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番外編<SIDE勇>
13:お兄さんでは、ダメかも
しおりを挟む僕はずっと真翔さんにしがみついていて。
真翔さんは優しく僕の頭を撫でてくれた。
気持ちいい。
嬉しくて、ウトウトしてくる。
「歩ける?
ここで寝たらダメだよ。
家まで送るから……ね?」
って言われて、僕は真翔さんと
手を繋いで、悠子ちゃんの家に向かった。
今まで、何度も送ってもらったけど
いつもは家の近くで別れていた。
だって、悠子ちゃんの家だから、
真翔さんに教えたらダメだって思ってたから。
でもこの時の僕は何も考えられなくなっていて。
悠子ちゃんの家まで真翔さんにを連れてきてしまった。
しかも、指が上手く動かなくて、
真翔さんにカバンから鍵を出してもらって
家の鍵まで開けてもらった。
悠子ちゃんの部屋は簡素で、
何もないから、片付けなんか必要なかったけど。
見られて困るものは何もないけど、
朝、僕が飲んで出かけて
しまった飲みかけの紅茶の
茶葉がテーブルに置きっぱなしになっていて
それが恥ずかしかった。
悠子ちゃんの部屋は2部屋あったけど、
1部屋はベットでいっぱいになっていて、
家具とかは置けないような部屋だった。
もう一部屋はキッチンと一緒になっていて
テーブルと、こたつと、小さいテレビ。
テレビの横に細い姿見と、
小さいクローゼットがおいてあるだけだ。
悠子ちゃんは可愛い物が好きなのに、
部屋に可愛いものは、何もない。
でも、テーブルの上には写真立てが
おいてあって、一枚は、施設の皆で撮った写真。
もう1枚は、僕と二人で撮った写真が飾ってあった。
真翔さんは僕をこたつに座らせて、
冷蔵庫から水を出してくれた。
「この写真、前に言ってた施設の…?」
真翔さんが写真を見ながら言った。
「はい。僕の…大切な兄弟たちです」
「…彼は?」
真翔さんは悠子ちゃんの隣に
写っている僕を指さした。
悠子ちゃんは満面の笑みで写っている。
僕は緊張して…でも、悠子ちゃんと
一緒に写真を撮れるのが嬉しくて、
ちょっと固い笑顔になっていた。
「僕…」
とは言えない…か。
「僕が生きていく理由を作ってくれた…人…」
僕は悠子ちゃんのことを思い出した。
「僕が…弱虫で、何もできなくて。
他の人が…大人が怖くて、男の人が怖くて。
外にも出れなくて…泣いてばかりの時、
ずっとそばにいてくれた…大切な、人です」
そう。
僕は泣いてばかりだった。
でも悠子ちゃんはそんな僕のそばに
ずっといてくれた。
「僕をずっと守ってくれて、
大丈夫って。
私が絶対に守ってあげるからって、
いつだって僕の前に立って
両手を広げて守ってくれた」
本当は、悠子ちゃんだって
怖いって思ってたことを僕は知っている。
「甘えたらダメって思ってたのに、
でも僕は、甘えてばかりで…
一人で何もできなくて。
もう…二度と会えないかもしれないのに。
僕は何も言えなくて。
ありがとうって、もっと言いたかったのに。
ほんとは、ほんとは…
僕のために…僕を守るために…
行ってしまったのに。
なんで…僕は…」
自分が不甲斐なくて。
泣くことしかできない自分が、
僕は嫌いだ。
「こんな…弱い、甘えた僕は
……大っ嫌いだ」
ぐいっと肩を掴まれた。
え?っと顔を上げると、
真翔さんの唇が重なっている。
「俺は…好きだよ」
真翔さんの真剣な顔が見えた。
「俺は…悠子ちゃんの過去を知らないし、
悠子ちゃんの傷を癒すことは
できないかもしれない。
もう会えないという…この子の
代わりには、俺はなれない。
でも。
俺は、君が好きだ。
君が自分のことを嫌いだとしても、
俺は…好きだ」
「好…き?」
僕のことを?
頭がくらくらしてるから、
変な言葉が聞こえるのかな?
真翔さんが、僕の隣に座った。
一人用のこたつだから、
物凄く狭くて、体がぴったりと
引っ付いてしまう。
肩を抱き寄せられて、
「俺の気持ちは…迷惑?」って聞かれた。
迷惑じゃないけど。
でも、距離が近くて、考えられない。
今、どういう状況なの?
「さっき、なんで悠子ちゃんの連絡先を
聞かないんだって、言われた。
自分の都合の良いときにだけ
悠子ちゃんに会いに来て、
好き勝手にふるまって、
悠子ちゃんを傷付けるなら、
許さないからな、って怒られた」
店長さん…だろうか。
「俺は…ほんとは、
連絡先だって聞きたかったんだ。
でも、君に嫌だって
目の前で言われるのが怖くて、
聞けなかった。
母がいるから、連絡先なんか
教えてもらわなくてもいいって思ってた。
でも、そうじゃなくて…
ほんとは、君の連絡先を知りたくて。
いつだって、声が聞きたくて、
会いたくて、でも迷惑って言われたくなくて」
真翔さんは、焦ったような声も、
優しい、心地良い声だった。
「悠子ちゃんの…連絡先、
俺に教えて?」
って言われて。
悠子ちゃんのだから、ダメって
言わなくっちゃって思って。
でも。
口から出たのは、
全然違う言葉だった。
「ユウって、呼んで…?」
「ユウ?」
「そう…僕の…名前…」
「ユウ?」
ほら、やっぱり、心地良い。
呼ばれたら、嬉しくなる。
こころがあったかくなって、
ほかほかして。
僕は、真翔さんにしがみついた。
「うーっ」
やっぱり泣きたくなって。
真翔さんは、また優しく、
泣いていいよ、って抱きしめてくれて。
「ダイスキです」
って僕は真翔さんの胸の中で呟いた。
でも僕が覚えているのはそれだけで。
多分、僕はそのまま…
真翔さんの胸で眠ってしまった。
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