新米女神トモミの奮闘記

広野香盃

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第1章 惑星ルーテシア編

25. 突入

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 よし! と色めき立つ一同。

 予想通り、追跡の魔法陣は犯人が洞窟に入ったタイミングで反応しなくなった。ここで殿下はアジトへの突入を決断した。身代金を払ったのだから人質が解放されるのを待つという選択肢もあるが、犯人がカトリーさんを殺害して逃亡する可能性もある。どちらが正しい選択か分からないが、私も殿下に賛成だ。犯人はカトリーさんの殺害を請け負っている可能性が高いのだ。

 殿下はアジト付近に待機させていた兵達にアジトへの突入を指示すると、自身は全速力で馬を飛ばす。時間との勝負だ。

 私はコルヒさんポトルフさんと共に浮遊馬車に乗り込み後を追う。ハルちゃんには残ってもらった、危険だからね。アジトの入り口に到着すると、殿下はためらうことなく中に飛び込んだ、私達も後に続く。アジトの中での戦闘はほとんど終わっている様だ。だがカトリーさんは見つかっていないとのこと。

 「探せ!」

 殿下の一声で兵や騎士が一斉に動く。
 どこかに隠し部屋でもあるのだろうか。私は探査の魔法を発動する。反応がある。魔力遮断の結界の内側に入ったことで魔法が使える様だ。

 「こっちです!!」

 と殿下に声を掛け私は走り出す。殿下が後に続く。カトリーさんは前方の岩壁の向こうにいる。恐らくどこかに隠し扉があるはず。だけど悠長に扉を探している時間はない。私は破壊の魔法を使う。すぐに岩壁は砂となり崩れ落ちた。
 予想通り、壁の向こうは隠し部屋になっており。その中央にカトリーさんが立っていた。ただ何か様子が変だ。ナイフを自分の首に当て無表情で立っている。まるで感情というものが読み取れない。

 「止まれ!」

 と野太い声が叫んだ。カトリーさんの後に立っている男からだ。

 「人質の命が惜しかったら、武器を捨てろ。」

 すぐに殿下が手に持っていた剣を投げ捨てた。私も杖を捨てる。

 「兵を全員このアジトの外に出せ。変なことをするなよ、この女には隷属の首輪をはめてある。私に何かあったら躊躇なく自分の首を刺すぞ。」

 隷属の首輪? 何よそれ! 脳内辞書にも記載がない。分からないけど、まずい状況なのは間違いない。殿下が命令すると、兵や騎士達がゆっくりと外に向かう、何人か残っていた誘拐犯の仲間がこの部屋に入ってきてカトリーさんの後の男の傍に集まる。

 「お前達もだ! さっさと外に出ろ。」

 と誘拐犯のボスらしき男がカトリーさんの後から命令する。

 「待て、私が身代わりになる。その娘を放してくれ。私は王太子だ人質なら私の方が価値があるぞ。」

 と殿下が誘拐犯に話しかけた。自分が身代わりに成るって? なかなか言えるセリフじゃないよ。さすが殿下だカトリーさんが惚れるだけのことはあるかも。

 「へっへっ! ついてるぜ、王太子か。心配するな、お前も仲間に加えてやるよ。もっともこの娘は放すわけにはいかないがな。ある人と約束しているんでな。」

 ボスが合図すると部下のふたりが首輪らしき物を持ってこちらにやって来る。私もついでに人質にする気らしい。どうする? 隷属の首輪という名前とカトリーさんの様子からみて、あれは人を操る魔道具だ。私まで操られるとまずいことになる。女神を操れるのかは怪しいが、万が一私の女神の力をあいつ等が好きに使ったら大変なことになる。
 逃げるのは簡単だが、その場合カトリーさんの命が危ない。私は一か八か時間凍結の魔法を使うことにした。これはインターフェース接続を失敗して私の身体が爆散したときに、ルーテシア様が使った魔法だ、周りの空間の時間経過を一定時間止めることができる。その間に隷属の首輪について調べ対策を取る。単に問題の先送りになる可能性もあるが、やってみる価値はあるだろう。ただ大変な量の魔力が必要となる。私の身体の魔力許容量の制限がある中で実行できるか? 不安だがやるしかない。

 そう決心した時、隣に立っていた殿下がいきなり倒れた。へっ? 何? と思った途端、カトリーさんも誘拐犯達も崩れ落ちる。立っているのは私だけだ。何が起った??? とテンパった。その時、誰かが部屋に飛び込みカトリーさんの傍に駆け寄った。

 あれは、アレフさん?

 アレフさんはカトリーさんの手からナイフを抜き取り。口の中に何か錠剤の様な物を入れた。何? 毒じゃないよね。
 それからアレフさんはカトリーさんをお姫様抱っこで抱き上げようとするが、よろけて膝を付く。

 「重い。」

 という独り言が聞こえた。失礼な、カトリーさんが重いんじゃないあんたが非力過ぎるんだ、と言いたかったが言えなかった。

 いきなりアレフさんが私の方を向き、

 「か、彼女を外に運びます、手伝ってもらえますか。」

 と言ってきたからだ。

 「助けに来てくれたんですよね?」

 「も、もちろんです。」

 その時、女性がひとり部屋に入ってくる。確かアレフさんの部下の人だ。

 「主任! 何をもたもたしてるんですか!」

 「いや、重くて。」

 「ほんと、情けないですね。私が運びますから貸してください。」

 「待ちなさい! カトリーさんをどうするつもりですか?」

 と私は問い正した。アレフさんの部下の女性がスラスラと答える。

 「彼女は隷属の首輪で自由を奪われており、このままでは目を覚ました途端自殺する可能性があります。薬で眠らせている内に領都の魔法学院に運び、首輪の解除を行います。すでに専門家が待機しています。 急ぐ必要があるんです。」

 どうやら助けに来てくれたのは本当の様だ。

 わけが分からないまま、アレフさん達の後に付いて出口に向かった。出口までには何人もの兵士が倒れている。

 「大丈夫、眠っているだけです。強力な睡眠ガスを使ったのですが、あなたはどうして平気なのですか?」

 と女性に問われる。 

 睡眠ガス? ガスか!!! 密閉された空間である洞窟でガスを使えば効果抜群だよね。それで皆一斉に倒れたわけか! 

 「状態異常無効の魔法を掛けていましたので。」

 と言い訳しておく。本当のことを言うと、どうして私だけ何ともなかったのか私にも分からない。女神の力のお蔭だとは思うが。

 そのまま、外で待っていた浮遊馬車に乗り込み領都に向かう。私も心配なので無理やり同行した。アレフさん達を完全に信用したわけではないからね。コルヒさんも当然の様な顔で同行している。
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