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67. 初めての風呂
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(シロム視点)
結局その日は進展がないまま、僕にアーシャ様とジャニス皇女それに謎の少女は神殿から届けられた夕食を頂いた。カンナに神に捧げる食事をふたり分増やしてくれる様神官長様に伝えてもらって正解だった。
初めて食べる遊牧民の料理は、羊の乳で作ったチーズとバターをたっぷり使った肉と野菜の煮込み料理でかなり薄味だ。不味くはないが飛び切り美味しいとも思えない。飽きてしまったというアーシャ様の心情が理解できた。
「何か分かりましたか?」
と食べながらジャニス皇女に尋ねてみる。
「まだ調べ始めたばかりだからね。ひとつ分かったのはあちらの道具も千里眼で中を見ることは出来ないということ。おそらく何らかの結界が張ってある。ただ何か所か結界に隙間があって、そこからはわずかに内部が見えるんですって。これは聖なる山の神様が調べて下さっている道具と同じよ。仕様なのかしら。」
ジャニス皇女が僕には良く分からないことを言う。無理やり分解するのは最終手段として、まずは道具の機能と千里眼で分かる範囲の内部構造を調べているところらしい。
食事が終わると、僕と少女は自分達用の寝室に案内された。少女の部屋の扉は鍵を掛けると言っていたからとりあえず少女を監視するという任務からは解放されたわけだ。
チーアルは僕と一緒だ。神域では離れられる距離が短くなるらしい。大精霊のウィンディーネ様ならある程度は平気らしいが、チーアルは契約者の僕とくっ付いている必要がある。ベッドも一緒と考えるとちょっと気恥ずかしい。
チーアルが訳知り顔で行って来る。
「どう、私と同衾出来て嬉しい?」
「あのな、幼女と一緒に寝ても嬉しくない。そう言うのは同衾じゃなくて添い寝と言うんだ。」
「なによ素直じゃないんだから。そんなのじゃお風呂にも入れないわよ。」
「風呂? 風呂ってなんだ?」
「カルロの町では珍しいかな、水浴びするか濡らした布で身体を拭くだけだものね。風呂と言うのはね、湯船にお湯を張って浸かるの。実際に見た方が早いかな。さっきアーシャ様が各部屋に付いているって言っていたじゃない。たぶんあの扉の向こうにあるはずよ。」
チーアルに言われるままにその扉を開けると、陶器の様なもので出来た、大きくて長細い桶の様な物があり、片隅に金属製の不思議な形をした道具が壁から突き出している。
「ここにお湯を溜めて浸かるのよ。もちろん裸になってね。」
ち、ちょっと待った! これはベッドで寝る以上にハードルが高いぞ。家で水浴びするときはもちろんチーアルとは別行動だが、神域では一緒に居ないといけないから、風呂も一緒ということか? チーアルは風呂に入る必要なんてないから服は脱がないだろうけど。
「何を驚いているのよ。何なら私も裸になって一緒に浸かってあげようか? 裸の付き合いってやつよ。」
「い、良いです。遠慮します。」
「もう、せっかくシロムのヌードを見るチャンスだったのにつまらないわね。でも神域じゃ私はシロムとくっ付いてないといけないから不便ね。いっそのこと合体しましょうか?」
「が、合体?」
「変な事考えたでしょう。違うわよ、実体化を解いてシロムの身体の中に入るのよ。」
「僕の身体の中に?」
「正確にはシロムの精神世界の中にと言った方が良いかな。人間は身体と魂で出来ているというのは理解できる?」
「それは、多分そうなんだろうと思う。」
「精霊や神は魂だけの存在よ、レイスもね。どうして人間や動物に身体があるかというと、魂を守る為なの。人間や動物の魂は単独では安定して存在出来ないくらい弱いから身体の中で保護しているのよ。魂を守る鎧みたいなものね。」
そうなのか? 僕の魂が弱いのは自覚しているが、身体が魂を守るためにあるとは知らなかった。
「もっとも魂が身体に守られていると言っても、身体に直接入っているわけでは無いの、身体の中には精神世界と呼ばれる特殊な亜空間があってね、その中に入っているわけ。以前ウィンディーネさんの心と繋がった時に行った場所があるでしょう。あれが精神世界よ。もっともウィンディーネ様の精神世界は精霊王様がウィンディーネ様の魂を守るために一時的に設けたものだけどね。そうやってウィンディーネ様の魂を守ろうとされたのだけど、魂と魂が繋がった契約者の攻撃に対しては無駄だったわけよ。」
「あのだだっ広い草原がウィンディーネ様の精神世界!? 精神世界ってあんなに広いのか....。」
「私も良く知らないけど、精神世界は人によって異なるらしいわよ。もっともウィンディーネ様の精神世界の広さは特別だと思うけどね、なにせ精霊王様がウィンディーネ様を助けるために全力で作ったのだから。」
なるほど、それなら納得だ。
「それでどうするの? 私がシロムの精神世界に入れば外の世界は見えなくなる。シロムのヌードは見られないということよ。もっともシロムが感覚を共有してくれたら別だけどね。」
「いや、止めとく。チーアルのことだ何か裏がありそうな気がする。」
「あら、こんな可愛いチーアルちゃんを疑うなんて悲しいわ。」
「今までの実績があるからな。それに僕の裸を見られなくするのは簡単さ。風呂に入る時はチーアルに目を瞑れと命令すれば良いだけだよ。僕の命令には大抵のことは従うんだろう?」
「チェッ、バレたか。精神世界に入り込んだらシロムの魂にいたずらし放題だと思ったのに。」
「まったく、油断も隙もないんだから。」
こんなわけで僕は何とか難関をクリアし、無事風呂に入ることが出来たのだった。
結局その日は進展がないまま、僕にアーシャ様とジャニス皇女それに謎の少女は神殿から届けられた夕食を頂いた。カンナに神に捧げる食事をふたり分増やしてくれる様神官長様に伝えてもらって正解だった。
初めて食べる遊牧民の料理は、羊の乳で作ったチーズとバターをたっぷり使った肉と野菜の煮込み料理でかなり薄味だ。不味くはないが飛び切り美味しいとも思えない。飽きてしまったというアーシャ様の心情が理解できた。
「何か分かりましたか?」
と食べながらジャニス皇女に尋ねてみる。
「まだ調べ始めたばかりだからね。ひとつ分かったのはあちらの道具も千里眼で中を見ることは出来ないということ。おそらく何らかの結界が張ってある。ただ何か所か結界に隙間があって、そこからはわずかに内部が見えるんですって。これは聖なる山の神様が調べて下さっている道具と同じよ。仕様なのかしら。」
ジャニス皇女が僕には良く分からないことを言う。無理やり分解するのは最終手段として、まずは道具の機能と千里眼で分かる範囲の内部構造を調べているところらしい。
食事が終わると、僕と少女は自分達用の寝室に案内された。少女の部屋の扉は鍵を掛けると言っていたからとりあえず少女を監視するという任務からは解放されたわけだ。
チーアルは僕と一緒だ。神域では離れられる距離が短くなるらしい。大精霊のウィンディーネ様ならある程度は平気らしいが、チーアルは契約者の僕とくっ付いている必要がある。ベッドも一緒と考えるとちょっと気恥ずかしい。
チーアルが訳知り顔で行って来る。
「どう、私と同衾出来て嬉しい?」
「あのな、幼女と一緒に寝ても嬉しくない。そう言うのは同衾じゃなくて添い寝と言うんだ。」
「なによ素直じゃないんだから。そんなのじゃお風呂にも入れないわよ。」
「風呂? 風呂ってなんだ?」
「カルロの町では珍しいかな、水浴びするか濡らした布で身体を拭くだけだものね。風呂と言うのはね、湯船にお湯を張って浸かるの。実際に見た方が早いかな。さっきアーシャ様が各部屋に付いているって言っていたじゃない。たぶんあの扉の向こうにあるはずよ。」
チーアルに言われるままにその扉を開けると、陶器の様なもので出来た、大きくて長細い桶の様な物があり、片隅に金属製の不思議な形をした道具が壁から突き出している。
「ここにお湯を溜めて浸かるのよ。もちろん裸になってね。」
ち、ちょっと待った! これはベッドで寝る以上にハードルが高いぞ。家で水浴びするときはもちろんチーアルとは別行動だが、神域では一緒に居ないといけないから、風呂も一緒ということか? チーアルは風呂に入る必要なんてないから服は脱がないだろうけど。
「何を驚いているのよ。何なら私も裸になって一緒に浸かってあげようか? 裸の付き合いってやつよ。」
「い、良いです。遠慮します。」
「もう、せっかくシロムのヌードを見るチャンスだったのにつまらないわね。でも神域じゃ私はシロムとくっ付いてないといけないから不便ね。いっそのこと合体しましょうか?」
「が、合体?」
「変な事考えたでしょう。違うわよ、実体化を解いてシロムの身体の中に入るのよ。」
「僕の身体の中に?」
「正確にはシロムの精神世界の中にと言った方が良いかな。人間は身体と魂で出来ているというのは理解できる?」
「それは、多分そうなんだろうと思う。」
「精霊や神は魂だけの存在よ、レイスもね。どうして人間や動物に身体があるかというと、魂を守る為なの。人間や動物の魂は単独では安定して存在出来ないくらい弱いから身体の中で保護しているのよ。魂を守る鎧みたいなものね。」
そうなのか? 僕の魂が弱いのは自覚しているが、身体が魂を守るためにあるとは知らなかった。
「もっとも魂が身体に守られていると言っても、身体に直接入っているわけでは無いの、身体の中には精神世界と呼ばれる特殊な亜空間があってね、その中に入っているわけ。以前ウィンディーネさんの心と繋がった時に行った場所があるでしょう。あれが精神世界よ。もっともウィンディーネ様の精神世界は精霊王様がウィンディーネ様の魂を守るために一時的に設けたものだけどね。そうやってウィンディーネ様の魂を守ろうとされたのだけど、魂と魂が繋がった契約者の攻撃に対しては無駄だったわけよ。」
「あのだだっ広い草原がウィンディーネ様の精神世界!? 精神世界ってあんなに広いのか....。」
「私も良く知らないけど、精神世界は人によって異なるらしいわよ。もっともウィンディーネ様の精神世界の広さは特別だと思うけどね、なにせ精霊王様がウィンディーネ様を助けるために全力で作ったのだから。」
なるほど、それなら納得だ。
「それでどうするの? 私がシロムの精神世界に入れば外の世界は見えなくなる。シロムのヌードは見られないということよ。もっともシロムが感覚を共有してくれたら別だけどね。」
「いや、止めとく。チーアルのことだ何か裏がありそうな気がする。」
「あら、こんな可愛いチーアルちゃんを疑うなんて悲しいわ。」
「今までの実績があるからな。それに僕の裸を見られなくするのは簡単さ。風呂に入る時はチーアルに目を瞑れと命令すれば良いだけだよ。僕の命令には大抵のことは従うんだろう?」
「チェッ、バレたか。精神世界に入り込んだらシロムの魂にいたずらし放題だと思ったのに。」
「まったく、油断も隙もないんだから。」
こんなわけで僕は何とか難関をクリアし、無事風呂に入ることが出来たのだった。
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