【R18】完結・女なのにBL世界?!「いらない子」が溺愛に堕ちる!

たたら

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女ですけどBL世界に転生してもいいんですか?

11:女神の愛し子と出会い【4】<王子SIDE>

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<彼>は聖獣にしがみつき、大声で泣いていた。


聞いているだけで胸が苦しくなるような
心臓が切り裂かれるような声だった。


しばらく泣き続けると、今度は年相応の
子どものような泣き方に変わった。

甘えるような、すがるような…
途端に、保護欲のようなものが沸き起こる。


目の前の<彼>が
「女神の愛し子」でなくとも、守ってやりたい。


そんな想いが沸き起こる。


聖獣は白い大きな翼で<彼>を包み込んでいたが、
やがて<彼>は泣き疲れてしまったのだろう。


聖獣の翼の中で眠ってしまったようだった。


聖獣は<彼>の体を翼で支えたまま、
体を地面に座った。


<彼>の体もまた、地面に着く。


大きな翼で隠れていた<彼>が姿を現す。


『決して、傷つけてはならん』


よいな、と聖獣の声が頭に聞こえたかと思うと、
聖獣は<彼>を置いて大きく舞い上がる。


私たちは聖獣が高く空へと飛び立つのを見送り、
ようやく体が動くのを感じた。


「おい、大丈夫か?」


聖獣が放っていた威嚇の呪縛から
一番最初に解けたヴァレリアンが<彼>に駆け寄っていく。


一番に近づくつもりが遅れを取ってしまった。
思わず、舌打ちしたくなる。


ヴァレリアンは自分のマントで<彼>を包むと
抱きかかえた。


「とにかく、結界の外に出るぞ」


その声に全員がうなずく。


「悪いが、エルヴィン
お前は先の戻って、屋敷の浴槽に湯を入れておいてくれ」


ヴァレリアンがエルヴィンを見る。
この中で一番足が速いのがエルヴィンだ。


「体がかなり冷えている。
聖獣は、この愛し子が俺たちと同じ
人間の体をしていると言っていた。

……かなりの高熱だ。
まずい状態だぞ」


私たちは慌てた。


そこから私たちはヴァレリアンの指示によって
それぞれ分かれて行動した。


エルヴィンは先に屋敷へ戻らせ、
<彼>を受け入れる準備をする。

ケインとバーナードはこのまま町まで行き、
<彼>が食べれそうなものや、衣類など、
必要なものを買ってくるよう、指示を出された。


スタンリーと私は、ヴァレリアンと共に
屋敷へと向かうが、それは<彼>の護衛としてだ。


ヴァレリアンは彼を抱き上げているので
早くは走れないし、万が一の時、
剣を持って戦うことができない。


私はヴァレリアンの前を。
スタンリーが後ろを歩き、
聖域を出てからも魔獣や魔物に警戒しつつ、
屋敷へと向かった。











屋敷に着くと、エルヴィンはすでに湯殿に
熱い湯をはっていてくれた。


私はヴァレリアンから<彼>を預かり、
湯殿へと連れていく。


スタンリーが手を貸すと言ってくれたが
丁重に断った。


これからの方針を、
ヴァレリアンと考えてほしかったし、
なにより…<彼>を独り占めしたいという
思いも少なからずあった。


スタンリーに「ヴァレリアンを頼む」というと、
さすがに<彼>の存在をどうするか、
スタンリーも悩むところだったのだろう。


わかった、と短く言うと、
この屋敷の執務室と化した
リビングへと去っていく。


私は<彼>から濡れた衣類をはぎ取った。


<彼>の体は冷たく、白い肌は青ざめている。


私は自分の服も脱いで<彼>を抱き上げ、
一緒に湯殿に漬かった。


<彼>の体だけを湯に入れても
良かったのかもしれないが、
とにかく今は<彼>の体を
温めることしか頭になかった。


そのためには、一緒に湯に浸かり、
彼の体すべてを温める必要があると思ったのだ。


私は<彼>の体が温まるまで
ずっと肌を密着させ、湯に浸かった。


彼を膝に乗せ、
体全体を湯に浸からせるような態勢だ。


<彼>からは、なぜか良い匂いがする。


白い肌はやわらかく、まだ幼い少年なのだと
なんとなく思った。


最初に会った時に感じた神々しさは
瞳を閉じているからか感じられず、
今は……正直、感じられないと思っていた淫靡さに
めまいがするほどだ。


もし、この肌に…


ついっと指先が胸元へと伸びる。
無防備な肩口に自然と唇を寄せてしまう。


ぴくん、と<彼>の体が揺れた。


はっと私は顔を上げる。


「愛し子に私はなんてことを…」


下半身に熱がこもるのを感じ、私は慌てて
<彼>を抱き上げ、湯殿を後にした。


大きな布で<彼>の体を拭き、
シーツでくるんでベットに寝かせる。

しばらくしたら、
バーナードたちが彼の寝着も買って帰ってくるだろう。


私は魔力で部屋を暖め、
彼が目を覚ますのをひたすら待ち続けた。












彼が目を開けたのは、
この屋敷に連れてきてから5日目の朝だった。


彼の世話は、初日からずっと私がしている。


本来、ただの王子であれば、
たとえ役立たずの3番目とはいえ
誰かの世話などすることはなかっただろう。

そう考えると、聖騎士になれて本当に良かったと思う。

聖騎士団は、
じぶんの力を必要としてくれる場所でもあり、
その力を発揮し、誰かを助けることもできる場所だ。


ただ甘やかされて育つのではなく、
こうして国のために動くことができるのは
本当に嬉しいし、そのおかげで<彼>とも出会えた。


慣れない屋敷での訓練は
きついこともあるが<彼>の笑顔を見るだけで
私は今の幸せな環境に感謝してしまう。


<彼>が目を覚ましてから一番にわかったのは、
やはり<彼>と私たちは言葉が通じていないということだ。


互いに何を言っているのか理解できない。


それでも、手ぶり身振りで<彼>に
薬を飲んでもらうことができた。


互いの名前も知らないが、
<彼>の食事や着替え、
湯殿の介助をしていくうちに、
私と彼との間には『信頼』のようなものが
芽生えてきたような気もする。


<彼>は冷たい泉に入っていたからだろう。
ここに来てすぐに高熱を出したが、
幸い、私たちは聖騎士だ。


一日3回、交代で<彼>に聖魔法を掛け、
彼の回復を促すことができた。


5日も私たちの魔力を体内に取り込んだのだから、
<彼>は自覚は無いかもしれないが、
それだけでも「安心・信頼」は他人よりは
持ってもらいやすくなっている……と思っている。


そして、それ以外の時間も
かなり多く<彼>と過ごしている私は
他の騎士たちよりも<彼>の信頼度は高いハズで。


言葉など通じなくてもきっともっと仲良くなれるはず…。



「おい、カーティス」


ヴァレリアンに大丈夫か、と声をかけられ、
私は我に返った。


「少しぼーっとしていたようだ」


すまない、と言うと、ヴァレリアンは首を振る。


「愛し子の面倒をずっと見てくれているからな。
少し休んだ方が良いんじゃないか?」


「大丈夫ですよ」


疲れた、なんて一言でも漏らしてしまったら
<彼>と過ごす時間が減ってします。


「それより、あなたの父上は何と言ってるんです?」


<彼>のことは、まだ機密のまま。
王宮に報告すらしていなかった。


<彼>が女神の力の結晶であることは
まちがいないだろう。


世界の崩壊を食い止める鍵が<彼>だ。


だからといって、すぐに「救世主が現れた」
などいえるはずもない。


<彼>は女神の力の結晶で、
女神の愛し子で、聖獣の愛し子で、
世界を救う救世主でもある。


そして、あの美貌だ。


考えずに<彼>の存在を公表することは
多くのものが彼を欲し、
国が荒れることは予想に難くない。


国王より、女神の愛し子の方が権力もある。
なにせ、女神の力を持っているのだ。


世界を滅ぼすぐらい、簡単にできるだろう。


権力者たちの腹黒い攻防に<彼>を
巻き込むことは、できればしたくない。


「とりあえずは、現状維持、だそうだ」


ヴァレリアンは肩をすくめた。


ここはヴァレリアンの私室として使っている部屋だ。


ここの部屋は以前住んでいた貴族の主賓室だったらしく、
魔道具や魔石が多く残されていた。


その中に、鏡を使って遠方にいる者と
話ができる魔道具があるのをヴァレリアンが見つけたのだ。


そこで、ヴァレリアンは自分の父親に
<彼>のことを相談することを決めた。



王である私の父よりも、
宰相であるスタンリーの父よりも、
政治から少しはなれば立場のヴァレリアンの父親の方が
この場合、都合が良いと判断したからだ。


本来なら、早馬が得意なえるエルヴィンに王宮まで
走ってもらえば良いのかもしれないが、
早馬など、まさに<彼>の存在を公表するようなものだ。


場合によっては多くの貴族や
王宮に勤める者の注目を集めてしまうかもしれない。


できるだけ内密に。
信頼できる者にだけ<彼>のことを伝え、相談したかった。


「どうせ、最初から期限なんて無かった任務だ。
それに王都に戻るにも、馬で最低10日はかかる。
今の状態で、さすがにそれは無理な話だろ?」


私はうなずいた。
<彼>の体調は良くなっているが、
それでも10日もの間、馬に乗っているなどできるとは思えない。


「ここは、王都からも離れてるし、
うるさい親父もいないし、面倒な任務もない。
……休暇だと思ってゆっくりするさ」


ヴァレリアンは笑う。


ゆっくりしているうちに、
世界が崩壊するかもしれないのに。


そんな不安は感じさせない。
大丈夫だと、なぜか信じてしまういつもの笑顔に
私も自然に顔が緩んだ。


「知りたいことは山ほどあるが、
王都には行けない。


言葉が通じないんじゃ、
意思疎通もできない。

だが、このままってわけにもいかないからな。

現状を把握できないから動けないなら、
現状を把握できるようにしよう」


ヴァレリアンは笑顔のまま言う。


「アイツに言葉を覚えてもらおう」


アイツ、とは<彼>のことか。


不敬ではないかと思ったが、
彼らしい言葉でもあるので
それは言わずにおいておく。


「どうやって覚えてもらうんですか?」

「俺達には心強い『先生』がいるだろ?」


「……スタンリーか」


頭脳戦でスタンリーの右にでるものはいない。


「あいつに丸投げしようぜ」


相変わらずの無茶ぶりに、
私はため息をついた。






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