シュペングラーの遺稿

M-kajii2020b

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第6話 幻のレシピ1 回廊の途中

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目を覚ますと、目の前にレイカの顔があった

「大分お疲れの様子ね。それにお酒臭い。」

「ああ、久しぶりに寺山・・・お前が急性アルコール中毒に成りかけてた時に診断してくれた医者だ。まあー、覚えていないだろうけどな。そいつと飲んでいた。」レイカはフーンと言う顔をした後、慇懃に

「その医者って、噛み癖とか、キス癖とか有るの?男なんでしょう?」

「はあー、何を言っているんだ。」

「まあー後で、首周りを鏡で見てみると良いわね。キスマークが一杯付いてるから。」そーか、明子の仕業か、と思いながらも、口には出さずに居ると

「出かけたいのだけど、支度して頂戴。」

「何処ェ・・・」

「前に言っていた、レシピの料理を食べに行くの。えーと、それと少し長く歩ける格好にして。」

「長く歩ける?」

「そう。北アルプスに行くから!」

「それは、本格的な登山じゃないか。」

「別に、大槍の天辺に行こうと言う訳じゃないから、行ってもいいけどね。久しぶりだから・・・」

例によって、レイカの突拍子もない発言に、真意を測りかねながら、シャワーを浴びに行った。

 僕は、ソレなりの山支度をしてからレイカと共に、たぶん烏丸家お抱えの運転手の運転する高級車で出発した。車は、港方面に向かっていた。

「山に行くんじゃないのか?」どこぞの戦闘ゲームにでも出てきそうな、コスチュームを着込んだレイカは

「空路を使う。」と言うと、地図ソフトで目的地の状況を確認しだした。

「そんな山の上に在るレストランなのか?」僕が聞くと

「一寸、寄り道をしないと、食材調達と言った所よ。」

車は、港近くに在るヘリポートで僕らを下すと、運転手が

「レイカ様、荷物の積み込みは終わっておりますので、気を付けて行ってらっしゃいませ。」そう言って僕らを送り出してくれた。ヘリは町並みを抜けてから、暫く山岳部を飛行して、アルプスの山並みが見え始めた頃、かなり深い谷合でホバリングし始めた。

「ここで、降りるわよ。」あっけなく言うと、僕にハーネスを装着しだした。

「降りるて・・・まさか此処から?」

「垂直下降ね。」造作もなく言いながら、あっと言う間に僕を抱えて、ヘリから深い谷の中腹にある絶壁のテラスの様な所に降り立った。

「どうだった?」

「死ぬかと思った。」

「そうじゃないわ、私に抱かれた感じわ。」

「そんな事、考えてる余裕無いだろうが!」

レイカは、ヘリを見送ると、地図ソフトを見せて

「ここは、回廊のほぼ中間点の広場よ。ここから、回廊を下った所で食材を採取し、その先に在るトンネルを抜けて、山岳列車に乗り込むのよ。いとも簡単そうに、レイカは説明したが、

「この先の回廊って、絶壁じゃないか!」

「いや、チャンと道はあるわよ。歩荷達が通って居たんだから。」僕は、ヘリから降ろされた、リュックを担がされ、ほぼ垂直な絶壁に在る、人一人がやっと進めるような細い道を歩き出した。二時間程そんな怖い道を歩くと、崖がえぐれた様な場所が有り、結構広い洞窟の様な場所にでた。

「今日は此処で泊まるわよ。」

「泊まる。ビバークでもするのか?」

「温泉付きだし、寝心地だって悪くないのよ。」レイカは僕の背負ってきたリュックから、エアーマットやら寝袋を取り出すと、ほぼ平らになっている岩畳の上に設置した。携帯食の食事を済ますと、辺りはすでに真っ暗で、人工的な明かりが無ければ、自分の鼻を摘ままれても分からに様な状況だった。紅茶を飲んだ後、

「温泉に行くわよ。大きな明かりはこれしか無いから、一緒に来て。」ランタンを手にしたレイカの後を恐る恐る付いて行くと、岩盤に人口的に作られた湯舟が在った。

「ここは、歩荷達が、ノミとハンマーで掘った湯舟よ。立派な温泉でしょう。時期によっては一寸温度調節が難しいけどね。」レイカはそう言いながら、湯舟に手を入れて、

「一寸熱いけど良い感じね。」そう言いながら、服を脱ぎだした。

「あなたも、さっさと入らないと、明日は早いんだから。」

湯舟は、二人が入ってもそれほど狭くは感じられない広さだったが、確かに一寸熱かった。

「何でこんな所知ってるんだ。と言うよりお前どんな訓練を受けてるんだ。ヘリからの降下と良い、山にも慣れているようだし。」

「まあー、そのうち説明してあげるわ。訓練は海外の機関よ。戦闘訓練も含めてね。」

「CIA関連か?」

「まあ・・・似たような物ね。あーそう言えば、あなたも関係してたわね。」僕は、無言のまま、此奴は本当に何者なんだと思いながら、留学時代に変な組織に拉致られて、変な研究をさせられていた事を思い返していたが

「あなた、私の裸を見て、欲情しないの?抱きたいて思わないの?」

「はあー、こんな所でか?この先、何が持ち請けているか分から無い状況で、そんな余裕は・・・」そんな言い訳じみた僕の言葉を無視するかの様に、レイカは下半身に手を伸ばしてきた。

「あら、まだ元気じゃないの。あの女に全部吸い尽くされたかと思ってたわ。」

「あの女?お前、明子の事知ってるのか?」

「あなたが、初めて抱いた女でしょ。私が初めてあなたに会った時に名乗った名前。」

「何で、吉山明子を知ってる?」

「私の弟の嫁だったもの。何時まで経っても子供を産まないから、離婚させたわ。ああ、それとあのマンション引き払うから、今回は、その下見も兼ねているの。」

「金持ちのボンボンて言うのは・・・」

「あの時、初めて会った時ね、あなたの反応は面白かったわね。抱いた女の事も覚えていないなんて。私がわざわざ酔っぱらって、当時の状況を再現してやったのに。」

「別に、好きで抱いたわけじゃない!成り行きだ。俺の親友に振られて俺の所に乗り込んできて・・・」そう言いながら、如何、まだ明子の事を全部思い出していないんだ、そう思うと、

「ああ何だか、めんどくさくなってきたな。」そう言ってから、レイカにキスをした。二人とも、クライマーズハイ状態もあって、情交に至るまでにはそう時間はかからなかった。

繋ぎ合わせてあった、寝袋の中で、裸で抱き合って眠ってしまっていた。朝方、冷えた背中の寒さで目を覚ますと、レイカは僕の腕の中で暖かそうに寝ていた。
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