野狐と大正妖奇譚

狛枝ころや

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朝食漢三の手記

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俺がこの恋を初めて自覚したのは妖になって数年経った頃。思えばお前を助けたのは運命だったのかもしれない。
獣の頃からお前のことは弟みたいに思ってた。後ろをちょろちょろとついてまわる小さな狐。狼の俺からしたら獲物だけど、お前だけは違った。狩りをする時も一緒だし、獲った獲物は2匹で分けた。
妖になって人語を理解し話せるようになってからはお前の考え方に感銘を受けた。性格も、思っていた通りで。愛しいな、と。そう思った。そこから自覚までは早くて。
いつか人に化けられるようになったら、人に化けたら、同じ時、同じ場所に集まって一緒に暮らそうと、俺から持ちかけた。
お前は二つ返事で了承してくれて、事実、その時になったら約束の街に居てくれて、再会できた。本当に嬉しかったよ。
でも久しぶりに会ったお前は手に入れたもののかわりに、いろんなもの失ってたな。
誇りが無くなっていた。愛を失っていた。いや、元から無かったのに俺が気付いていなかったのかも。
とにかく、お前は人一倍寂しがりやになっていて、体の関係でそれを埋めようと女を取っ替え引っ替えしてたな。
そしていつのまにか男にまで手を出されていて。俺はブチギレてお前を犯したんだ。鮮明に覚えてる。本当に悪いことをした。反省してるよ。
それからは吹っ切れて体を重ねるようになったけど。お前は俺のこの想いに最後まで応えてはくれなかった。
俺はお前といる時でなきゃ息ができないし、お前は誰かに愛されている実感がないと息ができなくて。お互い都合の良い関係だったよな。それでもいいと俺は思ってたよ。

俺にはお前が全てだった。お前にとっての俺はそうでなかったかも知れないけれど、そうであったらいいなと夢を見てもバチは当たらないだろう?
思えば、信仰のような恋だったなぁ。
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