上 下
68 / 102

67. 初めての風呂

しおりを挟む
(シロム視点)


 結局その日は進展がないまま、僕にアーシャ様とジャニス皇女それに謎の少女は神殿から届けられた夕食を頂いた。カンナに神に捧げる食事をふたり分増やしてくれる様神官長様に伝えてもらって正解だった。

 初めて食べる遊牧民の料理は、羊の乳で作ったチーズとバターをたっぷり使った肉と野菜の煮込み料理でかなり薄味だ。不味くはないが飛び切り美味しいとも思えない。飽きてしまったというアーシャ様の心情が理解できた。

「何か分かりましたか?」

 と食べながらジャニス皇女に尋ねてみる。

「まだ調べ始めたばかりだからね。ひとつ分かったのはあちらの道具も千里眼で中を見ることは出来ないということ。おそらく何らかの結界が張ってある。ただ何か所か結界に隙間があって、そこからはわずかに内部が見えるんですって。これは聖なる山の神様が調べて下さっている道具と同じよ。仕様なのかしら。」

 ジャニス皇女が僕には良く分からないことを言う。無理やり分解するのは最終手段として、まずは道具の機能と千里眼で分かる範囲の内部構造を調べているところらしい。

 食事が終わると、僕と少女は自分達用の寝室に案内された。少女の部屋の扉は鍵を掛けると言っていたからとりあえず少女を監視するという任務からは解放されたわけだ。

 チーアルは僕と一緒だ。神域では離れられる距離が短くなるらしい。大精霊のウィンディーネ様ならある程度は平気らしいが、チーアルは契約者の僕とくっ付いている必要がある。ベッドも一緒と考えるとちょっと気恥ずかしい。

 チーアルが訳知り顔で行って来る。

「どう、私と同衾出来て嬉しい?」

「あのな、幼女と一緒に寝ても嬉しくない。そう言うのは同衾じゃなくて添い寝と言うんだ。」

「なによ素直じゃないんだから。そんなのじゃお風呂にも入れないわよ。」

「風呂? 風呂ってなんだ?」

「カルロの町では珍しいかな、水浴びするか濡らした布で身体を拭くだけだものね。風呂と言うのはね、湯船にお湯を張って浸かるの。実際に見た方が早いかな。さっきアーシャ様が各部屋に付いているって言っていたじゃない。たぶんあの扉の向こうにあるはずよ。」

 チーアルに言われるままにその扉を開けると、陶器の様なもので出来た、大きくて長細い桶の様な物があり、片隅に金属製の不思議な形をした道具が壁から突き出している。

「ここにお湯を溜めて浸かるのよ。もちろん裸になってね。」

 ち、ちょっと待った! これはベッドで寝る以上にハードルが高いぞ。家で水浴びするときはもちろんチーアルとは別行動だが、神域では一緒に居ないといけないから、風呂も一緒ということか? チーアルは風呂に入る必要なんてないから服は脱がないだろうけど。

「何を驚いているのよ。何なら私も裸になって一緒に浸かってあげようか? 裸の付き合いってやつよ。」

「い、良いです。遠慮します。」

「もう、せっかくシロムのヌードを見るチャンスだったのにつまらないわね。でも神域じゃ私はシロムとくっ付いてないといけないから不便ね。いっそのこと合体しましょうか?」

「が、合体?」

「変な事考えたでしょう。違うわよ、実体化を解いてシロムの身体の中に入るのよ。」

「僕の身体の中に?」

「正確にはシロムの精神世界の中にと言った方が良いかな。人間は身体と魂で出来ているというのは理解できる?」

「それは、多分そうなんだろうと思う。」

「精霊や神は魂だけの存在よ、レイスもね。どうして人間や動物に身体があるかというと、魂を守る為なの。人間や動物の魂は単独では安定して存在出来ないくらい弱いから身体の中で保護しているのよ。魂を守る鎧みたいなものね。」

 そうなのか? 僕の魂が弱いのは自覚しているが、身体が魂を守るためにあるとは知らなかった。

「もっとも魂が身体に守られていると言っても、身体に直接入っているわけでは無いの、身体の中には精神世界と呼ばれる特殊な亜空間があってね、その中に入っているわけ。以前ウィンディーネさんの心と繋がった時に行った場所があるでしょう。あれが精神世界よ。もっともウィンディーネ様の精神世界は精霊王様がウィンディーネ様の魂を守るために一時的に設けたものだけどね。そうやってウィンディーネ様の魂を守ろうとされたのだけど、魂と魂が繋がった契約者の攻撃に対しては無駄だったわけよ。」

「あのだだっ広い草原がウィンディーネ様の精神世界!? 精神世界ってあんなに広いのか....。」

「私も良く知らないけど、精神世界は人によって異なるらしいわよ。もっともウィンディーネ様の精神世界の広さは特別だと思うけどね、なにせ精霊王様がウィンディーネ様を助けるために全力で作ったのだから。」

 なるほど、それなら納得だ。

「それでどうするの? 私がシロムの精神世界に入れば外の世界は見えなくなる。シロムのヌードは見られないということよ。もっともシロムが感覚を共有してくれたら別だけどね。」

「いや、止めとく。チーアルのことだ何か裏がありそうな気がする。」

「あら、こんな可愛いチーアルちゃんを疑うなんて悲しいわ。」

「今までの実績があるからな。それに僕の裸を見られなくするのは簡単さ。風呂に入る時はチーアルに目を瞑れと命令すれば良いだけだよ。僕の命令には大抵のことは従うんだろう?」

「チェッ、バレたか。精神世界に入り込んだらシロムの魂にいたずらし放題だと思ったのに。」

「まったく、油断も隙もないんだから。」

 こんなわけで僕は何とか難関をクリアし、無事風呂に入ることが出来たのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

sayure
ファンタジー
タイトルを長くしてみよう… 何なら、一章分の文章をタイトルに入れてもいいくらいだ 友達から借りた小説、転生もの、悪役令嬢婚約破棄もの 転生が人気なのは、現代社会にストレスを感じ、異世界へ逃避行をしたいという願望からなのか? とか思いつつ、読み進めると、オレンジジュースが紡ぐ転生への扉 高校1年生、矢倉 郁人(やぐらいくと) 逝きます!

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

夏柿シン
ファンタジー
新作≪最弱な彼らに祝福を〜不遇職で導く精霊のリヴァイバル〜≫がwebにて連載開始 【小説第1〜5巻/コミックス第3巻発売中】  海外よりも遠いと言われる日本の小さな離島。  そんな島で愛犬と静かに暮らしていた青年は事故で命を落としてしまう。  死後に彼の前に現れた神様はこう告げた。 「ごめん! 手違いで地球に生まれちゃってた!」  彼は元々異世界で輪廻する魂だった。  異世界でもスローライフ満喫予定の彼の元に現れたのは聖獣になった愛犬。  彼の規格外の力を世界はほっといてくれなかった。

妹とそんなに比べるのでしたら、婚約を交代したらどうですか?

慶光
ファンタジー
ローラはいつも婚約者のホルムズから、妹のレイラと比較されて来た。婚約してからずっとだ。 頭にきたローラは、そんなに妹のことが好きなら、そちらと婚約したらどうかと彼に告げる。 画してローラは自由の身になった。 ただし……ホルムズと妹レイラとの婚約が上手くいくわけはなかったのだが……。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

処理中です...