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愛とエロはゆっくりはぐくみましょう
45:「いらない子」は愛を知る
しおりを挟む「へ?」
勇くんの話は…衝撃だった。
なんでも勇くんは、
職場の工場でよくお菓子をくれるおばちゃんの息子と
お見合いっぽいことをしたらしい。
おばちゃんは「新しい友達ができると思って気軽に会ってみて」
と言ったらしいが、もちろん、そんなの見合いに来させる口実だ。
でも同性の友達がいなかった勇くんは、
物凄く嬉しくなったらしい。
実際に会った息子さんは、とてもいい人で、
優しいお兄さんのようだったそう。
姉ポジションの私が居なくなった寂しさを
すっぽり埋めてくれたのだとか。
勇くんはずっと、
擬似兄弟というか、頼れる親友ができた、とか
そんなつもりですっかり甘えていたけれど、
その擬似兄に、告白されてキスをされ、
大いに焦ったらしい。
いやー、そりゃそうだろ。
いやいや、勇くんに対して「そうだろう」ではなく
その息子さんに対してだ。
勇くんにしてみれば、体は私…女性だけれど
勇くん本人の中では男同士の友情を
はぐくんでいたつもりだったハズだ。
だが、その息子さんにとっては、
勇くんは異性の私。
勇くんの優しさに触れ、
恋愛感情に発展してもおかしくないし、
きっと、勇くんの無自覚な可愛い攻撃に
恋に落とされてしまったのだろう。
うーむ。
私の外見でも、息子さんに恋させてしまうとは。
勇くんの魅力、おそるべし。
しかし、勇くんも私と同じで他人への警戒心は強い。
この短期間で、よくその息子さんは勇くんの警戒を解いたな。
そんなに恋愛に熟知している色男だったら、
騙されてるんじゃないかと心配になって勇くんに言ったら
そんなことない、って首を横に振られた。
「だって、ずっごく優しいし、
いつだって僕のこと守ってくれるし、
僕ね、悠子ちゃんの姿だから、『私』って言わないとダメなのに、
つい、僕って言っちゃって。
でも、そのままでいいよ、って。
僕が僕らしく振舞ったらいいよって言ってくれたんだ。
施設のこととか……あの、男のこと、とか、
沢山話しちゃって、泣いちゃったけど、頑張ったねって…」
あの男とは、きっと勇くんを性的虐待しようとした人のことだ。
そんなことまで、話をするぐらい、勇くんはその人のことを信じてるんだ。
そしてきっと、今までの自分を知ってほしいと思うぐらい、
息子さんのことが、好きなんだ。
「ごめんね、悠子ちゃん。
体は悠子ちゃんのものなのに。
勝手に恋して、勝手に悠子ちゃんの人生を動かして…
僕はもう死んでるのに。
何もできないのに。
悠子ちゃんの代わりに、
僕は悠子ちゃんの居場所を守りたかっただけなのに」
私の場所。
その言葉に、私は違和感を感じた。
だって、私の居場所はーーー。
「悠子ちゃんは、僕が嫌がったから
この世界に来て、僕の代わりの頑張ってくれてるのに。
僕だけ、恋して、幸せになろうとしてる。
でもその幸せも、悠子ちゃんの体があったからだし、
僕はもう、死んでいて。
僕は……僕は、もっと違う生き方をすればよかった…
過去なんて、関係なかったのに。
閉じこもって、怖がって、死んでからわかるなんて
僕は、結局バカで、何もできない…役立たずだ」
涙をこぼして言う勇くんの言葉に、
私も打ちのめされていた。
過去ばかりを気にして前に進めなかったのは私も同じだ。
でも、私も、勇くんも違う。
愛されることを知って、自分の居場所を見つけようとしている。
「勇くん」
私は勇くんの頬をつついた。
「私は…勇くんがいてくれてよかったよ」
勇くんが顔を上げた。
「勇くんがいてくれたから、私は頑張れた。
勇くんを守ろう!って頑張れたから、生きてこれたの。
勇くんは私に甘えてばかりだと思ってたかもしれないけど、
私が勇くんに頼ってほしくて。
『勇くんに必要とされている自分』が欲しくて、
それで頑張ってたんだ」
言ってて悲しくなる。でも、本当のことだ。
誰にも必要とされない「いらない子」だった私は
勇くんに必要とされることで救われていた。
きっと勇くんもそんな私に引きずられて、
私に甘えて、「悠子ちゃんがいないと生きていけない」
になってしまったんだと思う。
でも。
もう、そんな関係は終わりだ。
だって、私たちは愛する人を見つけたのだから。
そして。
私たちが幸せになる方法は…
すでに死んでしまった勇くんが幸せになる方法は。
「勇くん。最初に女神ちゃんが言ってたこと、覚えてる?」
「女神さん?」
「うん、最初にね、私がこの世界に来るときの約束で、
この世界の崩壊を止めることができたら、
私は元の世界に帰ることもできるし、
そのまま、この世界で生きてもいい、っていってたでしょ?」
だから、できるんじゃないか、って思う。
「私がこのままこの世界で生きたら、
勇くんは私の身体で…元の世界で、
私の寿命が尽きるまでは生きれるんじゃないかな」
「そ…んな…」
勇くんが、ショックを受けたような顔をした。
「ダメだよ、僕、悠子ちゃんに迷惑ばっかりかけて、
そのうえ、僕のために、元の世界に帰れなくなくなるなんて…」
「冷静に考えたらそうなんだけどね」
私は笑った。
「私の帰る場所って、元の世界じゃなくなるかも」
私の言葉に、勇くんは目を見開いた。
「それって……。
あ、この世界って、男の人と恋愛する世界って女神さんが言ってた…けど」
「恋愛ばかりじゃなくて、戦闘も多いけどね」
私は肩をすくめる。
「死にそうな目にあったし、めちゃめちゃ怖い思いもしたけど、
仲間ができたの。一緒に戦ってくれて、守ってくれる大切な仲間よ」
「そう…なんだ」
勇くんは、泣いてたけど、笑ってくれた。
「悠子ちゃんも、この世界で居場所を見つけたんだ」
「まだ、どうなるかわからないけどね。
世界の崩壊を止める、なんて途方もないミッションだし、
手がかりはないし、女神ちゃんのフォローは期待できないし。
まだ、本当にミッションを達成できるかどうかわからない。
元の世界に戻るどころか、ここで死んじゃうかもしれない。
もし無事に達成できても、私がこの世界に残ることになっても
勇くんは、私の身体で生きるのではなく、輪廻の輪に
入らないとだめかもしれない。
それでも。
私はここで、私にできることを頑張るから、
勇くんは、元の世界で朗報を待っててくれる?
どんな未来になるかわからない。
だから、今は勇くんのやりたいように、
生きたいように生きてみて」
今度こそ。
今、いろんなことが見えてきた勇くんに、
沢山の楽しい、嬉しい、幸せ、を知ってほしい。
「ありがとう」
勇くんは私の頬にキスをした。
「私の身体は好きに使っていいからね」
私も勇くんの体を……それはそれは好き勝手に使ってるし。
「じゃあ、僕…帰るね。
世界がまた歪むから、あまり長い時間はいられないって言われたし」
「帰れるの?」
「うん、たぶん、あの花が元の世界と繋がってると思う」
「そう」
私たちは、沢山しゃべったので乾いた喉を
お茶で潤してから立ち上がった。
勇くんは、スプーンで少し飲んだだけだけど。
私たちが部屋の外にいると、全員が待っていて、
何か言いたげにしていた。
けど、私はこの子が帰るので送って行きます、と告げて
【聖樹】の場所へと向かう。
みんながぞろぞろついてきたけど、気にしない。
「悠子ちゃん、あのね、この白い花は多分、
僕とつながってると思うんだ」
肩に乗った勇くんが耳元で囁く。
「女神さんが言ってたみたいに、あ、愛…を感じて、
誰かを受け入れたり、受け止めて貰ったり。
信頼したり、好きになったり、そういうの気持ちが
大きくなったら、この花が咲くんだと思う」
僕と花は繋がってる感じがするから、と勇くんは言った。
「だからね、たくさん花が咲いたら、
僕がどんどん元気になって、楽しくなって
沢山愛されてるって思ってて?
僕も悠子ちゃんがたくさん愛されて、この世界を
白い花でいっぱいにしするの、楽しみににしてるよ。
僕もこの世界のために、花を咲かせるのを手伝うから」
勇くんは私の肩から、羽をパタパタさせて
私の目の前に来た。
恥ずかしそうに、でも目をキラキラさせて
未来を見ている勇くんは、私の知っている勇くんではない。
私では、こんな勇くんを引き出すことができなかった。
見たことが無い私の(身体の)恋人…である息子さんに感謝だ。
私たちは白い花の前まで来た。
そして勇くんはパタパタと飛びながら、
後ろからついてきた皆にペコリと頭を下げる。
「悠子ちゃんのこと、お願いします。
僕はいつも守られてばっかりで、
いつも助けてもらってばかりで、
何もできなかったけど。
僕は悠子ちゃんも、幸せになって欲しいんです。
悠子ちゃんは、いつも自分のことより
周りの人を大切にするから、頑張り屋だけど
傷ついてるんです。
だから、守ってあげてください」
お願いします。
と、勇くんは頭を下げる。
思わず、涙が出た。
頑張り屋なのと、傷つくことは違う。
勇くんは、わかってくれてたんだ。
頑張って動いて、傷ついても、納得はしている。
でも、痛いものは痛い。
当たり前のことだけど、でも私は嫌われたくて、
面倒だと思われたくなくて、痛いって言えなかった。
我慢するしかなくて…でも、勇くんは気づいてくれてたんだ。
だから、一緒にいてくれたのかな?
だから、甘えてくれてたんだろうか。
私が勇くんの独り立ちを邪魔していたのに。
「勇くん…大好きー」
わーっと私は泣き崩れた。
勇くんは慌てたように、
私の前まで飛んできて、
「僕も、大好き」
と言って、キスをくれた。
……唇に。
小さな妖精さんのキスは、触れたかどうかも
わからないぐらいだったけけど。
驚いて、思わず泣き止んだ。
「僕も、大好きだよ。
ずっと僕の世界は悠子ちゃんだけだった。
悠子ちゃんしかいらなくて、
悠子ちゃんがいない世界なんていらないって思った。
悠子ちゃんがいないなら、死んでもいいって思った。
……実際、死んじゃったけど」
って、そこ、笑って言うことじゃないから。
へへっと勇くんは笑った。
「でも、悠子ちゃんがいない世界をもう一度、
悠子ちゃんの体の中から見て、生きてみて、
わかったんだ。
沢山、いろんなこと。
だからね、僕は悠子ちゃんが大好きだけど、
悠子ちゃんがいない世界でも生きていけるんだ」
「……私も。
私も、勇くんがいなかったら、きっと生きていけなかったし、
勇くんが私を求めてくれたから、頑張ってこれたんだと思う。
でも、私も、勇くんから、卒業する。
勇くんがいない世界で…この世界で、頑張ってみる。
今度は勇くんのために、だけじゃなくて、
大切な仲間のために」
私は振り返って皆を見た。
私は勇くんのためにこの世界に来たけれど、
今は、この人たちのために、私は世界を救いたいと思っている。
「うん。頑張って。
でも、もし元の世界に戻りたくなったら、
いつでも言って?
女神さんにお願いして、ちゃんと交代するから」
「……ありがとう」
あんな怖い魔物と出会ったら、勇くんなんて気絶しちゃうかも。
なんて思ったけど、言わないでおく。
「じゃあね。勇くん」
「うん。じゃあね。また…会えるもんね?」
勇くんに言われて、あいまいに笑う。
「会えなくても、離れてても、ずっと、ずっと大好きだからね」
大切な弟で、大切な家族。
「うん、僕も大好き!」
勇くんはそういって、パタパタと花に近づいた。
そして花の中に吸い込まれるように姿が消え…
その傍に、花のつぼみがいくつも生まれた。
「おぉっ!」
って神父さんの驚く声がして、
私は勇くんが、愛されてるんだと感じることができて、
また、泣いてしまった。
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