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15. 魔導士の集い - 1
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ラトスさんからの念話が再び届いたのはそれから一月くらい経った夜のことだった。眠っていた私は驚いて、危うく声を出すところだった。
<< もしもし、イル嬢ちゃん、聞こえるかの? >>
となんとものんびりした調子なので、緊張していた私から力が抜ける。
<< はい、イルです。>>
<< おー、イル嬢ちゃん、元気かの? >>
<< はい、元気です....って、ラトスさん、大丈夫ですか? 何度も念話したんですけど応答が無いから何かあったかと心配してたんです。>>
<< おお、それはすまんかったの。実は昔の知り合いに会いに、西のハルマン王国まで足を延ばしておってのお。>>
ハルマン王国! アトル先生の授業で習った大草原の西にあるトワール王国と対をなす大国だ。さすがはラトスさん、そんな遠いところにまで知り合いが居るんだ。年を取っているだけのことはある。
<< 夜中にすまんの。実はそのハルマン王国の知り合いがイル嬢ちゃんと話をさせろとうるさくての...>>
とラトスさんが言うなり、別の念話がねじ込まれた。
<< 余計なことを言うんじゃないよ、この耄碌じじい! あー、イルちゃん、私はハルマン王国の女王ララさ、よろしくね。>>
じ、女王? 女王って言ったよね。とんでもない知り合いだね。正直なところ私はお近づきになりたくない。前世での経験上、権力者に関わると厄介事だけが増えるだけだ。
<< あー、イルちゃん、今、権力者には関わりに成りたくないと思ったろう。まあ、間違いじゃないけどね、今だけは話を聞いておくれ。>>
<< とんでもございません。女王様。お声を掛けていただき恐悦至極に存じます。>>
と私はあわてて体裁を取り繕う。昔取った杵柄という奴だ。
<< 誰だい、そんな言葉を子供に教えた奴は? ここいる老いぼれ爺かい? >>
<< 違う違う、儂じゃないぞ! >>
とラトスさんがあわてて否定する。ララさんが怖いのだろうか? 必死さが透けて見える。仕方が無い助けてあげるか。
<< ラトスさんじゃありません。本で読んだんです。>>
<< ほう、小さいのに字も読めると言うのは本当の様だね。感心じゃないか。>>
<< あの、それでご用件は? >>
<< おお、そうだった。この爺から聞いていると思うけど、地竜退治に協力して欲しいのさ。怪しげな爺から言われたから断ったのかもしれないから、私からもう一度お願いしようと思ってね。今近くまで来ているんだ。ちょっとこっちに来れないかい? >>
これは難しい。今夜も私は母さんと一緒に寝ている。母が何かの拍子に目を覚ました時に私が居ないと心配して探し回るに決まっている。私は心の中で「ゴメンね」と母さんに謝り、深睡への誘いの魔法を発動した。これで母さんは朝まで決して目を覚まさない。母さんはこれで良いとして問題はヤラン兄さんに断ってから行くかどうかだ、兄さんに言ったら、自分も一緒に行くと言うだろう。でも兄さんを連れて行って大丈夫だろうか。兄さんは誇り高きトルク—ド族の戦士だ、大国の女王様といえど決して頭は下げないだろう。気分を害されたらまずいかもしれない。とりあえず今日はひとりで行くとしよう、次の機会に兄さんと一緒に行くかどうかはララ王女の気質を見定めてからだ。
<< お待たせしました。今からそちらに伺います。>>
急いで服を着込んだ私は、ラトスさんとララ王女の居る場所へ瞬間移動した。場所は前回ラストさんと会ったのと同じ草原だ。私が到着するとすぐにララさんと思われる女性が駆け寄ってきて私の前で屈み腕を掴む。本人は挨拶のつもりかもしれないが、ちょっと怖い。
「ほんとにあの距離を跳んで来たよ。こんなに小さいのにすごいじゃないか! ああ、言い忘れてたね、私がララだよ、よろしくね、草原の魔導士さん。」
ララ女王は想像どおり高齢の女性だ。髪は長い白髪を頭の上で結い上げている。この髪型はどうやって維持しているのだろうと思う様なボリュームのある髪型だ。おそらく付け毛も使っているのだろう。服装は女王の衣装という印象ではなく、乗馬服という感じの飾り気のない動きやすそうな衣装で、顔には沢山の皺がある。だがその青い目は鋭く輝き生気に満ちている。
「草原の魔導士ですか?」
「そうさ、私が西の魔導士、あそこにいる爺が東の魔導士、そしてあんたが草原の魔導士さ。後で南の魔導士も来ることになっている。私達がこの世界の魔法使いの四天王と言う訳だ。」
「私は四天王なんて大それた者じゃありません。」
「私が認めたんだからそれで良いのさ。あんたのことは爺から聞いてるよ。長距離の念話と瞬間移動だけじゃなく、探査魔法に収納魔法、魔力遮断結界まで使うってね。そういえば、北の遊牧民と南の遊牧民が、戦になる寸前で停戦する原因になった神の奇蹟って言うのも、あんたの魔法じゃないかい?」
私が頷くと、やっぱりという顔をする。
「と言う訳で四天王の資格は十分さ。むしろ南の魔導士の方が心配だ。ここまで来るだけでずいぶんと時間が掛かっているからね。昨日の朝に出発したはずだから、まる二日近く経っているよ。まあ、茶でも飲みながら待とうじゃないか。」
<< もしもし、イル嬢ちゃん、聞こえるかの? >>
となんとものんびりした調子なので、緊張していた私から力が抜ける。
<< はい、イルです。>>
<< おー、イル嬢ちゃん、元気かの? >>
<< はい、元気です....って、ラトスさん、大丈夫ですか? 何度も念話したんですけど応答が無いから何かあったかと心配してたんです。>>
<< おお、それはすまんかったの。実は昔の知り合いに会いに、西のハルマン王国まで足を延ばしておってのお。>>
ハルマン王国! アトル先生の授業で習った大草原の西にあるトワール王国と対をなす大国だ。さすがはラトスさん、そんな遠いところにまで知り合いが居るんだ。年を取っているだけのことはある。
<< 夜中にすまんの。実はそのハルマン王国の知り合いがイル嬢ちゃんと話をさせろとうるさくての...>>
とラトスさんが言うなり、別の念話がねじ込まれた。
<< 余計なことを言うんじゃないよ、この耄碌じじい! あー、イルちゃん、私はハルマン王国の女王ララさ、よろしくね。>>
じ、女王? 女王って言ったよね。とんでもない知り合いだね。正直なところ私はお近づきになりたくない。前世での経験上、権力者に関わると厄介事だけが増えるだけだ。
<< あー、イルちゃん、今、権力者には関わりに成りたくないと思ったろう。まあ、間違いじゃないけどね、今だけは話を聞いておくれ。>>
<< とんでもございません。女王様。お声を掛けていただき恐悦至極に存じます。>>
と私はあわてて体裁を取り繕う。昔取った杵柄という奴だ。
<< 誰だい、そんな言葉を子供に教えた奴は? ここいる老いぼれ爺かい? >>
<< 違う違う、儂じゃないぞ! >>
とラトスさんがあわてて否定する。ララさんが怖いのだろうか? 必死さが透けて見える。仕方が無い助けてあげるか。
<< ラトスさんじゃありません。本で読んだんです。>>
<< ほう、小さいのに字も読めると言うのは本当の様だね。感心じゃないか。>>
<< あの、それでご用件は? >>
<< おお、そうだった。この爺から聞いていると思うけど、地竜退治に協力して欲しいのさ。怪しげな爺から言われたから断ったのかもしれないから、私からもう一度お願いしようと思ってね。今近くまで来ているんだ。ちょっとこっちに来れないかい? >>
これは難しい。今夜も私は母さんと一緒に寝ている。母が何かの拍子に目を覚ました時に私が居ないと心配して探し回るに決まっている。私は心の中で「ゴメンね」と母さんに謝り、深睡への誘いの魔法を発動した。これで母さんは朝まで決して目を覚まさない。母さんはこれで良いとして問題はヤラン兄さんに断ってから行くかどうかだ、兄さんに言ったら、自分も一緒に行くと言うだろう。でも兄さんを連れて行って大丈夫だろうか。兄さんは誇り高きトルク—ド族の戦士だ、大国の女王様といえど決して頭は下げないだろう。気分を害されたらまずいかもしれない。とりあえず今日はひとりで行くとしよう、次の機会に兄さんと一緒に行くかどうかはララ王女の気質を見定めてからだ。
<< お待たせしました。今からそちらに伺います。>>
急いで服を着込んだ私は、ラトスさんとララ王女の居る場所へ瞬間移動した。場所は前回ラストさんと会ったのと同じ草原だ。私が到着するとすぐにララさんと思われる女性が駆け寄ってきて私の前で屈み腕を掴む。本人は挨拶のつもりかもしれないが、ちょっと怖い。
「ほんとにあの距離を跳んで来たよ。こんなに小さいのにすごいじゃないか! ああ、言い忘れてたね、私がララだよ、よろしくね、草原の魔導士さん。」
ララ女王は想像どおり高齢の女性だ。髪は長い白髪を頭の上で結い上げている。この髪型はどうやって維持しているのだろうと思う様なボリュームのある髪型だ。おそらく付け毛も使っているのだろう。服装は女王の衣装という印象ではなく、乗馬服という感じの飾り気のない動きやすそうな衣装で、顔には沢山の皺がある。だがその青い目は鋭く輝き生気に満ちている。
「草原の魔導士ですか?」
「そうさ、私が西の魔導士、あそこにいる爺が東の魔導士、そしてあんたが草原の魔導士さ。後で南の魔導士も来ることになっている。私達がこの世界の魔法使いの四天王と言う訳だ。」
「私は四天王なんて大それた者じゃありません。」
「私が認めたんだからそれで良いのさ。あんたのことは爺から聞いてるよ。長距離の念話と瞬間移動だけじゃなく、探査魔法に収納魔法、魔力遮断結界まで使うってね。そういえば、北の遊牧民と南の遊牧民が、戦になる寸前で停戦する原因になった神の奇蹟って言うのも、あんたの魔法じゃないかい?」
私が頷くと、やっぱりという顔をする。
「と言う訳で四天王の資格は十分さ。むしろ南の魔導士の方が心配だ。ここまで来るだけでずいぶんと時間が掛かっているからね。昨日の朝に出発したはずだから、まる二日近く経っているよ。まあ、茶でも飲みながら待とうじゃないか。」
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