野狐と大正妖奇譚

狛枝ころや

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馬鹿

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…馬鹿や。大馬鹿もんや。なんでウチのことなんか好きになったんや。こんな身勝手で自己中な奴を。結局ウチは自分が一番かわいい。他の者のことなんか考えちゃいない。…惨めやなあ。手に入れたいのに入れたくない。喉から手が出るほど欲しいもんなのに手に入れるのが怖い。
臆病モンや…んな事分かっとる。でも…

どうしたって、怖いもんは怖い。


ーーー篠崎宗旦は家族の愛が欲しかった。
九尾の両親に見捨てられた小狐は、朧げな記憶の中の毛繕いや暖かさを忘れられなかった。憧れていた。
篠崎宗旦の夢は九尾になる事である。と仲間には言っている。その印に背中に八本の尾を彫った。九尾になれればその後は神格化を残すのみとなる。本当は、神格化して両親と同じ存在になって、また会いたい。それが篠崎の夢だった。

しかし神格化するということは、神様以外には見ることも触ることも話すことも出来なくなるということである。
今こうしてこの世で仲良くしている仲間がいても、神格化すれば誰一人として認識されなくなる。どうせ離れてしまうなら、全ての人と、全ての妖と、同じ距離を保っていようと、鶴と別れたあの日決めた。


漢三に強姦された日。今まで親友だと思っていた彼に犯されたのに、篠崎は彼を嫌いになれなかった。
伍代達との行為は痛い。それ以外の輩でもそうだった。自分のことを優先して、急いて事を進めるからそうなるんだろう。いや、漢三だって急いていたし痛かった。でも、あいつは愛してくれた。指先が優しかった。理性が飛んでいるのに、性欲処理でなく、己の事を好きだと言ってくれた。それがどうしようもなく、嬉しかった。嬉しかったのだ。だから体を許した。漢三にだけは、安心して体を委ねられた。寂しくなるといつも彼を呼んだ。誰でもいいから体を重ねていれば寂しさは忘れられたけど、それでも毎回呼びたいと思えたのは彼だけだった。


そんな事とっくに気付いていたけれど。
その先の気持ちを認めてしまったら、神格化する時に余計に辛くなるのが分かっていた。どうせ離れてしまうなら近づかないようにしようと決めた。だから、そんな事気づいていない。知らない。見てない。ウチの感情ではない。そんな気持ちは、いらない。


「忘れよ」
裸のまま、引き出しからコレクションのタバコを出して一巻き吸った。
ベッドに腰掛け息を吐く。ぷか、と揺蕩う煙を見ながら、ぼうっとして頭を空っぽにする。
(女でも抱くかな…)
そう思ったが、先程の行為を思い出してしまいそうでやめた。
(茶でも淹れるか)
性行為で忘れられないなら別のことをするしかない。趣味の紅茶を淹れて集中しようと思った。
「…っと、シャワー浴びんとな」

ぱたん、と自室のドアが閉められた。
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