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なんちゃってヒロインと奇跡の抜け殻2
しおりを挟む追い詰められたお姫様が悪漢に一矢報いる、そんな姿を彷彿とさせる突撃でとわの剣がゴブリンを貫く。
1匹目のゴブリンを倒したとわは不恰好ながら剣を振り次のゴブリンも多少の攻撃を受けながら倒す。
(攻撃されるのにはビビるのに痛み自体には耐えられるみたいなんだよな、一回攻撃受けちゃえば平気で倒してる、最初からビビらなきゃ無傷で倒せそうなのに)
禁煙棒を片手に見学していたかんなは不器用なとわの戦いっぷりに眉を潜める、する事なくて禁煙棒を齧ってばっかりいるからすっかり表面がザラザラになってしまった。
「えっと、かんなさん、怪我とかしませんでした?」
「私は大丈夫、自分を早く治しな」
「はーい」と言ってとわは手から白い蝶を飛ばして自分に当てていく。
回復魔法、蝶1匹では小さな傷しか治せないらしく複数の蝶を飛ばして傷を治す。
(とわ君は白魔道士だもんな、ゲームならパーティーに1人は欲しい職業だし、回復に専念した方が需要ありそうなのにな)
かんなが思っても口にしないのは戦える様になりたいとわの気持ちがよく分かったから。
「階段だね、これで次は3階か」
「ですね、3階層からは石投げゴブリンが出て大変なんです」
それは地味に嫌な敵だなとため息を吐くかんな。 ちなみに2階ではゴブリンの出る頻度が上がったくらいだった、かんなは数が多い時に少し間引いてあとはとわ君任せにしていた。
「ちょうどいいしお昼にしない?」
「そうですね、そうしましょう。 四鬼さんのお弁当なんですかね?」
「サンドイッチだったよ」
2人で地べたに座って端末からお弁当箱を選んで取り出す、このゲームじみた機能はかなり助かる。 開ける前からかんなは中身を知っていた、早い時間に目が覚めてお弁当作りを眺めていたから。
ハムとか卵だけじゃなくて、チキンとかエビアボカドとかもある豪華サンドイッチなのだ。
「わー、美味しそう!」
嬉しそうなとわ君の姿に目を細めるかんな。
「美味しくても泣かないでね」
「泣かないです! 昨日のは忘れてください」
忘れてくださいと言われても、ステーキが美味しいと泣く姿はこの先美味しいステーキを食べる度に思い出すんだろうなとかんなは苦笑う。
「わー、美味しいですね。 四鬼さん凄いですね」
「お、おう、そうだね」
サンドイッチを頬張るとわ君の純粋な笑顔に溶けてしまいそうだとかんなは体を反らし顔を隠す。
「えっと、そういえばかんなさんは格闘技とかしてたんですか?」
「・・・いや・・・喧嘩、してた」
かんなは横を向きながら小さく声に出す。
とわ君の様な子にはひかれるだろうか? そう思っても嘘をつこうとは思わなかった。
「えっと??」
何を言われたのか意味が飲み込めずにとわは首を傾げてハテナを飛ばす。
「・・・中学くらいからかな、私の住んでいた地域はガラが悪くてさ。 私はデカくて、人相も悪かったのかよく不良に絡まれたんだよ、でさ、私もイライラするから殴るじゃんか」
「???」
「そうするとさ、殴った奴の仲間とか、噂を聞いた奴とかまで絡んできてさ。 そうなるともう止まらないんだよな、私には敵ばっかりになった、何回も戦ったよ」
「??? ・・・えっと、何の話でしたっけ?」
「おーい! ちゃんと聞けよ! そっちが聞いたから!」
俯いていたかんなはとわの発言に驚きそっちを向いて、首を傾げキョトンとした表情を見て止まった。
「いや、悪かったな。 興味ない話して」
「えっ? えっと、興味ないとかじゃなくて何の話なのか分からなくて」
バタバタと両手を振るとわ君の姿にかんなはため息をついて禁煙棒を咥える。
「とわ君には分からない世界の話なのかもな。 私の周りは不良漫画の中みたいな世界だったんだ、そんな風に言われても分からないか」
「えっと、高校生が喧嘩する漫画ですよね、それは分かるんですけど。 かんなさんみたいな女の人も戦うんですね」
「あっ!」
「?」
驚いたかんなは口から棒を落として気まずそうに頭をかく。
「ごめん、そういえば言ってなかったもんね。 私、元々は男だったんだよ。 あはは、女だって思ってたらそりゃ混乱するよね」
「えっと? ???」
首を傾げるとわ君の頭がどんどん下がっていて地面につきそうになるからかんなが慌てて手で押さえる。
「そう言われても困るよな。 私はもう戦いたくなかったから、代わりに女の子にしてもらったんだ」
「戦いたくない? えっと、女の子に、なりたかったんですか?」
「うーん、というより、自分じゃないものになりたかったのかな。 喧嘩ばっかでさ、凄い怖がられててさ、友達とか私の周りには誰もいなかったんだ」
目を細めて作るかんなの笑い顔はとわには空っぽに見えて「不良漫画だとさ、強い主人公の周りには友達とか仲間とか集まってくるのにな」そう言って笑う少女からは寂しさが溢れていて。
「僕で良ければ友達になります!」
とわが言いたいと思ったその言葉は出てこない。 偉そうじゃないだろうか、かんなさんは僕と友達になんてなりたくないんじゃないか、そんな不安が口を重くする。
『そっか、同じ病気なんだ。 ・・・私達は戦友だね、よろしく』
だけど、そう伸ばされた細い手がとわにはあったから。 それがどんなに心をあったかくしてくれたか憶えてる。
彼にはいつだって背中を押してくれる光があるから。
「えっと! 僕はいつでも友達ウェルカムですから!」
「お、おい!」
とわが急に立ち上がると足に乗ってるサンドイッチが、かんなは手を伸ばして落下するお弁当箱をキャッチする。
「ん?」
言われた言葉の意味をかんなの頭が捉えて、立ち上がったとわ君を見上げる。 そこには恥ずかしそうに赤くなる顔があって、笑ってしまう。
「くはは、あはははっ」
「えっと、ふふふふ」
つられたとわ君と2人で笑う結果になって、照れながらかんなは弁当箱をとわに返す。
「あー、・・・私は友達付き合いとかよく分かんないから。 まずはご飯行くところとかから始めて貰えたら嬉しいかな」
そっぽを向いて、自分の髪を撫でながら言うかんなの姿にとわはもう一度笑う。
「ふふ、いいですね。 僕食べたい物いっぱいあるんです!」
「・・・美味しくても泣くなよな」
「だから、泣かないですって!」
「・・・食べたいのってどんなの?」
「えっと、パフェ、とか?」
「・・・お、おう」
なんだか気恥ずかしくて、唇を尖らせるかんなは気付かれないように小さく小さく笑った。
3階層では確かに石を投げるゴブリンが現れた、今までのゴブリンより気持ち小柄なのに腕が長いゴブリンがその長い腕を大きく使って石を投げてくる。
「邪魔だな、ノーマルは無視して先に石投げから倒した方が良さそう」
かんなはそう提案したがとわ君は足が遅い、石投げゴブリンに辿り着くまでに何度も石をぶつけられるしナイフ持ちのゴブリンには囲まれるしで、結局石持ちゴブリンはかんなが処理する事にした。
走るとわ君があまりにも前に進まないから、彼の足元に地面が動く罠でもあるのかとかんなは何度も確認してしまった。
「すいません、僕足引っ張って」
荒く息を繰り返しながら自分に回復魔法をかけるとわを壁に寄りかかって待つかんな。
「いや、別にいいよ。 私のはどうせ暇つぶしだし」
ただとわ君の身体能力が思ったより低いなってかんなは思う。
(ステータスの補正ってそんなでもないのかな?)
そういえば、この世界はステータスで全部の能力が決まる訳じゃないんだったかと思い出す。
数字には出来ないその人の元々の身体能力、生前の身体を元にしたものがあって、そこにステータスの数値を追加してる。 例えばステータスが全部0でも生前と同等には身体を動かせる訳だから戦おうと思えば戦える。
(元々あんまり運動得意じゃなかったのかな?)
そんな事を考えながらとわ君を見ていたかんなはふと気付く。
「ねー、とわ君ってそもそも魔法職じゃないの?」
「え? えっと、確かに一番ステータスで高いのは魔力ですけど」
やっぱりそうだよな、と身を乗り出すかんな。
「そしたら魔法で攻撃出来ないの?」
「えっと、これくらいだったら。 ・・・フレア」
短い集中の後にとわ君の手の平の上を飛んでいたのは火で出来た鳥、ちょうど一般的な折り紙で作った折り鶴サイズの火の鳥だった。
「お、おーー、これが魔法! 小さいけどこれは爆発したりするの?」
「えっ? えーと、熱いだけかな? 出した後も頑張ると好きに動かせるんですよ?」
そう言うとわ君の言葉通りにふらふらと飛ぶ火の鳥は高さを変えながらゆっくりとかんなの周りを飛ぶ。
(あれ? これで魔法職?)
思わず言葉を失ったかんなだったが意外とこの火の鳥は役立った。
とわ君は意外と器用で、この火の鳥を同時に3つまで飛ばしながら今まで通りに動く事が出来たのだ。
ゴブリンに当てても大したダメージは与えられないし消えてしまう火の鳥だが、怯ませる事は出来る。 火の鳥で牽制しながら剣で戦う事でとわはゴブリン3体までなら無傷で倒せる様になっていた。
「ふー、石投げゴブリンがいなければ僕1人でも安定してきましたね」
「うん、そうだね。 2階層までなら1人でも大丈夫そうだね」
(これなら明日からとわ君1人でダンジョンに潜っても平気そうかな)
禁煙棒を咥えながらかんなは1人考え込む。
とわ君の言葉は嬉しかったけど、やっぱり自分は1人でいるべきと思うから。
とわ君がどれだけ経験を積めば自分との差はなくなるんだろうか、そんな風に考えてしまうから。
「えっと、疲れましたね? 帰りましょうか」
「うん、そうだね。 少しお腹空いたしね」
「そうですね。 今日の夕御飯何ですかね?」
「うーん、私は今日焼き鳥気分」
「焼き鳥ですか、いいですね。 僕んち、お母さんの作る焼き鳥美味しかったです、長ネギじゃなくて玉ねぎの」
「そーなんだ。 お母さん料理美味しかったんだ」
「えっと、・・・きっと、そうだったと思います」
「・・・」
思い出すと悲しくなっちゃうよなと、2人で上を見上げて歩いた。
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