【R18】完結・女なのにBL世界?!「いらない子」が溺愛に堕ちる!

たたら

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17:拒絶

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 私がお菓子を堪能しているうちに
カーティスは難しい話を終えたみたいだった。

政治的な話をしてたみたいだったから
私はあえて聞かないし、
聞こえないふりをしていたけれど、
良かったんだよね?

紅茶のおかわりを貰ったタイミングで
クリスさんが私を見た。

「以前、ケインが私を訪ねて来てね」

「ケインが?」

「ああ、女神の愛し子に
贈り物をしたいから
何か珍しいものを譲って欲しいと」

「贈り物?」

「私は以前、冒険者をしていて
地方の魔獣を倒しまわっていたからね。

その縁で私の屋敷には魔道具なども
数多く保管している。

ケインはその中で
面白そうな物があれば
譲って欲しいと言っていたんだ」

「ケインがそんなことを…」

私の知らないところで
ケインが動いて
くれていたことが嬉しい。

……何も貰ってないけど。

「残念ながら
ケインのお眼鏡にかなうものはなくてね。

ケインは君が『大聖樹の宮』に
軟禁状態なことを気にしていて、
何か面白いものを、と言っていたのだが
私の保管している魔道具は
武器ばかりで、役には立たなかったのさ」

私の表情を読んだのか
クリスさんは言葉を続けた。

「しかし、ケインが
誰かを気にするなど
今までなかったことだからね。

一度、あなたがどんな方が
お会いしたいと思っていた」

人が良さそうな顔で
クリスさんは言うけれど、
どこか怖い印象があった。

今までこの世界で会ってきた
人たちとは全く違う感じだった。

何が違うのだろう。

私はじっとクリスさんを見つめた。

真赤な瞳が、私を見つめている。

あ、と私は思った。
赤い瞳は、少しも笑ってはいなかった。

好意的というよりも、
どちらかといえば、非難…いや
私の存在を否定しているような瞳だった。


この世界での私は
最初から、女神の愛し子だった。

だからこんな瞳で
私を見る人はいなかった。

何故この人は、
私を拒絶しようとしているのだろう。

憎んでいるとか、
気に入らない、とかではない。

私に感情を向ける価値などないと
言うかのように、ただ、存在を
否定されているような気がする。

ただ。
こういう視線は、初めてではなかった。

元の世界で
私が施設の子だと知った時、
私の友人の母親たちが
こういう視線をしてきた。

きっと、夜になったら私の友人に
「施設の子とは遊んではいけません」
って言うんだと思った。

高校生になって、
近所で万引き犯が横行し
本屋がつぶれたことがあった。

その時も、こういった視線を向けられた。
「施設の子がやったに違いない」と
陰で言われていたのだと思う。

近所で横行していた不良集団が
その犯人だったと逮捕されても、
その視線は変わらなかった。

「今回は違ったが、
施設の子はいずれ同じようなことをする」
と、私を、私たち施設育ちを
排除しようとしている視線だった。

私はもうこの世界では「施設の子」ではない。

だから何故、
こんな瞳を向けられるのかはわからないが
この視線に脅えるほど、私は純粋でもない。

この視線から施設の弟妹達を
背中にかばい、私はこの視線にずっと
立ち向かっていたのだから。

私がクリスさんの瞳を見返すと、
赤い瞳が、歪んだ。

「可愛らしい愛し子さまは、
ただ、守られているだけではないらしい」

「守られてますよ?
いつも。皆私を大事にしてくれています」

「私が守るから
ユウは守られているだけで良い」

カーティスが私の肩を引き寄せる。

「はは。ケインといい、
あなたといい、女神の愛し子さまは
かなりの人たらしのようだ」

絶対に、褒めてない。
軽蔑したような瞳をしてるもの。

「さぁユウ、そろそろ宿に戻ろう」

「いえ、部屋を用意させましょう」

クリスの提案をカーティスは
すぐに却下した。

「いや、宿にはすでに荷物も置いてあるし、
ユウが気を遣ってしまうからな」

「そうですか、残念です」

と、少しも残念な顔もせずに
クリスさんは言った。

断られるのがわかっていたみたいだ。

私はカーティスに促され、
屋敷を後にする。

馬車がすでに用意されていて、
私たちは馬車に乗って宿に向かった。

馬車の中では
私もカーティスも無言だった。

御者はクリスさんの屋敷の人だったから
私はなんとなく話がしづらかったし、
カーティスも何も言わなかった。

宿に着き、御者の人にお礼を言って
私たちは部屋に着いた。

カーティスは私の手を取り、
部屋に入るなり、
抱きしめられる。

「すまない、ユウ。
行くべきではなかった」

クリスさんの瞳のことを
言っていたのだろうか。

私が気が付いたんだもん。
カーティスも気が付いてたよね。

「大丈夫、気にしてないよ。
私はケインをたぶらかす悪女になってるのかな」

あ、この世界は女性がいないから
悪女ではないか。

カーティスは笑って、
私を抱き上げた。

「私なら、いくらでも
ユウにたぶらかされたいけどね」

ふふっと笑って、
頬に口づけられる。

「さて、遅くなってしまったな。
夕食は…」

カーティスは私を見た。

沢山お菓子を食べてたからね。
そんなにお腹は空いてないけど
カーティスは食べないとダメだと思う。

「ちょっとだけ、食べに行こう?
せっかくだから、
この街をもっと見てみたい」

そういうと、カーティスは頷いて
服を着替えるように言う。

フードの服はいくつか持っていたから
それを変えるだけでもいいと
言われ、私はフードが付いた上着だけ
変えることにした。

昼間、少し騒ぎになったから
同じ服装ではない方が良いと
カーティスは言う。

それはそうか。
またあの続きとかで
沢山の人が大道芸を見せてくれたら…

それはそれで楽しいけれど
食事どころじゃなくなるもんね。

カーティスもさらに簡易な服に着替え
私たちは宿の近くの食事処に来た。

お酒を飲んで騒ぐような人たちは
いなかったけれど、
家族連れが多い、
大衆食堂みたいなお店だった。

カーティスは元の世界の
お肉が沢山入ったパスタみたいな大皿と
ステーキとワイン。

私のために、シチューを頼んでくれた。

お店の人は取り皿を持って来てくれて
私はカーティスのパスタを少し貰う。

暖かな料理にほっとして、
私は意外とあの赤い瞳に緊張していたのだと
気が付くことができた。

お腹が膨れてくると
どんどん落ち着いてきた。

冷静になってくると
初対面でいきなり拒否とか
理不尽なんじゃない?
なんて思えるようになった。

なんたって、この世界で私は
「施設の子」ではないのだから。

そう思うと、ちょっとだけ
心がざわめいて。

私はカーティスが飲んでいる
真っ赤なワインを飲んでみたくなった。

元の世界ではお酒を良く飲んだ。
というか、バイト先の居酒屋の店長さんが
良い人で、良く飲ませてもらった。

お酒を飲むと、
気分がふわふわして、
嫌なこととか忘れられるから
じつは好きだったのだ。

「カーティス、それ飲みたい」

ってカーティスが飲んでいるワインを指さす。

するとカーティスは、これ?と
グラスを片手で上げる。

「うーん。でも、これ、渋いよ?」

「渋い?」

そういえば、ワインは元の世界では
飲んだことがなかった。

バイト先は居酒屋だったので
飲むのは焼酎か日本酒ばかりだったのだ。

でも赤いワインって大人の女性が
飲むものみたいで、憧れるよね?

「ちょっとだけ舐めさせて?」

「いいよ」

と舐めさせてもらったけど。

うえーって舌を出してしまった。

渋い?
苦い?

とにかく飲みにくい。

カーティスは笑って、
私からグラスを取ると、
店員さんに新しいワインを
注文してくれた。

「甘い果実酒だから
これならユウも気に入ると思うよ」

そう言われて出てきたのは
ハチミツを水で薄めたような色をしていた。

恐る恐る飲むと、
甘くて、フルーツの匂が鼻に抜ける。

「美味しい!」

これなら沢山飲めそう。

「成人前の子どもが
お祝いの時に良く飲む食前酒なんだ。

アルコールも強くないし、
これならユウも大丈夫だろう。

気に入ったのなら、
宿でも飲めるように、持って帰ろうか」

私が大きく頷くと、
カーティスは持ち帰りをしたいと
1瓶、お店の人に注文してくれた。

嬉しくなって、
私は3杯も飲んでしまった。

ワイングラスでたった3杯だ。

ところが…。
いざ、宿に戻ろうと思ったら
ふらふらして、まっすぐに歩けない。

「もしかして、酔った?」

カーティスは驚いていたが
私の方がよっぽど驚いている。

この体は勇くんのものだから、
勇くんの身体が極端に
アルコールに弱い体質なのかもしれない。

カーティスは私を抱っこしてくれた。

「おやおや、大丈夫かい?」
って会計の時にお店のおじさんが
心配そうに声を掛けてくれた。

そして私にお酒の瓶と一緒に、
おまけだと、いくつも飴が入った
小さい袋をプレゼントしてくれた。

「ありがとう」

「可愛いな。
旅の人かい?

人さらいに合わないように気を付けてな」

なんて物騒なことを言われたけど、
カーティスがいるから大丈夫。

ね?

ってカーティスを見たら、
カーティスは嬉しそうに笑っていた。

宿に着いても私はカーティスの腕の中。

ここが一番安心だから。

「酔ってるユウも、可愛いな」

カーティスは私の額に、頬に唇に
唇を落としてくる。

「このまま抱きたい」
と、ぎゅっとされたけど。

「でも、先に話しておきたいことがある。
ユウ。
酔っててもいいから。

というか、すべて忘れていいから
とにかく私の話を聞いて欲しい。

ユウに何も伝えずに動きたいけど
そうしたらユウに嫌われそうだから。

だから、聞いて?

聞くだけでいいから」

忘れてもいいから聞く?
そんなこと言われたら
忘れるわけにはいかない。

カーティスは私のために
動こうとしているのかもしれないし。

私はアルコールでふわふわした頭を
なんとか正気に戻そうと、
カーティスの膝から下りた。

そして水を貰って、
きちんと、カーティスと
向かい合わせになるように椅子に座る。

この宿の部屋は、
少し小さめの部屋で、
ベットだけは大きかったけど
後は椅子が2つと小さなテーブル。

あとは備え付けのドレッサーや
クローゼットのようなものしかない
簡素な部屋だった。

昨日の街は新婚用の特別仕様だっただけで、
これが通常の宿の部屋なのかもしれない。

カーティスも酔っている様子はなかったけれど
水を飲んでから、私を見た。

そして私は…
カーティスの口から
クリスさんのことを聞くことになる。

それを聞き、
私はもう何度目になるのか忘れてしまったが、

女神ちゃんに対しての
恨み節を心の中で呟き続けることになるとは
この時には思いもしなかった。







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