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愛とエロはゆっくりはぐくみましょう
41:大きいクマさんは肉食にも草食にもなれる<バーナードSIDE【5】>
しおりを挟むユウはずっと眠っていた。
何も食べず、何も飲まず、眠ったまま
衰弱してしまうのではないかと全員で心配している。
ヴァレリアンに話をして
気持ちの整理ができたと思っていたが、
また、俺のせいだ、という思いが沸き起こった。
俺はベットから下りて、ユウを見た。
今は真夜中で、
部屋の明かりも付けていないので真っ暗だ。
だが、カーテンを開けると、月の光が窓から差し込み、
白いユウの肌が光っているように見える。
綺麗だと思う。
ユウは可愛いけど、綺麗だ。
そして、優しい。
俺はユウが眠るベットの傍に膝を折り、
その手を取った。
騎士の誓いは、国王に捧げるもの。
もちろん、俺の騎士の誓いも、
王国を守るために王に捧げている。
だが。
俺の命は、ユウに捧げる。
俺は誓う。
俺の命を救ってくれたユウに、
俺のすべてを捧げる。
王とユウを天秤にかけるなら、
俺はユウを選ぶだろう。
俺は婚約者を…あの可愛い幼馴染を愛しているが、
それでも、俺は命を懸けてユウを守る。
きっと、あの優しい幼馴染は
「騎士って仕方ないわねぇ」と言ってくれるに違いない。
だから。
ユウ、目を覚ましてくれ。
俺は、女神に祈った。
ユウが助けてくれた命を無駄にはしない。
だから、俺の命のかわりに、
ユウを目覚めさせてくれなんて、言わない。
でも、ユウを助けてほしい。
これからは俺がユウを絶対に守るから。
ユウがどんな人生を歩もうと、
俺が必ず助けるから。
ユウがあの時俺たちに言ってくれたように。
ユウがこれからの人生で、どんな選択をしようと、
俺はその選択を、決意を尊重し、それに従う。
必ず、ユウのために生きるから、と。
ユウの手を両手で包み、
ありったけの想いを込めて、
女神に祈った。
教会でもこんなに真剣に祈ったことは無い。
女神が本当にいるのかさえ、じつは疑っていた。
だから、自分でも驚いた。
こんなに俺は信心深かったのかと。
俺はユウの手の甲に唇を当てた。
……俺の命を、忠誠を、ユウ、君に。
ふと、触れているユウの手が光った。
そして光は淡く、大きくなり、俺の体を包み込んだ。
『大丈夫じゃ』
耳元で声がした。
ユウの声だったような気もするし、また別の人物。
…ユウより少し高い、幼い声だったような気もする。
「ユウ?」
俺が声を出した途端、光は消え、また暗い部屋に戻る。
俺の声は、女神に届いたのだろうか。
「大丈夫、か」
女神が言うなら、大丈夫なのだろう。
そろそろユウも、目覚めるのかもしれない。
そう思った翌日、ユウは唐突に目を覚ました。
ベットで自分のシーツを変えていたら、
後ろで何かが動く気配がしたのだ。
振り向くと、ユウが手を動かしていた。
「起きた…のか?」
これを掛けると、起き上がろうとしたので、
慌ててそれを手で制した。
ユウが、目を覚ました。
それだけで、安堵の息を吐いてしまう。
俺はユウと視線が合うように跪くと、
シーツから出ていたユウの手を取るった。
その手はちゃんとあたたかくて、
ユウが生きていると実感できた。
「……良かった」
ユウが生きていてくれたことに、
目を覚ましてくれたことに。
ただ感謝しかなくて、涙が出そうになった。
必死で涙をこらえたが、
手の震えは止まらなかった。
ダメだ。
涙が、どうしても落ちてしまう。
「私は大丈夫です」
ユウが、そう言った。
昨夜聞いた、あの声に似ていた。
ユウは起き上がると、ベットの淵に座って、
俺を見下ろした。
俺は背が高いので、見下ろされる感覚は不思議だ。
涙が止まり、俺は自然とユウを見上げる。
そんな俺を、ユウは両手を大きく広げたかと思うと
優しく抱きしめた。
驚いた。
「バーナード、あなたが無事でよかった」
そして、噛みしめるように、ユウは耳元で囁く。
優しい声に、俺は体を硬くした。
ユウが生きていて嬉しい。
ユウが目を覚ましてくれて嬉しい。
そして。
俺が生きていることを、ユウが喜んでくれて嬉しい。
嬉しさをユウの腕の中で感じていると、
ドアが開く気配がして、
エルヴィンが飛び込んできた。
「あー、なにしてんだよ、ずるい」
子どもか!と思う。
ユウから引き離されて、エルヴィンが「俺も、俺も」と
催促し、ユウに抱きしめてもらう。
嬉しそうなエルヴィンの様子が気に入らなくて、
俺はエルヴィンをユウから引き離した。
「君は私の命の恩人だ。
なんてお礼を言ったらいいか…」
とユウに言うと、
「お礼だなんて、いいですよ。
私だっていつも、守ってもらってますし」
などと、可愛く言う。
守るのは聖騎士としての務めなのだが、
それを言うのも違う気もして、
何も言えなくなった。
そこにケイン、ヴァレリアン、スタンリー、
カーティスもやってきて、全員、勢ぞろいした。
するとユウはベットから下り、
俺たちに向かって向かって頭を下げた。
「守ってくれて、ありがとうございました」
何を言うのだろう、この子は。
命を懸けて護ったのは、君だろうに。
顔を上げたユウの顔は、涙でにじんでいた。
でも、潤んだ瞳で、笑う。
「みんな、大好きです。
生きててくれて、ありがとう」
もうダメだ。
エルヴィンが抱きついて、号泣してたけど
俺も、せっかく止まっていた涙が零れ落ちる。
全員、ユウに抱きついた。
よくわからない状態になったけど、
全員、感謝して、
生きててありがとうを言って。
生きて今、ユウと出会い、
こうして抱き合えることを
心の底から喜んだ。
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