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第3章 惑星マーカス編
5. 回復魔法
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<< 先生、合格ですか? >>
「えっ、そっ、そうですね。けっ、結果は後ほどお知らせします。」
そう言い残すとトスパさんは急いで練習場を出て行った。どうしよう。ここで待っていても仕方が無いからギルドの建物に戻るか。ギルドの建物に戻ると受付カウンターにいたアンジェラさんが話しかけてくる。
「トモミさんどうでしたか?」
<< 試験は終わったのですが、結果は後ほどと言われました。>>
アンジェラさんは怪訝そうな顔だ。たぶん今まではその場で判定が出て居たんだろうな。そんなことを考えていると誰かがアンジェラさんを呼びに来た。緊急の会議だそうだ。いやな予感しかしない...。仕方ないのでギルドのレストランでコトラルさんアルトくんとお茶をしながら待つことにする。
しばらくするとトスパさんが呼びに来た。後について応接室の様な部屋に入る。アンジェラさんも一緒だ。
「それでは昇格試験の結果をお伝えします。トモミさんは1階級昇格しEクラスに上がりました。おめでとうございます。」
「1階級だけですか?」
「ああ、的が吹き飛んだ件ですか? うぬぼれてはいけません。あれはあなたの実力ではなく的が度重なる使用によって経年劣化していたためです。検討の結果そういう結論になりました。そうに決まっています。」
なるほど、そうなったか。まあいい、私の魔法の威力が規格外だと知れるよりその方がこちらとしても好都合だ。昇級試験はダンジョンの町の支部で受け直せばいいしね。
<< 分かりました。ご説明ありがとうございます。私もおかしいなと思っていたんです。>>
「分かってもらえてなりよりです。それではこちらがクラスを修正した冒険者証になります。」
冒険者証をうけとり、その後薬草採取時にトラを討伐したことを伝えて驚かれる。獲物の処理場で収納魔法からトラを出すと、頭部がきれいに吹き飛ばされていることに更に驚かれた。トラ退治の報奨金5,000ギニーと皮と肉の買い取りで2,000ギニー合わせて7,000ギニーを受け取り、コトラルさん、アルトくんと合流してギルドを後にしようとしたところで声を掛けられた。
「おい嬢ちゃん、昇級試験で的を吹き飛ばしたんだってな。悪いことは言わねえ、こいつらと組んでも後悔するだけだぜ。このギルドで有名なへなちょこコンビだ。冒険者になってから半年も経つのにまだFから上がれないんだ。こんな奴らは放って置いて俺達のチームに加わりな後悔はさせないぜ。」
振り向くと30歳くらいの軽薄そうな男が私に話しかけてくる。こんなデリカシーの無いやつは好きになれない。目の前のふたりは悔しそうな顔をしているが言い返せない様だ。
「申し訳ありませんが、彼らとチームを作る話をしているのでご遠慮いただけますか。」
「なんだと! 瞬殺の暴風のトムさんが誘ってやってるのにその態度はなんだ!」
トムさんは切れやすい人だったらしく、いきなり私の胸倉をつかもうとしてきた。もちろん前もって防御結界を張ってあるので彼の指は結界に弾かれ私の身体には届かない。
「うぐっ!」
トムさんは指を痛めたらしく一瞬顔をしかめたが、次の瞬間痛めた指で拳を作り私の顔をめがけ殴りかかって来た。グシャ! と鈍い音がする。
「うわぁぁぁ~」
突然のトムさんの叫びに周りの人達が注目する。もちろん彼の拳は私には当たっていない。それどころか音からして手の骨を骨折したのじゃないだろうか。そりゃ痛いよね。当のトムさんは痛めた手を抱えたままうずくまってしまった。よほど痛いのだろう顔中に脂汗を書いている。
「いきなり女性に殴り掛かるなんて、紳士として恥ずかしいですよ。」
と言いながら、私は彼に杖を向け回復魔法で拳を治療してあげた。いきなり痛みが消え去ったからかトムさんは手を握ったり開いたりを繰り返していたが、そのうち恐ろしいものでも見た様に私をにらんだ。
「覚えてろよ!」
とどこかで聞いたようなセリフを残しトムさんはあわてて出て行った。もちろんあんな失礼な奴のチームに入る気はない。さて話の続きをと思ってコトラルさんとアルト君の方を向きなすと、ふたりとも唖然とした顔をしている。
「あの~、トモミさんはいったい何者なんですか? トムは嫌な奴ですけどそれでもBクラスの冒険者です。それを簡単にあしらうなんて。」
「偶然うまく行っただけですよ。」
たまたま防御結界がうまく働いただけですと誤魔化すが。納得してくれただろうか。その後、しばらく歩きコトラルさんとアルトくんは町外れにある小さな家の前で止まった。
「ここが私たちの家です、どうぞ中にお入りください。今は母と姉がいるはずです。」
中に入ると20歳ちょっとくらいの女性がテーブルの椅子に腰掛けていた。多分この人がお姉さんかな。
「姉さん、この人はトモミさん。母さんの目を直してくれるんだ。」
とアルトくんが紹介してくれる。
「初めまして、トモミと言います。回復魔法が得意なのでお役に立てるかも知れません。」
「あの、わが家は貧乏なので治療費は払えませんよ。」
お姉さんが胡散臭そうな目で言って来る。
「お代は結構です。私はコトラルさんとアルトさんの友達ですから。」
「友達って、あなたのことは聞いたことが無いのだけどいつ知り合ったのかしら?」
「今日アルトと薬草を探しに行ったときにトラに襲われたのを助けてもらったの。」
「トラに襲われたって!!! よく無事だったわね。」
「大丈夫、トモミちゃんが退治してくれたから」
「退治したって、トラを? まさか!?」
「本当だよ、姉さん。」
「あの~、それより私はお母さんの治療に来たのです。会わせていただけないでしょうか?」
「待って!悪いけど私は信じない。」
「では、どうすれば?」
「私と勝負して。私に勝ったら信じる。」
「えっと、勝負って?」
「もちろん手合せよ。安心して、私は木刀を使うから死にはしない。」
「ひょっとしてお姉さんも冒険者ですか?」
「これでもBクラスよ。」
頭が痛くなった。勝ち負けで信じるかどうかを決めるなんてどこの脳筋だ。コトラルさんとアルトくんもFクラスでダンジョンに行こうとしていたし、ここは脳筋家族なのか?まあ、勝てば信じてくれるなら話は早い。要するに勝てば良いわけだ。
「分かりました。」
「ではこっちへ。」
と言って案内されたのは家の裏にある空き地。周りに背の高い草が生えていて程良く目隠しになっている。そこでお姉さんは木剣を構えた。
心配そうに見つめるコトラルさんに 「大丈夫、怪我はさせないから」と言ってお姉さんに向き合う。
「随分と余裕ね。」
とお姉さん、コトラルさんへのセリフが聞こえてしまったようだ。プライドを傷つけられた様子のお姉さんと空き地の中央で向かい合う。
「いくぞ!」
と言ってお姉さんが上段に木剣を振って身構え、ゆっくりと私の周りを回りながら間合いを詰めて来る。雰囲気からしてかなり強いのだろう。ある程度の距離まで近づくとそこで止まり、身体を前後に揺すって攻撃のタイミングを計っているようだ。一歩踏み込めば攻撃が届く距離。一方で私と言えば、片手に持った杖を縦に持ち下端を地面につけてゆったりと構え、目だけでお姉さんを追っていた。側からは隙だらけに見えるだろう。
「バカにしてるの?」
「いいえ、私は魔法使いですから剣士みたいに構える必要がないだけです。」
「ならいいわ。いくわよ!」
と言うなりお姉さんは一気に踏み込んで木剣を振り下ろした。かなりの速さだが、断ってから攻撃して来るあたり本気とは思えない。案外寸止めしてくれるつもりかもしれない。
「!」
だが、お姉さんは想定外の出来事に一瞬動きを止めることになる。思いっきり振り下ろしたはずの木剣が突然自分の手から消えてしまったからだ。更に消えてしまった木剣がいつのまにか自分の首元に突きつけられていることに気付く。もっとも木剣を握っているのは私の左腕なのでただ突きつけているだけで碌な攻撃はできないのだが。
「参りました。」
と言うお姉さんにニッコリ笑って木剣を返す。
「確かに強いわね。分かったわ、あなたを信用することにする。私はサーシャよ、よろしくね。」
「改めまして、トモミです。よろしくお願いします。」
負けたから相手を信用すると言うのはどうかと思うが、今は好都合なので黙っていよう。これで漸くお母さんの治療に掛かれそうだ。
サーシャさんの後に続いて台所に入る。そこにでは40代と思われる女性が手探りで料理をしていた。ちなみにお母さんの名前はサマンサと言うらしい。
「母さん、夕食の準備は私がするって言ったのに!」
「サーシャ、そんなことを言ってもいつまでも甘えてばかりじゃいられないわ。あなたもいずれは好きな人に嫁ぐのだから。」
「そんな予定は無いってば!」
と言いながらサーシャさんの顔は少し赤くなっている。嫁ぐ相手に心当たりがあるのだろうか。
「母さん、それより今日は母さんの目を治せるっていう魔法使いの人に来てもらったの。」
「ダメよ!私の目は治せないってお医者様が言ったじゃ無い。お金を捨てるようなものよ。」
やれやれ、お姉さんだけでなくお母さんも説得が必要なようだ。
「あの、お代はいただきません。私はコトラルさんとアルトくんの友達ですから。初めましてトモミと言います。」
「サーシャ...」
「母さん、大丈夫だよ。私はトモミちゃんを信用してるの。」
「お前まで...」
「これでも魔法には自信があるんです。ダメ元と思って試してみませんか?さっきも言ったように見返りは要求しませんから。回復魔法には経験が大事ですから。師匠には金を払ってでも色々な患者を診ろと言われているんです。」
勿論口からの出まかせだ。私には師匠はいない、強いて言うなら頭の中に魔法の知識を書き込んでくれたルーテシア様が師匠と呼べるかもしれないが、そんなことを言われた覚えはない。
「でも...」
まだ渋るサマンサさんだが、その後コトラルさんとアルトくんの応援もあって漸く治療にこぎつけた。やれやれ、治療の前に疲れたよ....。
治療の前にサマンサさんの頭からつま先までを探査する。側ではサーシャさんをはじめとする子供達が固唾を飲んで見つめている。私が回復魔法を掛ければどんな病気も治るので治療するだけなら探査魔法は不要なのだが、後で病気についての説明を求められるかもと思ったのだ。探査してビックリ、目だけでなく心臓がかなり弱っている。立っているだけでも辛かったのではないだろうか。家族に心配をかけないために無理してたんだろうな。
「それでは治療します」と断ってから椅子に座ったサマンサさんに回復魔法をかける。さらに治療したと実感してもらう目的で、治療と同時に光魔法でサマンサさんの全身を淡く光らせた。
「終わりましたよ。」
と言うと、みんなの注目が集まる。サマンサさんが閉じていた目を少しずつ開けて行き...突然バッと立ち上がった。
「見える!! 見えるわ!!」
「えっ、そっ、そうですね。けっ、結果は後ほどお知らせします。」
そう言い残すとトスパさんは急いで練習場を出て行った。どうしよう。ここで待っていても仕方が無いからギルドの建物に戻るか。ギルドの建物に戻ると受付カウンターにいたアンジェラさんが話しかけてくる。
「トモミさんどうでしたか?」
<< 試験は終わったのですが、結果は後ほどと言われました。>>
アンジェラさんは怪訝そうな顔だ。たぶん今まではその場で判定が出て居たんだろうな。そんなことを考えていると誰かがアンジェラさんを呼びに来た。緊急の会議だそうだ。いやな予感しかしない...。仕方ないのでギルドのレストランでコトラルさんアルトくんとお茶をしながら待つことにする。
しばらくするとトスパさんが呼びに来た。後について応接室の様な部屋に入る。アンジェラさんも一緒だ。
「それでは昇格試験の結果をお伝えします。トモミさんは1階級昇格しEクラスに上がりました。おめでとうございます。」
「1階級だけですか?」
「ああ、的が吹き飛んだ件ですか? うぬぼれてはいけません。あれはあなたの実力ではなく的が度重なる使用によって経年劣化していたためです。検討の結果そういう結論になりました。そうに決まっています。」
なるほど、そうなったか。まあいい、私の魔法の威力が規格外だと知れるよりその方がこちらとしても好都合だ。昇級試験はダンジョンの町の支部で受け直せばいいしね。
<< 分かりました。ご説明ありがとうございます。私もおかしいなと思っていたんです。>>
「分かってもらえてなりよりです。それではこちらがクラスを修正した冒険者証になります。」
冒険者証をうけとり、その後薬草採取時にトラを討伐したことを伝えて驚かれる。獲物の処理場で収納魔法からトラを出すと、頭部がきれいに吹き飛ばされていることに更に驚かれた。トラ退治の報奨金5,000ギニーと皮と肉の買い取りで2,000ギニー合わせて7,000ギニーを受け取り、コトラルさん、アルトくんと合流してギルドを後にしようとしたところで声を掛けられた。
「おい嬢ちゃん、昇級試験で的を吹き飛ばしたんだってな。悪いことは言わねえ、こいつらと組んでも後悔するだけだぜ。このギルドで有名なへなちょこコンビだ。冒険者になってから半年も経つのにまだFから上がれないんだ。こんな奴らは放って置いて俺達のチームに加わりな後悔はさせないぜ。」
振り向くと30歳くらいの軽薄そうな男が私に話しかけてくる。こんなデリカシーの無いやつは好きになれない。目の前のふたりは悔しそうな顔をしているが言い返せない様だ。
「申し訳ありませんが、彼らとチームを作る話をしているのでご遠慮いただけますか。」
「なんだと! 瞬殺の暴風のトムさんが誘ってやってるのにその態度はなんだ!」
トムさんは切れやすい人だったらしく、いきなり私の胸倉をつかもうとしてきた。もちろん前もって防御結界を張ってあるので彼の指は結界に弾かれ私の身体には届かない。
「うぐっ!」
トムさんは指を痛めたらしく一瞬顔をしかめたが、次の瞬間痛めた指で拳を作り私の顔をめがけ殴りかかって来た。グシャ! と鈍い音がする。
「うわぁぁぁ~」
突然のトムさんの叫びに周りの人達が注目する。もちろん彼の拳は私には当たっていない。それどころか音からして手の骨を骨折したのじゃないだろうか。そりゃ痛いよね。当のトムさんは痛めた手を抱えたままうずくまってしまった。よほど痛いのだろう顔中に脂汗を書いている。
「いきなり女性に殴り掛かるなんて、紳士として恥ずかしいですよ。」
と言いながら、私は彼に杖を向け回復魔法で拳を治療してあげた。いきなり痛みが消え去ったからかトムさんは手を握ったり開いたりを繰り返していたが、そのうち恐ろしいものでも見た様に私をにらんだ。
「覚えてろよ!」
とどこかで聞いたようなセリフを残しトムさんはあわてて出て行った。もちろんあんな失礼な奴のチームに入る気はない。さて話の続きをと思ってコトラルさんとアルト君の方を向きなすと、ふたりとも唖然とした顔をしている。
「あの~、トモミさんはいったい何者なんですか? トムは嫌な奴ですけどそれでもBクラスの冒険者です。それを簡単にあしらうなんて。」
「偶然うまく行っただけですよ。」
たまたま防御結界がうまく働いただけですと誤魔化すが。納得してくれただろうか。その後、しばらく歩きコトラルさんとアルトくんは町外れにある小さな家の前で止まった。
「ここが私たちの家です、どうぞ中にお入りください。今は母と姉がいるはずです。」
中に入ると20歳ちょっとくらいの女性がテーブルの椅子に腰掛けていた。多分この人がお姉さんかな。
「姉さん、この人はトモミさん。母さんの目を直してくれるんだ。」
とアルトくんが紹介してくれる。
「初めまして、トモミと言います。回復魔法が得意なのでお役に立てるかも知れません。」
「あの、わが家は貧乏なので治療費は払えませんよ。」
お姉さんが胡散臭そうな目で言って来る。
「お代は結構です。私はコトラルさんとアルトさんの友達ですから。」
「友達って、あなたのことは聞いたことが無いのだけどいつ知り合ったのかしら?」
「今日アルトと薬草を探しに行ったときにトラに襲われたのを助けてもらったの。」
「トラに襲われたって!!! よく無事だったわね。」
「大丈夫、トモミちゃんが退治してくれたから」
「退治したって、トラを? まさか!?」
「本当だよ、姉さん。」
「あの~、それより私はお母さんの治療に来たのです。会わせていただけないでしょうか?」
「待って!悪いけど私は信じない。」
「では、どうすれば?」
「私と勝負して。私に勝ったら信じる。」
「えっと、勝負って?」
「もちろん手合せよ。安心して、私は木刀を使うから死にはしない。」
「ひょっとしてお姉さんも冒険者ですか?」
「これでもBクラスよ。」
頭が痛くなった。勝ち負けで信じるかどうかを決めるなんてどこの脳筋だ。コトラルさんとアルトくんもFクラスでダンジョンに行こうとしていたし、ここは脳筋家族なのか?まあ、勝てば信じてくれるなら話は早い。要するに勝てば良いわけだ。
「分かりました。」
「ではこっちへ。」
と言って案内されたのは家の裏にある空き地。周りに背の高い草が生えていて程良く目隠しになっている。そこでお姉さんは木剣を構えた。
心配そうに見つめるコトラルさんに 「大丈夫、怪我はさせないから」と言ってお姉さんに向き合う。
「随分と余裕ね。」
とお姉さん、コトラルさんへのセリフが聞こえてしまったようだ。プライドを傷つけられた様子のお姉さんと空き地の中央で向かい合う。
「いくぞ!」
と言ってお姉さんが上段に木剣を振って身構え、ゆっくりと私の周りを回りながら間合いを詰めて来る。雰囲気からしてかなり強いのだろう。ある程度の距離まで近づくとそこで止まり、身体を前後に揺すって攻撃のタイミングを計っているようだ。一歩踏み込めば攻撃が届く距離。一方で私と言えば、片手に持った杖を縦に持ち下端を地面につけてゆったりと構え、目だけでお姉さんを追っていた。側からは隙だらけに見えるだろう。
「バカにしてるの?」
「いいえ、私は魔法使いですから剣士みたいに構える必要がないだけです。」
「ならいいわ。いくわよ!」
と言うなりお姉さんは一気に踏み込んで木剣を振り下ろした。かなりの速さだが、断ってから攻撃して来るあたり本気とは思えない。案外寸止めしてくれるつもりかもしれない。
「!」
だが、お姉さんは想定外の出来事に一瞬動きを止めることになる。思いっきり振り下ろしたはずの木剣が突然自分の手から消えてしまったからだ。更に消えてしまった木剣がいつのまにか自分の首元に突きつけられていることに気付く。もっとも木剣を握っているのは私の左腕なのでただ突きつけているだけで碌な攻撃はできないのだが。
「参りました。」
と言うお姉さんにニッコリ笑って木剣を返す。
「確かに強いわね。分かったわ、あなたを信用することにする。私はサーシャよ、よろしくね。」
「改めまして、トモミです。よろしくお願いします。」
負けたから相手を信用すると言うのはどうかと思うが、今は好都合なので黙っていよう。これで漸くお母さんの治療に掛かれそうだ。
サーシャさんの後に続いて台所に入る。そこにでは40代と思われる女性が手探りで料理をしていた。ちなみにお母さんの名前はサマンサと言うらしい。
「母さん、夕食の準備は私がするって言ったのに!」
「サーシャ、そんなことを言ってもいつまでも甘えてばかりじゃいられないわ。あなたもいずれは好きな人に嫁ぐのだから。」
「そんな予定は無いってば!」
と言いながらサーシャさんの顔は少し赤くなっている。嫁ぐ相手に心当たりがあるのだろうか。
「母さん、それより今日は母さんの目を治せるっていう魔法使いの人に来てもらったの。」
「ダメよ!私の目は治せないってお医者様が言ったじゃ無い。お金を捨てるようなものよ。」
やれやれ、お姉さんだけでなくお母さんも説得が必要なようだ。
「あの、お代はいただきません。私はコトラルさんとアルトくんの友達ですから。初めましてトモミと言います。」
「サーシャ...」
「母さん、大丈夫だよ。私はトモミちゃんを信用してるの。」
「お前まで...」
「これでも魔法には自信があるんです。ダメ元と思って試してみませんか?さっきも言ったように見返りは要求しませんから。回復魔法には経験が大事ですから。師匠には金を払ってでも色々な患者を診ろと言われているんです。」
勿論口からの出まかせだ。私には師匠はいない、強いて言うなら頭の中に魔法の知識を書き込んでくれたルーテシア様が師匠と呼べるかもしれないが、そんなことを言われた覚えはない。
「でも...」
まだ渋るサマンサさんだが、その後コトラルさんとアルトくんの応援もあって漸く治療にこぎつけた。やれやれ、治療の前に疲れたよ....。
治療の前にサマンサさんの頭からつま先までを探査する。側ではサーシャさんをはじめとする子供達が固唾を飲んで見つめている。私が回復魔法を掛ければどんな病気も治るので治療するだけなら探査魔法は不要なのだが、後で病気についての説明を求められるかもと思ったのだ。探査してビックリ、目だけでなく心臓がかなり弱っている。立っているだけでも辛かったのではないだろうか。家族に心配をかけないために無理してたんだろうな。
「それでは治療します」と断ってから椅子に座ったサマンサさんに回復魔法をかける。さらに治療したと実感してもらう目的で、治療と同時に光魔法でサマンサさんの全身を淡く光らせた。
「終わりましたよ。」
と言うと、みんなの注目が集まる。サマンサさんが閉じていた目を少しずつ開けて行き...突然バッと立ち上がった。
「見える!! 見えるわ!!」
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