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章間<…if>
39:のんびり散歩…のはずが?
しおりを挟む翌朝、私が目覚めると
すでにカーティスはいなかった。
窓の外を見ると日は高く昇っていて
かなり寝坊してしまったような気がする。
でも、身体がだるいとか
動くのが辛いとか言うのは、無い。
何せ私には
『どんなに激しい行為でも傷つかない』
という女神の祝福を持っているからだ。
あってよかったと言うべきか。
とても微妙な祝福だ。
私はベットから下りて
顔を洗って着替える。
喉が渇いたと、飲み物を探していると
扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
って返事をしたら
「メルでございます」と声がする。
メルさん?
私は慌てて扉を開けた。
「おはようございます、ユウさま」
「お、はようございます」
可愛い顔で、にこにこ笑うメルさんに
私は戸惑いつつ頭を下げる。
「どうしたんですか?」
「お迎えに参りました」
なんでも朝からカーティスは
クリスさんの所にいるらしい。
そこでメルさんが私を呼びに来たんだとか。
4人で昼食を食べることになっているので
その時間まで一緒に街を散策しようと
メルさんに提案される。
私はフードをかぶり、
メルさんと一緒に宿を出た。
さっそく、広場の近くにある
ぬいぐるみ屋さんに行こう、と提案すると
メルさんは笑顔でついて来てくれた。
ちなみに、手は繋いでもらっている。
だって、メルさんが迷子になったら困るもんね。
道中歩きながら話を聞くと、
メルさんは幽霊の状態で
クリスさんのそばにいただけでなく、
少しだけ離れて街の様子を見に行ったりもしていたらしい。
メルさんはメルさんなりに
街に蔓延していた<闇>の魔素に
心を痛めていたのだとか。
でも今は、随分と街は良い状態に
なったらしくて、メルさんは嬉しそうだ。
……でも、私には全然、わかんないんだよね。
『器』が大きいから小さなことには気が付かないとか?
1も1000も、1万以下は全部一緒みたいな…って
私ってば繊細な神経を持ってないってことかも。
そんなわけでメルさんは
街のお店も良く知っていた。
私はぬいぐるみ屋さんのウインドウを見ながら
メルさんにどれが一番可愛いと思うかを聞いてみた。
ウインドウには耳の長い…たぶんうさぎや
ネコや犬、のようなぬいぐるみが並んでいる。
なぜ、たぶん、とか、ような、なんて
言葉を付けるかと言うと、さりげなく
私の知っている動物と違うのだ。
例えば、うさぎは耳が長いけど
しっぽも長い。
ネコは三角の耳だけどしっぽは狐みたいなふさふさだったり、
イヌのしっぽはクマみたいなしっぽだったりする。
まだこの世界の生きている動物を
見たことが無いので、本当にこの世界の動物が
この姿をしているのか、ぬいぐるみだけが
この姿なのかは、わからない。
でも私は、このちぐはぐなぬいぐるみ達が
可愛くて仕方がなかった。
「ユウさま、お店に入って見ましょう」
メルさんは好きなぬいぐるみを言うことなく
私の手を取り店に入る。
ぬいぐるみは…色とりどりだった。
ウサギだから白、クマだから茶色、なんて
安易な色ではない。
カラフルで…ショッキングピンクのトラや
白と黒のマーブルのリスなんてのもいる。
可愛いけど、面白い。
メルさんと、どれが可愛いかを話していると、
ちょっとだけメルさんのことがわかってきた。
たぶん…だけど、メルさんは
そんなに可愛い物が好きなわけではないと思う。
だから、ぬいぐるみとかは興味がないけど
私に付き合って話を合わせてくれている。
けど。
銀色の毛のオオカミや犬のぬいぐるみをみると
ちょっとだけ瞳が緩むのだ。
クリスさんの色だからと思う。
カーティスみたいに、何を見せても
「可愛いね」とは言わないけれど。
メルさんの瞳は雄弁に好きなものを語っていた。
「メルさんは本当にクリスさんが好きなんですね」
メルさんが手に持っている銀色のオオカミの
ぬいぐるみを見て私が言うと、
メルさんはびっくりしたような顔をした。
「クリスさんみたいですもんね」
と言うと、メルさんはみるみる顔を赤くした。
なにこの子、めちゃくちゃ、可愛い。
「こっちの水色オオカミと一緒に並べたら
クリスさんとメルさんみたい」
私はメルさんが持っているぬいぐるみより
少し小さめの水色のオオカミを手に取った。
「ね?」
って笑ったら、メルさんは真っ赤な顔で俯いて
「はい」って頷く。
可愛い、めちゃくちゃ、可愛い。
私はメルさんの髪をなでなでしてしまった。
「うーん、可愛い、可愛すぎる」
そんな私とメルさんに
いきなり声が降り注いだ。
「カーティス」
振り返ると、カーティスとクリスさんがいる。
「ここだと思ってね。
欲しいものは見つかったかい?」
カーティスが私の手元を覗き込んだ。
「ほら、これとメルさんのと並べたら
クリスさんとメルさんみたいでしょ?」
私は2つのぬいぐるみをカーティスに見せる。
「ああ、いいね。
じゃあ、それをいただくことにしよう」
と、クリスさんが私とメルさんの手から
ぬいぐるみを取ってしまう。
「これを並べておけば
いつでも、こんな可愛いメルが見れるわけだ」
「も、もう、クリス!」
って怒るメルさんは、やっぱり可愛い。
「小さくなっちゃったからか、
メルさんってば、可愛いよね」
って隣にいるカーティスに声を掛けると
「そうだね、可愛い」って私を見ながら言う。
ほんと、カーティスはブレない。
嬉しいけど。
クリスさんはぬいぐるみを購入して、
その後、一緒に街で食事をすることにした。
どうやら今朝、王宮から早馬が来て、
クリスさんが正式にこの街の領主に
なることが決まるらしい。
一度、王都に戻る必要があるので、
私やカーティスが良ければ
一緒に王都に戻らないかと
食事を取りながら誘われた。
けれど。
カーティスはそれを丁寧に断った。
理由は「ユウと二人の時間が減る」だった。
クリスさんもメルさんも笑ってくれたけど
カーティスが本気だということは
私だけは知っている。
それに。
「父から早く王都に戻るようにと
早馬には私宛の手紙も入っていた」
物凄く残念そうにカーティスは言う。
「もっとユウとのんびりと
楽しい旅行をしたかったのに」
あまりにもカーティスが、
しょんぼりとしているので
可哀そうになってきた。
「で、でも、王宮につくまでは
2人っきりだし、王都まではまだ遠いでしょ?
またほらあの可愛い宿に泊まろうよ」
って言って、内心しまった!って思った。
だって、可愛いホテルには新婚グッズが
常備されているのだから。
「そうか、そうだね。
あの宿は本当に良かった」
カーティスが顔を上げる。
クリスさんもメルさんも
カーティスの変わりように、
そんなに良い宿があるのかと聞いてくる。
私とカーティスが街の話をすると
2人は行ってみたいね、と
顔を見合わせて言っている。
うん、この二人なら本当の新婚さんだし、
街の雰囲気も楽しめると思う。
「それで、いつ発つんだい?」
クリスさんがカーティスに聞く。
「できるだけ早く…
今日中か、明日の朝には」
「え?そんなに早く?」
私はカーティスを見た。
カーティスはうなだれつつ、
私に謝罪をした。
「もっとのんびりしたかったんだけど
仕方がないんだ」
「いいよ、そんな顔しないで」
私はテーブルの下で
カーティスの手を握った。
「またクリスさんたちに会いに来ようね」
というと、カーティスは笑って頷いてくれた。
それから私たちはクリスさんとメルさんと別れ
宿に戻る。
カーティスはできるだけ早く出立したようだったので
私たちは宿を引き払い、すぐに街を出た。
カーティスがすごく急いでいたので
王宮で何かあったのかと心配になってくる。
馬車でのんびり戻って大丈夫なのだろうか。
もし急ぐなら、カーティスだけでも
先に馬で帰ってもらっても構わない。
馬車の中でそう伝えると
カーティスは目を見開いて、ごめん、と
私を抱きしめて来た。
え?
え?なに?
ほんとに何があったの?
不安になっちゃうよ、
早く話して!
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