魔物の森のソフィア ~ある引きこもり少女の物語 - 彼女が世界を救うまで~

広野香盃

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27. 山賊の村に到着したソフィア達

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(カラシン視点)

 今日までで4つの村を訪問した。どの村でも食糧を持って来た俺達は歓迎された。残る村はあとひとつ。山賊だったカイルの村だ。俺達は山賊として俺達を襲って来た村人6人を殺している。まさか復讐されることは無いと思うが一抹の不安がある。もし村人全員で襲われたら...ソフィアの結界があったとしてもかなり困ったことになるだろう。だが、行かないわけにはいかない。村ではカイルの持って来る食糧と金を待ちわびているはずなのだ。

 俺はソフィアに俺達全員を囲む結界を張る様に頼んでから村に近づいた。村の入り口に近づくと、やはり何か様子がおかしい。他の村では村人総出で村の入り口で俺達の到着を待っていたのだが、この村では誰もいない。だが更に近づくと俺は自分の間違いに気付いた。誰かが村の入り口近くで倒れている! カイルが、

「アマンダ!」

と叫んで駆けだした。そして、倒れている人の傍で片膝をついて抱き上げる。

「アマンダ、しっかりしろ、何があった?」

と呼びかけるが返事はない、意識が無い様だ。だが何かに気付いた様で、俺達が近寄ろうとすると、慌てたようにこちらを振り返り、

「来るな! 黒死病だ!」

と叫んだ。黒死病と聞いて兵士を含め全員が立ち止まり、カイルと倒れている女性から距離を取った。恐らく倒れている女性に黒死病の特徴である黒い斑点が浮き出ているのだろう。

 黒死病は感染者のふたりにひとりは死亡する恐ろしい病気だ。感染力が高い上に、治療薬もない。ひとりが感染すると、周りの人にどんどん感染して村や町どころか、過去にはひとつの国が滅んだこともあったらしい。対処は黒死病が発生した村や町を隔離して感染が外に広がるのを防ぐしかない。

 兵士のひとりが叫ぶ、

「黒死病に間違いないのか!?」

一縷の望みを抱きながらカイルの回答を待ったが、答えは肯定だった。

「黒死病の患者を以前にも見たことがある。間違いない。」

「くそっ! なんてこった。ついてないぜ。おい、お前、確か名前はカイルだったな。お前が村を出たのはいつだ。」

いきなり言われてカイルは指を折って日数を数えていたが、しばらくして10日前と答えた。それから兵士はカイルに命じて上半身を裸にさせ、しばらく観察してから安堵の息を吐いた。

「黒死病の潜伏期間は3~4日だ。今の時点で身体に黒斑が出ていないと言う事は、こいつは村を出た時点では黒死病に感染していなかったということだ。不幸中の幸いだな。でなければ俺達はもちろん、今まで通って来た村や町も軒並み隔離の対象になるところだった。」

と兵士が恐ろしいことを口にしたが、確かにその通りだ。この兵士が隊長らしいが、流石に指揮官だけあって判断は的確な様だ。過去に同じような経験があるのかもしれない。俺達はカイルだけでなく山賊として俺達を襲った村人とも接触しているが、あれは10日より更に前だ。現時点で身体に異常が無いと言う事は、俺達も感染していないとみなして良いだろう。

 隊長の兵士は、仲間の兵士のひとりに向かって、ただちに軍の本部に知らせに行く様に命令すると、今度は残りの兵士達に向かって命令した。

「俺達は応援が来るまでここに残って、村人が村の外に出ない様に見張る。いいな!」

「隊長、こんな恐ろしい所に残るんですか? ほっときゃいいじゃないですか。」

「バカ野郎、黒死病って言ったって全員が死ぬわけじゃない。生き残った奴から、俺達が黒死病の発生を知りながら何もせずに逃げ出したと軍に報告されたら投獄されるだけじゃ済まないかもしれんぞ。大丈夫だ、村に近づかなければ感染することはない。」

「だったら、ここにいる奴等を皆殺し...」

兵士のひとりがそう言いかけたが、俺の顔をみて途中で言葉を飲み込む。旅の最初に見せた芝居の効果があった様だ。俺のことを恐ろしい魔法使いだと思っているのだろう。

隊長と呼ばれた男は、部下の言葉を無視して、今度は一緒にここまで来た農民達に向かって言葉を続けた。

「お前達は、あの男を除いて直ちに魔族の国に向かえ! 逃げるなよ。俺達は付いて行けないが、もし逃げたらお前達の村がどうなっても知らんぞ!」

それに対して農民のリーダー、マルクは堂々とした態度で、

「分かった、俺達は魔族の国に向かう。」

と返してから、カイルに向かって言葉を送った。

「カイル、済まないがお前を連れて行くわけにはいかない。理由は言わなくても分かるだろう。だが分け前の金を返せとは言わないから安心してくれ。死ぬなよ、生きてその金で村を救え。」

「済まない、感謝する。」

とカイルが返す。マルクは今度はケイトに向かって、

「護衛の仕事はここまでで結構だ。世話になった、ありがとうな。」

と言ってから去って行った。

マルク達が去ると、俺の背中にくっ付いていたソフィアが、恐々と言った感じで囁いて来た。

「カラシン、あのひと、びょうき?」

あの人と言うのは、倒れている女性のことだろう。

「ああ、黒死病らしい。」

俺がそう答えると、自分の荷物から薬の瓶を取り出した。

「これ、リクルのみからつくったくすり。どんなびょうきでもなおる。あのひとにあげる」

といって、カイルの方に歩き出したので慌てて引き留めた。

「近づいちゃだめだ、ソフィアまで黒死病に感染してしまう。俺に任せろ。」

ソフィアから薬の小瓶を受け取り、リュックから予備の服を取り出して、割れない様にそれに包んでからカイルに声を掛けた。

「カイル、薬だ。その人に飲ませるんだ。受け取れ。」

服に包まれた薬の小瓶をカイルに向かって山なりに投げると、カイルは危なげなく受け取った。だが、薬の瓶を眺めながら考え込んでいる。見たことの無い瓶だから怪しんでいるのだろう。

「大丈夫だ、ソフィアの作る薬は絶対に効く。お前だってソフィアの薬で助かったんだ。」

と言うと、カイルはハッとしたように顔を上げた。そして意を決したように瓶の蓋を開け、中身を倒れている女性の口に流し込む。しばらくすると、女性の身体が淡く光り出し、光が消えた時には意識を知り戻していた。

「カイル! バカ、何でここに居るのよ。私は黒死病に罹っているのよ、あなたに警告するためにここで待っていたのに...」

「アマンダ....治ってるよ...」

「何をバカなことを....うそ! 黒斑が消えている...」

その女性は立ち上がって、自分の身体をあちこち調べていたが、しばらくしてカイルに向き直った。

「どうやったの? 黒死病が治るなんて...。」

カイルが俺達に貰った薬を飲ませたと説明すると、俺達の方に歩いて来ようとする。それを見た兵士達が慌てて制止する。

「止まれ! 村人は誰も外に出てはならん。例外は無しだ。」

槍を構えた兵士達に大声で命令され、女性はこちらに来るのを諦めたが、それでも必死の表情で俺達に向かって言う。

「お願いです、その薬を分けて下さい。村では多くの人が黒死病で寝込んでいます。死んだ人も沢山いるんです。」

 ソフィアに薬は後何本あるのか小声で尋ねると、4本という答えが返って来た。それと手持ちのリクルの実からあと25本ほど作れるという。だが足りない、女性の話では患者は50人くらいいるらしい。しかもまだまだ増えそうだと言う。女性に薬は後4本あると伝えると、カイルが嘆きを口にする。

「くそ、足りねえじゃねえか。その薬はもっと作れないのか?」

とカイルが必死の顔でソフィアに尋ねるが、ソフィアは悲しそうに首を振る。それからしばらく考え込んでいたが、意を決した様に俺に言った。

「リクルのみのくすり、4ほんわたす。こどもにつかう。こどもなら1ほんで3にんぶん、12にんにのませる。わたし、こくしびょうのくすり、つくる。できたらもってくる。」
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