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番外編<SIDE勇>
28:マッサージだ!え?エロくないよ?
しおりを挟む僕は真翔さんと一緒に、
夕飯の買い物をして、
アパートに帰ってきた。
手を洗って、夕飯の支度をする。
僕は施設にいたときから
食事の準備を手伝っていたので
ご飯を作るのは慣れているけど、
真翔さんは、家事は全くしたことが
ないみたいだった。
何でもできる優しい真翔さんが
料理を作れないって、
驚いたけど、親しみがわいてしまった。
真翔さんは和食が好きみたいだけど
お母さんは洋食が好きらしくて
毎日、お肉ばかりだと言っていたから
今日は魚を焼くことにした。
魚を焼いていると、
真翔さんが電話をしている声が聞こえる。
お母さんと話しているのだろうか。
今日も帰らない、とか、
そんなことを言っている。
今日は土曜日で、明日は日曜日。
工場も居酒屋も仕事は入っていないので
僕はのんびりできるけど
真翔さんは大丈夫だろうか。
「ごめん、ユウ」
魚を焼いて、お味噌汁を作って。
あとは肉じゃが…って思ってたら、
真翔さんが僕にスマホを差し出した。
「母が…どうしても話したいって」
僕は困ったような顔をしている真翔さんから
スマホを渡される。
「もしもし…?」
って声を出したら
「悠子ちゃん!
もー、うちの愚息がお世話になって!
大丈夫!?
嫌なことされてない?」
ってすごい勢いで、しかも
大声がスマホから聞こえて来た。
「大丈夫ですよ」
って返事をしたけれど。
おばちゃんは僕の心配を
してくれていて、
大丈夫って、何度も伝えることになった。
夕飯も心配してくれて、
何か作って持っていこうか、って
言われたから、すでに魚を焼いて、
みそ汁もできてるから大丈夫です。
って言ったら、食べたいから
行きたい!って言われてしまった。
それを聞いていた真翔さんが
僕からスマホを奪い取って
「無理に決まってるだろう」
と話をしてくれて。
ようやく電話を切ることができた。
「ごめん、母さん、
俺とユウのことが気になるみたいで」
って真翔さんはあやまったけど
僕はむしろ、うらやましいって思った。
「そんなに心配してくれるお母さんがいて
真翔さんが羨ましいです。
僕もお母さんの子どもになりたいな」
って言ったら、
真翔さんは「いつでもなれるぞ」
って言ってくれた。
嬉しい。
でも、もう真翔さんたちとは
家族だもんね。
って言ったら、
真翔さんは微妙な笑顔をした。
なぜ?
僕が不満そうな顔をしたからか、
真翔さんは「それより、これはいいのか?」
って肉じゃがの鍋を指さした。
「あ、大変!」
ほったらかしていたので、
焦げ付きそうになっている。
僕はあわてて火をとめて、
真翔さんに味見をしてもらう。
「どうですか?」
って聞いたら、
「美味しい」って言われた。
良かった。
それから一緒にこたつで
ご飯を食べて、お風呂を沸かして
食器を片付けて。
「真翔さん、お風呂湧きましたよ」
って新しいタオルを出してあげたら、
真翔さんは、そわそわしたような仕草をした。
「どうしました…?」
「あ、いや…マッサージをしてもらえるなら
先に悠子ちゃんが入ってもらった方がいいかな」
「そうですか?
じゃあ。そうします」
良くわからなかったけど
真翔さんに言われたので、
僕は先に入ることにする。
施設では、みんな一緒に入ってたけど
さすがにこのアパートのお風呂は
小さいから、大人二人が
一緒に入るのは無理だもんね。
髪も身体も洗って、お風呂に浸かって。
僕はぼんやり考えた。
僕は……たぶん、真翔さんのことが好きだ。
お兄ちゃんとして好きだし、
それ以上に好きかもしれない。
悠子ちゃんに対して思っていた『好き』と
ちょっと違う『好き』が僕の中にあるのだ。
真翔さんは僕にとって、特別だ。
僕はずっと、悠子ちゃんだけが
大事で、特別だった。
でも真翔さんは、悠子ちゃんとは
違った特別で、大事。
これが、たぶん『好き』なんだと思う。
電車も、動物園も。
他の人と接するのが怖くて
一人では無理だったけど、
真翔さんと一緒なら楽しかった。
髪を撫でられるのも、手を繋ぐのも
安心できて好きだ。
悠子ちゃんと良くしていた
ほっぺにキスとか、
本当はしたいんだけど。
ぎゅってしがみつくことは
できるけど、悠子ちゃんにしていた
みたいに、キスはできない。
……恥ずかしいから。
恥ずかしいって、
こんな気持ちになるなんて
初めてで、驚いた。
真翔さんと一緒にお風呂に入っても
いいと思うのに、キスは恥ずかしいって
ちょっと変だよね。
だからたぶん、僕は
『家族』として一緒にお風呂に
入ることはできるけど。
『好きな人』という意味で、
真翔さんにキスするのは恥ずかしいんだ。
不思議な感覚だった。
僕の中で、二つの『好き』が
複雑に絡み合ってるような気がする。
これがいつか、一つになったら…
僕の『好き』はどうなるのかな?
真翔さんのことが好きってのは
変わらないとは思うけど。
そんなことを考えていたら
あっという間に時間が経っていて、
心配してくれた真翔さんが
お風呂場の前から声を掛けてくれた。
僕は慌ててお風呂からあがって、
真翔さんと交代する。
僕はパジャマに着替えて、
真翔さんがお風呂に入っている間に
真翔さんのパジャマを準備した。
じつはさっき、真翔さんと一緒に
夕飯の買い物をしていた時に、
レジ横で安売りしていたのを
見かけて買ってしまったのだ。
パジャマは何枚あってもいいし、
真翔さんの着替えも、多めにあっても
良いと思ったし。
なので、今日は二人でお揃いの
新しいパジャマだ。
これも『家族』の証拠だよね。
真翔さんがお風呂から出て来た。
買ったばかりのパジャマを着ていて
ちょっと恥ずかしそう?
真翔さん、かっこいいけど
可愛いかもしれない。
僕は隣の部屋に
真翔さんを誘った。
悠子ちゃんのベットがあるだけの
部屋なので、いままで真翔さんを
この部屋に入れたことはなかったんだけど。
マッサージするなら
ベットがあった方がいいよね。
こたつの部屋は狭いし。
真翔さんは戸惑った感じだったけど
僕は真翔さんの手を引いて
ベットにうつぶせに寝て貰った。
「痛かったら言ってくださいね」
って言って、真翔さんの背中に乗る。
「ゆ、悠子ちゃん!?」
「大丈夫です。僕、施設では
上手だって言われてたんですから」
マッサージをしたのも、
言ってくれたのも、
悠子ちゃんだけだけど。
そう言って真翔さんの
肩に触ったけど、凝っているみたいで
真翔さんの身体はガチガチだった。
やりがいあるぞ!
僕は気合を入れて、
真翔さんの背中を体重を掛けて押さえた。
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