この世界の物語

霜咲

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大人

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梅雨の時期は嫌いだ。
雨が降ると思い出す。傘をさす音、雨が屋根を叩く音、幸せだったあの時。



君と会えるまでの時間が長く感じて早送りしたいと何度も思った。
話してる時はずっとこの時が続けばいいと思った。
隣で眠る君を見て急に寂しくなってそっと同じ布団に入ろうか、邪魔にならないかと考えて一人で静かに泣いてたら何も言わずに同じ布団に来てそっと抱きしめてくれた。





雨は嫌いだ。
ずっと心の中で耐えたものが僕の体を蝕んでいつか臓器が苦しみの色で染まるんじゃないかと考えてしまう。





苦しいと話せば自分が分からなくなり、死にたいと話せば無責任な正義感を押し付けられる。




いっそ殺してくれればいいのに
そう何度も思った




大人なら周りの人への配慮をしなさい。
大人なら空気を読みなさい。
大人なら、大人なら。



口を揃えて言うその言葉は呪いのような力を持っていて、僕の頭の中に彷徨い続ける。
大人ってなんだろう、いつから子供は大人になるんだろう。






就職して君と出会って全てが変わってしまった。






君は何を伝えたかったのかな
「愛してる。強く生きてね」
この言葉が頭によぎる。







君の体に繋がった管、真っ白な部屋に響く雨と機械のゆっくりとした音。










「もう長くないのは私が一番分かってる。ごめんね、君ともっと居たいけど神様は許してくれないみたい」











嫌だ…僕には君しか居ない。君は僕の全てなんだ。君を失ったら生きていけない。







そんなこと言えるわけもない。そっと隣にいて泣かないように、最後の最後まで心配させないようにと精一杯笑顔を作った。









「大丈夫、君なら大丈夫だよ。私がいなくなっても変わらない日々を送ってね。ちゃんとご飯食べて、部屋も掃除して、ゴミ出しも忘れちゃダメだよ?」







そう言いながら震える僕の手をそっと繋いだ君は誰よりも強く、冷たい手をしていた。








「ちょっと眠くなってきた…少しだけ寝るね。目が覚めたとき君が近くにいてくれたら嬉しいなぁ」











機械音が止まり、体から管が外された。
雨だけが響いた。








………………










あれから3ヶ月の月日が経った。

今の僕を見たら君は怒るかな。
部屋は綺麗にしてるよ、ゴミもちゃんと出してるし忙しくない時はちゃんとご飯も食べてる。

でも君との思い出を忘れられるわけもなくて。
君を何度も思い出しては泣いた。
その度お酒に頼って自分を誤魔化した。






そろそろお酒自重したら?飲み過ぎだよ。大人なら自分の体を大切にして。体が資本だよ。
君は脳がアルコール依存でおかしくなってる。もう入院した方がいいよ、幻覚とか見えてるんじゃない?







君のいるはずの僕の隣には白衣を着た子供がいて、
心配そうな顔をした親と、呆れた顔をした大人がいた。



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