上 下
25 / 71

25. 護衛を引き受けるソフィア達

しおりを挟む
(農民達のリーダー視点)

 何とか軍からの依頼を受注して報酬の前払いをさせることにも成功したが、条件として軍の兵士が付いて来ることになった。国の役人や兵士なんて信用できる奴に会った試しがない。そんな条件は断りたかったがこちらの立場は弱い。冒険者カードを持っている俺がいなければ依頼を受注することすら難しかったのだから。

 治安を守る立場の兵士を疑わなければならないのは悲しいが、大金を持って人気のない道を一緒に歩きたくない相手だ。せっかく村を救う金を手に入れたのに、奴等に奪われるのは何としても避けなければならない。兵士達からすれば、人気のない道で俺達を皆殺しにして金を奪うのは簡単だろう、俺達は元Fクラス冒険者の俺の他は戦闘経験がない、おまけに碌に武器すら持っていないのだ。俺達を殺して魔族の国に行ったきり帰って来なかったことにすれば良い。

 一緒に魔族の国に行く仲間たちも同じ気持ちだ。5人で知恵を絞るが妙案は浮かばない。だが村に土産として持っていく食糧を買いに来た市場で、カイルが突然前方を指さして叫んだ。

「あいつらに護衛を頼もう。」

カイルの指さす方向を見ると冒険者と思われる男ふたり女ふたりの4人組が買い物をしているところだった。困惑する俺達にカイルが続けて言う。

「あいつらは強い。それは俺が保証する。頼めばきっと兵士達から俺達を守ってくれる。」

カイルはそう言うが、どう見ても軍の兵士と遣り合えるほど強い様には見えない。俺が首を振ると、カイルは皆の顔を交互に眺めていたが、意を決したように「こっちに来てくれ」と言って、俺達を人気のない路地に連れ込んだ。

 そこで聞かされたのが、カイル達が山賊としてあの4人の冒険者を襲ったという経緯だ。カイルの村では山賊稼業にまで手を出していたのかと驚いたが、同時に無理もないという同情の念も沸く。それを告白したと言う事は、俺達に通報されることも覚悟の上だろう。カイルが言うには10人で弓矢を持って夜襲を掛けたにも関わらず、まるで歯が立たなかったらしい。だがそれ以上に驚いたのは、その冒険者達がカイルの命を取らなかったどころか、何らかの方法で治療してくれたということだ。まあ、カイルの話をそのまま信じるならばだが...。胸に深々と矢が刺さったのにも関わらず、気が付いたら傷ひとつ無かったなんて信じられない。

「信じてくれ、傷はなかったが着ていた服は血だらけだったんだ。矢が刺さったのは間違いない。」

「それで、カイルはその冒険者達が信用できると言うんだな。」

「そうだ、実はあいつらにはギルドでも会ったんだ。俺達が軍の依頼を受けたことも知っている。俺が必死で頼んだら、二度としないなら山賊をしていたことを黙ってくれると約束してくれた。通報したら報奨金が貰えるのにだ。きっと俺達に同情してくれたんだ、悪い奴等じゃない!」

 皆で話し合った結果、護衛を雇うなら金貨10枚まで出しても良いとなった。この手の依頼としては妥当な金額だ。出費は痛いが兵士達に全部取られてしまうよりましだ。護衛を雇うとするなら、信用できるかどうか分からない初対面の奴等より、カイルと面識のある奴等の方が良いに決まっている。だが、問題は奴等がそんな依頼を受けてくれるかどうかだ。ギルドを通す時間はないから直接の依頼になる。直接の依頼の場合、今度は向こうにとって俺達が信用できるかどうかが問題になる。依頼を達成しても金がもらえるかどうか不安だという理由で断られるかもしれない。

 悩んでいても仕方がない、とにかく頼んでみようと言う事になり市場に戻ったが、肝心の冒険者達が見当たらない。まずい、相談に時間を掛け過ぎた。手分けして探し、市場から出て行こうとしている彼らをなんとか見つけることが出来た。

「済まない、頼みがあるんだ。少し時間を貰えないか。」

 焦っていたので挨拶もなしに声を掛けてしまった。4人が俺の方を振り向く。体格の良い男がふたりと背の高い女性がふたり。ひとりは金髪、もう一人は赤毛だ。どちらもスレンダーだが、金髪の方は豊かな胸部が魅力的な美人だ。こんな美人が冒険者なんて危険な仕事をしているのかと驚いたが、その女性はすぐに茶髪の男性の陰に隠れてしまった。

赤毛の女性がカイルに気付いた様で、「あら、あなたは...」と口にする。カイルのことを認識してくれているのなら話が早い。

「俺達は軍の依頼を受けた者だ。俺はリーダーのマルクという。頼みと言うのは俺達の護衛を引き受けて欲しいんだ。魔族の国の入り口まででいい。頼む。報酬は金貨10枚を前払いで渡す。」

「あら、でもあなた達には軍の兵士が一緒に行ってくれるって聞いたけど。」

「だから不安なんだ。」

と俺が小声で言うと、「なるほどね。詳しい話を聞かせてくれるかしら。」

と返ってきた。良かった、少なくとも速攻で断られることは無い様だ。

 それから人気のないところまで移動し、村の状況も含め事情を説明すると4人で相談を始めた。黒髪の男性がなにやら反論していたが、赤毛の女性が押し切った様だ。どうやらこの赤毛の女性がリーダーらしい。

「了解よ。でも、ひとつだけお願いがあるの。」

「お願いとは?」

「簡単よ、私達は以前開拓村に居てね。村長にはお世話になったの。だから村長に贈り物を渡したいのよ。向こうで会えたら渡してくれない。」

「そんなことで良いのか? 分かった引き受けよう。」

「決まりね、それじゃ報酬は金貨10枚、出発前に前金で貰うので良いわね。私はこのチームのリーダーのケイトよ。よろしくね。」

「ありがとう。こちらこそよろしく頼む。だが頼んでおいて言うのもなんだが、大丈夫なのか、相手は兵士だぞ。」

「ああ、その事ね。大丈夫なんとかなるわ。私のチームの優秀な魔法使いが大丈夫と言っているの、任せておきなさい。」

と自信ありげに言う。その後は彼女と明日落ち合う場所と時間を決めて渡れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...