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下町デート

幼なじみ

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アルバート様には咄嗟についた嘘。
お忍びで領地に行ったことなんて無い。
ほぼ家で隔離されていた私は、なぜ淑女の鏡なんていう噂を流されているかも謎なのだが、このポテトに関しては前世の記憶により嬉しくなります屋台に近付いたのだ。
買った後に気づいた。

これダメなんじゃ無いか?公爵家として。

と思ったから、アルバート様も巻き込むことにした。アルバート様は大概気に入ったのかすぐに海苔塩を買われてパクパク食べていた。一時食べているとふと幼なじみを思い出した。高校の授業終わりに、よく寄り道をして二人でポテトだけを食べに行ったものだ。
お互いに恋人ができても四人で行ったりカップルに混じって、行ったものだ。
そういえば結婚するっていってたなあ。元気かなあ。

と考えていたら急にアルバート様に引き寄せられた。
びっくりして、ポテトを持ったまま抱きしめられる。

「私はどこにも行きませんわ。安心されてください。」

前世に戻れるものなら戻りたいが九年間ここで生きて、イケメンの顔を拝みながら過ごす日々も悪く無いと思い始めている。お酒を全種類堪能して、帰れる方法を探していくのも良いかもしれない。
それほどこの国は過ごしやすくアルバート様の隣を歩くのも気持ちが良いものなのだ。

ぎゅーと抱きしめられる。ポテトを間に挟んでいたので、油だけはアルバート様につかないように自分に引き寄せ続けていた。


数日が経ち、暑さもより険しくなり始めた頃に、お家にお手紙と袋包みが届いた。
なんだろう?私宛みたいだが。

「お嬢様、私があけましょうか?中身は安心できるものですよ。なんたってアルバート様からです。」

わかってるわよ。
でもこんなイベント無かったはずだ。

アナスタシアが主人公では無いためこんなシーンわからない!っていうのは当たり前かもしれないけど、アルバート様から頂いたというマウントシーンはなかった。しかも大きい袋包み。
主人公をいじめるときにきっとアナスタシアならいうはず。

たとえ中身が庶民風の洋服だとしても。
なぜ中身が庶民風の服なの???

シャネットも不思議なのか首を傾げていた。
も、もしかして私が前世にいたのを気づいてアナスタシア様にはこれがお似合いです!っていうことで送ってきたのかしら…
いや、バレていないわ。ボロは確かに何回か出ているがアルバート様には気付かれていないはずだもの。

手紙の中にはこう書かれていた
《親愛なるアナスタシア様
急で申し訳ないがデートをしたい。集合場所は×××時間は○○○で良いだろうか?もし不都合があれば精霊を飛ばしてください。
よければ明日決行させていただく。

アナスタシア様のこと何があってもお守りします。》

「はあーーー」

シャネットの深いため息とともに私は力が抜けてしまった。
仮に王のアルバート様とデート…しかも、こないだのような遊園地ならまだしも、今回は下町である。集合場所は私のお屋敷付近の公園である。
…ゲームには無かった気がする…
そもそもアナスタシアが下町に行くなんて考えられない。たとえアルバート様からのお誘いでも、そんな汚いところに行くはずないわ!っといって一蹴するはずだから。

「どうされますか?」

シャネットが困り顔で私に委ねてくる。
手紙の続きにはこう書いてあった。
《きっとアナスタシア様のことだから嫌な顔して行きたくないと言われるのがわかっています。なので言わせてください。これは王命令です。何かよほどの理由がない限りお断りは許しません。》

「行くしかないじゃない…」

私は本でしか下町を拝見したことがない。
父の領地内分だけだ。
多分アルバート様が行きたいところは繁華街。サナバート様が、主人公とのデートに行くところの一つに繁華街デートがある。
きっとそこだろうと踏んでいる。

「シャネットも後ろから尾行していきますので安心されてください。良い雰囲気になれば立ち去りますので。」

「最後の台詞は必要ないんじゃないかしら?」

「いいえ、男たるもの、良い雰囲気にしていかなければアルバート様は男ではありません。私の大事なお嬢様をお誘いするのですから。腑抜けの引導をお渡しします」

真顔のシャネットの顔がグイッと近づいてきた。何もいえなくなるじゃないの。
あはははと笑い、顔を逸らす。

アルバート様と良い雰囲気になったら私の心臓爆発するんじゃないかしら。
私のどタイプのあの顔が近づいてくる、という想像だけで鼻血出てきそう。
顔が赤くなって行く。
シャネットの雪の魔法で私の熱は覚めていった。

明日…楽しみだな…
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