世界の明日と明日の世界

プロローグ

昨日の世界

　──僕は死ぬことにした。彼女に振られたこととか、仕事が上手くいかないこととか、何やら世界が大変なことになりそうなこととかは、些末な理由のほんの一部分でしかない。僕は単純に「世界の明日」が見えなくなったんだ。
　「世界の明日」……僕がこの世界で生きる意味と言い換えても良いかも知れない。僕は、親に言われた通り良い大学を出て、大企業に勤めて、順調に出世してきた。これは、大多数の人から見たら幸福な人生だ。でも、そんなあらかじめ用意されていたかのような幸せは、僕にとっては無用の長物だった。だからといって、もうアラサーの自分が脱サラして何か別の新しい挑戦をしようだなんていう気には全くならなかった。
　つまり、僕は自分にとっての本当の幸せと生きる意味とを見失い、生きる気力を失くし、人生に行き詰まっていた。その事実に自分で気が付いたとき、僕の中で何かが弾けた。
　そして、僕は自ら命を絶った。
　この世界から自分という存在を消すことに、もはや迷いはなかった。
　明日の見えない「この世界」に、未練などないのだから。