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子ども時代を愉しんで
3:パズルゲームと魔法の世界
しおりを挟む待てよ?
だんだん、思い出してきたぞ?
そうだ。
イクスは主人公だった気がする。
それで、いろんなやつらに
惚れられるんだ。
シミュレーションゲームではないので
シナリオの分岐点などはなかったが
主人公はイクス一人で、
シナリオはいくつもあった。
イクスと恋人になるいわゆる
攻略対象はメインで5人いたと思う。
つまり各攻略対象たちが
それぞれ主人公イクスとの
恋愛をするシナリオのが用意されていて……
そうだ。
そして確か妹はイクスが最推しだった。
「イクス様は誰よりも尊いのよ」と
妹が何度も俺に言っていた。
そしてイクスの声が好きだと言って
俺は全シナリオを開放するべく
めちゃくちゃ頑張った……気がする。
各攻略対象ごとのメインシナリオは
もちろんだが、このゲームは
季節に沿ってイベントシナリオが
発生したりして、
どんどんシナリオが追加されるものだから
終わりのない小説を読まされている
ようなものだった。
もっとも自分が好きな攻略対象と
主人公とのエピソードを
ずっと読み続けることが
できるのだから、
妹は喜んではいたが。
シナリオ数は短かったが
かなり多かった。
メインシナリオは主人公と
攻略対象との出会いから
ハッピーエンドになるまでの
長編ストーリーだったが
イベントシナリオは
初デート編、バレンタイン編。
突拍子もないものだと、
誘拐編とか、記憶喪失編、
タイムスリップ編、なんてものもあった。
あと、パズルを解く回数で
ストーリーを開放できるポイントが
溜まって、好きなスト‐リーを
読むことができるのだが、
読んだシナリオの数が増えると
アダルト系の話も読めるようになる。
さすがに妹に読ませるのは
どうかと思ったが
妹は恋に恋するお年頃らしく
BLは尊いとか、よくわからない
主張を俺にしていたので
俺は仕方なくパズルを解いた。
このゲームは声優も良かったし
キャラの絵も綺麗だったので
かなり人気が出たらしく、
ファンブックやシナリオ集の
ようなものも出ていたようだ。
妹はバイトした金でそれを
嬉しそうに購入しては
内容を俺に聞かせてくれていた。
そう、そこで俺は
イクスと言う人間が
主人公だと知ったのだ。
なにせ俺はゲームをしている時は
プレイヤーだから
キャラの顔は出ない。
妹がキャラ表を俺に見せて
これが主人公だ、カッコイイとか
「尊すぎて拝むしかない」
「イクス様尊すぎる」と
毎朝、ファンブックの表紙に
向かって手を合わせていたから
覚えていただけだ。
まさかこんなことになるとは
思ってなかったから仕方が無いが
もっときっちり
妹の話を聞いておけばよかった。
この世界は女性だっているし
同性同士の恋愛も結婚も
認められている世界だ。
確か魔法があって、
男同士でも子どもができる
方法があるとか、
そんな話だったと思う。
だが、ちょっと待て。
そうなると俺は男と恋愛して
子どもを生むってことか?
いやいや、無理無理。
無理だと思う。
だって俺はただのアラサーの
サラリーマンだったし。
いきなり子供を生むとか
考えられない。
確かに俺には彼女はいなかったけど
結婚するなら女性がいい。
俺は目を閉じたまま
息を深く吐いた。
これからどうすべきか。
妹には悪いが、
俺はBLには興味が無い。
できるだけゲームの内容には
かかわらないように生きたい。
だが、よく考えたら
ゲームはパズルゲームだった。
プレイヤーがパズルを解かなければ
シナリオは進まないのだ。
そしてシナリオを進めるための
パズルゲームをするのは
主人公のイクス。
つまり、俺だ。
俺が何もしなければ
シナリオは進まない。
……筈。
いや、それ以前に
シナリオを進めるような
世界を変えるようなパズル自体
存在しないのだ。
何も恐れる必要はない。
俺は何もせず、
無難に、ひっそりと生きていけばいいのだ。
うむ。
なんか、希望が出て来たぞ。
俺は目を閉じたまま
すこしウトウトした。
だが、部屋に誰かの気配を感じて
目を開ける。
「あ、ごめんね。
起こしたかな」
目を開けると兄の姿が見える。
「熱がでるかもしれないって
お医者さんが言ってたから」
心配で見に来たんだ。
そう言い、兄は俺の額に触れる。
「ちょっと熱いかな?」
しんどい?
と聞かれたので首を振る。
「いえ、大丈夫です」
俺がそう答えると
兄は悲しそうな顔をする。
「イクス、僕はお兄様だよ?」
「……はい」
「そんな他人行儀にしないで?」
悲しくなる、と本当に
悲しそうに言われて俺は戸惑った。
「ごめんなさい。
その、覚えてなくて」
俺がそう言うと兄は慌てたように
俺の手をまた握る。
「ううん、記憶が無いのに
僕こそ、ごめん。
でもイクスはいつも
にーさま、にーさまって
僕の後をついてきたから。
僕はそれがとても嬉しかったから…」
なるほど。
俺はどうやらブラコンだったらしい。
「では、にーさま」
俺がそう呼ぶと、兄はがばっと顔を上げた。
「僕が眠るまで、
僕とにーさまの話をしてくれますか?」
「もちろん」
兄は俺の手を握ったまま
色んな話をした。
俺が、というか
イクスが生まれた時のことや
初めて一緒に庭に出た日のこと。
兄は学校に通っているらしいが
学校に行くことが決まった日は
イクスが兄と離れたくないと
泣いて駄々をこねたとか
そういうエピソードを
嬉しそうに話してくれる。
その話の中で
俺は自分の立ち位置を
ゆっくりと把握していく。
前世の妹の言葉と
この兄の話を総合して
俺は自分が今、
イクス・バットレイという名であること。
そしてバットレイ公爵家の
次男だということを理解した。
実家は金と権力があるようなので
野垂れ死ぬことはないだろう。
兄は今13歳。
俺はもうすぐ10歳らしい。
貴族の息子は10歳になったら
学校に通うことが
義務付けられていて、
どうやら俺は、
その学校に行く前に、
同学年になるであろう
貴族の子息たちと
交流するための茶会で
階段から落ちたんだとか。
ちなみに兄は俺と一緒に
茶会に参加していて、
俺が階段から落とされる場面も
目撃していたらしい。
そう。
俺は誰かに突き落とされたというのだ。
なんてこった。
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