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子ども時代を愉しんで

1:転生したようです

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 「あー、転生とか言うやつだよな、これ」

俺は呟いた。

俺はお貴族様のベットに寝転がっている。
天蓋付きのベッドだ。

しかも、可愛いフリルがついた天蓋に
シーツは何故か淡いピンク。

どこのお姫様の部屋かよっ、と
ツッコミそうな部屋だ。

が、ここは正真正銘、俺の部屋だろう。

うん。

あれだ。

以前、よく読んでいた異世界転生とか
そういうやつだ。

俺は寝転がったまま、
頭を押さえた。

頭痛がする。

指に包帯のような感触がしたので
間違いない、俺は怪我をしたようだ。

そのショックで、前世の記憶も戻った、と
考えて良いと思う。

と、いうか、そうとしか考えられない。

だって俺は、前世の記憶と今の記憶がごっちゃになって
よくわからない状態だったから。

……俺は、誰だ?

そう考えて思い出せる自分は
企業戦士だった。

社畜ではない。

社畜なんて言われ方はしたくない。

確かに俺はプライベートをすべて捨てさり、
会社に人生を捧げて生きてきたが、
そんな生き方が嫌だったわけではないからだ。

俺は大学を卒業する頃に、両親を亡くした。

俺には年の離れた妹がいて、
俺は妹を養うために
必死で仕事をしていたのだ。

ネット関連の会社で、俺の仕事は、
いろんな業界の口コミを集めたり
流行になりそうなネタを探すことだった。

ネットで流行りのスィーツがあれば
それを食べに行き、
おひとりさまキャンプが流行ったと聞けば
行きたくもない「ソロキャンプ」を
するために寂しい山に登ったりもした。

そういや、独りぼっちでキャンプに行って
そこから帰った記憶がない。

もしや、遭難したのか?

ソロキャンプとか言うぐらいだから
ひとりぼっちになれるところに行こう、なんて
考えなければよかった。

それに、そう、俺には妹がいた。

年の離れた、大切な妹だ。

ようやく妹に結婚を考えている彼氏ができて、
そういえば、挨拶に来るという話しだった。

結局、会えなかったな。

あいつは幸せになっただろうか。

そして今の俺。

今の俺は、誰だ?

名前は…なんだっけ。

俺はそっと起き上がる。
身体を起こしただけで
足や腕に痛みが走った。

かなり酷い怪我のように思える。

それでも部屋を見渡すと、
どうみても金持ちの部屋だった。

クローゼットやチェストも高級品のようだし、
ベットも異様にデカイ。

しかも、部屋も広い。

広い部屋にベットとクローゼット、チェスト。
大きな鏡……ドレッサーのようなものと、
あと小さいながら白いテーブルとソファーまである。

前世の俺からすれば、ありえない部屋だったが、
俺はこの家具に見覚えがあるし、
俺の部屋だと言う感覚はある。

つまり俺は、金持ちのぼっちゃんということだ。

俺はベットの上から
ドレッサーの鏡を見た。

「うへっ」

物凄い美形の少年がいた。

10歳…ぐらいだろうか。

銀髪に碧い瞳を持っていて、
どこのアニメの主人公だ!?って思うような美形ぶり。

可愛いというよりは美形というか、
薄幸美人と言えそうな美形ぶりだ。

肌も白いし、
病弱そうな顔色をしている。

それに自分の顔なんだから
見たことあるのは当たり前だが、
そういうのではなく、
この顔に見覚えがあった。

誰だっけ。
いや、俺なんだろうが。

急に不安になってきた。

鏡を見ながら焦っていると
控えめなノックがして、
扉が開いた。

「まぁ! お目覚めでしたのね。
ようございました!」

心配しましたのよ!

と一人の大柄な女性が駆け寄ってくる。

女性はふっくらとしていて
40代ぐらいだろうか。

優しそうな顔に、
焦った心が緩むのを感じる。

俺の母親……なんだろうか。

戸惑う俺に気が付かず、
女性は、涙を浮かべて
俺の手を取った。

「ぼっちゃま。
あまり心配を掛けないでくださいませ」

ぼっちゃま、か。

では母親ではなさそうだな。

俺がぼーっとしていたからか、
女性は心配そうな顔をして俺を見つめる。

「すまない、少し混乱していているんだ。
自分のこともあなたのことも、
よくわからないし
思い出せない」

わからないものは仕方がない。

あきらめてそう告げると
女性は大きな声を上げた。

「わ、わからない!
このばぁやのことも、ぼっちゃまは
おわかりにならないというのですか?」

ばぁや?

この人は俺の乳母とか、そういう感じなのか?

いや、乳母って。

どんな金持ちだよ。
って、この家は金持ちそうだけど。

戸惑う俺の顔に、女性は慌てた様子で
俺をベットに寝かしつけた。

そして扉を開けると

「ぼっちゃまが大変なのです!
早くお医者さまを!」

と、大声で誰かを呼んでいる。

その先で、別の声が聞こえた。

焦ったように
「今すぐ行く!」と
聞こえはのは少し高い、
少年の声だ。

その声を知っている。

俺はそう思ったけれど、
うまく思い出せない。

俺は大人しくベットの上で、
痛む頭を押さえた。





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