森羅万象の厚生記録

星川ほしみ

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夜闇の一族

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 ホットケーキの粉を作りながら、手のひらに収まる大きさの水晶玉を取り出す。水晶型通信機だ。魔力を微調整しながら連続で九つを込めると、水泡が発生しはじめる。五秒ほど後、ボっと水晶の中心にの炎が集まり鳥の形をとった。翼から飛び散った火の粉が羽の形をとって消える。電話相手が応答した証だ。
 魔道具は魔力光によって様々な反応を見せる。咲良が使っている所を見たことが無いが、咲良が使えば桜の花関連の反応を見せるだろう。一度見て見たい。

「もしもーし。神楽? 何をすればいいのかしら」
「どうしたのの前に何をすれば、なのか」
「貴方がうちに連絡よこすのはそういうことでしょう? 無駄話は嫌いでしょ」
「嫌いじゃないさ。直接会えば話しくらい付き合う」

 水晶から発せられるのは落ち着いた女性の声。彼女の名は秋璃しゅうり。闇属性の迫害を止めるという目的を同じとする夜闇の一族の一人だ。
 夜闇の一族とは咲良がヴィンズの協会を破壊してしまった時に、捕られられていた夜闇の一族の少女を助けたのをきっかけに知り合い、利害の一致で協力をすることになった闇属性の集まりだ。

 元々は、闇属性が多く生まれる家系の一族で、魔王の支配後は魔王を連れてきた。魔族の仲間と言われ、冤罪をかけられ追われた悲劇の一族。今は闇属性の魔導師を保護しながら、反ヴィンズとして活動をしていてほとんどその血は残っていないが、志を同じとする子らは皆家族と呼ぶどこぞの宗教団体よりよっぽど情にあふれた者たちだ。

「あら、それは直接会う時が楽しみね。それで、用件はなあに?」
「ああ。魔障禁止区域で闇属性の子供を保護した。引き取ってくれ」
「……魔瘴禁止区域で?」
「魔瘴禁止区域で」
「…………」
「言いたいことは何となくわかるが、聞こうか」
「魔族の使いと迫害してるくせに、魔界の獣の生息地に投げるなんて頭が足りないヴィンズだったのね。からからにしてやりたいわ」

 神楽は誰がやったとは一言も言っていないが、秋璃はすぐに察したようだ。
 秋璃の言う通りなのだ。魔獣はかつて魔族の使い魔として人を貪り食ったと伝えられている。なら魔族の使いが魔獣を操って逆襲すると考えないのはおかしい。もちろん、魔獣と使い魔契約をすることは闇属性にもできないが、ヴィンズの視点から考えると敵に塩を送っているも同然だ。

 自分たちの思想さえ守れないヴィンズに、秋璃の声が低くなる。からから。の四文字に殺意が詰まっている。
 秋璃は生き物に流れるものを自分の魔力に変える魔法を得意とする『魔女』〝古枯れ〟からから。の言葉には、そいつらの血も水分も魔力も一滴残らず搾り取ってミイラにしてやる。という殺意が込められている。

「殺すのは駄目だな。一人殺せば止まれなくなるぞ」
「わかってるわ。そんな無様はさらさない」
「お前たちが一線を越えると咲良も影響されかねないからな」
「ぞっとするわね」
「本当に」

 心の底からそう思う。咲良が誰かの命を奪うなど考えたくもない。思わず言葉に熱が入り、水晶の中の火の鳥の火の粉が荒れた。
 そっと咲良たちの方に視線を投げる。咲良は困った顔で瑠伽を睨んで、瑠衣も困った顔でぼーっと咲良の顔を見ている。何かを話しているようだが声は聞こえない。
 思ったよりはうまくやれているらしい。少し笑って粉に卵とオレンジジュースを牛乳の代わりに加えた。

「それで、貴方たち、どこにいるの?」
「ロゼッタの南端。林の魔瘴区域だ。大きめの浄化結界を張ってるから魔力を探れば迷子にはならないだろう」
「迷子になんかならないわよ。ちょうど手が空いてるから私が行くわ。近くの町に移動魔法陣仕込んでるから三時間。……あ、いや。六時間くらいで行くわ。その間家族をよろしくね」
「所要時間が倍になったんだが?」
「気にしないでちょうだい」
「まあいい。待っている」
「ええ。じゃあまた後でね」

 秋璃の言葉と共に水晶への魔力供給が止まる。これで瑠伽のことも何とかなる。後すべきことは……。

「かーぐーらー! まだですか!?」
「もう少し頑張れ」
「ええー!」

 この後の咲良のご機嫌取りと瑠伽への聞き取りか。
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