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第11話 誠司と健司の長い電話と誠司の後輩、芳山弥生
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百万遍のキャンパスの片隅にあるベンチから、誠司は長い電話を掛けていた。
「俺も、抱けなかったんだ。あそこまで覚悟を決めてくれていたしおりを。気持ちは、抱きたい気持ちは今まで以上に有ったのに。」と健司が言った
「ああ、分かるぜ。お前は見てないだろうけど、その時の着物姿は、天女の様だったよ。それを一枚一枚脱がしてから、最後に見たしおりの裸は、この世の物とは思えないほど綺麗で、エロかったんだ。普通の男なら、それだけで爆発しちまいそうな状況だ。でも、立たねんだよ。なぜだ!何故だと思う?」と誠司が言う
「ああ、俺も同じだ。しおりは鎌倉の家の俺らの部屋でしおらしく待ってたんだ。俺に体を預けると、全てを許す覚悟でな。しばらく、抱き会ってから、お互いに気持ちが高ぶってきたんで、綺麗なしおりのあそこを見ながら、思いが遂げられると思っていたら。急に萎えてしまって、もうそれ以上はダメだった。」と健司が返した。
「なあ、俺、最近・・・童貞を捨てたんだ。相手は、高校時代に付き合っていた、梢なんだが。」
「ええ。お前もか!おれも、麗佳の、ああ、いや、ある女の陰謀にハマって、高校時代に付き合っていた幸子とやっちまったんだ。」と誠司が返すと
「それが、原因か? しおりの処女を奪うことに、躊躇いが出てしまった。俺たちが、汚れたからだだからな。」と健司が言うと
「心理的な物なのか?」と誠司が返した。
「分からんな?あの状況を考えれば、そんな心理なんてクソだと思うがな。二十年越しの思いだぞ。」と健司が、
「確かにな。」と誠司が
「二度目は、あるのか?」と健司が
「しおりには、あれだけガッカリさせてしまったからな。」と誠司が
「二度目が、あれば、今度は3人で・・・」と言いながら、同じようにT大のキャンパスのベンチから話している健司が、公孫樹の先の雲を見上げっていた。
「お前もそうだろうけど、しおりとの子供が欲しいよ。」と健司が
「ああ、俺もだ。もし女子でも産まれたとしたらと考えるだけで、涎がでるぜ!」
「やっぱり、変態だな。それを通り越して、変質者だな。それにそんな事をしたら、犯罪者だぞ。俺達。」と健司が
「それと、しおりが若しかするとレズに目覚めたかもしれない。」と誠司が
「レズ?女同士て事か?」
「ああ、俺をハメた女、烏丸麗佳と言う女なんだが、烏丸家と東堂の旧家とは元々仲が良いらしいんだが、アパレル烏丸って知らないか?」と誠司が
「ああ、聞いたことがある。その辺のファション雑誌なんかに乗ってるよな。」
「しおりは、どうも、そこでモデルのアルバイトをしているらしくて、それで、麗佳に目を付けられているようだ。」
「そう言えば、先日、都内のビル広告で、男物のファッション姿のモデルを見た時、よく似てるなと思っていたんだが、しおりは宝塚の男役でも通るのか。」
「そんな関連で、しおりを通して、麗佳に俺たちの悪行が筒抜けに成っちまったらしいんだが。そのおかげで、俺は麗佳に酷い目にあわされたぞ。挙句に、幸子と強引に関係を持たされて。」
電話の向こうで、健司の笑い声がしていたが
「因果応報か。」
「そういわれりゃー其れまでだが。その根底には、俺たちのしおりへの深い愛情があるんだからな。」
「変態のな。」
「ふむ・・・まあ、そうだが。」
その後も、元々、二人だと仲が悪い双子の兄弟は、珍しく、長い電話をしていた。
そんな電話が終わったのを見はからって
「先輩、随分と長い電話でしたね。彼女さんとですか?」と声を掛けてきたのは、同じ研究室にいる後輩の芳山弥生であった。
「兄貴、と言っても、双子だから、同じ年だけどね、久しぶりに長電話をしてしまったよ。」と誠司が答えると、
「私、見ちゃいましたよ。京都駅で。最初、ドラマの撮影でもしているのかと思って、暫く見ていたら、誠司先輩で、あの和服の女性が妹さんなんですか?」と言った弥生の言葉が胸の傷を刺激したが、
「ああ、久しぶりに逢ったんで、お互いに一寸感情的になってしまった。そんなに目立っていたかな?」
「ええ、凄く絵になっていて、でもなんだか、はかなげなワンシーンと言ったところでしたけど、先輩ってシスコンですか?」と再び誠司の痛みを突いてきた弥生の言葉に
「ああ、変質的なシスコンだ・・・・。ははは、冗談だけど。」
「それで、観光の方はどうでしたか?」
「しおり、ああ、妹もとっても喜んでくれたよ。その説は、色々アドバイス、有難うな。何せ急な連絡だったものだから、俺、京都の観光名所なんて行ったことがなかったから助かったよ。」
「はは、それは良かった、私もアドバイスしたかいがありました。そのご褒美にと言うのは、厚かましいいのですが、一寸付き合って頂きたい所がありまして、女一人で行くには、少し気が引ける場所なんです、ああ、ジャズバーなんですけどね。」との弥生の誘いに、
「ああ、良いよ。で、何時?」
「じゃー、金曜の夕方からで。」誠司は、携帯の予定を見てから、OKした。
芳山家は代々、和歌の歌詠みとして知られており、先祖を辿ると、一休禅師の愛人として知られている、盲目の歌姫と言われた森盲女に行き着くらしかった。その歌姫の家系を持つ、弥生が何で理学部で生体高分子なんかの研究に興味を持っ様になったか、以前から、誠司は気に成っていたが聞けずじまいにいた。
誠司は、叔父からの要請が無い日は、大体、夜中近くまで研究室にいて、時には朝帰りの時もあった。寮生活が身についてしまっていた誠司だったが、四条の東堂家に世話になる様になってからは、それなりに気をつかっていた。そんな、日常を、押しかけ女房的に遣ってきた幸子に、管理されるはめと成っていた。
「金曜日は、後輩と飲むので、遅くなります。」と幸子に言うと、素直に
「ハイ。」と言ってから、
「その代わりに、土日は私とお付き合いください、神社参りをしますので・・・。」との言葉に、「何の?」と思っていたが「まさか、安産とかじゃないよな。」と独り言を飲み込み、脅迫のネタに使われている、妊娠騒動には触れないようにしていた。
そのバーは、大学から地下鉄を二駅ほど行った、祇園の近くに在った。誠司はその店に入った途端に奇妙な既視感(デジャヴ)に襲われた。日にちに寄っては、ライブ演奏もあり、其れなりの広さを持ったステージと、スタインウェイのピアノが置かれ、店内を流れるBGMはマッキントーンの真空管アンプで調音されているものらしかった。
弥生の希望で、カウンター席に座り、取り合えず、ウィスキーのロックと水割りを頼み、ナッツを摘みに飲み始めた。
「今日は、ライブが無い見たいで残念だね。」と誠司が弥生に声を掛けると
「そうですね、でも、このBGMだけでもいい感じです。先輩は、こう言う所は・・・・」
「ああ、ジャズバーは初めてだけど、普通のバーなら、何回か、健司、兄貴と行ったことがある。」
「私、ある小説の中で出てきたシーンで、気になっていて色々調べて、どうも此処がモデル見たいなので、何時か行ってみようかなと思っていたんですが、なかなか敷居が高くて、それに女一人だと、一寸入りずらいし。」
「確かに、貧乏学生には敷居が高いね。」と誠司が言うと弥生も顔をみて頷いた。
「ああ、この店そんなに高くはありませんから。」と言い訳ぽく弥生が言ってので、
「大丈夫、軍資金は貰ってきたから。」と誠司の言葉に安心したのか
「ええ、私も・・・」
「ところで、弥生ちゃんの家は、京都でも其れなりの旧家でしょ。」と言うと
「東堂家も随分と旧家ですよ。」
「あっそうか、僕は、鎌倉の東堂なんで、一寸実感がなかったんだけど、烏丸家て知ってる。元は呉服問屋だった。」
「ええ、今でも、呉服問屋をしてますが、東京でのアパレルの方が有名ですよね。」
「なんだか、四条の東堂とやけに仲が良いみたいなんで、其れなりの資料も読み込んでいるんだけど、複雑すぎて良く分からないんだ。」
「ああ、町屋衆の事ですか。」
「そうなのかな?」
「町屋衆は、歴史が古くて、でも、東堂家はどちらかと言えば、旧公家衆の方かと思いますけど、東京に遷都されて以来、その寄り合いは無くなってしまったので、町屋衆に入ったのでしょうね。」
「ふーん、そう言う背景か。」
「昔は、皇室から俸禄を頂けたみたいですが、いまではそんなことはないので、自分たちでどうにかしなければならないから、ある意味なりふり構わず、見たいな所がありますよね。」
「ううーん、なかなか奥が深いんだね。もう少し読み込まないと分からないな。」
「カラスマと何か有ったんですか?」
「ふふふ、恥を晒すようだが、そこの総代代理の烏丸麗佳に虐められているんだ。」
「虐められている?」
「何だか、目の敵にされているみたいで。」
「東堂家の誠司さんが? ああ、そう、ご存じかと思いますが、その人レズですよ。知る人はしってると言うか。」
「ああ、分かっている。その点は、別に気にしていないんだけどね、男に興味が無い方がこっちも楽でいいし。でも、女に興味があるのが困るんだな。どうも妹を狙ってるみたいで、ブラコンの僕としては、心配なんだ。」と冗談ぽく言うと
「そっちの噂は色々聞いてますね。何だか、お屋敷には、凄いお部屋があるとか。」
「ふむ、それは、拷問いや・・・・同性と過ごすための?」
「そうみたいですね。不思議の国のアリスみたいな部屋?」
「へー、そんな所に、妹を連れ込まれたら大変だな。うちの妹、カラスマでモデルのバイトやってる見たいで。」
「ああ、それは、危ないかも、知り合いでも何人か、そこに連れ込まれてから、違う快楽に目覚めてしまった人、知ってます。」
「ええ、ヤバいな!」
「ええ、ヤバイイ・・・」と言いかけながら、弥生はダウン寸前だった。誠司は、自分のペースで飲ませ過ぎたかと思い、少しずつ水を飲ませて酔いを醒まそうとしていたが、結局沈没した。
叔父に電話をいれてから、タクシーを拾って、四条の東堂に弥生を連れて行くと、幸子が客間に来客の支度をしてくれていた。ただ一言
「あのー、後輩が女性だとを聞いていませんでしたけど。」と愚痴を言われた。
翌朝、弥生は、自分の状況が分からないままでいると、幸子から着替えと、風呂を沸かしてあるからと勧められて、入浴を済まし、リビングに案内されて、状況が理解できたらしく、
「先輩、すみません、ご迷惑をおかけして。」誠司が、返事をしようとすると、幸子が
「弥生さんの物、洗濯しちゃってますから、暫く待って下さいね。」Tシャツにトレーナーとスエットを着た弥生に言ってから
「妻の幸子です。」と自己紹介した。
弥生は「え!」と言う顔をしたが、幸子が中座している時に、すかさづ
「先輩、何時結婚したんですか?」と聞かれ
「あくまで、内縁のだ・・・」と苦しい言い訳を、弥生にしていた。
誠司にとっては、ばつの悪い、弥生にとっては、五里霧中的な、幸子にとっては、してやったり的な状況で、朝食を取ってから、
「これから、主人とお宮参りに行く予定なのですが、良かったら、弥生さんも一緒に行きませんか?」と幸子が誘った。
「お宮参りて?」
「ええ、安産の!」と言われて再び「え!」と言う顔してから
「じゃー折角なので、ご一緒に。」と応答した。
「先輩、既に、おめでたなんですか?」
「いあやーまだ、分からないと思うのだけどな。まだ、一か月位先じゃないと。」
「いっ、Hしたんですか?」
「先週。」
「気が早いですね?」
「ああ、烏丸麗佳の策略だろう。」
「ああ・・・そう言う事ですか。」
初めは、金閣にでも行くのかと思っていたら、幸子は「わら天神宮」へと直行した。
「先輩、ここは、もろの安産祈願ですよ、何でも産まれてくる子供の性別までも分かるとか。」と弥生が解説してくれていたが、誠司には全く知見がなくぼーとしているだけであった。
「ここの、護符で判定を受けたら、もう確定事項に成っちゃいますよ。」と弥生に言われて、目が覚める様な思いで
「そんなに、霊験あらたかなのか?」
だが、護符の結果は「成らず」であった。落ち込む幸子を、弥生が慰めていて
「これから、また、頑張ればいいじゃないですか。」と理系女子の感覚で励ましていた。誠司は、頼むから焚きつけないでくれと思うばかりであった。
「俺も、抱けなかったんだ。あそこまで覚悟を決めてくれていたしおりを。気持ちは、抱きたい気持ちは今まで以上に有ったのに。」と健司が言った
「ああ、分かるぜ。お前は見てないだろうけど、その時の着物姿は、天女の様だったよ。それを一枚一枚脱がしてから、最後に見たしおりの裸は、この世の物とは思えないほど綺麗で、エロかったんだ。普通の男なら、それだけで爆発しちまいそうな状況だ。でも、立たねんだよ。なぜだ!何故だと思う?」と誠司が言う
「ああ、俺も同じだ。しおりは鎌倉の家の俺らの部屋でしおらしく待ってたんだ。俺に体を預けると、全てを許す覚悟でな。しばらく、抱き会ってから、お互いに気持ちが高ぶってきたんで、綺麗なしおりのあそこを見ながら、思いが遂げられると思っていたら。急に萎えてしまって、もうそれ以上はダメだった。」と健司が返した。
「なあ、俺、最近・・・童貞を捨てたんだ。相手は、高校時代に付き合っていた、梢なんだが。」
「ええ。お前もか!おれも、麗佳の、ああ、いや、ある女の陰謀にハマって、高校時代に付き合っていた幸子とやっちまったんだ。」と誠司が返すと
「それが、原因か? しおりの処女を奪うことに、躊躇いが出てしまった。俺たちが、汚れたからだだからな。」と健司が言うと
「心理的な物なのか?」と誠司が返した。
「分からんな?あの状況を考えれば、そんな心理なんてクソだと思うがな。二十年越しの思いだぞ。」と健司が、
「確かにな。」と誠司が
「二度目は、あるのか?」と健司が
「しおりには、あれだけガッカリさせてしまったからな。」と誠司が
「二度目が、あれば、今度は3人で・・・」と言いながら、同じようにT大のキャンパスのベンチから話している健司が、公孫樹の先の雲を見上げっていた。
「お前もそうだろうけど、しおりとの子供が欲しいよ。」と健司が
「ああ、俺もだ。もし女子でも産まれたとしたらと考えるだけで、涎がでるぜ!」
「やっぱり、変態だな。それを通り越して、変質者だな。それにそんな事をしたら、犯罪者だぞ。俺達。」と健司が
「それと、しおりが若しかするとレズに目覚めたかもしれない。」と誠司が
「レズ?女同士て事か?」
「ああ、俺をハメた女、烏丸麗佳と言う女なんだが、烏丸家と東堂の旧家とは元々仲が良いらしいんだが、アパレル烏丸って知らないか?」と誠司が
「ああ、聞いたことがある。その辺のファション雑誌なんかに乗ってるよな。」
「しおりは、どうも、そこでモデルのアルバイトをしているらしくて、それで、麗佳に目を付けられているようだ。」
「そう言えば、先日、都内のビル広告で、男物のファッション姿のモデルを見た時、よく似てるなと思っていたんだが、しおりは宝塚の男役でも通るのか。」
「そんな関連で、しおりを通して、麗佳に俺たちの悪行が筒抜けに成っちまったらしいんだが。そのおかげで、俺は麗佳に酷い目にあわされたぞ。挙句に、幸子と強引に関係を持たされて。」
電話の向こうで、健司の笑い声がしていたが
「因果応報か。」
「そういわれりゃー其れまでだが。その根底には、俺たちのしおりへの深い愛情があるんだからな。」
「変態のな。」
「ふむ・・・まあ、そうだが。」
その後も、元々、二人だと仲が悪い双子の兄弟は、珍しく、長い電話をしていた。
そんな電話が終わったのを見はからって
「先輩、随分と長い電話でしたね。彼女さんとですか?」と声を掛けてきたのは、同じ研究室にいる後輩の芳山弥生であった。
「兄貴、と言っても、双子だから、同じ年だけどね、久しぶりに長電話をしてしまったよ。」と誠司が答えると、
「私、見ちゃいましたよ。京都駅で。最初、ドラマの撮影でもしているのかと思って、暫く見ていたら、誠司先輩で、あの和服の女性が妹さんなんですか?」と言った弥生の言葉が胸の傷を刺激したが、
「ああ、久しぶりに逢ったんで、お互いに一寸感情的になってしまった。そんなに目立っていたかな?」
「ええ、凄く絵になっていて、でもなんだか、はかなげなワンシーンと言ったところでしたけど、先輩ってシスコンですか?」と再び誠司の痛みを突いてきた弥生の言葉に
「ああ、変質的なシスコンだ・・・・。ははは、冗談だけど。」
「それで、観光の方はどうでしたか?」
「しおり、ああ、妹もとっても喜んでくれたよ。その説は、色々アドバイス、有難うな。何せ急な連絡だったものだから、俺、京都の観光名所なんて行ったことがなかったから助かったよ。」
「はは、それは良かった、私もアドバイスしたかいがありました。そのご褒美にと言うのは、厚かましいいのですが、一寸付き合って頂きたい所がありまして、女一人で行くには、少し気が引ける場所なんです、ああ、ジャズバーなんですけどね。」との弥生の誘いに、
「ああ、良いよ。で、何時?」
「じゃー、金曜の夕方からで。」誠司は、携帯の予定を見てから、OKした。
芳山家は代々、和歌の歌詠みとして知られており、先祖を辿ると、一休禅師の愛人として知られている、盲目の歌姫と言われた森盲女に行き着くらしかった。その歌姫の家系を持つ、弥生が何で理学部で生体高分子なんかの研究に興味を持っ様になったか、以前から、誠司は気に成っていたが聞けずじまいにいた。
誠司は、叔父からの要請が無い日は、大体、夜中近くまで研究室にいて、時には朝帰りの時もあった。寮生活が身についてしまっていた誠司だったが、四条の東堂家に世話になる様になってからは、それなりに気をつかっていた。そんな、日常を、押しかけ女房的に遣ってきた幸子に、管理されるはめと成っていた。
「金曜日は、後輩と飲むので、遅くなります。」と幸子に言うと、素直に
「ハイ。」と言ってから、
「その代わりに、土日は私とお付き合いください、神社参りをしますので・・・。」との言葉に、「何の?」と思っていたが「まさか、安産とかじゃないよな。」と独り言を飲み込み、脅迫のネタに使われている、妊娠騒動には触れないようにしていた。
そのバーは、大学から地下鉄を二駅ほど行った、祇園の近くに在った。誠司はその店に入った途端に奇妙な既視感(デジャヴ)に襲われた。日にちに寄っては、ライブ演奏もあり、其れなりの広さを持ったステージと、スタインウェイのピアノが置かれ、店内を流れるBGMはマッキントーンの真空管アンプで調音されているものらしかった。
弥生の希望で、カウンター席に座り、取り合えず、ウィスキーのロックと水割りを頼み、ナッツを摘みに飲み始めた。
「今日は、ライブが無い見たいで残念だね。」と誠司が弥生に声を掛けると
「そうですね、でも、このBGMだけでもいい感じです。先輩は、こう言う所は・・・・」
「ああ、ジャズバーは初めてだけど、普通のバーなら、何回か、健司、兄貴と行ったことがある。」
「私、ある小説の中で出てきたシーンで、気になっていて色々調べて、どうも此処がモデル見たいなので、何時か行ってみようかなと思っていたんですが、なかなか敷居が高くて、それに女一人だと、一寸入りずらいし。」
「確かに、貧乏学生には敷居が高いね。」と誠司が言うと弥生も顔をみて頷いた。
「ああ、この店そんなに高くはありませんから。」と言い訳ぽく弥生が言ってので、
「大丈夫、軍資金は貰ってきたから。」と誠司の言葉に安心したのか
「ええ、私も・・・」
「ところで、弥生ちゃんの家は、京都でも其れなりの旧家でしょ。」と言うと
「東堂家も随分と旧家ですよ。」
「あっそうか、僕は、鎌倉の東堂なんで、一寸実感がなかったんだけど、烏丸家て知ってる。元は呉服問屋だった。」
「ええ、今でも、呉服問屋をしてますが、東京でのアパレルの方が有名ですよね。」
「なんだか、四条の東堂とやけに仲が良いみたいなんで、其れなりの資料も読み込んでいるんだけど、複雑すぎて良く分からないんだ。」
「ああ、町屋衆の事ですか。」
「そうなのかな?」
「町屋衆は、歴史が古くて、でも、東堂家はどちらかと言えば、旧公家衆の方かと思いますけど、東京に遷都されて以来、その寄り合いは無くなってしまったので、町屋衆に入ったのでしょうね。」
「ふーん、そう言う背景か。」
「昔は、皇室から俸禄を頂けたみたいですが、いまではそんなことはないので、自分たちでどうにかしなければならないから、ある意味なりふり構わず、見たいな所がありますよね。」
「ううーん、なかなか奥が深いんだね。もう少し読み込まないと分からないな。」
「カラスマと何か有ったんですか?」
「ふふふ、恥を晒すようだが、そこの総代代理の烏丸麗佳に虐められているんだ。」
「虐められている?」
「何だか、目の敵にされているみたいで。」
「東堂家の誠司さんが? ああ、そう、ご存じかと思いますが、その人レズですよ。知る人はしってると言うか。」
「ああ、分かっている。その点は、別に気にしていないんだけどね、男に興味が無い方がこっちも楽でいいし。でも、女に興味があるのが困るんだな。どうも妹を狙ってるみたいで、ブラコンの僕としては、心配なんだ。」と冗談ぽく言うと
「そっちの噂は色々聞いてますね。何だか、お屋敷には、凄いお部屋があるとか。」
「ふむ、それは、拷問いや・・・・同性と過ごすための?」
「そうみたいですね。不思議の国のアリスみたいな部屋?」
「へー、そんな所に、妹を連れ込まれたら大変だな。うちの妹、カラスマでモデルのバイトやってる見たいで。」
「ああ、それは、危ないかも、知り合いでも何人か、そこに連れ込まれてから、違う快楽に目覚めてしまった人、知ってます。」
「ええ、ヤバいな!」
「ええ、ヤバイイ・・・」と言いかけながら、弥生はダウン寸前だった。誠司は、自分のペースで飲ませ過ぎたかと思い、少しずつ水を飲ませて酔いを醒まそうとしていたが、結局沈没した。
叔父に電話をいれてから、タクシーを拾って、四条の東堂に弥生を連れて行くと、幸子が客間に来客の支度をしてくれていた。ただ一言
「あのー、後輩が女性だとを聞いていませんでしたけど。」と愚痴を言われた。
翌朝、弥生は、自分の状況が分からないままでいると、幸子から着替えと、風呂を沸かしてあるからと勧められて、入浴を済まし、リビングに案内されて、状況が理解できたらしく、
「先輩、すみません、ご迷惑をおかけして。」誠司が、返事をしようとすると、幸子が
「弥生さんの物、洗濯しちゃってますから、暫く待って下さいね。」Tシャツにトレーナーとスエットを着た弥生に言ってから
「妻の幸子です。」と自己紹介した。
弥生は「え!」と言う顔をしたが、幸子が中座している時に、すかさづ
「先輩、何時結婚したんですか?」と聞かれ
「あくまで、内縁のだ・・・」と苦しい言い訳を、弥生にしていた。
誠司にとっては、ばつの悪い、弥生にとっては、五里霧中的な、幸子にとっては、してやったり的な状況で、朝食を取ってから、
「これから、主人とお宮参りに行く予定なのですが、良かったら、弥生さんも一緒に行きませんか?」と幸子が誘った。
「お宮参りて?」
「ええ、安産の!」と言われて再び「え!」と言う顔してから
「じゃー折角なので、ご一緒に。」と応答した。
「先輩、既に、おめでたなんですか?」
「いあやーまだ、分からないと思うのだけどな。まだ、一か月位先じゃないと。」
「いっ、Hしたんですか?」
「先週。」
「気が早いですね?」
「ああ、烏丸麗佳の策略だろう。」
「ああ・・・そう言う事ですか。」
初めは、金閣にでも行くのかと思っていたら、幸子は「わら天神宮」へと直行した。
「先輩、ここは、もろの安産祈願ですよ、何でも産まれてくる子供の性別までも分かるとか。」と弥生が解説してくれていたが、誠司には全く知見がなくぼーとしているだけであった。
「ここの、護符で判定を受けたら、もう確定事項に成っちゃいますよ。」と弥生に言われて、目が覚める様な思いで
「そんなに、霊験あらたかなのか?」
だが、護符の結果は「成らず」であった。落ち込む幸子を、弥生が慰めていて
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