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愛とエロはゆっくりはぐくみましょう

56:もうすぐ王都だ!

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いつまでたっても慣れない
悪道を乗り越え、
私たちはようやく
王都に続く街道に出た。

あれから3日間ぐらいは
森のようなところで野宿をし、
馬車では、バーナードかヴァレリアンに
しがみついて、なんとか…
嘔吐せずに、ここまで来た。

良かった。

馬車内で吐くとか、ありえないし。

街道に出て、しばらく行くと、
街が見えてきた。

王都に入る前に、
ここで宿に泊まるらしい。

良かった。

正直、お風呂に入りたい。

バーナードやヴァレリアンを
大人の…成人男性と認識してから
やけに彼らの男くさい匂いが気になりだした。

そうなると…自分もそうなのかと思ったり。

勇くんの体が男くさいとか
ありえないとは思うけど。

でも、やっぱり洗いたいよね?

街について、すぐに宿屋で部屋を押さえた。

ここから王都まではもうすぐらしく、
ヴァレリアンは宿屋で手紙のようなものを書くと
馬に乗った人にお金を払って手紙を渡していた。

王都にいるカーティスたちに
手紙を書いたみたいだった。

宿屋は大きな部屋を1つとり、
3人で泊まることになった。

ヴァレリアンは何やら不満そうだったが
バーナードが「王都も近いし控えてください」
とか言っていて。

よくわからないけど、
あの凶暴なヴァレリアンに
抱きつぶされることはなさそうだ。


……良かった。


宿屋の部屋には
ベットもちゃんと3つあって
小さいテーブルと椅子もある。

食事は部屋でもできるし、
外に食べに行ってもよさそうだ。

けれど、私の黒髪をできるだけ
見られたくないというヴァレリアンの
提案で、馬車の外にいるときは
必ず大きなフードをかぶり、

食事はバーナードが
買ってきてくれたものを室内で食べた。

この街にはカーティスからの
返事が来るまで滞在する予定らしい。

王都まで馬だと1日で行けるので、
早くても出発は明後日になるだろう。

街に来た初日は疲れていて、
私は観光もできずに眠ってしまった。

翌日はバーナードが買ってきてくれた
サンドイッチや果実水を飲んで、
だらだら過ごしてしまった。

ヴァレリアンも一緒に
おしゃべりしたり、王都の話を
してくれたりしていたけれど。

夕方になる前に、
王都から早馬の手紙が届いて、
ものすごく不機嫌になってしまった。

「どうしたんです? 団長」

バーナードが難しい顔をして
部屋で手紙を読んでいたヴァレリアンに
声を掛けた。

バーナードがヴァレリアンを
『団長』と呼ぶのは仕事モードの時だ。

「俺は…先に王都に戻ることになりそうだ」

「え?」

私は声を挙げてしまった。

「王や…神殿側がややこしいことになってるらしい」

「ややこしいこと?」

私は聞いたが、
バーナードは、なるほど、なんて
頷いている。

「とにかく、このままユウを連れて
王宮に向かっていいか、判断に悩む。

とりあえず、俺が直接たしかめてくるから
ユウとバーナードはこのまま
宿で待機していてくれ。

動いてもらうときは、
エルヴィンを使いに出す」

あいつなら、王都から半日で
ここまで来るだろうしな。

とヴァレリアンは言う。

エルヴィン、早馬が得意とか言ってたけど
ほんとに早いのね。

「とにかく早い方がいいからな。
俺はこのまま、すぐに立つ。

バーナード、ユウを頼んだぞ」

「はい」

「ユウも、おとなしく待ってろよ」

そういうヴァレリアンに
頭を撫でられた。

待つのはいいけど、大丈夫?

と、ヴァレリアンを見ると
「心配ない」と短く言って
すぐに宿を立ってしまった。


いつもはうっとおしいぐらい
私にまとわりついてくるのに、
あっけない別れで私は急に不安になった。

そんな気持ちが態度に出ていたのか
バーナードが私を抱き上げてくれる。

宿屋の部屋の椅子に座って
ちょっとだけ話そうか、と
私を膝に乗せたまま話をしてくれた。


私が知っているこの世界の情報は
女神ちゃんのファンブックぐらいで
詳しいことはわからない。

それにあのファンブックは
なんたって『エロの金字塔』だったから
そんなにちゃんと見てなかったし。

いや、あれを…
じっくり読むのは無理でしょう。

どこを見ても、
美形のBLイラストばかりだったもん。

内容がそういう関連ばかりだったから
あまりみていなかったし、
世界観の設定とか、あんまり詳しくは
載ってなかったと思う。


バーナードは何故か私を
膝から降ろすことなく、
優しく…今の世界の話と
王家の話、そして神殿の話をしてくれた。


現在、この世界は女神ちゃんが
言っていた通り、破滅に向かっている。

でも、それを知っているのは
一握りの王家の人たちと
一部の神殿の人たちだけ。

あとは、金聖騎士団の皆だけらしい。


しかも、世界が破滅に向かっている、
というのは、神殿でご神託があったからで
誰も詳しいことはわからないようだった。


まぁ、ぶっちゃけ女神ちゃんですら
どうすればいいのか理解してなかったから
曖昧なご神託になったのは仕方ないだろう。


そこで、だ。
王家と神殿の話になる。


王家と神殿は対立はしてないし
共存している。

でも王家は神殿に対して
何の権力もなく、逆に神殿は
王家に対して何かを強要することはできない。

王家は民たちをまとめる者であり
神殿は女神を祀るものなので、
そもそも立ち位置が違うんだそう。

そこで、なんで関係が
上手く言っているかと言うと、
この国の王様や宰相さん、
神殿で偉い枢機卿が仲良しだから。

さらに驚いたことに、
あのママさん騎士のカーティスは
この国の第3王子で
パパ騎士だったヴァレリアンは
王弟の息子。

鬼畜眼鏡ポジションの
スタンリーは宰相の息子で
三人そろって幼馴染らしい。

ついでに、ミニチュアスタンリーと
密かに思っていた真面目なヒヨコの
ケインは、枢機卿の子どもで
教皇の孫だということで、
金聖騎士団はものすごーく特別な
存在らしい。

バーナードとエルヴィンは
普通に貴族だけれど、
長男ではないから騎士団に所属していたところ
聖騎士団にスカウトされたらしい。

かなり特別な存在である
金聖騎士団だからこそ、
私を探しにあの森まで来てくれたのか。

んで。

バーナードはおそらく、と
前置きをして、私を見た。

「王家も神殿も【女神の力の結晶】を
探していて、ユウはその【女神の愛し子】だ。

間違いなく…言い方は悪いが
利用価値がある存在だ」

まぁ、そうだろう。
何も知らない私でも、それは思う。

なんたって、世界の行く末が
私にかかってるもんね。

……しかも、私のエロエロな【愛され度合い】に。


どんな世界だ?
って、もう、笑うしかない。

「そうなると、
ユウを王家で囲うか、神殿で囲うか。
まずここで、揉めているハズだ」


神殿で養ってもらうか、
王家で養ってもらうかってことか。

どっちでもいいけど…
みんなと離れるのは嫌だな。

「そして、もし世界が救われたとして。
今度はユウの存在をどうするかも
重要なことになる」

「私の存在?」

「そうだ。
ユウは…まだ何も考えて
いないかもしれないが。

王家はきっと、王族の誰かと
婚姻させて、王家に縛り付けたいと
思っているだろうし、

神殿は神殿で【女神の愛し子】だからな。
囲って信仰のシンボルにするか、
女神の力を顕現させて見世物…
いや、信者を増やすのに利用するか」

いま、さらっと見世物にするって
言ったよね?

「この国で神殿も王家も関係ないところで
生きていくのは不可能だからな。

ユウが拒んでも、何らかの形で
国も神殿もユウを取り込もうと動くだろう」


私は思わずうつむいた。

そうか。
私は勝手にこの世界を救ったら
みんなと一緒に楽しく生きていけると思ったけど、
そんな簡単にはいかないんだ。

でもみんなと一緒にいれないのなら
この世界に残る意味なんてない。

そんなことを考えてたら
バーナードが優しく私の頭を撫でた。

「そうならないために、
カーティスやスタンリーが先に戻って
ユウの居場所を確保しようとしてるし、

ヴァレリアン団長もそのために
王都に向かったんだ。

心配しなくて大丈夫。

ユウが心配するようなことは
絶対に起こらないよ」

なんて優しく言われて、
私はバーナードにしがみついた。

元の世界では、
あんなに男性が怖かったのに。
誰かに甘えるなんて考えたこともなかったのに。

みんなに甘やかされて
慣れてしまった私は、すっかり
バーナードに甘えてしまう。

でも、この世界の人たち全員に
同じように接することができるかと
いえば、そうでもない。

宿屋で大柄な男の人がいたら
やっぱり怖くなってしまうし、

知らない人に声を掛けられたら…
それが屋台の呼び込みだったとしても
体がビクっと反応してしまう。

つまり…
金聖騎士団のみんなだけが
私にとって特別ってことだ。

私に特別な存在ができるなんて
ビックリだけど。

でも、甘えられるのは…
こうして無条件で優しくしてもらえるのは
正直言って、嬉しい。

私がバーナードの肩に
ぐりぐりとおでこを擦りつけると、
おなじみの行動だったからか
バーナードは優しく受け止めてくれる。

私は甘えて…
膝に乗せてもらったままで
もう少し王都の話を聞くことにした。

そのついでにバーナードの
婚約者さんの話も聞いた。

可愛い物が大好きで
本人も可愛らしい人らしい。

会ってみたい、って言ったら
ぜひ会ってやってくれ、なんて言われて
私はまた嬉しくなって
バーナードの肩をぐりぐりした。

可愛い物同盟とか作れそう。

たのしみだ!





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