11 / 208
女ですけどBL世界に転生してもいいんですか?
11:女神の愛し子と出会い【4】<王子SIDE>
しおりを挟む<彼>は聖獣にしがみつき、大声で泣いていた。
聞いているだけで胸が苦しくなるような
心臓が切り裂かれるような声だった。
しばらく泣き続けると、今度は年相応の
子どものような泣き方に変わった。
甘えるような、すがるような…
途端に、保護欲のようなものが沸き起こる。
目の前の<彼>が
「女神の愛し子」でなくとも、守ってやりたい。
そんな想いが沸き起こる。
聖獣は白い大きな翼で<彼>を包み込んでいたが、
やがて<彼>は泣き疲れてしまったのだろう。
聖獣の翼の中で眠ってしまったようだった。
聖獣は<彼>の体を翼で支えたまま、
体を地面に座った。
<彼>の体もまた、地面に着く。
大きな翼で隠れていた<彼>が姿を現す。
『決して、傷つけてはならん』
よいな、と聖獣の声が頭に聞こえたかと思うと、
聖獣は<彼>を置いて大きく舞い上がる。
私たちは聖獣が高く空へと飛び立つのを見送り、
ようやく体が動くのを感じた。
「おい、大丈夫か?」
聖獣が放っていた威嚇の呪縛から
一番最初に解けたヴァレリアンが<彼>に駆け寄っていく。
一番に近づくつもりが遅れを取ってしまった。
思わず、舌打ちしたくなる。
ヴァレリアンは自分のマントで<彼>を包むと
抱きかかえた。
「とにかく、結界の外に出るぞ」
その声に全員がうなずく。
「悪いが、エルヴィン
お前は先の戻って、屋敷の浴槽に湯を入れておいてくれ」
ヴァレリアンがエルヴィンを見る。
この中で一番足が速いのがエルヴィンだ。
「体がかなり冷えている。
聖獣は、この愛し子が俺たちと同じ
人間の体をしていると言っていた。
……かなりの高熱だ。
まずい状態だぞ」
私たちは慌てた。
そこから私たちはヴァレリアンの指示によって
それぞれ分かれて行動した。
エルヴィンは先に屋敷へ戻らせ、
<彼>を受け入れる準備をする。
ケインとバーナードはこのまま町まで行き、
<彼>が食べれそうなものや、衣類など、
必要なものを買ってくるよう、指示を出された。
スタンリーと私は、ヴァレリアンと共に
屋敷へと向かうが、それは<彼>の護衛としてだ。
ヴァレリアンは彼を抱き上げているので
早くは走れないし、万が一の時、
剣を持って戦うことができない。
私はヴァレリアンの前を。
スタンリーが後ろを歩き、
聖域を出てからも魔獣や魔物に警戒しつつ、
屋敷へと向かった。
◆
屋敷に着くと、エルヴィンはすでに湯殿に
熱い湯をはっていてくれた。
私はヴァレリアンから<彼>を預かり、
湯殿へと連れていく。
スタンリーが手を貸すと言ってくれたが
丁重に断った。
これからの方針を、
ヴァレリアンと考えてほしかったし、
なにより…<彼>を独り占めしたいという
思いも少なからずあった。
スタンリーに「ヴァレリアンを頼む」というと、
さすがに<彼>の存在をどうするか、
スタンリーも悩むところだったのだろう。
わかった、と短く言うと、
この屋敷の執務室と化した
リビングへと去っていく。
私は<彼>から濡れた衣類をはぎ取った。
<彼>の体は冷たく、白い肌は青ざめている。
私は自分の服も脱いで<彼>を抱き上げ、
一緒に湯殿に漬かった。
<彼>の体だけを湯に入れても
良かったのかもしれないが、
とにかく今は<彼>の体を
温めることしか頭になかった。
そのためには、一緒に湯に浸かり、
彼の体すべてを温める必要があると思ったのだ。
私は<彼>の体が温まるまで
ずっと肌を密着させ、湯に浸かった。
彼を膝に乗せ、
体全体を湯に浸からせるような態勢だ。
<彼>からは、なぜか良い匂いがする。
白い肌はやわらかく、まだ幼い少年なのだと
なんとなく思った。
最初に会った時に感じた神々しさは
瞳を閉じているからか感じられず、
今は……正直、感じられないと思っていた淫靡さに
めまいがするほどだ。
もし、この肌に…
ついっと指先が胸元へと伸びる。
無防備な肩口に自然と唇を寄せてしまう。
ぴくん、と<彼>の体が揺れた。
はっと私は顔を上げる。
「愛し子に私はなんてことを…」
下半身に熱がこもるのを感じ、私は慌てて
<彼>を抱き上げ、湯殿を後にした。
大きな布で<彼>の体を拭き、
シーツでくるんでベットに寝かせる。
しばらくしたら、
バーナードたちが彼の寝着も買って帰ってくるだろう。
私は魔力で部屋を暖め、
彼が目を覚ますのをひたすら待ち続けた。
◆
彼が目を開けたのは、
この屋敷に連れてきてから5日目の朝だった。
彼の世話は、初日からずっと私がしている。
本来、ただの王子であれば、
たとえ役立たずの3番目とはいえ
誰かの世話などすることはなかっただろう。
そう考えると、聖騎士になれて本当に良かったと思う。
聖騎士団は、
じぶんの力を必要としてくれる場所でもあり、
その力を発揮し、誰かを助けることもできる場所だ。
ただ甘やかされて育つのではなく、
こうして国のために動くことができるのは
本当に嬉しいし、そのおかげで<彼>とも出会えた。
慣れない屋敷での訓練は
きついこともあるが<彼>の笑顔を見るだけで
私は今の幸せな環境に感謝してしまう。
<彼>が目を覚ましてから一番にわかったのは、
やはり<彼>と私たちは言葉が通じていないということだ。
互いに何を言っているのか理解できない。
それでも、手ぶり身振りで<彼>に
薬を飲んでもらうことができた。
互いの名前も知らないが、
<彼>の食事や着替え、
湯殿の介助をしていくうちに、
私と彼との間には『信頼』のようなものが
芽生えてきたような気もする。
<彼>は冷たい泉に入っていたからだろう。
ここに来てすぐに高熱を出したが、
幸い、私たちは聖騎士だ。
一日3回、交代で<彼>に聖魔法を掛け、
彼の回復を促すことができた。
5日も私たちの魔力を体内に取り込んだのだから、
<彼>は自覚は無いかもしれないが、
それだけでも「安心・信頼」は他人よりは
持ってもらいやすくなっている……と思っている。
そして、それ以外の時間も
かなり多く<彼>と過ごしている私は
他の騎士たちよりも<彼>の信頼度は高いハズで。
言葉など通じなくてもきっともっと仲良くなれるはず…。
「おい、カーティス」
ヴァレリアンに大丈夫か、と声をかけられ、
私は我に返った。
「少しぼーっとしていたようだ」
すまない、と言うと、ヴァレリアンは首を振る。
「愛し子の面倒をずっと見てくれているからな。
少し休んだ方が良いんじゃないか?」
「大丈夫ですよ」
疲れた、なんて一言でも漏らしてしまったら
<彼>と過ごす時間が減ってします。
「それより、あなたの父上は何と言ってるんです?」
<彼>のことは、まだ機密のまま。
王宮に報告すらしていなかった。
<彼>が女神の力の結晶であることは
まちがいないだろう。
世界の崩壊を食い止める鍵が<彼>だ。
だからといって、すぐに「救世主が現れた」
などいえるはずもない。
<彼>は女神の力の結晶で、
女神の愛し子で、聖獣の愛し子で、
世界を救う救世主でもある。
そして、あの美貌だ。
考えずに<彼>の存在を公表することは
多くのものが彼を欲し、
国が荒れることは予想に難くない。
国王より、女神の愛し子の方が権力もある。
なにせ、女神の力を持っているのだ。
世界を滅ぼすぐらい、簡単にできるだろう。
権力者たちの腹黒い攻防に<彼>を
巻き込むことは、できればしたくない。
「とりあえずは、現状維持、だそうだ」
ヴァレリアンは肩をすくめた。
ここはヴァレリアンの私室として使っている部屋だ。
ここの部屋は以前住んでいた貴族の主賓室だったらしく、
魔道具や魔石が多く残されていた。
その中に、鏡を使って遠方にいる者と
話ができる魔道具があるのをヴァレリアンが見つけたのだ。
そこで、ヴァレリアンは自分の父親に
<彼>のことを相談することを決めた。
王である私の父よりも、
宰相であるスタンリーの父よりも、
政治から少しはなれば立場のヴァレリアンの父親の方が
この場合、都合が良いと判断したからだ。
本来なら、早馬が得意なえるエルヴィンに王宮まで
走ってもらえば良いのかもしれないが、
早馬など、まさに<彼>の存在を公表するようなものだ。
場合によっては多くの貴族や
王宮に勤める者の注目を集めてしまうかもしれない。
できるだけ内密に。
信頼できる者にだけ<彼>のことを伝え、相談したかった。
「どうせ、最初から期限なんて無かった任務だ。
それに王都に戻るにも、馬で最低10日はかかる。
今の状態で、さすがにそれは無理な話だろ?」
私はうなずいた。
<彼>の体調は良くなっているが、
それでも10日もの間、馬に乗っているなどできるとは思えない。
「ここは、王都からも離れてるし、
うるさい親父もいないし、面倒な任務もない。
……休暇だと思ってゆっくりするさ」
ヴァレリアンは笑う。
ゆっくりしているうちに、
世界が崩壊するかもしれないのに。
そんな不安は感じさせない。
大丈夫だと、なぜか信じてしまういつもの笑顔に
私も自然に顔が緩んだ。
「知りたいことは山ほどあるが、
王都には行けない。
言葉が通じないんじゃ、
意思疎通もできない。
だが、このままってわけにもいかないからな。
現状を把握できないから動けないなら、
現状を把握できるようにしよう」
ヴァレリアンは笑顔のまま言う。
「アイツに言葉を覚えてもらおう」
アイツ、とは<彼>のことか。
不敬ではないかと思ったが、
彼らしい言葉でもあるので
それは言わずにおいておく。
「どうやって覚えてもらうんですか?」
「俺達には心強い『先生』がいるだろ?」
「……スタンリーか」
頭脳戦でスタンリーの右にでるものはいない。
「あいつに丸投げしようぜ」
相変わらずの無茶ぶりに、
私はため息をついた。
11
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説


男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる