135 / 208
章間<…if>
39:のんびり散歩…のはずが?
しおりを挟む翌朝、私が目覚めると
すでにカーティスはいなかった。
窓の外を見ると日は高く昇っていて
かなり寝坊してしまったような気がする。
でも、身体がだるいとか
動くのが辛いとか言うのは、無い。
何せ私には
『どんなに激しい行為でも傷つかない』
という女神の祝福を持っているからだ。
あってよかったと言うべきか。
とても微妙な祝福だ。
私はベットから下りて
顔を洗って着替える。
喉が渇いたと、飲み物を探していると
扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
って返事をしたら
「メルでございます」と声がする。
メルさん?
私は慌てて扉を開けた。
「おはようございます、ユウさま」
「お、はようございます」
可愛い顔で、にこにこ笑うメルさんに
私は戸惑いつつ頭を下げる。
「どうしたんですか?」
「お迎えに参りました」
なんでも朝からカーティスは
クリスさんの所にいるらしい。
そこでメルさんが私を呼びに来たんだとか。
4人で昼食を食べることになっているので
その時間まで一緒に街を散策しようと
メルさんに提案される。
私はフードをかぶり、
メルさんと一緒に宿を出た。
さっそく、広場の近くにある
ぬいぐるみ屋さんに行こう、と提案すると
メルさんは笑顔でついて来てくれた。
ちなみに、手は繋いでもらっている。
だって、メルさんが迷子になったら困るもんね。
道中歩きながら話を聞くと、
メルさんは幽霊の状態で
クリスさんのそばにいただけでなく、
少しだけ離れて街の様子を見に行ったりもしていたらしい。
メルさんはメルさんなりに
街に蔓延していた<闇>の魔素に
心を痛めていたのだとか。
でも今は、随分と街は良い状態に
なったらしくて、メルさんは嬉しそうだ。
……でも、私には全然、わかんないんだよね。
『器』が大きいから小さなことには気が付かないとか?
1も1000も、1万以下は全部一緒みたいな…って
私ってば繊細な神経を持ってないってことかも。
そんなわけでメルさんは
街のお店も良く知っていた。
私はぬいぐるみ屋さんのウインドウを見ながら
メルさんにどれが一番可愛いと思うかを聞いてみた。
ウインドウには耳の長い…たぶんうさぎや
ネコや犬、のようなぬいぐるみが並んでいる。
なぜ、たぶん、とか、ような、なんて
言葉を付けるかと言うと、さりげなく
私の知っている動物と違うのだ。
例えば、うさぎは耳が長いけど
しっぽも長い。
ネコは三角の耳だけどしっぽは狐みたいなふさふさだったり、
イヌのしっぽはクマみたいなしっぽだったりする。
まだこの世界の生きている動物を
見たことが無いので、本当にこの世界の動物が
この姿をしているのか、ぬいぐるみだけが
この姿なのかは、わからない。
でも私は、このちぐはぐなぬいぐるみ達が
可愛くて仕方がなかった。
「ユウさま、お店に入って見ましょう」
メルさんは好きなぬいぐるみを言うことなく
私の手を取り店に入る。
ぬいぐるみは…色とりどりだった。
ウサギだから白、クマだから茶色、なんて
安易な色ではない。
カラフルで…ショッキングピンクのトラや
白と黒のマーブルのリスなんてのもいる。
可愛いけど、面白い。
メルさんと、どれが可愛いかを話していると、
ちょっとだけメルさんのことがわかってきた。
たぶん…だけど、メルさんは
そんなに可愛い物が好きなわけではないと思う。
だから、ぬいぐるみとかは興味がないけど
私に付き合って話を合わせてくれている。
けど。
銀色の毛のオオカミや犬のぬいぐるみをみると
ちょっとだけ瞳が緩むのだ。
クリスさんの色だからと思う。
カーティスみたいに、何を見せても
「可愛いね」とは言わないけれど。
メルさんの瞳は雄弁に好きなものを語っていた。
「メルさんは本当にクリスさんが好きなんですね」
メルさんが手に持っている銀色のオオカミの
ぬいぐるみを見て私が言うと、
メルさんはびっくりしたような顔をした。
「クリスさんみたいですもんね」
と言うと、メルさんはみるみる顔を赤くした。
なにこの子、めちゃくちゃ、可愛い。
「こっちの水色オオカミと一緒に並べたら
クリスさんとメルさんみたい」
私はメルさんが持っているぬいぐるみより
少し小さめの水色のオオカミを手に取った。
「ね?」
って笑ったら、メルさんは真っ赤な顔で俯いて
「はい」って頷く。
可愛い、めちゃくちゃ、可愛い。
私はメルさんの髪をなでなでしてしまった。
「うーん、可愛い、可愛すぎる」
そんな私とメルさんに
いきなり声が降り注いだ。
「カーティス」
振り返ると、カーティスとクリスさんがいる。
「ここだと思ってね。
欲しいものは見つかったかい?」
カーティスが私の手元を覗き込んだ。
「ほら、これとメルさんのと並べたら
クリスさんとメルさんみたいでしょ?」
私は2つのぬいぐるみをカーティスに見せる。
「ああ、いいね。
じゃあ、それをいただくことにしよう」
と、クリスさんが私とメルさんの手から
ぬいぐるみを取ってしまう。
「これを並べておけば
いつでも、こんな可愛いメルが見れるわけだ」
「も、もう、クリス!」
って怒るメルさんは、やっぱり可愛い。
「小さくなっちゃったからか、
メルさんってば、可愛いよね」
って隣にいるカーティスに声を掛けると
「そうだね、可愛い」って私を見ながら言う。
ほんと、カーティスはブレない。
嬉しいけど。
クリスさんはぬいぐるみを購入して、
その後、一緒に街で食事をすることにした。
どうやら今朝、王宮から早馬が来て、
クリスさんが正式にこの街の領主に
なることが決まるらしい。
一度、王都に戻る必要があるので、
私やカーティスが良ければ
一緒に王都に戻らないかと
食事を取りながら誘われた。
けれど。
カーティスはそれを丁寧に断った。
理由は「ユウと二人の時間が減る」だった。
クリスさんもメルさんも笑ってくれたけど
カーティスが本気だということは
私だけは知っている。
それに。
「父から早く王都に戻るようにと
早馬には私宛の手紙も入っていた」
物凄く残念そうにカーティスは言う。
「もっとユウとのんびりと
楽しい旅行をしたかったのに」
あまりにもカーティスが、
しょんぼりとしているので
可哀そうになってきた。
「で、でも、王宮につくまでは
2人っきりだし、王都まではまだ遠いでしょ?
またほらあの可愛い宿に泊まろうよ」
って言って、内心しまった!って思った。
だって、可愛いホテルには新婚グッズが
常備されているのだから。
「そうか、そうだね。
あの宿は本当に良かった」
カーティスが顔を上げる。
クリスさんもメルさんも
カーティスの変わりように、
そんなに良い宿があるのかと聞いてくる。
私とカーティスが街の話をすると
2人は行ってみたいね、と
顔を見合わせて言っている。
うん、この二人なら本当の新婚さんだし、
街の雰囲気も楽しめると思う。
「それで、いつ発つんだい?」
クリスさんがカーティスに聞く。
「できるだけ早く…
今日中か、明日の朝には」
「え?そんなに早く?」
私はカーティスを見た。
カーティスはうなだれつつ、
私に謝罪をした。
「もっとのんびりしたかったんだけど
仕方がないんだ」
「いいよ、そんな顔しないで」
私はテーブルの下で
カーティスの手を握った。
「またクリスさんたちに会いに来ようね」
というと、カーティスは笑って頷いてくれた。
それから私たちはクリスさんとメルさんと別れ
宿に戻る。
カーティスはできるだけ早く出立したようだったので
私たちは宿を引き払い、すぐに街を出た。
カーティスがすごく急いでいたので
王宮で何かあったのかと心配になってくる。
馬車でのんびり戻って大丈夫なのだろうか。
もし急ぐなら、カーティスだけでも
先に馬で帰ってもらっても構わない。
馬車の中でそう伝えると
カーティスは目を見開いて、ごめん、と
私を抱きしめて来た。
え?
え?なに?
ほんとに何があったの?
不安になっちゃうよ、
早く話して!
10
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる