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番外編<SIDE勇>

36:真実と…【真翔SIDE】

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悠子ちゃんの話は
普通なら信じられない話だった。

でも、悠子ちゃんの様子を見ると
信じないわけにはいかない。

もし悠子ちゃんに
妄想癖があったとしても
こんな真剣な目で、
俺に訴えかけている悠子ちゃんを
俺は信じたいと思ったのだ。


いや。
信じる。

それに。

この話が事実だとしたら
辻褄が合うことも
沢山ある。

悠子ちゃんが
自分のことを『僕』と
呼ぶのも、そうだ。


俺の母は、
悠子ちゃんが『僕』と
呼ぶのを聞いたことが無いと言う。


それに、俺と会う前の
悠子ちゃんと

今の悠子ちゃんはまるで
別人のようだとも言っていた。


俺の母は『恋の力だ』とか
言ってたけど、
俺は信じてなかったし。

むしろ別人だったって
言われた方がしっくりくる。


悠子ちゃんは…
本当は勇という名前で、
あのキッチンの
テーブルに飾ってあった
写真の少年らしい。


自殺してしまったこと。


悠子ちゃん…
本物の悠子ちゃんが
身代わりに異世界に
行ってしまったこと。


そして…
女神のこと。


俺はそこまで聞いて
あぁ、と思った。


この部屋で聞いた
エロの女神はやっぱり
本物だったんだ、と。


俺は悠子ちゃんの話を
頭の中で考えた。


悠子ちゃんは
俺が好きになった子は
本物の悠子ちゃんで、
今の悠子ちゃんではないという。


でも、そうだろうか。


だって俺は、
その本物の悠子ちゃんには
会ったことすらないのに。


俺は悠子ちゃんが好きだ。


それは目の前の悠子ちゃんだ。


もし悠子ちゃんが
あの男の子の姿で俺と出会ったとしても、
俺はきっと好きになってたと思う。


人見知りで可愛くて。
自信が無さそうにしてるのに

好きなことだけは
言葉にしなくても目を輝かせて
自己主張してくる。


可愛い物と
チョコレートが大好きで。


俺の顔を見たら
満面の笑顔を一瞬だけ浮かべて、
すぐに恥ずかしそうに視線を外して。


でも、そっと嬉しそうに、
俺の顔を盗み見て、
安心したような顔をする。


手を繋いだら
恥ずかしそうに震えるのに。


俺の手が離れそうになると
慌てたように力を入れて
俺の指に触れる。


甘えたい顔をして、
でも意地っ張りで。


俺が強引に傍に寄ると
ふにゃ、って笑う。


こんな可愛い姿を見て
好きにならないわけがないだろ?


俺が守ってやるって、
思うに決まってる。


だから俺は言った。


「ユウ」


冷たくなった白い頬に
両手を添えて。e


「好きだよ」


何度だって言う。


悠子ちゃんの話が
ウソとか本当かとか関係なくて。

俺はただ、
目の前のユウが好きなんだ。

「ユウがどんな姿でも
男の子でも女の子でも。

俺はユウが好きだよ。

俺はユウが苦手な人混みの中、
迷子の子のお母さんを
一生懸命探してあげる
優しい心を持ってるのを知ってる。

動物園で、小さな女の子が
うさぎの耳を引っぱろうとしたとき、
怒るんじゃなくて、
優しく教えてあげたのも知ってる。

買い物に行ったとき、
特売の卵が欲しかったのに、
最後の一つをおばあさんに
譲ってあげたのも、知ってる。


俺が見て来たユウは、
ユウが言う悠子ちゃんじゃなくて
目の前にいるユウだよ」


だから俺の想いを、
悠子ちゃんが好きだって気持ちを
否定しないで。

「ご…めんな、さい」

悠子ちゃんは、
やっぱり大泣きして。

でも俺は、
そんな言葉は聞きたくなくて。

「ユウ、あやまらないで?
もっと違う言葉が聞きたい」

俺は悠子ちゃんが好きだ。

なら、悠子ちゃんは?

ちゃんと聞かせて欲しい。

俺の前で正座をしていた
悠子ちゃんは、
腰を上げて膝立になった。

顔の距離が近づいて
ドキっとする。

視線が、重なる。

潤んだ瞳が…綺麗だ。

「好き、です」

小さな声が、聞こえた。

「真翔さんが、好きです」

俺が何も言わなかったからか、
聞こえなかったと思ったのだろう。

今度はもう少し大きな声で
悠子ちゃんが言う。

俺は嬉しすぎて。

何か言いたかったけど、
口も動かなくて。

「好きなんです」

って、じれたように
もう一度、悠子ちゃんが言ってくれた。


これ、このまま
何も言わなかったら、
ずっと俺のこと好きって
言ってくれるかも?

ってずるい気持ちが沸き起こって。

「返事しなかったら、
ずっと好きって言ってくれる?」

って声に出してしまった。

すると悠子ちゃんが顔を真っ赤にして
「言いません!」
って怒ってしまった。


でも。
俺は嬉しくて。

嬉しくて、嬉しくて。

怒った悠子ちゃんを
抱き寄せた。

「俺も、好き。
ユウが、ユウだけが好き。


俺はユウの味方だから。

絶対に守るから。

だから…
何でも話して?

一人で泣いたりしないで」

俺は悠子ちゃんを
抱きしめて、何度も頬に
キスをしながら言った。

俺も…じつは
泣きそうだった。

悠子ちゃんは
俺の背中にそっと手を回してくれた。

「はい」
って、真っ赤な顔を俺の胸にうずめて
頷いてくれる。

嬉しい。
可愛い。

好きだ。


俺は我慢できなくなって
悠子ちゃんに咬みつくようなキスをした。

今までは優しく
脅えさせないように、って
心がけていたけど、
もうそんな余裕なんてなくなった。


夢中で唇を合わせて、
驚いて少し開いた悠子ちゃんの
口の中に舌を押し込んだ。

全部舐めたくて、
味わいたくて。

舌を絡めて
唾液がこぼれるのも
構わずに可愛い舌を吸いあげた。

「んんんっ」

苦しそうな声がしたけど
俺はしっかりと悠子ちゃんの
身体を強く抱きしめる。


可愛い。
可愛い。
可愛い。


唇を離したら
悠子ちゃんは、はあはあと
息をしながら俺にしがみつく。


俺は悠子ちゃんの頬を
ペロって舐めた。

「昨日の続き…
してもいい?」

って一応は聞いたけど、
悠子ちゃんに拒否権はない。

俺的に。

もうするしかない。

俺的には。


今までめちゃめちゃ
我慢してたし、
俺も悠子ちゃんも
お互いが好きなんだから
いいだろ?


もう、拒否の言葉なんて
俺は聞きたくないんだ。

だから。

俺は悠子ちゃんが
何かを言う前に、
また唇を舌で塞いで。


そのまま…悠子ちゃんの
身体を床に押し倒した。

これは…合意だ。

と、自分に言い聞かせて。






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