範疇外だ。

そう言ったこともあり、
俺を突き落とした子どもは
すぐに取り押さえることはできたが
俺が落ちるのは防げなかった

……ということを
兄は涙を落として語った。

こちらの胸が痛くなりそうなぐらい
悲壮な様子に、俺まで苦しくなる。

「にーさま、僕はこうして
生きていましたし、
大丈夫です。
心配してくれてありがとうございます」

俺がそういうと、
兄は目を真っ赤にして俺を見た。

俺は兄を慰めたくなる。

「怪我が治ったら、
……記憶が戻らなくても
僕と一緒に遊んでくれますか?」

俺が言うと、
「あたりまえだ」
と兄は頷いた。

そういう兄の言葉に俺は安心する。

うん。
兄弟仲もよさそうだし、
不安はない、かな。

記憶がないと悩むよりも
切り替えて考えた方がいい。

俺はここで生きていくしかないのだから。

前世妹のことを考えると
胸が痛むが、俺はそれに
気が付かないふりをして
兄に笑いかけた。

「にーさまがそばにいてくれて
よかったです」

俺がそう言うと、
兄は、だばーっと涙を流した。

「に、にーさま?」

「イクスは……いい子だ」

ぐずぐずと鼻をすすり、
兄は言う。

「僕が、守ってあげるから。
ぜったい、僕が……」

泣きながら言われて
俺は苦笑する。

俺の意識はアラサーのままだから
こんな子どもに守るなんて言われると
くすぐったいというか、
なんというか。

でも嫌じゃない。

「ありがとう、にーさま」

俺がそう言うと
兄もようやく笑った。

「イクスを突き落としたやつは
ちゃんと処罰を受けるように
父様が陛下に進言してくれたから」

子どもだから、なんて言い訳は
できないようにしたからね。

兄が手で涙を拭いて
そう言った時に見えた目は
恐ろしく冷たい目だった。

「あいつはずっと、
王子たちを狙ってたから」

「狙ってた?」

ぶっそうだな、おい。

「そう、王子妃か、
無理なら側室でもいいから
王家に入りたかったんだよ」

「え?」

狙うって、命じゃなくて
そっち?

でも、まだ子どもだったんだろ?
それに男だった筈だが。

いや、この国では同性婚も認められてるのか。

「王子たちはイクスのことを
弟みたいに可愛がってるから。
嫉妬したんだと思う」

本気か。
妹よ。
BLの世界ってのは
キラキラしたイケメンの世界じゃなくて
愛憎渦巻く恐ろしい世界みたいだぞ。

おまえが誰よりも尊いと
拝んでいたイクスは、
嫉妬に巻き込まれて命を狙われたし。

俺は拝まれるよりも
命を大事にしたいと思うが
恨まないでくれ。

俺は本格的に
目立たず、騒がず、
ひっそりと生きていく計画を
立てなければ、と心に誓う。

だって親戚の子と
仲良くしてただけで
殺されかけるんだろ?

本気で怖い。

そういや妹は
『BLは尊いと言われる理由はね、
一途でピュアなところがあるからなの』
とそれこそ、キラキラした瞳で語っていたが。

一途でピュアも行き過ぎると
ヤバイだけなんですけど?

俺、この世界でちゃんと
生きていけるか、不安しかないのだが。

大丈夫だろうか。

こうなったら頼みの綱は兄だけだ。

「にーさま」

俺は兄が握ってくれている手を
握り返した。

「僕、にーさまがいて
本当に良かったです」

俺の言葉に兄はわかりやすく
嬉しそうな顔をする。

「僕……ちょっと眠くなってきたので、
眠るまで一緒にいてもらっていいですか?」

「もちろんだ!」

頷く兄に俺も笑い返して
目を閉じた。

正直、
ちょっと話をしただけで
結構疲れて来た。

ただ両親も兄も俺のことを
大切にしてくれているみたいだし、
この世界に慣れるまでは
兄を頼って生きていこう。

慣れたら何とかなると思う。

それまでは、申し訳ないが
甘えさせてもらうしかない。

それに13歳と言えば
大人になりたい年頃だろうし、
弟に頼られたら嬉しい時期だろう。

俺も妹に頼られたら嬉しかったしな。

よし。
当分は傷を治しつつ、
この世界のことを教えて貰って
目立たず騒がず、ひっそりと
生きていく方法を模索しよう。

俺はそう決意して
ゆっくりと意識を落としていった。






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