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愛を求めて
91:決意と準備
しおりを挟むみんなと一緒に眠った翌日から、
私は人見知りを克服すべく、
色んな人と話をするように……頑張った。
たとえば、扉の外にいる護衛騎士さんに
声を掛けるようにした。
最初は緊張して、挨拶するのも
ドキドキだったけど。
話していくうちに、
護衛騎士さんは、普通の騎士さんもいれば
聖騎士さんもいることがわかってきた。
このあたりは、勢力争いが
起こらないようにという配慮なのかもしれない。
『大聖樹』は一般の人は
立ち入り禁止になっていて。
私が行く時間はいつも
神官さんが数人しかいなかったけど。
私が<祈る>ときに近くにいた
神官さんにも、できるだけ
声を掛けるようにした。
私が<祈る>時間はまちまちで、
なんとなく「今から行こうかなー」
みたいな気軽なスタンスだったから、
毎回出会う人が違っていて…
やっぱり緊張した。
でも話をしていると
みんな女神ちゃんのことを敬愛していて
『大聖樹』の成長を喜んでいて。
話を聞いているだけで嬉しくなった。
あとは、護衛をしてくれている時間に、
金聖騎士団の皆にお願いをして、
護身術…みたいなものを教えてもらった。
バーナードに護身用にナイフを
貸してもらったことがあるけれど、
使えるなんて思えないもん。
そういうと、皆は
「俺たちが守るから大丈夫だ」
なんて言ってくれたけど。
何があるかわからないから、と
言って、教えてもらうことにした。
あと、魔法の使い方も教えてもらった。
やり方さえわかったら、
色々と…できた。
きっと女神ちゃんがくれた
『適当に使えそうな祝福』の中に
魔法が使える祝福もあったんだと思う。
もっと早く知りたかった。
まぁ、いいけど。
そうやって私は…
色んな人と出会って、
街の話を聞いたり、
自分でできることを増やしたり。
そんなことをしながら…
のんびりと日々を過ごしていた。
いつか、旅立つ日まで。
出ていく日は全く決めてなかった。
やっぱりみんなと離れるのは寂しい。
一緒にいて、ヴァレリアンや
カーティスと、ふとした瞬間に、
軽く唇が重なって。
スタンリーとは、
さりげなく身を寄せ合って
手を重ねてみたり。
そんな優しい触れ合いも、
手放しがたい。
……心地がいい。
私はバーナードの婚約者さんと
出会ってから、バーナードへの
「抱っこ!」をやめた。
バーナードへの『甘えた大魔王』をやめたのだ。
さすがに22歳にもなって、
そりゃないか、と自重したのと、
やっぱり幼くなった勇くんの身体とはいえ
自分の婚約者が他の人を膝に乗せるのは
婚約者さんが嫌がると思ったからだ。
そのかわり…寂しくなったら、
エルヴィンの頭を撫でたり、
ヴァレリアンやカーティスに
抱っこしてもらったり。
スタンリーの膝に乗ったりしている。
でも、それも頻度を下げて、
一人でなんでもできるようにしよう、
と、甘えたい気持ちを抑えるようにした。
元の世界では、
ずっと一人で生きてきたのに
心を許せる人と出会ったら、
こんなになってしまうのかと
自分でもビックリだ。
私はゆっくり、
自分の気持ちを整理している。
ずっとここにいたいけど、
女神ちゃんからの依頼…
他の場所にある『聖樹』も
見に行かなければならない。
すべての『聖樹』が元通り
花や実をつけるようにならなければ、
この国は繁栄できないのだから。
私はいつ出発するかを毎日考える。
でも、心は行きたくないと
思っていたから
できるだけ引き伸ばしたい、
とも考えていた。
『大聖樹』の花が
2輪になり、3輪になってきて、
そろそろ出発しないとダメだろうか。
でもせめて、1つめの花が
実になるまでは見届けようか。
それともバーナードの
結婚式を見てからにしようか。
そんなことを考えていた時だった。
いつものように『大聖樹』に
手を当てて<愛>を流そうとしたら
突然、頭に女神ちゃんの声がしたのだ。
『ユウ!
とうとう、国を作ったぞ』
「……女神ちゃん?」
作る前に相談しろって言わなかったっけ?
眉間にしわが寄るよ?
『なかなか良い国になっておる。
ユウも見に行って
手助けしてやってくれ。
もちろん、その国の聖樹が育つ
手助けをしてからで構わんからの』
嬉しそうな、声。
私はため息をついた。
女神ちゃん、何言ってんの?
この国のこともまだ処理が
全部終わってないのに、
もう次のことやってんの?
物事は一つ一つ、終わらせてから
進みましょう、って習わなかった?
あ、習ってないのか。
女神だもんね。
なんて脳内でツッコんでる間も、
女神ちゃんは嬉しそうに
話を続けている。
やりたいことしかやらないし、
人の話も聞けないなんて、
子どもか!
……ってツッコミを
今まで、何度したことか…。
と、遠い目をしてしまった。
『新しい国ではの。
やりたかったことを詰め込んだのじゃ!』
いや、この国でも、詰め込んだよね?
設定グダグダになっても、
いろいろ、やらかしたよね?
頭が痛い。
これは…そろそろ、本気で
出発しないとダメらしい。
私は『大聖樹』から手を放した。
女神ちゃんの声は聞こえなくなった。
けれども、本気で…
ここから出ていかなければ
ならないことはわかった。
寂しいけど。
もっとみんなと一緒にいたいけど。
でも…ダメだ。
女神ちゃんをほっとけない。
ヘタしたら、この国にまで
被害がでてしまう。
とはいえ。
当たり前だけど、私には
護衛がついていてくれて。
金聖騎士団の皆も
毎日、一緒に寝てくれる。
昼も夜も、誰かが一緒にいるのだ。
この包囲網を一人で抜け出すのは
きっと無理だろう。
ヴァレリアンも、カーティスも
スタンリーも。
夜の護衛の時は、
いつも近い距離で話をする。
膝に乗せて貰ったり、
一緒にお風呂に入ったり。
寝るときも一緒だ。
でも、優しくキスしたり…
そういったことはあるけれど、
女神ちゃんの祝福が発動したときのように
強引に求められたりは、しない。
護衛の人たちが
扉のすぐそばにいるからかもしれないけれど。
カーティスには
「大事にしたい」とか
ヴァレリアンには
「きちんと親に紹介したい」
とか言われているけれど。
その意味は不明のままだ。
なんたって、
私のお披露目の場というのが
まだ状況が調っていないから、
と言う理由で開催される様子もなく、
おかげで、王様たちとは
きちんとした挨拶さえできていないのだ。
どうやら、誰が最初に私と挨拶するか、で
もめているらしい。
……ここにも子供がいたか。
と思う。
そんな理由で喧嘩しないで欲しい。
というか、王様が最初でいいんじゃないの?
と思うけど。
そうしたら、教会が一番に挨拶するべきです!
みたいな声が挙がって、またおかしなことに
なりそうになったらしい。
その解決策として、
「お披露目をして、全員一緒に挨拶をしよう」
という宰相さんの提案に乗ることにしたものの…
今度は、これはお披露目の際に
私を嫁として紹介したい
ヴァレリアンやカーティス、
スタンリーの家がけん制しあっていて、
なかなか開催できないのだと
バーナードから聞いた。
本人たちは、嫁とか関係ないって
言ってるのに、
親や一族がそれを邪魔してるんだって。
いや、嫁って。
やっぱり【女神の愛し子】を
囲い込みたいとか、そういう
権力争いみたいなのがあるのかな。
貴族って、大変そう。
でも正直いうと、それでよかった。
だって、出ていくのに、
お披露目とかされたら心苦しいし。
いきなり消えたら
みんな、心配するだろう。
でも、手紙…は難しい。
だって、この国の字が書けないんだもん。
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