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愛を求めて
90:全員集合
しおりを挟むあの後、金聖騎士団のみんなが
全員、私の部屋に集まってくれた。
久しぶりの全員集合に
私は嬉しくなる。
カーティスが、ご褒美に
何か欲しいものはない?
なんておどけた感じで聞いたので、
今日はみんなで一緒に寝たい、
って言ってみた。
だって部屋は広いし、
ベットは…広いとはいえ、
全員で寝るのは無理かも、だけど。
ソファーもあるし、
せっかくみんなが揃ったんだから、
前みたいに一緒にいたい、って言ってみた。
わがままだったかな?
でも、カーティスは
にこにこして、私を抱きしめて、
ヴァレリアンはスタンリーと
何かを相談し始めて。
バーナードはため息をつき、
エルヴィンは嬉しそうな顔をして。
ケインは…顔をしかめた。
どういうこと?
って思ったけど。
ドアの外にいた護衛の人たちに
ヴァレリアンは何かを言っていて。
ケインやエルヴィンが
外へと飛び出して。
気が付くと…
私はこの日はずっと一日、
皆と一緒に過ごせることになっていた。
久しぶりで、嬉しくて。
私はみんなとおしゃべりを楽しんだ。
夕飯も前みたいに、
この部屋でみんなで一緒に食べた。
行儀が悪かったけど、
人数が多いので私はベットの上に
座って食べた。
カーティスが私のお皿を持って
テーブルとベットを往復しながら
私にご飯を食べさせてくれて。
相変わらずの過保護に笑ってしまった。
夜はちょっとだけ、お酒を飲んだ。
バーナードが飲み過ぎたらダメだ、って
強く言うので…舐める程度だったけど。
いろんな話を、沢山聞いた。
ヴァレリアンがお父さんの後を継ぐべく
次期聖騎士団の総帥になるために頑張っていること。
カーティスは、
王位には関係ない立場だと
本人は言っているけれど。
兄を助けるべく、
政務に力を入れていること。
スタンリーはすでに次期宰相と
言われているらしく、
文官に恐れられているらしい。
本人は聖騎士を辞めるつもりはないが、
王都にいることで、
仕事が色々まわってくるそうだ。
バーナードはもうすぐ結婚する。
ジュリさんとだ。
ケインとエルヴィンは
ヴァレリアン曰く、まだまだ
ヒヨコの新米聖騎士なので、
これからも特訓を重ねて
もっと強くさせる、なんて言っていて、
二人ともうんざりした顔になっていた。
みんな…しっかりと前に進んでいる。
良かった。
「ユウちゃん、これから…
『聖樹』の花は……ホントに咲くのかな」
会話が途切れた時、
エルヴィンが聞いてきた。
『聖樹』の実は、この世界では
子どもを作るためには
必須のものだ。
エルヴィンのお兄さん夫婦も
『聖樹』の実を欲しがってると言っていた。
「大丈夫だと思う。
花も、実も。
沢山、感謝と祈りを捧げたら
ちゃんと花も実もできるし、
数だって、これからどんどん
増えていくよ。
女神ちゃんもそう言ってたし」
「そうか…良かった」
エルヴィンはほっとした顔をした。
「だが…俺たちは
どうあがいても<闇の魔素>を
生みだしてしまうと思うんだが」
スタンリーが言った。
「さっきも国王と
俺の祖父とで争ってしまったしな」
ケインが悔しそうに言う。
でも、そういうのは
別にいいんじゃないかな。
「あのね、ケイン。
スタンリーもね、別に喧嘩が悪いとか
言い争うのがダメではないと思うの」
私は二人を見て、皆を見た。
「意見を言い合うのは大事だし、
さっきの…王様たちはね、
なんか本当は、仲が良いのかな、って思ったし。
嫌な気持ちも、苦しい気持ちも、
<闇の魔素>を生み出す感情は起こって
当たり前なんだと思う。
それをきちんと処理できるかどうかが
大事なんじゃないかな。
<闇の魔素>が生まれるのと同じで
<聖なる魔素>だって生まれるんだもん。
<聖なる魔素>ばかりが沢山あっても
きっと、ダメなんだと思う。
人間は感情があって当たり前なんだし。
ただ、感情が…人間が生み出す<魔素>が
どちらかに偏るのは良くないってことなんじゃないかな」
だって無理に嫌だと思う感情を殺して
相手に優しくしないとだめって、
変じゃない?
誰かに優しくしたら<聖なる魔素>が生まれて
嫌な気分になったら<闇の魔素>が生まれる。
そのバランスが崩れないように
生きていければそれでいいんだと思う。
<聖なる魔素>が溢れた世界は
それはそれでいいのかもしれないけれど。
女神ちゃんの世界は真っ白で、
味気なかった。
そんな世界で人間が幸せになれるとは思えない。
そんなことを言ったら、
みんなは…なるほど、って顔をして。
「政治と同じでバランスが大事だってことだな」
とカーティスがうまくまとめて
この話は終わりになった。
よかった。
夜はベットで私とヴァレリアン、
カーティスが寝ることになった。
3人掛けのソファーには
スタンリーとバーナードが。
ケインとエルヴィンは
窓とドア前に分かれて
座って寝ると言う。
いやいや、そういうわけには…
って思ったけど、
二人は侵入者に備えて
万が一のために、と譲らない。
金聖騎士団全員が
揃っているこの場所に
誰が忍び込むと言うのか…と
思ったけれど。
上官であるヴァレリアンたちと
一緒に寝るのは、さすがに
ハードルが高いのかと思い直して、
素直に「護衛よろしくお願いします」と
頭を下げることにした。
話をしているうちに
私はお酒に酔ってきたのか
ふわふわした気分になってきた。
ベットに入ることにしたら、
ベットの上でヴァレリアンに抱きしめられ、
カーティスにしがみつかれ…
正直、酔いも吹き飛ぶ苦しさだった。
息苦しくて、寝てられない!
なんとか眠る二人の腕から逃れて
ベットから起き上がると、
スタンリーとバーナードが
ソファーに座って話をしているのが見えた。
二人とも私に気が付いたみたいで、
私はそっとベットから下りた。
ケインもエルヴィンも動かない。
起きてるのか寝ているのか
わからなかったので、
足音を立てないように、
ソファー前まで移動する。
「眠れないのか?」
とスタンリーに聞かれて、
「息苦しくて」
と答えると、
バーナードは笑いをこらえた顔になった。
私は唇をとがらせて、
いつものようにバーナードの
膝に乗せてもらおうと思ったけれど。
ジュリさんの顔を思い出して、
スタンリーの隣に座った。
膝に乗ると思っていたのだろう。
バーナードが
ん?
と言う顔をしたので
「愛しい婚約者さんに遠慮しました」
って小さく笑って言ってみた。
「じゃあ、ここに乗ればいい」
と、スタンリーが私を抱っこして
膝に乗せてくれる。
ほんと、皆といたら
甘えたい放題で困ってしまう。
そう、嬉しいから困るのだ。
「2人は寝ないの?」
「そうではないが…
色々と考えることも多くてな」
とスタンリーが言う。
たとえば…あの『大聖樹』の花だが、
これが実になったとき、
誰が最初に使うのか。
花は咲いたけど実にならなかったとき、
誰が責任を取るのか。
大丈夫だと思うが、
もし今後、花が咲かなかったらどうするのか。
仮定ばかりで、結論はすぐにはでないが、
考えておかなければ、いざとなったときに
困るのだろう、とスタンリーは言う。
バーナードも『大聖樹』の花は
気になるようで、スタンリーの
話し相手になっていたみたいだった。
花は一輪しかないもんね。
取り合いになりませんように。
「でもね、今は一輪しかないけど
すぐに沢山、花は咲くと思うよ」
私はスタンリーに言った。
「そうなのか?」
「うん、女神ちゃんが言ってたの。
最初は…芽が出たり、
花が咲くまでは大変かもしれないけど
一度育てば、あとは心配ないって」
「そう…か」
安心したように、スタンリーと
バーナードが顔を見合わせて笑った。
よかった。
笑顔になってくれた。
「女神ちゃんはね、
この世界に沢山の人を溢れさせたいって
思っているから、大丈夫。
花も実も沢山つくように
手伝ってくれるよ、きっと」
あんまり介入はできないと言ってたけど、
また何かあったら、きっと
手を貸してくれるだろう。
「そうだ、ユウ」
スタンリーが私の髪を撫でた。
「私のことも…女神に
兄だと言ってくれてたな、
……ありがとう」
あ、あの恥ずかしい話ね。
まさか聞かれてるとは思ってなかったから
ほんと、恥ずかしい。
「可愛い、と言われたときは
……驚いた…が」
厳しい顔をして、照れたような瞳。
それが、可愛いですよー、
ってスタンリーに言いたい。
言えないけど。
私は曖昧に笑ってごまかす。
「あの時は…そう思ったけど。
エルヴィンも、ケインも可愛い弟だって
思ったけど…もう、違う…よね」
すっかり成長して、
二人とも頼もしい…大人の顔をするようになった。
「あのヒヨコたちは、
お前の言葉を聞いて、随分
頑張ってたからな」
バーナードが言う。
「そろそろ、ヒヨコとは呼べんな」
とスタンリーも笑った。
みんな成長しているんだ。
私も……歩きださなくっちゃ。
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