62 / 208
愛とエロはゆっくりはぐくみましょう
62:女神の祝福と呪い
しおりを挟むやってしまった!
やってしまった、やってしまった。
やってしまったーーっ!
私はバチっと目を開けて、
身体を動かさずに、うろたえた。
ヤバイ。
不味い。
バーナードは婚約者さんがいるのに、
やってしまった。
女神ちゃん…どうしてくれるのーっ!
泣きそうだ。
いや、泣く。
だってすでに、
涙がにじみ出てるもん。
目を開けると、泊まっている宿屋の
部屋だということはわかる。
ベットは…あのまま。
何故か体はべたついたりはしてないけど、
たぶん、あのままだ。
部屋の明かりは、ランプは
1つだけつけられていて、薄暗い。
カーテンは開いていて、
窓の外から月の光が差し込んでいた。
人の気配を感じて
視線だけで探してみると、
窓の近くの椅子に、バーナードが
うなだれた様子で座っている。
……落ち込んでる。
絶対に。
バーナードは何も悪くないのに。
私は手足に力を入れて
ベットから起きた。
思ったよりも体は軽い。
バーナードが回復魔法を
かけてくれたのだろうか。
私が起き上がると、
それに気が付いたのだろう、
バーナードが顔を上げた。
その瞳に…物凄い後悔と、
絶望が宿っていて、苦しそうに
顔が歪むのを見て、
私は慌ててベットを下りた。
「バーナード」
あなたは、悪くない。
そう言おうとしたのに、
バーナードが遮った。
「すまない、俺は…
どうかしてた。
なんで あんなことをしたのか
俺は…自分が、信じられない」
私は手を伸ばし、
バーナードを抱きしめた。
椅子に座ったままのバーナードは
私の腕の中には納まらなかったけど。
それでも、抱きしめることはできた。
「ごめんなさい」
「ユ…ウ?」
何故謝るのか、と言うバーナードに
私は、謝罪以外の言葉がでない。
どうしよう。
バーナードは、何も悪くない。
でも理由を伝えないと、
バーナードはきっと自分を
責め続けるだろう。
優しい…誰かを守ることを
誇りとしているバーナードが、
私をーー守るべき対象者に
無理やり、乱暴したと思っているだろうから。
彼の誇りを守り、
傷を負わないためには、
理由を話すべきだ。
だが。
あの女神ちゃんのことを知って、
正気でいられるだろうか。
行き当たりばったりで
意味のない祝福をまき散らし、
女神の資格試験のために
この世界を創った…女神。
私だったら嫌だ。
別の世界に行かせてくれ!と
泣きつくレベルだ。
「バーナード、聞いてもいい?」
私はバーナードの背中に腕を回し、
肩にしがみついた。
「あぁ」
バーナードは苦し気に頷く。
「この世界を創った女神を…
どこまで敬愛してる?」
私がおそるおそる聞くと、
バーナードは口を動かした。
は?
と言ったと思う。
声には出なかったけど。
確かにこの流れで…
いきなり宗教の話はおかしいかも
しれないけれど。
でも、私には必要な話だ。
だから、もう一度、聞く。
「バーナードは、
女神のことを信じてる?」
戸惑う視線はそのままに、
バーナードは頷いた。
「そう…だな。
俺は…ケインほどではないが、
それなりには、信じてる」
ケイン…確かに。
祖父が教皇でお父さんが枢機卿なんだっけ。
幼いころから女神信仰の
環境にいるケインはかなり
女神ちゃんを崇拝していると思う。
妖精勇くんが来た時は、
神父さんと一緒に拝んでたもんね。
「それなり、ってことは
信心深くはない、ってこと?」
さらに聞く私に、バーナードは
困ったような顔をした。
まぁ、そうだよね。
この世界は皆、女神ちゃんを
信じていて、それが当たり前なんだから。
他宗教が当たり前の日本とは
土台も事情も違ってくる。
「俺は…女神を信じてるよ。
だが、俺は…申し訳ないが、
『女神を信じていれば幸せになる』
とは思っていない。
女神がいても世界は魔獣がいて、
悲しい思いをする人間がいて、
死ななくても良いやつが、
死んだりする。
だから俺は女神に助けを
求めるのではなく、
俺が、守ってやりたいと思った。
だから強くなりたかったし、
聖騎士にもなった。
女神を…信じていないわけでは無い。
だが、女神に祈っても、
目の前の人を助けるには、
女神では間に合わないことが
あることを、知っているんだ」
強い…言葉だった。
もしかしたら過去、バーナードは
女神ちゃんに祈り、助けを求め、
そして…
自分の無力を知ったのかもしれない。
だから、こんなに強く、
誰かを護るために、戦えるのか。
「だから俺は、
弱い者を守る【盾】として
俺は誇る生き方をしたい。
そして実際に、
誇る生き方をしてきた。
……さっきまでは」
不味い。
この話の流れは
良くない方向になっている。
「バーナード!」
私は思わず大声を出した。
「秘密の話をします」
できるだけ真剣な声で、
有無を言わさないように早口で言う。
「他言無用です。
秘密を…守れますか?」
聞いたけど、守れるよね?
守らないとか、ありえないからね?
という気持ちを込めて
バーナードを見つめたら。
バーナードは開きかけていた口を閉じ、
神妙な様子で頷いた。
「今から話す話は…
誰にも言っていない話です。
しかも、ヴァレリアンたちにも
今後、言うつもりはありません。
だから、バーナードにも
内緒にしていて欲しいんです」
「ヴァレリアンたちも知らない…?」
「はい。今後、何があっても
言うつもりはありません」
きっぱり言うと、
バーナードはわかった、と返事をした。
そして私を引き離して、隣の椅子に座らせる。
「じゃあ、聞こうか」
バーナードの声に、
私は話せることを選びつつ…
ゆっくりと話を始めた。
10
お気に入りに追加
438
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる