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愛とエロはゆっくりはぐくみましょう

47:どうでもいいから、抱きつぶしたい<ヴァレリアンSIDE>

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俺はずっと苛立っていた。

何に?と聞かれたら、明確にはわからない。

だた、あの教会で、ユウとあのちっこい妖精が出会って
話をしている姿を見て、俺はものすごくイライラした。

たぶん、金聖騎士団全員が同じ気持ちだっただろう。

ちっこい妖精とユウが俺たちにはわからないことを話して、
仲良くキスをして、大好きだとか言って。

俺たちだって…いや、俺だって、あんな妖精より
ユウのことを大切に思っているし、
守ってやりたいと思ってる。

こんなの、子どもの癇癪のようだと思うが、
あの妖精に見せたユウの顔が…。

幸せそうな、気を許した…すべてをわかりあった顔で
微笑む姿を見せられて、同じように笑えるはずがない。

それでもあの妖精の前では我慢をして、
わざわざ、誰も邪魔されない……たとえ、密偵などがいても
すぐわかるような場所で、ユウに話をさせた。

ユウのことは、なんでも知りたかった。

俺のことを信用していると、
俺のそばは安心できるから、何でも話せると
そう思いたくて。

ユウは話をしてくれた。

俺の膝の上に乗り、ユウの過去を。

ユウの過去を知り、俺はユウを抱きしめたくなった。
俺の胸の中にいれば、すべてのことから
守ってやると思った。

ユウが、俺たちを守りたい、と言った時、
そんなことしなくていいと思った。

俺が、必ずお前を守るから、と。

ユウは元の世界に戻るつもりはないという。
女神次第だが、帰る場所は俺たちの場所だと言ってくれた。

それで俺は安心した。

ユウは、どこにもいかない、と。

だが、あの時俺がつい、軽い気持ちで聞いた言葉。

「もう…俺たちに隠してること、無いか?」

その言葉に、ユウは。

「無い…ことはない、けど、まだ、言えない」
と答えた。

まだ、ユウの全ての信頼を得ることができていないのかと、
俺は落胆した…いや。

ユウに裏切られたような気がした。

確かに一緒にいた時間は短いが、
俺たちは一緒に死線を超え、生き残った仲間だ。

そして俺は、ユウに惚れきっている。

ユウを独り占めにできないのであれば、
カーティスと、スタンリーと一緒に、と
そう自分を納得させるぐらいに。

そんなユウは、まだ俺に言えないことがあるらしい。

「言えるようになったら、教えてくれ」
なんて、平然と答えたけれど。

俺の心は、苦しいばかりだった。


あの野営の翌朝、俺たちは村に行き、
馬車と荷物を引き上げた。

そしてまだ眠そうなユウを馬車に入れる。

慣れない野営で疲れているのか、
ユウは馬車の中のクッションに埋もれると、
すぐに寝息を立て始めた。

それを見てから、俺は全員を集めた。

「これから2班に分かれる」

俺の言葉に、全員が緊張したような顔をする。

俺がイライラしているのは気が付いているらしく、
誰も何も言わない。

カーティスもだ。

「俺とバーナードはこのまま残る。
馬車でユウを連れて王都に行く。

残りは、先に王都に向かって
昨日聞いたことを王に報告してくれ」

本当は風魔法を使えるエルヴィン一騎で
王都に向かった方が早い。

だが、数日前に突然現れた魔獣のこともある。

エルヴィン一人では心もとない。

あれほどの魔獣を相手に戦って
勝つのは難しいだろう。

だが、風魔法が得意なエルヴィン、
氷、雷魔法も使えるスタンリー。
俺と同じ火や炎を得意とするケイン、
そして。
土魔法が得意なカーティスがいれば、
一応は全属性が揃う。

なんとか協力すれば、逃げ切ることぐらいはできるだろう。

それに。
王の息子であるカーティスと、宰相の息子であるバーナードなら
最善の方法で、ユウのことを王に伝えることができるはずだ。

「分隊の指揮はカーティスに任せる」

「……ユウの護衛が手薄では?」
カーティスが問うが、魔獣が相手となれば、
誰も勝てないだろうが、ユウがいれば別だ。

それに人間の相手では、俺やバーナードに
勝てる相手はそうそうない。

それにもし、魔獣が出たとして。
あれほどの魔獣ではどうなるかわからないが、
少なくとも通常遭遇するであろうと思われる魔獣程度なら
バーナードが盾で最初の一撃だけでも受けれくれれば、
あとはなんとかできる。

俺がそういうと、それ以上の反対は出なかった。

「いいのか? 全部話しても」
スタンリーが聞いた。

「あぁ、ユウの過去…までは、言わなくても構わない。
だが、俺たちで処理するには、かなり話が大きくなりすぎている」

俺たちは自分でなんでもできるが、
権力や、国規模の話になると、途端にできることが少なくなる。

「使えるものは、使った方がいい」

親父だろうが国王だろうが。
ユウを守るために、できることはなんでもする。

後から教えるより、先に情報を伝え、
俺たち側に取り込んだ方が好印象だし、もめずに済むだろう。

「頑張って取り込んでくれ」
俺はカーティスを見た。

国王がまず、こちら側にならなければ、
ユウを守るために、この国を出る必要がある。

「わかった」
カーティスは頷いた。

いつもなら、ユウのそばにいたいとか、
独占欲を丸出しにするのに、俺のいら立ちのせいか
ユウのためか、カーティスはそれ以上は何も言わない。

「ユウのことは任せた」

「あぁ」

その返事を合図に、全員がばらけた。

荷物を二手に分け、馬の調子を見る。

ユウは眠ったままだったので
全員、ユウの寝顔を見て別れを告げた。

次会うのは、王都…王宮だ。

これから俺たちは馬車で王都へ向かうので、
俺とバーナードの馬を馬車につないだ。

これなら何かあったときは馬車を捨てて、
馬で駆けることができる。


「じゃあ、王都は任せた」

俺の言葉に、皆が敬礼する。

俺やバーナードも敬礼で返すと、カーティスたちは出発した。

「なんで、俺だったんです?」

あいつらの姿が見えなくなってから
バーナードが聞いた。

「理由は言っただろ?」

「……俺でなくてもいいと思えましたが?」

確かにそうだった。

ある程度の魔獣なら、別にあいつらなら
なんとななるだろうし、逆になんとかならない魔獣ーー

あの巨大な魔獣のようなのと遭遇したら、
おそらく誰ひとり助からない。

結局、属性とかは、関係ない状態だった。

ただ、俺がユウを傍に置いておきたくて。
だが一人でユウを守るには、何かあったときに
後悔すると思ったから、あと一人をバーナードにしたのだ。


ユウを一緒に愛し、守ると誓ったカーティスでも、
スタンリーでもなく、バーナードに。


「ユウはお前になついてたからな」

恋人とか、そういうのではなく、
純粋に兄弟愛だとは思うが、ユウはとにかく
バーナードになついていた。

バーナードも、面倒見が良いので
ユウがなついてくると、素直にかまってやっている。

うらやましい関係だと思うが、
でも、自分がそこにはいりたいとは思わない。

俺はユウと兄弟になりたいわけでは無いのだから。

「ユウは…たぶん、傷ついている。
俺では、ユウの傷は埋められない」

「俺ならできる…と?」

「俺やカーティス、スタンリーは、
ユウのことになると、冷静になれなくなることがある。

ユウのためにならないとわかっていても、
感情に流されるかもしれないからな。

カーティスが良い例だ」

苦笑してみると、バーナードは
なるほど、と素直にうなずいた。


ユウは可愛いが、バーナードには婚約者がいるし、
ユウを目でみないことも安心できた。

バーナードを選んだにはそういう理由もあるのだが、
それは隠しておく。


「それで、俺たちはどうします?」

「先に進もう。
あいつらに追いつくのは無理だが、
のんびり旅は、すべてが解決してからだな」

バーナードは頷き、御者の場所へと移動する。

俺はその隣に座るか一瞬だけ悩み、
馬車へと入った。

ユウを起こさないように、そっと椅子に座る。

馬車は旅用の小さなものだったが、
ユウが床で眠れるように、床には厚手の布を敷いて
クッションをいくつも置いてある。

ユウはそのクッションに埋もれて
身体を丸めて、寝息を立てていた。

「出発します」
バーナードの声に、俺も返事をする。


馬車はゆっくりと動き出した。

それでも、ユウは目を覚まさない。

俺は感情を持て余し、ただひたすらユウの寝顔を見つめていた。








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