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羞恥の食事

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「僕の手から直接食べるなんて、マナーを忘れちゃったのかな?雛鳥みたいで可愛いね。」

カテリーナが素直に自分の手から直接食事を口にした事に、フィリップは少し驚きながらも嬉しそうな顔をした。

もちろん完璧な淑女であるカテリーナのマナー違反を指摘して、それが恥ずかしい行為であると思い出させる事も忘れない。

「…手を縛ったのはフィリップ殿下ではありませんか。」

カテリーナはフィリップの指摘にさっと顔を赤らめながら答える。

「それだって元を辿れば、カテリーナが僕の言う事を聞かなかった罰なんだから。まぁ、食事は僕が責任持って食べさせてあげるから、安心して。その代わり、カテリーナもちゃんとお願いをしないとダメだよ。」

元を辿れば、フィリップがカテリーナをこんな所に連れて来たのが元凶に間違いはないのだが、カテリーナの思考は既に少しずつフィリップに犯されていた。

私が反抗したから、手を縛られているんだわ…。

それは、反抗さえしなければ…フィリップの言う通りにさえすれば、酷い事はされないと、ある意味フィリップの思惑通りに変換されてカテリーナの思考に染み込んで行った。

「お願い…とは?」

自分に何をしろと言っているのだろうか…?

カテリーナはこれまで信じられない行為を沢山されて来たので、フィリップの言うお願いが、自分の想像の範囲の事かを計りかねた。

だからフィリップの返答を聞いて、ほっと安堵の溜息を吐いたのだ。

「ん?普通に何が食べたいかを僕に伝えて、お願いしますと口にしてくれればいい。」

そんな事なら簡単だ。

先程までの行為に比べれば、全く抵抗を覚えない行為だった。

でも、カテリーナは気付いていない。
これがその後続く彼女の性教育の一環だと言う事に。

自らの願望を素直に口にすれば、叶えて貰える事。
望みが叶う快楽と共に、その快楽を与えられるのは目の前にいるフィリップだけだと、カテリーナの思考は新しい刷り込みを与えられようとしていた。

「わかりました。…では、まずお水を飲ませていただけますか?お願いします。」

疑いなど持たないカテリーナは、喉の渇きを癒すためにフィリップに素直にお願いをした。

フィリップは嬉しそうに笑うが、何がそんなに嬉しいのかカテリーナには今ひとつ分からなかった。

お願い事をされるのがそんなに嬉しいのかしら…?

「カテリーナは素直ないい子だね。」

フィリップは先程から褒める時はそうする様に、カテリーナの頭を優しく撫でた。

カテリーナはその手の感覚を確認する様に目を閉じ、うっとりとした表情を浮かべたが、きっと彼女自身は気付いていないだろう。
それに気付いたフィリップだけが、ニヤリと笑みを深めた。

フィリップはテーブルに用意されたグラスから、カテリーナの希望通り、水を手に取り、自らの口に含んだ。

「あの…」

私に飲ませて下さるのでは…?とカテリーナが思ったのは一瞬の事で、すぐに先程の情事の前に口移しで水を飲まされた事を思い出した。

そして、思い出した時にはフィリップの唇が自分のそれに重なっていた。

「ん…んっ…」

流れ込んでくる水を必死に飲み、カテリーナはこの後に待っているであろう濃厚な口付けを想像して少し身構えた。

しかし、カテリーナの想像に反して、水を全てカテリーナに移し終わったフィリップの唇はすぐに離れてしまったのだ。

「さぁ、次は?何が食べたい?」

あまりにも普通の態度のフィリップに、カテリーナは水を飲むことと、あの濃厚なキスがセットであるかのように考えていた自分が恥ずかしくなった。

「どうしたの?あっ、もしかしてキスもして欲しかった?それならちゃんとお願いしないと。」

フィリップの態度は完全にカテリーナの様子を面白がっているが、キスを待っていた事を見抜かれたカテリーナは恥ずかしさでそれどころではない。

「ち…違います。次はポタージュを飲ませて下さい。」

カテリーナは慌ててテーブルに視線を走らせると、一番に目に付いたポタージュを飲ませて貰えるように新たなお願いをした。

テーブルの上にはパンやサラダ、ポタージュと少しの卵料理が並んでおり、どちらかと言うと朝食の品揃えだった。

今が朝食を食べる時間帯という事なのか、カテリーナが寝起きだからなのかは、外の気配を感じないこの部屋ではわからない。

「カテリーナ、お願いしますを忘れているよ。」

フィリップが優しく指摘すると、カテリーナは先程のキスの話題が流れた事に安心感を深めた。

「申し訳ありません。ポタージュを飲ませていただけますか?お願いします。」

カテリーナが最後まで言うのをしっかり聞いてから、フィリップはテーブル上のパンを掴み小さくちぎると、それをポタージュに沈めてからカテリーナの前に差し出した。

「どうぞ。」

フィリップに笑顔で促されるが、先程彼の手から直接食事を口にした事をマナー違反だと指摘されたばかりである。

カテリーナが迷っているうちに、パンに染み込んだスープがフィリップの指へと染み出て来ている。

「カテリーナ、指が汚れてしまうから、早く食べて。」

そう言われれば、食べない訳にはいかない。
ポタージュを食べたいと希望したのは自分で、フィリップは望みを叶えてくれているのだから。

意を決して、パクりとパンを口にすると、まだ温かいポタージュの旨味がジワリと口の中に広がった。

その優しい味に、カテリーナの頬が自然と緩んでいた。

「カテリーナ、まだだよ。僕の指にポタージュが残っている。」

フィリップがカテリーナの口元に自身の指を差し出すので、カテリーナは困惑した。

フィリップは舐めとれと言っているのだろう。でも、そんなはしたない行為が許されるはずがない。

「ですが…。」

カテリーナの手が動いたならば、彼女はテーブルの上のナフキンに手を伸ばし、フィリップの指を丁寧に拭った事だろう。
でも、今はそれが許されていない。

「カテリーナが汚したんだから、カテリーナが綺麗にしなくちゃ。」

そんな当たり前の事、言わなくてもわかるよね?とフィリップが言えば、カテリーナには選択肢など残されて居なかった。

カテリーナはそっと舌を出し、フィリップのポタージュで濡れた指をそっと舐めた。
全てのポタージュを舐め取るように、何度も何度もフィリップの指に舌を這わせる。

恥ずかしい…こんな行為…まるで…。

「犬みたいだね。僕の指が好きで堪らないって何度も舐め回す犬みたいだ。」

まさに自分が考えてた事をフィリップの口から指摘され、カテリーナは恥ずかしさから顔を真っ赤にした。

フィリップはカテリーナのそんな様子を満足そうに眺めている。

「さぁ、ポタージュはまだ残っているよ。もっとお食べ。」

カテリーナが食べたい物を指定するという当初のルールはどこに行ったのか…、カテリーナはその後、フィリップの手からポタージュの浸されたパンを食べ、自らの舌でフィリップの指を清める行為を何度となく繰り返した。

その羞恥に満ちた行為と、自分の欲を満たす為に与えられる温かいポタージュ、そしてご褒美の様に与えられるフィリップからの優しい言葉と頭を撫でてくれる温かい手に、いつしかカテリーナはずっとこうして居たい様な気がした。

「さぁ、これで最後だよ。」

事実、フィリップがテーブルの上のパンが空っぽになっているのを見せながらそう言った時に、カテリーナは少し残念な気持ちになったのだ。

カテリーナがパンを口に含もうとした時に、ポタージュが一雫、ポタリと垂れた。

カテリーナがフィリップの指に残るポタージュを舐めとっていると、フィリップがカテリーナを窘める様に声をあげた。

「こっちも綺麗にしてくれ。」

こっち…とは?

カテリーナがそちらに顔を向ければ、先程零れたポタージュがフィリップの胸元…丁度、バスローブのはだけたその位置に付着していた。

「…あの…でも…」

指を舐める事と、彼の身体に直接舌を沿わす事は、カテリーナにとって全く別の行為に思えた。

「誰のせいで汚れたのかな?」

先程まであんなに優しく、何度も頭を撫でてくれたフィリップが、怒った様にこちらを見ている。

「…私…です。申し訳ございません。…すぐに綺麗にします。」

カテリーナはそう言うと、フィリップの胸元にそっと舌を沿わせた。
羞恥で顔中に熱が集まるのを感じる。

何とか全て舐め取り、顔を離そうとすると、フィリップが不機嫌な声を上げた。

「まだ汚れてる。」

「そんな事は…」

「ふーん、自分が汚したくせに?」

カテリーナの言い分を聞く気もないフィリップに、彼が怒っているのだと分かると、カテリーナは先程よりも必死にフィリップの胸元を舐めた。

もうポタージュの味などするはずもなく、カテリーナはフィリップの香りと彼の温もりで、何故だかお酒でも舐めとっているかの様な…酔いの回った様な錯覚を覚えた。

ペロペロと一心不乱に自分を舐め回すカテリーナを、フィリップは眺めていた。

自分がカテリーナに様々な行為をする事は簡単だ。
でも、カテリーナが自分に…と言うのはまた違う話だとフィリップは理解していた。

フィリップは自分の胸元に顔を寄せる愛おしい婚約者にこれ以上ない程優しい笑顔を向けた。

「よく出来たね、カテリーナ。」

そう言って彼女の頭を撫でれば、カテリーナは無防備とも言える安心しきった笑顔を見せた。

そう、全てがフィリップの計画通りに。
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