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本編

7-3 ウォルター side

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やっぱり…。

何かしらの罠ではないかと心の何処かで想定していた俺は、自分の馬鹿さ加減に呆れた。

あの夜会の日は、本当に散々だった。
エリオット殿下とサラサの仲を見せ付けられ、周りの奴らは口々にお似合いだと褒めそやしていたのは全く面白くなかったし、エリオット殿下から直接釘を刺されたのは最悪だった。
そして、何よりもエリオット殿下に言いように言われ放題の俺を、サラサが見ていたと言うのも残酷だと思った。

俺が何とかサラサに近付ける隙を狙っている事が、エリオット殿下にはお見通しと言う様子だった。

それから、夜会の会場に一向に戻って来ない2人を探している間は、ジリジリと首を絞められる様な焦燥感に襲われ続けていた。

2人がどこで何をしているか、なんて想像したくもない。

それでも2人の姿を確認するまで帰れるはずもなく、普段なら序盤で退場する夜会の終盤まで居座ってしまって、結局2人は最後まで戻って来ないわ、皇太子殿下には苦笑されるわで、本当に踏んだり蹴ったりだった。

そんな最悪の夜会の後だったから…だ。
サラサの名で届いた手紙を疑いながらも、信じることにしたのは。

『2人きりで会いたいです。人に見られるとまずいので…この場所まで来て下さい。 サラサ』

そこに指定されていた店が、愛人との逢引に使われる店だと言う知識は持っていた。
書き添えられている部屋番号からも、レストランで食事をする訳ではないのだろう。

サラサらしくない場所の指定だとは思ったが、あの夜会以降、エリオット殿下の婚約者として認識されているサラサと会う…と言う事を考えると、確かにあの店の様な密室で会うのがいいのだろうと自分の中で納得した。

何よりも、その様な密室で人知れず俺に伝えたい事がある…と言われれば、自分の都合の良い方に考えない男は居ないだろう。

そうは言っても、全く疑わなかった訳ではない。

想定されるのは、この呼び出しがエリオット殿下の策である可能性。
待ち合わせ場所に向かった俺に、自分の婚約者と2人で会おうとした罪を声高に唱え、糾弾されるなど、目も当てられない。

そんな最悪のパターンを想定してたからだ…。
呼び出された店の2階の部屋で、彼女の姿を見た時に心底嬉しくなって、疑う事を一切やめた。

今考えると、自分の馬鹿さ加減に溜息が出る。

部屋の中にいた彼女は今にも泣きそうな顔で、でも一言も言葉を発することは無かった。

いや、喋ればバレると思って、発せなかったんだろうけど…。

そんな彼女の様子を、サラサからは言い出し辛いんだろうと、自分の都合の良いように解釈した。

「ねぇ、こんな所に呼び出したって事は、俺と同じ気持ちだって思っていいの?…黙ってないで何か言いなよ。」

早く彼女の気持ちを確かめたくて、早く彼女に触れたくて、返事も待たずにグッと彼女を抱き寄せた。

ゆっくりと彼女の腕が自分の背中に回るのを確認して、思いが通じ合ったんだって思った途端に、少し離れた扉の辺りから、彼女サラサの俺を呼ぶ声が聞こえたんだ。

慌ててそちらを向けば、そこにはサラサが、あの幼馴染に支えられながら、こちらを信じられないと言う目で見ていた。

そこに至って、ようやく俺は自分の馬鹿さ加減に気付いた。
今抱き締めている、この女がサラサじゃなくて妹の方だって。

2回も同じ手食らうとか…どれだけ浮かれてたんだよ。。。

慌てて妹を引き離せば、俺が喋り出すより先に、カイル ブルーエンがズカズカと俺に近付き胸倉を掴んで来た。

「お前、どう言うつもりだ!サラサが無理だから、次はテレサに手を出したのか?ふざけるなっ!」

つくづく公爵に対する態度のなってない奴だとは思うけど、言っている事には概ね同意だ。
主にふざけるなって部分が。 

「ちょっと!何でカイルがここに来るのよ!」

目の前で声を上げた女を見て、こいつがサラサじゃないと確信する。

「手、離して。別に妹の方に手を出すつもりは一切ない。ここにもサラサの名前で呼び出されたし…。」

「は…?」

理解力乏しいのかよ。
妹に嵌められたって言ってんの。
でも、別に幼馴染君に説明する義理はない。

未だに扉の辺りから一歩も動かずに、涙ぐんでいるサラサを見れば、変な誤解をさせて申し訳ない気持ちと一緒に、何で俺が妹と抱き合っているのを見て、そんなに傷付いた顔してるの?って期待が湧いて来る。

半ば強引に、幼馴染君の手を振り払って、サラサの元まで歩みを進めると、彼女はビクリとして後退った。

「逃げないで。俺の話を聞きて。弁解と…謝罪をさせて欲しいんだ。」

「何の弁解と謝罪ですか…?」

やっとサラサの声が聞けたと言うのに、その声には明らかな拒否の色が浮かんでいる。

「君の妹に、君の名前でここに呼び出された。一言も話さないから…ごめん、見分けが付かなかったんだ。でも、君だと思ったから抱き締めた。君だと思ったから、触れたいと思ったんだ…。」

振られた男が、振った女に何の弁解をしているのか。
普通であれば馬鹿もいいところではあるが、サラサの傷付いた表情には、明らかに嫉妬の気持ちが混ざっていた。

これだけ騙されて、なお期待している俺は、サラサの事になれば本当に馬鹿だと思う。

「嘘よ。公爵様はサラサに振られたから、私に迫ったの。サラサも王子様と結婚するなら公爵様は用済みでしょ?なら、私に譲ってよ。いいでしょ?いつも譲ってくれるじゃない。」

「テレサ、お前…何言ってるんだよ!」

後方から妹と幼馴染君の声が聞こえて来て、思わず振り返る。

馬鹿そうだ、馬鹿そうだとは思ってたけど、本気で馬鹿なのか、あの妹。
誰が、あんな馬鹿に迫ったって…?
嘘も大概にしろ。

あいつの馬鹿は何処かに頭を打ち付ければ治るだろうか…。
いや、馬鹿は治らなくても、別にどうでもいい。今だけ黙らせられれば十分だ。

どう処分しようかと、妹に数歩歩み寄った所で、またしても背中の方から声が上がった。
今度はサラサの声だ。

「ダメ!…ウォルター様だけは絶対にダメ。他の物なら何でもあげるわ。でも、ウォルター様だけは取らないでっ!」

涙まじりのサラサの叫びに、目の前の馬鹿の事など心底どうでも良くなる。

「サラサ!今のはどういう意味か、ちゃんと聞かせて。」

今来た数歩を早足にサラサの元に引き返して、居ても立っても居られずに、彼女を抱き寄せた。

「ウォルター様…。」

「また俺が都合良く勘違いをしているのかもしれないから…君の気持ちをちゃんと聞かせて欲しい。」

腕の中に収まるサラサがその頬を赤く染めている。

「ウォルター様…好き…です。」

可愛過ぎて、どうにかなりそうだ。

「サラサ。俺も君が好きだ。愛している。」

腕の中で恥ずかしげに下を向くサラサの真っ赤な顔を持ち上げ、そのまま唇を奪う。

彼女に関する事は、どうしてこんなに感情が抑えられないのだろう。
今も彼女が驚いているのも構わず、角度を変えて何度も唇を堪能してしまっている。

「イチャつくのは、せめて私達が出て行ってからにしてよ。」

呆れたようにこちらを見る妹の声で我に返ると、隣に立つカイル ブルーエンも目を見開いてこちらを見ていた。
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