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第1章 惑星ルーテシア編
閑話-4 王太子視点
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私は人間族の国の王太子 キースタリア・モンドールだ。
カトリーナ嬢は無事救出された。私は途中で意識を失ってしまうというハプニングがあり、気が付いたらカトリーナ嬢はすでに救出され領都に運ばれた後だった。出来れば自分の手で救い出したかったが、それよりも今は彼女が無事に帰ってきたことを喜ぼう。
なぜ私が意識を失うことになったのか、魔道具開発部の職員から説明を受けたが正直理解できなかった。ガスってなんだ?
捕縛した誘拐犯の尋問により、彼らは当初からカトリーナ嬢の殺害を目的として動いていたこと、誘拐は身代金を殺害の報酬に上乗せするために計画したことで、カトリーナ嬢の殺害は決定事項であったことが判明した。令嬢を救出するためにアジトへの突入するという私の判断は間違っていなかった様だ。
殺害を命じた人物も判明した。アラマント公爵家の令嬢だ。ただ、今のところ誘拐犯の証言以外に証拠がなく、相手が公爵家ということもあって手が出せていない。なあに、今に言い訳できない証拠を見つけてみせる。
今日は女神様の降臨宣言式の日だ、父上と母上が国の代表として式に出席している。他の国はさすがに王が国を離れるわけにいかないということで、王族を使節として送り込んでいる様だ。女神様が我が国におられるお蔭だ、他の国に対して優位に立てるだろう。
先ほど父上がお帰りになり、私をお呼びになっていると連絡があった。帰って早々お呼びがかかるとは何だろう。今日の式で何か良い事でもあったのだろうか。
「只今参りました、父上。」
部屋に入ると私は声を掛けた。部屋には父上と母上しかいない。人払いがされている? よほど重要な要件なのか?
「キース、待っていたぞ。お前に聞きたいことがある。」
「何でございましょう?」
「お前は、アレフという男に覚えがないか?」
「アレフですか? いえ覚えがありませんが。」
「エタルナ領の魔道具開発部の職員だ。いや、だったと言うべきか。カトリーナ嬢の救出についての報告書に名前の記載があるのだが。」
そんな名前の者がいたか? 確か魔道具を使って救出に協力してくれたのはコルヒという男だったが...。
「覚えがないか。それなら良いのだが。報告書ではエタルナ泊の息子と一緒に訪れ、お前に魔道具を提供した後、無礼を働いて退出させられたとあるが。」
「思い出しました。あの腰抜けでございますか。父上がお気に留めるほどの男ではございません。腑抜けの様なやつでございます。」
その時母上が初めて口を開いた。
「キース、その時アレフ様にもそのようなことを申し上げたのですか?」
アレフ様? 何なんだ? 王妃である母がなぜ敬称を付ける。
「よく覚えてはおりませんが、腰抜けは出て行けという様なことを言ったかもしれません。」
途端に両親の顔色が曇った。
「まちがいないか?」
「はい、少なくとも追い出したのは確かでございます。」
「そうか...。」
父上と母上は互いに顔を見合わせてうなだれている。
「いったいそのアレフという男がどうしたのですか。」
「アレフ様です。今日の女神様の降臨宣言式で女神代行官に任じられた方です。今後女神様と私達の仲介の役を取られます。すなわち私達が仕えるべきお方になります。」
「たまたま名前が同じだけの別人でしょう。あのような腰抜けがその様な大役に就くなど考えられません。」
「いいえ、それは調べさせました。エタルナ領の魔道具開発部にアレフという職員はひとりだけだそうです。」
漸く父と母が何を悩んでいたのかが分かった。あの男が女神代行官? 務まるわけがない。女神様は何をお考えになっているのか。せっかく新しい女神様が降臨されて皆喜んでいるというのに、この世界の未来に暗雲が立ち込めた気がする。それにしても魔道具開発部の一介の職員がどの様にして女神様に取り入ったのか? そこまで考えて気付いた。
「もしや、タカシ様とタチハ様が...。」
「その通りだ。私はおふたりはハルト様と女神様ご自身だったのではないかと考えている。少なくともおふたりに近しい人間だろう。」
なんだと! あの冒険者のタチハ様が女神様? 父からくれぐれも丁重に扱う様に通達があったが、まさかそんな事とは思っていなかった。なぜもっと詳しく教えておいてくれなかったのかと父を恨む。女神様と親しくなる絶好のチャンスだったではないか。
「そこでだ。キース、お前は王太子の座を弟に譲る気は無いか。」
「なぜでございます!?」
「もし、昔お前を腰抜けと罵倒した者が、自分の部下となったらお前はどうする。」
「良い気はしないでしょうね。少なくとも重用はしないかと。」
「そういうことだ。いずれお前は私の後を継いで王となる。その時にはアレフ様の前にも出なければならない。良い印象は持っていただけないだろう。それは国にとって不利益になるということだ。」
なるほどそういうことか。私としてもあのような腰抜けに仕えるのは良い気がしない。
「弟に王太子の座を譲るか、今の内にアレフ様に誠心誠意謝罪をするかどちらかを選ぶが良い。」
「分かりました。弟に王太子の座を譲ることにします。 ただ3年待っていただいてよろしいでしょうか。」
私が答えると、両親は残念そうな顔をしていた。私がアレフに謝罪することを期待していた様だ。無理だ。あのような者に頭を下げるなど私の誇りが許さない。それに女神代行官というが、あの様な腰抜けにいつまで務まるか。重責に耐えかねすぐにその地位を投げ出すにちがいない。それを見定めてからでも遅くは無い。
幸い弟はまだ幼い、待つ時間はあるだろう。
カトリーナ嬢は無事救出された。私は途中で意識を失ってしまうというハプニングがあり、気が付いたらカトリーナ嬢はすでに救出され領都に運ばれた後だった。出来れば自分の手で救い出したかったが、それよりも今は彼女が無事に帰ってきたことを喜ぼう。
なぜ私が意識を失うことになったのか、魔道具開発部の職員から説明を受けたが正直理解できなかった。ガスってなんだ?
捕縛した誘拐犯の尋問により、彼らは当初からカトリーナ嬢の殺害を目的として動いていたこと、誘拐は身代金を殺害の報酬に上乗せするために計画したことで、カトリーナ嬢の殺害は決定事項であったことが判明した。令嬢を救出するためにアジトへの突入するという私の判断は間違っていなかった様だ。
殺害を命じた人物も判明した。アラマント公爵家の令嬢だ。ただ、今のところ誘拐犯の証言以外に証拠がなく、相手が公爵家ということもあって手が出せていない。なあに、今に言い訳できない証拠を見つけてみせる。
今日は女神様の降臨宣言式の日だ、父上と母上が国の代表として式に出席している。他の国はさすがに王が国を離れるわけにいかないということで、王族を使節として送り込んでいる様だ。女神様が我が国におられるお蔭だ、他の国に対して優位に立てるだろう。
先ほど父上がお帰りになり、私をお呼びになっていると連絡があった。帰って早々お呼びがかかるとは何だろう。今日の式で何か良い事でもあったのだろうか。
「只今参りました、父上。」
部屋に入ると私は声を掛けた。部屋には父上と母上しかいない。人払いがされている? よほど重要な要件なのか?
「キース、待っていたぞ。お前に聞きたいことがある。」
「何でございましょう?」
「お前は、アレフという男に覚えがないか?」
「アレフですか? いえ覚えがありませんが。」
「エタルナ領の魔道具開発部の職員だ。いや、だったと言うべきか。カトリーナ嬢の救出についての報告書に名前の記載があるのだが。」
そんな名前の者がいたか? 確か魔道具を使って救出に協力してくれたのはコルヒという男だったが...。
「覚えがないか。それなら良いのだが。報告書ではエタルナ泊の息子と一緒に訪れ、お前に魔道具を提供した後、無礼を働いて退出させられたとあるが。」
「思い出しました。あの腰抜けでございますか。父上がお気に留めるほどの男ではございません。腑抜けの様なやつでございます。」
その時母上が初めて口を開いた。
「キース、その時アレフ様にもそのようなことを申し上げたのですか?」
アレフ様? 何なんだ? 王妃である母がなぜ敬称を付ける。
「よく覚えてはおりませんが、腰抜けは出て行けという様なことを言ったかもしれません。」
途端に両親の顔色が曇った。
「まちがいないか?」
「はい、少なくとも追い出したのは確かでございます。」
「そうか...。」
父上と母上は互いに顔を見合わせてうなだれている。
「いったいそのアレフという男がどうしたのですか。」
「アレフ様です。今日の女神様の降臨宣言式で女神代行官に任じられた方です。今後女神様と私達の仲介の役を取られます。すなわち私達が仕えるべきお方になります。」
「たまたま名前が同じだけの別人でしょう。あのような腰抜けがその様な大役に就くなど考えられません。」
「いいえ、それは調べさせました。エタルナ領の魔道具開発部にアレフという職員はひとりだけだそうです。」
漸く父と母が何を悩んでいたのかが分かった。あの男が女神代行官? 務まるわけがない。女神様は何をお考えになっているのか。せっかく新しい女神様が降臨されて皆喜んでいるというのに、この世界の未来に暗雲が立ち込めた気がする。それにしても魔道具開発部の一介の職員がどの様にして女神様に取り入ったのか? そこまで考えて気付いた。
「もしや、タカシ様とタチハ様が...。」
「その通りだ。私はおふたりはハルト様と女神様ご自身だったのではないかと考えている。少なくともおふたりに近しい人間だろう。」
なんだと! あの冒険者のタチハ様が女神様? 父からくれぐれも丁重に扱う様に通達があったが、まさかそんな事とは思っていなかった。なぜもっと詳しく教えておいてくれなかったのかと父を恨む。女神様と親しくなる絶好のチャンスだったではないか。
「そこでだ。キース、お前は王太子の座を弟に譲る気は無いか。」
「なぜでございます!?」
「もし、昔お前を腰抜けと罵倒した者が、自分の部下となったらお前はどうする。」
「良い気はしないでしょうね。少なくとも重用はしないかと。」
「そういうことだ。いずれお前は私の後を継いで王となる。その時にはアレフ様の前にも出なければならない。良い印象は持っていただけないだろう。それは国にとって不利益になるということだ。」
なるほどそういうことか。私としてもあのような腰抜けに仕えるのは良い気がしない。
「弟に王太子の座を譲るか、今の内にアレフ様に誠心誠意謝罪をするかどちらかを選ぶが良い。」
「分かりました。弟に王太子の座を譲ることにします。 ただ3年待っていただいてよろしいでしょうか。」
私が答えると、両親は残念そうな顔をしていた。私がアレフに謝罪することを期待していた様だ。無理だ。あのような者に頭を下げるなど私の誇りが許さない。それに女神代行官というが、あの様な腰抜けにいつまで務まるか。重責に耐えかねすぐにその地位を投げ出すにちがいない。それを見定めてからでも遅くは無い。
幸い弟はまだ幼い、待つ時間はあるだろう。
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