【R18】完結・女なのにBL世界?!「いらない子」が溺愛に堕ちる!

たたら

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愛を求めて

92:別れは突然に

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その日も私は朝から悩んでいた。

皆に気づかれずに
出ていくなんて絶対に無理だ。

良い考えが浮かばないので、
私は朝食を食べてから
ジュリさんにもらったぬいぐるみで遊んでいた。


私がソファーでクマを着せ替えしてたら、
バーナードもエルヴィンも
呆れたような顔で私を見る。


……毎朝、やってるからね。


正直、ジュリさんはすごい。


何がすごいかと言うと、
クマの服は物凄く精巧にできていて、
一番驚いたのが、
聖騎士の服だった。

ぬいぐるみ用の聖騎士の制服は、
たぶん、正装なのだろう。

私はみたことがない飾りが
肩や腰についていたのだけれど。

この腰に付けるサッシュベルトに
小さな宝石が付いていたのだ

しかも、
ジュリさんは……たぶん、
金聖騎士団の皆の色を考えて
この宝石たちを付けてくれたんだと思う。

だって宝石は7個付いていて。

真ん中に、たぶん私の瞳の色の黒。

その両脇に、

ヴァレリアンの瞳と同じ金。
カーティスの琥珀。
スタンリーの青。

反対側に、

バーナードの髪の赤。
エルヴィンの髪の緑。
ケインの髪の銀。

全部で7つ、縫い付けてある。

本当に素敵なものだ。

あの時、遠慮しようと思ったけど。
やっぱり貰ってよかった。

私はやっぱり、他人の好意とか、
そういうのは、苦手だ。


他意はないと思っていても、
何も返せないとわかっているのに
プレゼントをもらうのは、
正直、戸惑うし……怖い。


貰ってしまったら、
何か差し出さないとダメだと
無意識に思っているからだと思う。

でも実際にこうして
プレゼントをしてもらったら
嬉しい。


こういう経験を沢山したら、
純粋に…素直に愛情を
受け取ることができるように
なるのかな。

できたら、私も素直に…
誰かにプレゼントできるようになりたい。


今までは生きるのが必死で、
誰かに何かを与えるなんて
思ったことがなかったから。


私はクマに聖騎士の服を着せて
大満足にクマを抱っこした。


手足を動かして、
可愛さを堪能する。


次は、もう一つのクマちゃんだ。


何を着せようかな、
なんて思った時だ

『大聖樹』を警備している騎士さんたちが
私を呼びに来た。


扉をダンダンと叩かれて、
その大きさに私は飛び上がる勢いだった。


バーナードが警戒して私のそばにきて
エルヴィンが対応してくれたけど。

騎士さんは「とにかく来てください」
って、息を切らせて言う。


私はバーナードと顔を見合わせて、
エルヴィンが先に行くから、
って言ってくれて。


私は聖騎士のクマをにぎったまま、
早く、早く、と急かされるまま
『大聖樹』の間へ向かった。


警備の騎士さんの話は慌てすぎて
要領は得ない。


ただ、『大聖樹』に異変が
起こったことだけはわかった。


私たちが一緒に大急ぎで
『大聖樹』の前まで行くと、
すでに王様や宰相さんたち。

ヴァレリアンたちも
みんな、『大聖樹』のところに
勢ぞろいしていた。


私も『大聖樹』を見て……。


そっか、と、安心した。


青々とした葉の間に見えていた花が、
小さい実になっているのが見える。


大丈夫だ。
もう。


ここに、私はいらない。


そんなことを思って、驚いた。



まるで、ずっと探していた
ジクソーパズルの最後の
ピースが、カッチリと合ったように。


すとん、と、もうここで、
私の役目は終わったのだ、と
そう…腑に落ちた。


あんなに、私の居場所は
だって思ってたのに。


私はいつのまにか隣に来て、
肩を抱いてくれている
ヴァレリアンの腕を引っ張った。


ん?


と首をかしげて
私に目線を合わせてくれる
ヴァレリアンに、そっとキスをする。

ヴァレリアンは驚いたような顔をした。

「ユウ、私には?」
ってすぐにカーティスに
手を引っ張られて、カーティスにも
触れるだけのキスをした。


じっとこっちを見ている
スタンリーの手も引っ張って。

「実がついて、良かった」

って笑ってキスをする。


みんなが笑ってくれて。


その後ろでバーナードも
ケインも、エルヴィンも
嬉しそうな顔をして。


それを見届けて、
私は天井を…上を見た。


『大聖樹』があるこの部屋だけは
天井が無い。

どこまでも高く『大聖樹』が
大きくなれるように。


見上げると青空が広がっていて、
その青空に…白い、
大きな点みたいなものが見える。


私が空を見上げているので、
自然と、その場にいる人たちも
上を見上げた。


その白い点は、どんどん
大きくなって…やがて
真っ白い翼が生えた
獅子の聖獣だというのが、わかった。

「レオ」


なんとなく、気配を感じていた。


だから、もしかして、と思ったけど。


レオは大きな翼を広げ、
天井から『大聖樹』の前に降りた。


突然の聖獣の出現に、
みんなは驚いて…でも誰も動かなかった。


私はヴァレリアンたちから離れ
「レオ」って呼んで、
そのふさふさのたてがみにしがみついた。


『人間たちよ、
よくぞ我らの愛し子を慈しみ、
愛してくれた。
礼を言う』


レオの声が、頭に響く。


金聖騎士団の皆が
膝を床につけて跪いた。

それを見た人たちも同じように跪づく。

王様も宰相様も、教皇も、枢機卿も。


『この子は…連れていく』

「え!?」

レオの言葉に、
カーティスが声を挙げた。


『この『大聖樹』は、
もうこの子がいなくても
新たに花も、実もつけるだろう』


「待ってくれ。
俺たちはユウを『大聖樹』のために
愛したわけじゃない」

ヴァレリアンが立ち上がった。


つられたように、
カーティスも、スタンリーも
バーナードもケインも、
エルヴィンも立ち上がって、
私の方に来ようとした。

でも、たぶん。
レオが結界を張ったのだろう。

誰も近づけない。


「ユウ!」
ってスタンリーが呼んでくれて。


私は…震える手を、
レオのたてがみに隠した。


「あのね。
女神ちゃんがね、この世界に…
また、新しい国を作ったんだって」


私の声に、どよめきが生まれる。


「ちょっと、行ってくる。
女神ちゃん、私が居ないとダメだから。

この世界で、金聖騎士団の皆と
出会えてよかった。

また…会えるかわかんないけど、
でも『聖樹』を通して、
みんなのことは、ちゃんと感じるから。


この世界が、優しい愛で
溢れるのを見てるから。


沢山、愛してくれて、ありがとう。


私ね、みんなのことが大好き!」


そう言って、私は…
レオの翼を借りて、その背に乗った。


「ユウ!!」

って泣きそうな声で名前を呼んでくれたのは…
エルヴィンだろうか。

楽しかったな。

この世界で初めて会ったのが
みんなでよかった。


色んな<愛>を知った。
エロ女神の知識以外の
愛し方、愛され方も知れた。


……それは、良かった。
切実に。


「行こう、レオ」


私の声に、レオが駆け、
空にふわり、と浮いた。

みんなの声が聞こえる。


でも私は…

振り返らずに、レオの首に
ぎゅーっとしがみついた。


さぁ、新たな出発だ。





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