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番外編<SIDE勇>
26:可愛すぎる…うさぎが【SIDE:真翔】
しおりを挟む悠子ちゃんの家で目が覚めたら、
お味噌汁の匂いがした。
俺は母子家庭だったから、
朝はいつも食パンを一枚、
焼くこともなくかじっていた。
母も忙しかったみたいで、
俺が高校を出るまでは、
朝ご飯を食べている姿を見たことが無い。
俺が高校を出て、工場で働くように
なってからは、時間に余裕ができたのか、
一緒に朝ご飯を食べることもあるけれど、
やっぱりメニューは食パンだった。
だから目が覚めて、みそ汁の匂いがして、
ご飯が炊ける音がする。
たったそれだけのことだけど、
物凄く…幸せな気分になる。
それに、これ。
悠子ちゃんと新婚生活をしてるみたいだ。
俺は嬉しすぎて、
勢いあまって、悠子ちゃんに
後ろから抱きついてしまった。
でも悠子ちゃんは嫌がったりしない。
悠子ちゃんはいつだって、
俺を受け入れてくれる。
それが嬉しくて、
俺はぎゅっと悠子ちゃんを抱きしめた。
それから悠子ちゃんが
作ってくれた朝ご飯を食べる。
悠子ちゃんは施設で育ったというけれど、
俺よりも、食べる所作は綺麗だ。
俺の母は、俺が高校を卒業するまで
忙しく働いていた。
あまり詳しくは聞かなかったが、
どこかの大きな会社の
社長秘書みたいなことをしていたようだ。
でも俺が大学に入るタイミングで
会社を辞め、工場で働き出した。
理由は…わからない。
でも俺は、ずっと自分の父親は
幼いころに病死したと思っていて。
高校に入学する際に、
戸籍を見て初めて、俺は認知されてない
未婚の母の子どもだと知った。
母からの愛情は疑ったことは無いし、
顔も見たこともない父に対して
愛してほしかったとか、
そんな思いは1ミリもない。
けれども。
母が仕事を変わった理由は
おそらく、僕の出生に関する何かが
かかわっているのだろうと思った。
俺は、母には聞かなかったし、
母も何も言わなかった。
けれど。
工場に働き出して、母は変わった。
一緒に居る時間が増え、
会話をすることが増えた。
悠子ちゃんと出会い、
俺は、母のことをたまに考える。
自分を捨てた男の子どもを
どうして生んで、愛して、
育ててくれたのだろうか、と。
悠子ちゃんのように、
俺も一歩間違ったら
施設で育っていたのかもしれない。
だから、と思う。
俺は悠子ちゃんとの
出会いを大切にしたいし、
俺も母も、今まで
手にすることができなかった
【家族】を、悠子ちゃんと
一緒に作っていきたいと思っている。
でも。
焦ったらダメだ。
悠子ちゃんは俺のことを
すでに【家族】と思ってくれているが、
どう考えても、俺は【兄】だ。
なんたって、初めてこの部屋に泊ったとき。
俺が…初めて悠子ちゃんの肌に触れた時だ。
俺が吐精で汚れた下着を
こっそり持って帰ろうと思ったら、
悠子ちゃんに見つかって、
洗濯されてしまった。
しかも、俺の精で汚れたズボンまで
一緒に洗うと言う。
着替えもなく、ズボンの下は
下着すら履いてないのに、だ。
俺は必死で断ったが、
この時、確信した。
俺は…異性として認識されていないのだと。
それから俺は、頑張ったと思う。
悠子ちゃんのバイト先である
居酒屋には、ほぼ毎日、
迎えに行ったし、
一緒に居る時間は、
悠子ちゃんをできるだけ甘やかした。
居酒屋の店長やOL嬢に
アドバイスを貰って、
悠子ちゃんとの距離を縮めた。
かなり縮まったと思う。
……悠子ちゃんの部屋には
俺の着替えが置いてあるし、
下着だって、もちろん、置いてある。
悠子ちゃんが俺の下着を干している姿は
新婚さんにしか見えない。
俺がぎゅーっと抱きしめたら、
ちゃんと抱きしめ返してくれるし、
腰に回した腕で、思い切って
お尻を触っても、怒らない。
それどころか、心配そうな顔をして
俺の顔を覗き込んでくる。
……可愛い。
今日は、うさぎを抱っこしたいからと
動物園に行きたいと言われた。
うさぎを抱っこする悠子ちゃん。
きっと、物凄く……可愛い。
可愛すぎて、俺は悠子ちゃんを
正面から見ることができるだろうか。
俺の前で洗濯物を干して、
出かける準備をしている悠子ちゃんを
俺はにやけた顔で見てしまう。
もう、このまま
同棲してもいいんじゃないか?
って思えてくる。
準備をして、アパートの外にでると
俺はすぐに、悠子ちゃんの手を握った。
悠子ちゃんはそれだけで
笑顔になってくれる。
……可愛い。
昨日の夜は…あんな可愛い顔で
やらしい箇所をぐしょぐしょにしてたのに。
そのギャップが、また愛しい。
いや、俺がそんな姿を見ていることを
悠子ちゃんは知らないのだけれど。
決して、知られては
ならないことなんだけど。
やばい。
ちょっと勃ってきた。
昨日の悠子ちゃんも、
妖艶で可愛かったもんな。
いや、考えたらダメだ。
片手は悠子ちゃんの手を握ってるから
勃ってきたものを隠せない。
悠子ちゃんの手。
柔らかで、気持ちいいよな。
昨日は…思い余って、
俺の勃ったもので、
悠子ちゃんの可愛い唇に触れたり、
あったかい口の中に入れてしまったけど。
この柔らかい手で触ってもらっても
良かったかもしれない。
いや、だから。
考えたらダメだ。
「真翔さん?」
俺がぼーっとしていたからか、
悠子ちゃんが俺の手を引っ張った。
「いや、ごめん。
ユウが可愛くて、見惚れてた」
って言ったら、
悠子ちゃんは顔を真っ赤にした。
うん。
可愛い。
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