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第二部 2章 未来を、語る
第24話 ダブルデート
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ユースケもその話を適当に相槌を打ちながら聞いていると、豊かな自然に囲まれていることもあって、実家に戻って二人で語らい合っているような気分になってきた。
「何か、昔を思い出すな」
タケノリも同じことを考えていたのか、そんなことを言った。ちょうどそのタイミングで大きな池に出て、そのほとりにあるベンチにシオリが申し訳なさそうにしながら座ったので、ユースケたちも足を止めて池の側で二人して並んだ。池も手入れがされているのか、薄い氷の膜の下にある水はそんなに汚れていなさそうだった。
「ユースケもぼうっとしているように見えて、何かとやらかして、俺らも振り回されたもんだよ」
「いやいや、そんなことはなかったですよ、ええ」
「でも、そんなユースケがある日、惑星ラスタージアを目指すって宣言して、あっという間に成績を上げていった。まあ元々が底辺近かったから上がらないわけがないんだけどな」
「お前はいちいち一言余計なんじゃい」
ユースケは足元にある小石を蹴った。乾いた土と一緒に跳ね上がった小石は、そのまま池の氷の上を勢いよくつるつるっと滑っていった。
またどこかで、鳥が鳴いた。
「ユースケは前々からすんげー行動力の奴だと思ってたけど、二週間ぐらいどっか行って学校サボってたときは本当にすげー奴だなって感じたよ」
「懐かしいなあ。でも、それ言うと、俺がそうしたのもラジオがきっかけなんだよな」
「そうか……それじゃあ、ラジオが、今のユースケになるまでに至らせたんだな」
タケノリがしみじみと言ったその言葉に、ユースケも不思議に感じた。猫を飼っていた店主が、あのとき気まぐれにラジオを寄越してくれたことで今の自分に繋がっているのだと思うと、とても信じられない想いだった。タケノリも、当時のことを振り返っているのか、遠い目で池の氷を眺めていた。
「大学校では色んな奴を見てきた。抜群に頭の良い奴もいたし、サッカー部でも俺が全然敵わねえなって思う奴もいる。もうすでに起業して働きながら学生してる奴もいる」
「そんな奴らがいたのか。それまた……すげー話だな」
「でも、ラジオ一つで……四年以上も前の出来事をきっかけに行動して、それを今でも忘れずに続けているユースケも、すげーというか、変わってると思う」
「俺? いやいや、俺なんてまだまだ、大学校に来た普通の学生でしかないからな。これからよ。それに……」
ユースケはそこで視線を落とし、池の氷をじっと見つめた。鏡のように樹々やその葉、空を映しているその氷の表面に、かつてユースケたちの出会ってきた人たちの顔が浮かび上がってくるような、そんな予感がした。
「俺が宇宙船を造りたいって思えるのは、アカリやユリ、コトネさん……フローラに、色んな奴らに会ってきたからだな。そいつらの話を聞いた後じゃ、とてもじゃないが宇宙船を諦める気にはなれねえんだよ」
「そうか……ユースケ、何かちょっとカッコ良くなったな」
「え、嘘? マジ? どの辺?」
ユースケが興奮してタケノリにしつこく尋ねるが、タケノリは呆れ半分可笑しい半分で笑うばかりで応える気配はなかった。
ちょうどその頃、シオリたちが立ち上がって出発したそうにしていたので、ユースケたちもシオリたちの方に駆け寄った。それからそのまま、再びフローラたちを先頭にした散策が再開された。
それからユースケとタケノリは、思いついたことをすぐに口にするような適当な会話が続いた。その中の会話でも特に驚いたのは、ユミが医薬学府に進んだという話であった。
「まあ、その後臨床医と研究医のどっちの道に進んだのかは知らないけどな」
「やっぱアイツって頭良かったんだな。というか、どうしてタケノリはそんなこと知ってんだよ」
「それはまあ、成り行きだな」
タケノリのいい加減な返事に呆れていると、徐々に日が暮れてきて暗くなってきた。そういえば話に夢中になっていて帰り道が分からないかもしれないと、一年生のときにタケノリたちと訪れて迷子になりかけたこともあって、ユースケは慌てて前を歩く二人に声を掛けるが、シオリによると「大丈夫、もう帰りに向かっていますから」とのことであった。一度迷いかけたことのあるユースケとタケノリはシオリに頭が上がらなかった。
シオリの言う通り、綺麗な夕陽が大学校内の道を照らす頃に無事に森林から抜け出すことが出来た。そこで一度立ち止まって、夕食をどこで食べようかという話になってユースケが真っ先に「食堂!」と申告したことで、そのままの勢いで決まった。くすくすと笑うシオリと苦笑するタケノリに対してフローラがそっと「ありがとうね」と耳打ちしてきた。
食堂は相変わらずがらんとしていた。ユースケとフローラはいつものように意気揚々と食券を買っていくが、タケノリたちは二人してあれこれと悩んでいる様子だった。贅沢な人たちだ、という感想をユースケは抱いた。
それから食事があっという間に出来上がり、ユースケたちはそれぞれ席に着いた。当たり前のようにフローラがユースケの真正面に座ろうとしたが、ユースケはそれを止めて隣に座るようにさせた。フローラも最初は意味が分からないように首をひねっていたが、やがてやって来たタケノリたちがユースケたちの真正面に並んで座るのを見て、フローラも「ああ」と納得していた。
「もう聞いてタケノリさん、フローラさんったら、付き合ってるかどうかも分からない関係だというのに惚気てばかり来るんですよ」
開口一番に、シオリははしゃいだようにそう話し始めた。タケノリもそれに「ほお~」と感心しながら、ユースケに嫌らしい笑みを向けてくる。シオリはそう言ったが、ユースケとしては、フローラとはほとんど食堂で食事をしているだけなのにどこに惚気る要素があったのかと逆にその内容が気になった。
話の主導権を握ったシオリを中心に会話は続き、あれまこれまという間にユースケとフローラのなれそめについてべらべらと喋らされていた。どこのお嬢様かと見間違いそうになる上品な雰囲気のシオリであったが、いざ対面してみると案外話すのが好きな普通の女の子らしい女の子だと分かった。
「ユースケさんったら、何と結婚の話までしたらしいですのよ。タケノリさんどう思います?」
「え!」
ユースケの驚きとタケノリの驚きがほぼ同時に重なった。タケノリに見開いた目で見られても、ユースケとしても驚きで言葉が出てこなかった。しかし、そうして呆けていると横からフローラが「この話しちゃいけなかったの?」と低い声で訊いてくるので、ユースケはそれだけは何としても否定したくて何とか首をぶんぶんと横に振る。
「私、その話を聞いて大層びっくりしました。学生の身でありながら、もうそこまで将来を見据えてプロポーズするなんて、私聞いているだけでドキドキしました」
「へえ、そいつは興味深いなあ。詳しく聞かせてもらいたいな」
「勘弁してくだせえ……」
その後、フローラに不審な目で見られながらも話を逸らして、今度はシオリたちのなれそめに話題は移った。
「何か、昔を思い出すな」
タケノリも同じことを考えていたのか、そんなことを言った。ちょうどそのタイミングで大きな池に出て、そのほとりにあるベンチにシオリが申し訳なさそうにしながら座ったので、ユースケたちも足を止めて池の側で二人して並んだ。池も手入れがされているのか、薄い氷の膜の下にある水はそんなに汚れていなさそうだった。
「ユースケもぼうっとしているように見えて、何かとやらかして、俺らも振り回されたもんだよ」
「いやいや、そんなことはなかったですよ、ええ」
「でも、そんなユースケがある日、惑星ラスタージアを目指すって宣言して、あっという間に成績を上げていった。まあ元々が底辺近かったから上がらないわけがないんだけどな」
「お前はいちいち一言余計なんじゃい」
ユースケは足元にある小石を蹴った。乾いた土と一緒に跳ね上がった小石は、そのまま池の氷の上を勢いよくつるつるっと滑っていった。
またどこかで、鳥が鳴いた。
「ユースケは前々からすんげー行動力の奴だと思ってたけど、二週間ぐらいどっか行って学校サボってたときは本当にすげー奴だなって感じたよ」
「懐かしいなあ。でも、それ言うと、俺がそうしたのもラジオがきっかけなんだよな」
「そうか……それじゃあ、ラジオが、今のユースケになるまでに至らせたんだな」
タケノリがしみじみと言ったその言葉に、ユースケも不思議に感じた。猫を飼っていた店主が、あのとき気まぐれにラジオを寄越してくれたことで今の自分に繋がっているのだと思うと、とても信じられない想いだった。タケノリも、当時のことを振り返っているのか、遠い目で池の氷を眺めていた。
「大学校では色んな奴を見てきた。抜群に頭の良い奴もいたし、サッカー部でも俺が全然敵わねえなって思う奴もいる。もうすでに起業して働きながら学生してる奴もいる」
「そんな奴らがいたのか。それまた……すげー話だな」
「でも、ラジオ一つで……四年以上も前の出来事をきっかけに行動して、それを今でも忘れずに続けているユースケも、すげーというか、変わってると思う」
「俺? いやいや、俺なんてまだまだ、大学校に来た普通の学生でしかないからな。これからよ。それに……」
ユースケはそこで視線を落とし、池の氷をじっと見つめた。鏡のように樹々やその葉、空を映しているその氷の表面に、かつてユースケたちの出会ってきた人たちの顔が浮かび上がってくるような、そんな予感がした。
「俺が宇宙船を造りたいって思えるのは、アカリやユリ、コトネさん……フローラに、色んな奴らに会ってきたからだな。そいつらの話を聞いた後じゃ、とてもじゃないが宇宙船を諦める気にはなれねえんだよ」
「そうか……ユースケ、何かちょっとカッコ良くなったな」
「え、嘘? マジ? どの辺?」
ユースケが興奮してタケノリにしつこく尋ねるが、タケノリは呆れ半分可笑しい半分で笑うばかりで応える気配はなかった。
ちょうどその頃、シオリたちが立ち上がって出発したそうにしていたので、ユースケたちもシオリたちの方に駆け寄った。それからそのまま、再びフローラたちを先頭にした散策が再開された。
それからユースケとタケノリは、思いついたことをすぐに口にするような適当な会話が続いた。その中の会話でも特に驚いたのは、ユミが医薬学府に進んだという話であった。
「まあ、その後臨床医と研究医のどっちの道に進んだのかは知らないけどな」
「やっぱアイツって頭良かったんだな。というか、どうしてタケノリはそんなこと知ってんだよ」
「それはまあ、成り行きだな」
タケノリのいい加減な返事に呆れていると、徐々に日が暮れてきて暗くなってきた。そういえば話に夢中になっていて帰り道が分からないかもしれないと、一年生のときにタケノリたちと訪れて迷子になりかけたこともあって、ユースケは慌てて前を歩く二人に声を掛けるが、シオリによると「大丈夫、もう帰りに向かっていますから」とのことであった。一度迷いかけたことのあるユースケとタケノリはシオリに頭が上がらなかった。
シオリの言う通り、綺麗な夕陽が大学校内の道を照らす頃に無事に森林から抜け出すことが出来た。そこで一度立ち止まって、夕食をどこで食べようかという話になってユースケが真っ先に「食堂!」と申告したことで、そのままの勢いで決まった。くすくすと笑うシオリと苦笑するタケノリに対してフローラがそっと「ありがとうね」と耳打ちしてきた。
食堂は相変わらずがらんとしていた。ユースケとフローラはいつものように意気揚々と食券を買っていくが、タケノリたちは二人してあれこれと悩んでいる様子だった。贅沢な人たちだ、という感想をユースケは抱いた。
それから食事があっという間に出来上がり、ユースケたちはそれぞれ席に着いた。当たり前のようにフローラがユースケの真正面に座ろうとしたが、ユースケはそれを止めて隣に座るようにさせた。フローラも最初は意味が分からないように首をひねっていたが、やがてやって来たタケノリたちがユースケたちの真正面に並んで座るのを見て、フローラも「ああ」と納得していた。
「もう聞いてタケノリさん、フローラさんったら、付き合ってるかどうかも分からない関係だというのに惚気てばかり来るんですよ」
開口一番に、シオリははしゃいだようにそう話し始めた。タケノリもそれに「ほお~」と感心しながら、ユースケに嫌らしい笑みを向けてくる。シオリはそう言ったが、ユースケとしては、フローラとはほとんど食堂で食事をしているだけなのにどこに惚気る要素があったのかと逆にその内容が気になった。
話の主導権を握ったシオリを中心に会話は続き、あれまこれまという間にユースケとフローラのなれそめについてべらべらと喋らされていた。どこのお嬢様かと見間違いそうになる上品な雰囲気のシオリであったが、いざ対面してみると案外話すのが好きな普通の女の子らしい女の子だと分かった。
「ユースケさんったら、何と結婚の話までしたらしいですのよ。タケノリさんどう思います?」
「え!」
ユースケの驚きとタケノリの驚きがほぼ同時に重なった。タケノリに見開いた目で見られても、ユースケとしても驚きで言葉が出てこなかった。しかし、そうして呆けていると横からフローラが「この話しちゃいけなかったの?」と低い声で訊いてくるので、ユースケはそれだけは何としても否定したくて何とか首をぶんぶんと横に振る。
「私、その話を聞いて大層びっくりしました。学生の身でありながら、もうそこまで将来を見据えてプロポーズするなんて、私聞いているだけでドキドキしました」
「へえ、そいつは興味深いなあ。詳しく聞かせてもらいたいな」
「勘弁してくだせえ……」
その後、フローラに不審な目で見られながらも話を逸らして、今度はシオリたちのなれそめに話題は移った。
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