新米女神トモミの奮闘記

広野香盃

文字の大きさ
上 下
20 / 90
第1章 惑星ルーテシア編

19. 馬車の旅

しおりを挟む
 翌日に食べた女神の祝福亭の夕食は絶品であった。ウェートレスさんのお父さんがシェフをしているらしい。この宿は当たりだ、きっとまた泊まりに来ようねとハルちゃんに話ながら、私達は乗合馬車の乗り場に向かいトロク行の馬車に乗り込んだ。トロクまでは2泊3日の工程で、途中は馬車組とテント組に分かれて野宿することになるらしい。瞬間移動で向かっても良かったのだが、馬車に乗るのも貴重な体験だよとハルちゃんに言われて思い返した。

 馬車は10人乗りの大型のもので、馬4頭で引くタイプだ。朝早くに出発した馬車には私とハルちゃんのふたり以外に、どこかの貴族のご令嬢と思われる若く美しい女性、そのお付の中年のメイドさん2名と護衛役の壮年の男性2名。それに冒険者風の若い男性2名の計9名が乗っている。しばらくは皆無口であったが、昼食を取るころには少し会話する様になった。食事は御者さんが用意するが、干し肉にパンとスープという簡単なものである。夕食も同じ内容らしい。この食事が道中ずっと続くと思うと気が滅入った。
 貴族のご令嬢はどうしているかなと思って目を向けると、意外に文句も言わず口にしている。しっかりした娘さんかもしれない、先入観は良くないね。話を聞くとトロクの町に住む男爵家のご令嬢らしい。領都まで行った帰りだとか。

 夜になると、馬車は待機所と呼ばれる少し開けた場所で止まった。ここで夜を明かすらしい。昼食と同内容の簡単な食事をとった後、女性陣は馬車で、男性陣は馬車に積んであったテントで寝ることになる。なお、男性陣は交代で見張りをしてくれるらしい。私を含む女性4名は毛布を被って馬車で眠る。横になることは出来ないが、10名乗りの馬車を4名で使うからひとりで座席2つをつかって足を延ばして座ることは出来る。でも安眠はできそうにない。ただひとりが2つずつ座席を使用しても10ある座席の内8つを使うだけなので、2つ座席が余る。つまりひとりだけ4つの座席を使って横になることが出来る。中年のメイドさんふたりは、お嬢様に横になる様にしきりに勧めていたが、お嬢様は私の方が若いんだからと、メイドさん達が使うように言って頑として譲らなかったので、結局余りの座席2つは誰も使わなかった。お嬢様は頑固だけれど少なくとも我儘ではなさそうで好感を持った。

 「タチハちゃんは魔法使いなんですよね。 それで冒険者をやっているなんて若いのにすごいですね。」

 と、お嬢様から声が掛かった。ちゃん付けで呼ばれて思い出したが、私は見かけ15歳だった。

 「ありがとうございます。」

 「お連れの方はご家族なの? お父様にしてはお若く見えるのだけど。」

 「タカシは夫です。」

 「まあ失礼。成人したばかりの年に見えるのにもう結婚してるのね。」

 「成人と同時に兄弟子のタカシと結婚したんです。」

 と、打ち合わせ済みの設定を述べる。ちなみにこの星では成人年齢は15歳である。もちろん結婚もできる。

 「わあ、職場結婚ってやつね。すごいわぁ。 タチハちゃんは幸せ?」

 「はい。」

 なにがすごいのか解らないが、ひとつ言えるのはこのご令嬢は恋愛話が好きそうだということだ。この後ハルちゃんとの馴れ初めとかを聞き出しに来るだろう。ぼろが出ない内に話題を変えなければ。

 「お嬢様はどうして領都に行かれてたんですか?」

 「カトリーナよ、カトリーと呼んでね。」

 「カトリー様ですね。」

 「私ね、求婚して下さった方がいたんだけど、領都にはお断りに行ってきたの。タチハちゃんが羨ましいわ。」

 「申し訳ありません。失礼なことをお聞きしてしまいました。」

 「いいのよ、本当の事だもの。私タチハちゃんみたいに好きな人と結婚するのが夢なの。でもなかなかうまくいかないわね。」

 「カトリー様は美人ですから、これからいい出会いがありますよ。」

 「ありがとう。そういえばタチハちゃんもモンスターを狩りに大森林に行くために来たの?」

 どう答えよう。Yesと応えたらトロクの町についてから、大森林に向かわないと不自然だよね。モンスターの肉を食べに来ただけなんて正直に言っても信じないだろうし。

 「実は人探しの依頼を受けているんです。アレフさんという方で魔法陣の専門家なんですけど。」

 と言ってみた。相手に心当たりがあればラッキーという程度のつもりだったのだが、カトリー様はひどく驚いた様だった。

 「知ってるわ。私が縁談を断ってきた相手だから。」

 「ええっ! 」

 何とお知り合いでした。

 「アレフさんて、どんな方なんですか?」

 「子爵様よ。エタルナ伯爵様にお仕えして魔道具開発部の主任をされているわ。」

 「そうなんですね。」

 「アレフ様に会いにいくの。」

 「たぶんそうなると思います。」

 「そう、気を付けてね。大丈夫と思うけど悪い噂が多い人だから。」

 「悪い噂ですか?」

 「他人の魔道具のアイディアを横取りして自分の物としているっていう噂なの。」

 「そうなんですね。気を付けます、教えて頂いてありがとうございます。」

 「それで婚約をお断りになったんですね。」

 「いいえ、ちょっと違うかな。自分で言っておいて矛盾しているけど、噂なんて本当かどうか分からないものね。私がお断りしたのは、お会いしてみてどうしても好きになれないと感じたからよ。」

 「そんなにひどい人なんですか。」

 「いいえ、何かされたわけではないのよ。むしろ良い人かもしれないわ。でも、何と言うか男らしくないのよ。いつもビクビクしている感じで。」

 「そうなんですね。」

 アレフさんは気が弱い人ってことかな。ハルちゃんも同じだから気が合うかもね。悪い噂は気になるけど、あの神殿地下の魔法陣を設計した人だよね。才能があるのは間違いないんだけどな。まあ、一度会ってみよう。これからも魔法陣関係でお願いすることがあるかもしれないからね。

 「貴重な情報ありがとうございました。夫とどうするか相談します。」

 「私の言ったことが役に立てば良いんだけどね。」

 ひょんなことからアレフさんの素性が判明してしまった。世の中狭いね。いや驚いたよ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

策が咲く〜死刑囚の王女と騎士の生存戦略〜

鋸鎚のこ
ファンタジー
亡国の王女シロンは、死刑囚鉱山へと送り込まれるが、そこで出会ったのは隣国の英雄騎士デュフェルだった。二人は運命的な出会いを果たし、力を合わせて大胆な脱獄劇を成功させる。 だが、自由を手に入れたその先に待っていたのは、策略渦巻く戦場と王宮の陰謀。「生き抜くためなら手段を選ばない」智略の天才・シロンと、「一騎当千の強さで戦局を変える」勇猛な武将・デュフェル。異なる資質を持つ二人が協力し、国家の未来を左右する大逆転を仕掛ける。 これは、互いに背中を預けながら、戦乱の世を生き抜く王女と騎士の生存戦略譚である。 ※この作品はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※本編完結・番外編を不定期投稿のため、完結とさせていただきます。

処理中です...