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愛は変態を助長させる

41:お姉さんができた

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 僕は恐る恐る自己紹介する。
美人の女性はなんと!
先輩さんのお姉さんだった。

驚いた。

なんでも義理のお姉さんとかで
詳しくは言わなかったけれど、
腹違いとか、そういう感じだと思った。

ただ、母親は違うけれど
幼いころから交流はあって
先輩さん曰く、
小さなころからいじめられていた、らしい。

お姉さんは、綾子さんと言って
今は36歳だとか。

全然見えない!
僕より少し年上ぐらいかと思った。

僕が思わず呟くと
綾子さんは「嬉しいわ」っと
僕の手を取る。

そして
「私のことはお姉さんって
呼んでいいわよ」
なんて言われて。

僕は咄嗟に真翔さんを見たけれど
真翔さんは困ったような顔をして。

でも何も言わなかった。

次に先輩さんを見ると
先輩さんは申し訳なさそうに
僕に向かって両手を合わせている。

僕は思い切って
「綾子お姉さん」って呼んでみた。

「可愛いわっ。
こんな妹が欲しかったのよ」

綾子さんはそう言って
僕の手を取り、
真翔さんから引きはがす。

「さぁ、行きましょう。
荷物持ちが二人もいるんだもの」

「荷物持ち?」

「そうよ。
旅行で必要なものを
買いにきたの。

付き合ってくれるでしょ?」

僕はまた先輩さんを
見たけれど、先輩さんは
僕を拝んだままだ。

僕は真翔さんの腕から
手を離すしかなさそうだ。

僕が真翔さんから離れると
綾子さんは僕と手を繋ぎ
「こっちよ」とどんどん進んで行く。

僕はどこに向かっているのかも
わからなかったし、
どうしていいかもわからない。

ただ振り返ると
真翔さんも先輩さんも
ついて来てくれているので
それだけは安心だ。

綾子さんはとても
早足で、早口で、沢山喋る人だった。

今回の旅行は先輩さんが
何やら旅行の予約を
取ろうとしていると聞きつけて

「面白そうだから
一緒に行かせろ」と
言ったらしい。

すごくない?

僕のは本当のきょうだいも
腹違いのきょうだいもいないから
よくわからないけれど。

いくら姉弟だからって
弟が友達と一緒に行く旅行に
「面白そうだから行かせろ」って
言うものなのだろうか。

そしてそれを言ったら
その望みをかなえてしまう
先輩さんも、なんかすごい。

普段からお姉さんに
振り回されている先輩さんの
姿が目に浮かぶようだ。

綾子さんは「こっちよ」と
百貨店の中に入る。

百貨店……それは
僕にとって未知なる場所だ。

だってどの店も高級そうで
たとえ食料品1つでさえ
買えそうな気がしない。

僕がこんな場所にいるなんて
場違いしかない、って思ったのに。

綾子さんはエレベーターに乗り
どんどん上の階に行く。

そしてエレベーターを下りたら
赤い絨毯が敷いてあるフロアになって
僕は正直、足が震えた。

靴。
靴のまま歩いていいんだよね?

「ほら、早く来なさい」
って言われて。

僕は必死で綾子さんについていく。

綾子さんはフロアの奥の
お店まで来た。

すると、お店にはちゃんと
扉があって!

百貨店の中なのに、
お店に扉があって
その前にはボディーガードみたいな
強そうな黒い服を着た男の人が
左右に2人立っていて。

僕は脅えるしかできなかったのに、
その人たちは綾子さんを見たら
丁寧に頭を下げて
「いらっしゃいませ」と
扉を開けてくれたのだ。

緊張のあまり
背中に冷たい汗が流れる。

すぐに真翔さんと
先輩さんもやってきて
僕たちは店の中に入った。

女性用の服がたくさん並んでいて
さりげなく値札を見ようと
したけれど、どれも値札は
隠されたみたいになっていて。

僕は恐ろしすぎて
僕は服からも綾子さんからも
そっと離れて真翔さんにひっついた。

「真翔さん、ここ、ダメです。
動けないです」

少しでも粗相をしたら……
弁償なんてことになったら
僕はどうしたらいいかわからない。

真翔さんもさすがに
緊張しているのか、
僕の肩を抱き寄せてくれる。

「お客様、
どうぞこちらへ」

って黒いスーツを着た年配の女性が
僕たちを店の真ん中にある
ソファーに座らせてくれた。

なんでソファーがあるの?

しかも、袋に入ったどうみても
高級そうなお菓子とお茶まで出てくる。

怖すぎて手が出せない。

「悠子! どこ行ったの!?」

って綾子さんの声がして。

いきなり呼び捨て!?
って思ったけれど、
僕は慌てて立ち上がった。

「ここです」

「早くいらっしゃい」

って鋭い声がして。

僕は絶対に綾子さんに
逆らえないって思った。

だって先輩さんも
逆らえないって顔してるもん。

「一緒に行く?」

って真翔さんが言ってくれたけれど
僕は大丈夫って首を振った。

お店の人が「こちらです」と
綾子さんの所に案内してくれる。

綾子さんは、なんと別室にいた。

衣裳部屋みたいに
沢山の服が釣り下がっていて、
壁全部に大きな鏡が張り付けてある。

お店のスタッフらしき女性が
4人もいて、綾子さんを
褒めたたえている。

「どう? この服」

そういう綾子さんは
さっきまでの白いスーツではなく
少し可愛いふわりとした
スカートのワンピースを着ていた。

さっきまでは仕事ができる女神っぽく見えたけれど
今度はクリーム色のワンピースで可愛らしい印象になる。

「さっきの神々しい女神さまみたいな
綾子さんも素敵でしたけど、
今は綾子さんが可愛く見えます」

僕は正直に感想を言う。

すると綾子さんは少し頬を
赤くして、そ、そう、って頷いた。

「あなたも着てみたらいいわ」

「え?! いえ、その……」

値段もわからないような服なんて
たとえ試着だとしても
着れる気がしない。

というか、試着して
「やっぱり買いません」って
言えるものなの?

僕、絶対にこの店で
買い物はできそうにないんだけど。

「ほら、早く。
そうね。あなたにはあれが
似合いそうだわ」

僕が迷っているうちに
そんなことを言われて、
僕はあれよあれよと、
スタッフの人たちに
服を脱がされ、綾子さんが
指定した黒いドレスを着せられた。

そう、ドレスだ。
どう見ても。

ワンピースなんてものじゃない。

体の線があらわになるような
黒いドレスで、大人の女性が
着るようなものだと思う。

「そうねー。
良いと思ったけれど、
色気がたりないかしら?」

綾子さんは「じゃあ、次はあれよ」
と、どんどんスタッフに言って
僕に試着をさせた。

その間、自分もちゃんと試着をして
僕に意見を求めてくる。

凄い人だって思った。
絶対に仕事ができる人だ。

何着着たかわからないけれど
綾子さんが満足したときには
僕はもう、ヘトヘトだった。

ようやく着て来たワンピースを
着せてもらって、
僕はよろよろと真翔さんの
元に戻る。

綾子さんも僕の後ろからついてきた。

「悠子ちゃん、大丈夫?」

真翔さんより先に
先輩さんが声を掛けて来た。

たぶん、僕の状況を理解しているのだろう。

「ごめんな。
あの人、小さいころから
着せ替え人形が大好きなんだ」

って小声で言われ、
僕はなるほど、って思う。

「疲れた顔してる」
って真翔さんも言ってくれて、
僕は甘えたくなって
真翔さんの手にそっと触れた。

すぐに大きな手が僕の手を
握ってくれて、
僕は嬉しくなる。

「あらあら、可愛いわね。
じゃあ次行くわよ」

そんな僕たちを綾子さんは見ると
次はこっちよ、と言う。

僕は……僕たちは
まだこれが続くのかと
少しだけうんざりした。




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