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愛を求めて
87:婚約者が来た
しおりを挟む私が『大聖樹』のそばで目覚めてから、
あっという間に時間が過ぎた。
目覚めた日の夜は
バーナードと一緒に寝て、
たっぷり甘えることができた。
ベットは物凄く広かったので
エルヴィンも一緒に寝よう、って
誘ったけど、断らて、
ちょっぴり、残念。
夜はドアの外に護衛が2人いて、
金聖騎士団のメンバーは
毎夜、1人づつ、私についてくれるらしい。
夜以外は私が部屋にいる間は
バーナードとエルヴィンがそばにいてくれる。
護衛の基本は2名らしいけど
場所が王宮と神殿の間にある
<聖樹宮>なので、
ヴァレリアンもカーティスも
スタンリーも。
普段通りの仕事をしながら、
その合間に私の様子を見に来てくれた。
ケインは神殿と王宮の調整役を
担っているので、毎日忙しそうだ。
結局…というか
夜のローテーション以外では
たいてい私は、バーナードと
エルヴィンと一緒にいることが多かった。
私は寂しくはなかったけど、
王族って意外と仕事があるんだな、とか
聖騎士団って大変なんだ、とか。
神殿って祈る以外にも
仕事があるんだな、とか。
みんなの話を総合しながら
この世界の知識を深めることにしている。
私は一応、朝と夕方と『聖樹』に
<愛>を注いでいる。
みんなには祈りと言ってるけど、
結局は『聖樹』に手を当てて、
体の中にある<愛>を
『大聖樹』に流すだけ。
でもたまに『大聖樹』に触れると、
女神ちゃんと話をすることができたりして、
ちょっと楽しい。
声は皆には聞こえてないみたいなので
あまり、はしゃいだりしないように
気を付けている。
あと、
私はかなりVIP待遇らしくて
なかなか外出できなくなった。
しかも、見知らぬ男性が
身の回りのお世話をしてくれる
侍従さんになってしまい、
私は元の世界と同じように
極度の人見知りを
発症してしまった。
そんなわけでしばらくは
申し訳なかったけど、
バーナードの抱っこがないと
不安で仕方なくなってしまった。
もともと私はこの世界に来るまで
他人が怖かったし、
人間関係を拒絶しまくってた。
いきなりこの世界きて、
皆に愛されることを
教えてもらったから
すっかり忘れていたけれど。
私は金聖騎士団のみんな以外の人は、
やっぱり怖くて苦手だったのだ。
バーナードがそんな私のことを
ヴァレリアンに相談してくれて。
私も夜、ヴァレリアンがそばに
いてくれる日に、思っていることを
話すことができた。
知らない人は…申し訳ないけど
なんだか怖い。
私の元の世界の記憶と、
勇くんの体の記憶もあるのかもしれない。
とにかく…あまり意味のない好意を
向けられたことが無いので、
物凄く、戸惑うのだ。
裏切られるんじゃないかとか、
じつは裏で悪口を言われてるんじゃないかとか。
そんなことないってわかってるのに、
身体がこわばってしまって、
上手く声がでなくなる。
そんな私をカーティスも
心配してくれて、
カーティスのそばにいる
侍従さんたちを寄越してくれたのだけど。
やっぱり慣れなくて。
こんなんでは
旅になんて出れるわけがない、と
自分で自分を叱咤してしまう。
それに、こうなってしまうと
【器】に<愛>も溜まりにくい。
私が他人とうまく
接することができないと
悩んでいることを知り、
ヴァイオリンは一つ、提案をしてくれた。
バーナードの婚約者さんと
会ってみないか、と言われたのだ。
まずはあまり知らない人と
接する練習をしようとの提案だった。
全く知らない人よりは安心できるし、
この部屋で会うこともできる。
そして何より、
バーナードが愛する人だ。
ぜひ、会ってみたい!
バーナードの婚約者さんと
会えることが決まってから、
私は急に元気になった。
バーナードには笑われてしまったけど。
でも、楽しみで仕方がない。
婚約者さんと会う日は
朝から緊張して、
でも、張り切ってしまって。
エルヴィンに何度も
お茶の準備は大丈夫?とか
お菓子はある?とか。
バーナードには
どんな話をしたらいいの?
とか、何度も何度も聞いてしまった。
二人とも笑って
「大丈夫」って言ってくれたけど。
わかってるけど、
なかなか大丈夫になれないの!
午前中…ようやく、
バーナードに付き添われて
婚約者さんがやってきた。
バーナードが言っていた通り
物凄く……可愛い人だった。
男の人なんだろうけど、
男くささが無いというか…。
あれだ。
バービーちゃん人形の
ボーイフレンドの男の子。
あんな感じだ。
茶色い髪に、緑の目。
まつ毛が長くて、線が細い。
ふんわりと笑う顔はバーナードと
同い年と聞いていたけど、
幼く見える。
甘いものと可愛い物が
好きって聞いていたけれど、
確かに白いシャツには可愛い
レースがついていて。
髪飾りも大人女子喜びそうな
小ぶりのキラキラした
布で作ってあるリボンだった。
うむ。
可愛い。
「初めまして。ユウ様。
バーナードの婚約者
ジュリ・クラークです」
と優雅にジュリさんが
お辞儀をする。
「は、初めまして。
どうぞ、ユウと呼んでください」
と、呼び捨てをお願いすると、
ジュリさんは、とんでもない!
って手を振った。
「ユウ様は、
女神様のご友人と聞いています。
そんな方を呼び捨てなんて…っ!」
「いえ、女神ちゃんは関係なくて、
私は私ですし。
その…私もジュリさん、って
呼んでもいいですか?」
って聞いたら、もちろん、と
頷いてくれた。
でも、慣れるまでは
ユウ様と呼ばせてください、って
言われたので仕方なく了承した。
この部屋にはお手伝いさんというか
お茶を入れてくれる侍従さんがいなくて
いつもエルヴィンがお茶を入れてくれる。
毒味…とか、色々あるみたいだけど、
私が侍従さんたちに対して
極度な人見知りを絶賛発症中なので、
申し訳ないけどエルヴィンにお任せなのだ。
私とジュリさんがソファーに
向かい合わせに座ると、
エルヴィンがお茶とお菓子を持ってきてくれた。
ジュリさんはちゃんと、
侍従さんを一人連れて来ていて、
その人は扉の前に立っていた。
エルヴィンが絶対に美味しい!
って自慢していた焼き菓子を
私はジュリさんに薦めながら、
そっとジュリさんを見た。
「……なにか?」
ってこっそり見たのに、
ジュリさんに聞かれて、
えっと、と私は人見知りを
発病してしまう。
どうしよう。
言っていいのかな。
「あ、あの。
バーナードは私のお兄ちゃんなので!」
って手を上げたら…
きょとん、とした目で見られた。
いたたまれない。
……泣く。
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