神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

文字の大きさ
上 下
40 / 102

39. シロム、パパとなる???

しおりを挟む
(シロム視点)

 アーシャ様が戻って来られたのは夜が明けてからだった。町の中の虫はとっくにいなくなっていたのだが、鉱山の方で何かされていたらしい。

 アーシャ様が戻られて安心した途端、何故か身体に力が入らなくなり、僕はその場に崩れ落ちた。

 目が覚めるとベッドに寝かされていた。ベッドの傍の椅子にはアルムさんが心配そうな顔で座っている。

「アルムさん....」

 そう声を掛けるとアルムさんが嬉しそうに微笑んだ。

「シロム様! 良かったです。アーシャ様は『精神的な疲れだから寝かしておくしかない』と仰ったのですが、いつまで経っても目をお覚ましにならないので、私心配で.....。」

 アルムさんに話を聞くと、ここはマーブルさんの屋敷で、僕は倒れてから丸1日寝ていたらしく、今は翌日の朝だという。

「町の人達から伺いました。虫達から町の人達を助けるのに大変なご活躍をされたそうですね。町の人達が何人もお見舞いに来られました。皆シロム様に感謝されていましたよ。」

 虫と聞いた途端、恐怖が蘇った。もう虫は懲り懲りだ、考えるだけで悪寒が背中を走る。

「シロム様、お食事はいかがですか。いつお目覚めになっても良いように準備してあります。」

 そう言われるとお腹が減って来た。ベッドから起き上がると、自分がパジャマを着ているのに気付く。誰かが着替えさせてくれた様だ。

「あ、あの、着替えるので先に食堂に行っていてもらえますか?」

「私はシロム様の従者でございます。お着替えをお手伝いさせてください。」

「そのことですが、アーシャ様が見つかったので.....」
「嫌です!!!」

 アルムさんが僕の従者なのはアーシャ様が見つかるまでの約束だと言いかけたのだが、途中で珍しく強い口調で中断された。さっきまで笑顔だったのに、今にも泣きそうだ。

「嫌です......私、シロム様とお別れしたくありません。どうか私もお連れ下さい。決して婚約者様とのお邪魔は致しません。それに隠し子のことも口外しません。」

隠し子???

「パ~パ、背中に虫が付いているわよ。」

 突然耳元で囁かれた。虫!!!! 

「ギャ~~~~ッ」

 気が付くと悲鳴を上げて、目の前にいたアルムさんに抱き付いていた。アルムさんの顔が真っ赤になる。

「ご、御免なさい。」

「う、嬉しいです。シロム様に抱擁して頂けるなんて一生の思い出です。」

 し、しまった! これは既成事実ってやつか!? 振り向くとチーアルが僕の後にフワフワと浮かんでいた。

「パ~パ、娘の前ではしたないことをしちゃだめよ。今回だけは特別に誰にも言わないであげる。」

「何がパパだよ。僕は人間だぞ。チーアルの父親のわけ無いじゃないか。」

「パパ、その言い訳は通用しないよ。パパが神様だって言うのはもう皆にバレてるからね。」

「な....僕が神様???」

「シロム様、申し訳ありません。否定しようとしたのですが、一昨日のシロム様のご活躍を見た人達を誤魔化し様もなく、すでにこの町の人達全員が知っております。」

<< チーアル、どういうことだよ? >>

<< あら、私は何も言ってないわよ。>>

<< だ~か~ら、チーアルから"僕はチーアルの力を借りていただけ"と説明してくれればよかったじゃないか! >>

<< あら、そうだったの? 今度から気を付けるわね。>>

 絶対わざとだ。事態をややこしくして面白がっているに違いない.....性格が悪い。


**************


 その日の昼過ぎ、僕達はドラゴニウスさんに乗り込み、町の人達総出の見送りを受けて旅立った。アーシャ様は聖なる山の神様を安心させるために一足先に戻られたらしい。

 それから、アーシャ様が連れて来た女の子はなんとガニマール帝国の皇女ジャニスだそうだ。僕と同様しばらく眠ったら元気になった様だが、アーシャ様と空を飛ぶのに拒否反応を示したので、僕達と同行することになったとのことだ。たとえ一時的にしろ、こんな子供がアーシャ様を窮地に追いやったなど信じられない。天才というのは恐ろしいものだ。

「パ~パ、これからどこへ行くの?」

と僕に抱き付いた幼女が言う。

「もちろんカルロ教国に戻るんだ。それと、パパじゃない、シロムだ。」

「だって私を作ったのだからパパよ。ねー、アルムさん。」

「そうですね。シロム様、自分のお子様を認めないなんてダメですよ。大丈夫です、婚約者様には隠し子のことは告げ口しませんから。」

アルムさんが僕の背中に抱き付きながら窘めてくる。

 チーアルはどうやったのかアルムさんを完全に味方に付けた様だ。アルムさんの中ではチーアルは僕の隠し子で、僕は我が子に久々に出会ったのに、婚約者を気にして自分の子と認めない酷い父親と言う事になっているらしい。チーアルが僕の娘だとすれば、僕が10~11歳の時に出来た子供と言う事になるのだが、僕が神のひとりだと信じているアルムさんにはそれすらも「神ですから」で納得されてしまっている。何でも信じる素直な性格と言うのも考え物だ.........胃が痛い。

 アルムさんを説得してジーラさんの元に戻すという難問が残っているが、マークとも相談してとりあえず一旦戻ることにした。両親やクラスメート達が心配しているだろうし、カルロ教国にはシンシアさんとマリアさんも到着しているはずだ。マリアさんなら喜んでアルムさんの説得に協力してくれるだろう。

<< カルロ教国って、アルガを封印した聖なる山の神を信仰しているんだったよね。そんなところに私がいくの?  >>

<< はい、お願いします。僕はチーアルのご主人様なんだよね~。>>

<< くそ! こんなはずでは......。>>

<<嫌なら帰ってもらっても良いですけど。>>

 チーアルが返ってくれれば胃痛の原因がひとつ減る。どうやらチーアルは虫と戦った時に僕がチーアルの記憶を覗き見たのが気に食わなかったらしい。あれからなんとなく態度がトゲトゲしい。

<< 一旦契約した以上は出来ないのよ。>>

<< なら契約を解除しようよ。>>

<< それも出来ない。あの契約はどちらかが死ぬまで解約出来ないの。>>

 さらりと恐ろしいことを言うチーアル。

<< そもそも、契約の内容が分からないんだけど。契約をしていても帰れるんじゃないの? チーアルは空を飛べるし。>>

<< 分かってないわね。私達は一定距離以上離れることは出来ないの。町の中くらいなら離れても大丈夫だけど、私だけあの町に帰るなど問題外よ。離れるとあらゆる力が使えなくなる。元々力を持っていないシロムは問題ないけど、私は妖精に分解してしまうわ。 >>

<< だったらどうしてそんな契約を結んだんだ? >>

 ここは是非確認したい。

<< アルガが言っていたでしょう。恩を受けたら必ず返すのが精霊の矜持よ。特に自分より弱い者に助けてもらった場合はね。それを破ったら他の精霊に顔向けが出来なくなる。>>

<< そんな勝手な.... >>

<< そう言わないでよ、普通は精霊と契約出来た人間は大喜びするわよ。人間を越えた力が使えるからね。シロムが変わり者なの....まあ預言者の杖があるから分からなくもないけど。>>

 神力を使い果たしていた預言者の杖だが、僕が眠っている間にアーシャ様が再び神力を込めてくれたらしく今は元通りだ。もっともカルロ教国に戻ったら無用の長物になる気がする。帰ったら神様にお返ししようと思う。

 ちなみにジャニスと言う名の皇女様だが、ドラゴニウスさんの背中に腹ばいになってしがみついている。顔面蒼白だ。どうもアーシャ様に連れられて空を飛んだ経験がトラウマになったらしい。重度の高所恐怖症だ。休憩で地面に降りた時以外は口も利けない。それでもドラゴニウスさんに乗っての旅はアーシャ様と一緒に空を飛んだ時より100倍ましだと言う。

「いくら急ぐからっていっても一旦大気圏外に出ての弾道飛行なんてするんだもの。正気の沙汰とは思えなかったわよ。」

 というのがジャニス皇女の言だ。意味は分からないが大変だったのだろう。僕の虫嫌いも悪化したし、精神にダメージを受けた者同士親近感が湧く。彼女だけはカルロの町に留まらず、ドラゴニウスさんに神域に連れて行かれることになっている。まあ、アーシャ様を誘拐した犯人だ、罰を受けても当然ではあるのだが.....。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...