神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

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94. ウィンディーネ様の出産

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(シロム視点)


 はい??? アーシャ様がとんでもないことを口にされた。念のために言っておくが僕はウィンディーネ様に手を出したことはないと断言する。それにウィンディーネ様は体形だって変わっていない。

「良く分かりましたね。実はそうなのです。もうすぐ生まれます。」

「ウィンディーネさん、う、生まれるって誰の子供ですか?」

 僕はショックで膝を突きそうになりながら尋ねていた。そんな....ウィンディーネ様が他の男と....。

「ご主人様酷いです。もちろんご主人様の子供に決まっています。」

 へっ? で、でも僕はウィンディーネ様とそんな関係になった覚えは....。

「シロムさん、聖霊は成熟すると子供が生まれることがあるの。でもそれは好きな人と心から幸せと思える時間を過ごした場合だけ、とっても稀な事なのよ。だから生まれて来る子供の父親は間違いなくシロムさんね。」

「もちろんです。」

 ウィンディーネ様がアーシャ様の言葉に同意する。え? え? えぇぇぇぇぇぇぇ~~~~!!!!

 ......だが僕の驚きと困惑を他所に、それから3日後僕は10人の子供の父親になったのだった。




 ここは僕の館ではなく皇都の郊外にある人気のない草原。子供を産むには元の大きさに戻る必要があると聞いてここへやって来た。今季節は春で草原には様々な色の花が咲き、晴天ということもあって花々が輝く様に風に揺られている。まるでこれから生まれて来る子供達を世界が祝福している様だった。

 生まれて来たのは背中にトンボの様な透明な羽がある親指程の大きさの精霊達。ウィンディーネ様のお腹の辺りが輝いたと思ったらそこから小さな精霊達が飛び出して来た。精霊の子供達は生まれてすぐなのにある程度の知性がある様で、拙いながらも念話で話が出来る。

 子供達は最初 << ママ~ >> と言いながらウィンディーネ様に纏わり付いていたが、ウィンディーネ様が僕の方を指示して 「パパですよ 」 と口にすると今度は << パパ~ >> と言いながら僕の手の平の上に集まった。

 精霊の子供達はウィンディーネ様を幼児にした様なかわいらしい顔をしていて、髪の色はウィンディーネ様と同じ水色が半分、僕と同じ茶髪が半分。男の子が5人、女の子も5人だ。

「間違いなくシロムの子ね。安心した?」

 チーアルが揶揄う様に言う。

<< パパ~ >>
<< 精霊違う? >>
<< パパ好き~>>
<< パパ人間? >>
<< パパ強い? >>
<< ママより強い >>
<< すごい >>
<< 遊ぼ >>
<< 追いかけっこ >>
<< お腹空いた >>

 一斉に話しかけられて困惑するが、どの子も可愛い。

「どれ私にも見せるのだ。おお! 中々可愛いではないか。よくやったウィンディーネ。」

 子供が生まれると聞いて駆けつけて下さった精霊王様からも祝福の言葉を頂いた。精霊は3000年前の魔族との闘いで数が減ってしまったので新しい精霊の誕生は大歓迎らしい。

<< パパお腹空いた >>

 と子供達の1人が繰り返す。お腹が空いた? でも精霊って物を食べないんじゃ?

「お腹が空いたの? じゃあママの方へ来て。」

 そう言ったウィンディーネ様の手が淡く光り始める。そう言えば精霊は気を吸収する必要があるのだった。光っているのはウィンディーネ様が自分の気を放出しているからだろう。

 子供達が一斉にウィンディーネ様の手の周りに集まるが、暫くして3人が僕の方に引き返して来た。

<< パパもちょうだい >>

「ご、ごめん。」

「シロムには無理だな。あれだけ訓練させたのにまったく力を使えんとはある意味あっぱれと言うべきかもしれん。ほれこっちに来い。」

 そう言った精霊王様の手が淡く光る。僕の傍にいた子供達が精霊王様に向かうが男の子が1人僕の手の平に残っている。

<< パパ大好き >>

 どうやら気を放出できない僕を慰めてくれている様だ。優しい子だなと思うと嬉しくなって泣きそうになる。この子にウィンディーネ様や精霊王様の様に気を分けてあげられたら....。

 そう考えた途端、今まで固く固く閉ざされていた心の中の門が少し開いた感じがした。そこから何か暖かいものが流れ出して来る。そして僕の手が精霊王様の様に淡く優しく輝き出した。

<< 甘い! パパの気は甘いね >>

 手の平の上の男の子がそう言うと、他の子供達も我も我もと言う様に集まって来る。

<< 本当だ、甘くて美味しい >>
<< すごい >>
<< パパ 天才 >>
<< あっちの人のは熱いからきらい >>
<< ママのは冷たくておいしいよ >>

 どうやら精霊王様の気は子供達に不評の様で、それを聞いた精霊王様が憮然とした表情になる。火の精霊である精霊王様は気も熱いのかもしれない。

「まったく....5年間みっちり修行しても出来なかったことが子供を前にした途端に出来る様になるとはな。」

 精霊王様が呆れた様に口にする。理由は何となく分かった。今まで僕は自分の魂に宿った力を本能的に恐れていた。なにせ僕の魂にあるのは大半があのコトラルから奪った力だ。コトラルは戦いの中でウィンディーネ様や周りの大地を大いに傷付けた。僕にとって力とは誰かを傷付けるものという思い込みがあったのかもしれない。その潜在的な恐怖が心の門を固く閉ざしていたのだろう。でもウィンディーネ様や精霊王様が子供達に気を分け与えるのを見て、力は誰かを傷付けるだけでは無いと感じることが出来た。力を使えたのはそのお陰だ。

 子供達に気を与え終ると、僕達は精霊王様と別れてアーシャ様の待つ僕の館に戻る。アーシャ様は自分は精霊ではないからと僕達に同行されなかった。きっと気を使って下さったのだと思う。ちなみに精霊王様には名付け親になって頂く様お願いした。僕が付けると精霊契約になる恐れがあるらしい。次回お会いするときまでに考えて下さることになっている。

 館に戻るとアーシャ様からもお祝いの言葉を言われたが、それと同時にちょっと驚いた顔でひとつの水晶を差し出された。

「これからはシロムさんもこれを持っておいた方が良さそうね。沢山持っているからひとつあげる。」

「えっと....これは?」

「只の水晶よ。何があったか知らないけれどシロムさんから神気が漏れ出しているわ。このままカルロ教国に帰ったら神官達がびっくりするでしようね。預言者なのだからそれでも良いかもしれないけど困る場合もあるでしょうからね。身体から漏れ出た神気を水晶に送り込むの。あとでやり方を教えてあげる。」

「は、はい...」

 身体から神気が漏れ出している? アーシャ様に最初にお会いした時に金色に輝いておられた様に、神気を感じることの出来る人には僕が光って見えると言う事だろうか? それは不味い! 僕はその夜から必死になってアーシャ様に教わった神気を水晶に送り込む方法を練習し始めた。
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