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愛は変態を助長させる
17:運命の出会い【先輩SIDE】
しおりを挟むずっと運命の出会いを求めていた。
俺は幼いころから女性にモテた。
もともと顔は良かったし、
3歳年上の姉から
「モテる男はかっこよく、
頭が良くないとダメ」と
わけのわからない理論で
小さいころから女性への
扱い方や勉強などをみっちり仕込まれたからだ。
俺は「モテる俺」になったけれど、
それは姉による一種の作品のようにも
感じていた。
だから俺は女性にモテたけれど、
ちっとも嬉しくなかった。
だから俺はずっと、
作り上げた俺ではなく、
たった一人でいい。
「作品ではない俺」を見てくれる人が欲しい。
きっと俺はそんな女性と恋に落ちるだろう。
俺はそんな風に思っていた。
弁護士になったのも、
俺が運命の女性と出会った時に
その方が良いアピールになると思ったからだ。
俺の周囲は俺のことを女癖が悪いとか
女ったらしとか言うが、そうじゃない。
俺は女性と付き合う経験を積んでいるだけだ。
それに本気の女性は相手にはしない。
いつだって遊び相手だけだ。
なにせ、いつ、運命の女性との出会いを
果たすかわからないからな。
そんな俺が、とうとう運命の女性と出会ってしまった。
最悪なことに、俺の後輩、柊の恋人として。
その女性はふわふわのスカートをした
白いワンピースを着ていた。
長い髪を一つにまとめていたが、
まるで妖精のようだと思った。
じつは彼女のことを
柊が気が付く前から俺は見ていた。
繁華街があるこの駅はあまり
治安の良い場所とは言えない。
そんなところに、場違いな清楚な女性が
頼りなげに立っているのだ。
気にならないはずがない。
俺はどうしようかと悩んでいた。
柊を仕事終わりに飲みに行こうと
誘ってはいたが、彼女に声を掛けたいと
言う欲求が沸き起こる。
せめてここは危険だと注意した方が
良いだろうか。
そんなことを考えた俺のそばで、
いきなり柊が彼女のところに
走ったのは、正直驚いた。
しかもいきなり腕を掴むなんて暴挙に
出るなど、いつもフェミニストの
柊には考えられない行動だったからだ。
だがその疑問はすぐに溶けた。
彼女は柊の恋人で、彼は
心配のあまり彼女に駆け寄ったのだ。
俺が二人に声を掛けると、
柊は彼女に俺のことを紹介する。
「あの、俺の……彼女の森悠子さんです」
俺はすぐに自分の名を名乗ろうとした。
が。
彼女の笑顔が、ふにゃっと、溶けた。
「先輩さんですか?
始めまして」
俺の胸をわしづかみにするような笑顔だった。
そんな顔で笑う女性など、
いままで見たことが無い。
可愛い。
正直、可愛すぎる。
俺は自分の名も告げることができず、
彼女を見つめる。
が。
彼女の戸惑う表情に、
俺は妙な間が空いていることに気が付いた。
「ごめんね、可愛い笑顔にビックリしちゃって」
とわざと軽い調子で言う。
俺の「可愛い」という誉め言葉に
今まで頬を染めない女性はいなかった。
だが彼女はそれを受け流すように
「ありがとうございます。
お二人ともお仕事帰りなんですね。
お疲れさまでした」
と優しく言う。
なんだ、この癒され感は。
「そうだ。
これからコイツと一緒に
夕飯を食べる予定だったんだよ、
一緒にどうだい?」
もっと話をしてみたい。
俺は咄嗟に彼女も食事に誘う。
俺の誘いを断る女性など
いるはずがない。
だが彼女は不安そうに柊を見る。
何故、即答しないんだ?
俺は畳みかけるように言った。
「お洒落な良い店があるんだよ」
お洒落な店、この単語も
女性には人気の筈だ。
だが彼女は頷かない。
「奢るよ。
コイツも一緒に」
「え、でも」
なおも渋る彼女に俺はとうとう
「いいって、いいって。
先輩だからな、たまには
後輩を労わないと、な」
と柊の肩に腕を置いて、
仲が良い先輩をアピールした。
実際、柊は良い後輩だと思っている。
話の飲み込みも早いし、
頭の回転もいい。
クライアントの話をよく聞くし、
人当たりも良いので、
喧嘩腰になっている相手でも
柊が話をしているうちに
心を開く相手も多い。
柊が嫌そうな顔をしたが、
俺の仲良しアピールが良かったのか
彼女は「じゃ、じゃあ、少しだけ」
と了承した。
よし。
彼女はあまり高級な店よりも
フランクな感じの店の方が良さそうだ。
居酒屋よりも女性向けで、
慣れてなくても楽しめそうな場所、と
俺は周辺の飲食店を考える。
よし、あの店にするか。
珍しいビールもあるし、
ビールが苦手な女性でも飲みやすい
ビールカクテルが置いてある店だ。
俺が歩き出すと、
柊が彼女から荷物を受け取り、
その空いた手を握っている。
手を繋いでいるのが恥ずかしいのか
彼女は頬を赤くして
子犬のように柊の後ろをついて来る。
可愛い、と思った。
今まで俺の周囲にいた女性とは違う。
俺の周囲にいた女性たちは
自分の容姿や行動に自信を持ち、
華やかな服を着て、
俺の腕に嬉しそうにすり寄って来た。
だが彼女は、幼い顔立ちで化粧も薄く、
清楚な感じがする。
手を繋いだだけで恥ずかしがる姿は
保護欲をそそられた。
俺は目当ての店までくると、
早く入ろう、と店の扉を開く。
繁華街に慣れていない彼女に
早く店内を見せたかったからだ。
この店は南国をイメージした店で、
店の装飾だけでなく、
料理も凝った物が多い。
彼女は案内された席のすぐそばにあった
熱帯魚の水槽にすでに釘付けになっている。
ここの水槽は、下からライトが当てられていて
熱帯魚が綺麗に見えるように演出されているのだ。
俺は席に座ると、まず彼女にメニューを見せた。
そしてビールカクテルが美味しいと説明する。
俺がこうやってメニューを見せるだけで
たいていの女性は俺を潤んだ瞳でみるのだが。
「カクテル?」
彼女は不思議そうな顔をした。
ビールを使ったカクテルがあることを
知らなかったようだ。
「飲んだことない?」
そう聞くと、彼女は頷く。
カクテルも飲んだことがないなんて。
俺が色々と教えてあげたい。
俺はビールカクテルのうんちくを
話ながら、彼女の好みを探っていく。
彼女は目を輝かせて
俺の話を聞いてくれた。
それは俺の気を引こうと
無理にはしゃいだり、
笑顔になるような感じではなく、
純粋に驚いているような顔だった。
俺は彼女と楽しくメニューを決めたが、
そこで柊の存在を思い出した。
慌てて柊に何を飲むかを聞くと、
ビールで、と拗ねたように言われた。
なんだ、こいつも子どもみたいだな。
こんな姿を見たのは初めてだ。
俺が彼女を独り占めしたからか?
初々しい二人を見せつけられて、
俺は椅子に座り直した。
彼女から少しだけ距離を取ったのだ。
あまりの可愛さに思わずのめり込んだが
彼女は柊の恋人だった。
冷静にならなければ。
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